て‐がら【手柄】例文一覧 30件

  1. ・・・競馬に加わる若い者はその妙齢な娘の前で手柄を見せようと争った。他人の妾に目星をつけて何になると皮肉をいうものもあった。 何しろ競馬は非常な景気だった。勝負がつく度に揚る喝采の声は乾いた空気を伝わって、人々を家の内にじっとさしては置かなか・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  2. ・・・ けれども、脊恰好から、形容、生際の少し乱れた処、色白な容色よしで、浅葱の手柄が、いかにも似合う細君だが、この女もまた不思議に浅葱の手柄で。鬢の色っぽい処から……それそれ、少し仰向いている顔つき。他人が、ちょっと眉を顰める工合を、その細・・・<泉鏡花「売色鴨南蛮」青空文庫>
  3. ・・・「お手柄、お手柄。」 土間はたちまち春になり、花の蕾の一輪を、朧夜にすかすごとく、お町の唇をビイルで撓めて、飲むほどに、蓮池のむかしを訪う身には本懐とも言えるであろう。根を掘上げたばかりと思う、見事な蓮根が柵の内外、浄土の逆茂木。勿・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  4. ・・・「随分手柄のあった人どす、なア」と、細君は僕の方に頸を動かした。「そりゃア」と、僕が話しかける間もなく、友人は言葉をついだ。「思て見ると、僕は独立家屋のそばまで後送して呉れた跡で、また進んで行て例の『沈着にせい、沈着にせい』をつ・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  5. ・・・そしておもに手柄話か失敗話であった。そしてやっぱり、今井の叔父さんが一番おもしろいことを話してみんなを笑わした。みんなが笑わない時には自分一人で大声で笑った。 かの字港に着くと、船頭がもう用意をして待っていた。寂しい小さな港の小さな波止・・・<国木田独歩「鹿狩り」青空文庫>
  6. ・・・みのように言いしは誤謬にて、なお驢馬一頭あり、こは主人がその生国千葉よりともないしという、この家には理由ある一物なるが、主人青年に語りしところによれば千葉なる某という豪農のもとに主人使われし時、何かの手柄にて特に与えられしものの由なり。さま・・・<国木田独歩「わかれ」青空文庫>
  7. ・・・「あんたは、自分の立てた手柄まで、上の人に取られてしまうんだね。」 タエは、小声でよって来た。カンテラが、無愛想に渋り切った井村の顔に暗い陰影を投げた。彼女は、ギクッとした。しかしかまわずに、「たいへんなやつがあると自分で睨んだ・・・<黒島伝治「土鼠と落盤」青空文庫>
  8. ・・・功名手柄をあらわして賞美を得た話は折々あるが、失敗した談はかつて無い。」 自分は今天覧の場合の失敗を恐れて骨を削り腸を絞る思をしているのである。それに何と昔からさような場合に一度のあやまちも無かったとは。「ムーッ。」と若崎は深い・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  9. ・・・悪口をいえば骨董は死人の手垢の附いた物ということで、余り心持の好いわけの物でもなく、大博物館だって盗賊の手柄くらべを見るようなものだが、そんな阿房げた論をして見たところで、野暮な談で世間に通用しない。骨董が重んぜられ、骨董蒐集が行われるお蔭・・・<幸田露伴「骨董」青空文庫>
  10. ・・・ 澄元契約に使者に行った細川の被官の薬師寺与一というのは、一文不通の者であったが、天性正直で、弟の与二とともに無双の勇者で、淀の城に住し、今までも度たびたび手柄を立てた者なので、細川一家では賞美していた男であった。澄元のあるところへ、澄・・・<幸田露伴「魔法修行者」青空文庫>
  11. ・・・「それは、お手柄だ。」と微笑してほめてやって、そっと肩を叩いてやりたく思った。「あわせて三十円じゃないか。ちょっとした旅行ができるね。」 新宿までの切符を買った。新宿で降りて、それから薬屋に走った。そこで催眠剤の大箱を一個買い、それ・・・<太宰治「姥捨」青空文庫>
  12. ・・・あの人は、こんどは手柄をたてました。まえから僕が、あの人に、あなたのことを言ってあかして居りましたので、あの人も、あなたのお名前を知ってしまって、そうして、たびたび、あなたのところへ郵便配達しているうちに、ふと、このひとじゃないかと思ったの・・・<太宰治「新樹の言葉」青空文庫>
  13. ・・・支那そばやの女中さんから、鶏卵一個を恵まれたからとて、それが、なんの手柄になることか。私は、自身の恥辱を告白しているだけである。私は自身の容貌の可笑しさも知っている。小さい時から、醜い醜いと言われて育った。不親切で、気がきかない。それに、下・・・<太宰治「俗天使」青空文庫>
  14. ・・・けれども私は、彼もさすがにてれくさそうにして眼を激しくしばたたかせながら、そうして、おしまいにはほとんど不機嫌になってしまって語って聞かせたこんなふうの手柄話を、あんまり信じる気になれないのである。彼が異国人と夜のまったく明けはなれるまで談・・・<太宰治「ダス・ゲマイネ」青空文庫>
  15. ・・・子細は、其主人、自然の役に立ぬべしために、其身相応の知行をあたへ置れしに、此恩は外にないし、自分の事に、身を捨るは、天理にそむく大悪人、いか程の手柄すればとて、是を高名とはいひ難し」とはっきりした言葉で本末の取りちがえを非難している。してみ・・・<寺田寅彦「西鶴と科学」青空文庫>
  16. ・・・吾ながら又なき手柄なり。……」ブラヴォーとウィリアムは小声に云う。「巨人は云う、老牛の夕陽に吼ゆるが如き声にて云う。幻影の盾を南方の豎子に付与す、珍重に護持せよと。われ盾を翳してその所以を問うに黙して答えず。強いて聞くとき、彼両手を揚げて北・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  17. ・・・遠い昔に、自分は日清戦争に行き、何かのちょっとした、ほんの詰らない手柄をした――と彼は思った。だがその手柄が何であったか、戦場がどこであったか、いくら考えても思い出せず、記憶がついそこまで来ながら、朦朧として消えてしまう。「あア!」・・・<萩原朔太郎「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」青空文庫>
  18. ・・・故に前文を其まゝにして之を夫の方に差向け、万事妻を先にして自分を後にし、己れに手柄あるも之に誇らず、失策して妻に咎めらるゝとも之を争わず、速に過を改めて一身を慎しみ、或は妻に侮られても憤怒せずして唯恐縮謹慎す可し云々と、双方に向て同一様の教・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  19. ・・・その廃滅の因縁が、偶ま以て一旧臣の為めに富貴を得せしむるの方便となりたる姿にては、たといその富貴は自から求めずして天外より授けられたるにもせよ、三河武士の末流たる徳川一類の身として考うれば、折角の功名手柄も世間の見るところにて光を失わざるを・・・<福沢諭吉「瘠我慢の説」青空文庫>
  20. ・・・ そして早くもその夏、ブドリは大きな手柄をたてました。それは去年と同じころ、またオリザに病気ができかかったのを、ブドリが木の灰と食塩を使って食いとめたのでした。そして八月のなかばになると、オリザの株はみんなそろって穂を出し、その穂の一枝・・・<宮沢賢治「グスコーブドリの伝記」青空文庫>
  21. ・・・今年こそ白いのをうんととって来て手柄を立ててやろうと思ったのです。 そのうち九月になりました。私ははじめたった一人で行こうと思ったのでしたがどうも野原から大分奥でこわかったのですし第一どの辺だったかあまりはっきりしませんでしたから誰か友・・・<宮沢賢治「谷」青空文庫>
  22. ・・・古い女らしさに従えば、うまくやりくりして家じゅうに寒い目をさせず、しかも巧になるたけやすい炭をどっさり見つけて来る手柄に止っていたであろう。将来の女らしさは、そういう狭い個人的な即物的解決の機敏さだけでは、決して追っつかない。子供たちに炭の・・・<宮本百合子「新しい船出」青空文庫>
  23. ・・・ 筒抜けに上機嫌な一太の声を、母親はぎょっとしたようなひそひそ声で、「そうかい、そりゃお手柄だ」といそいで揉み消した。「さあもう一っ稼ぎだ」 また風呂敷包を両手に下げた引かけ帯の見窄しい母親と並んで、一太は一層商売を心得・・・<宮本百合子「一太と母」青空文庫>
  24. ・・・   周囲の人 母 好人物 ドメスティック 弟 山雄   富次郎 バチェラー一族 姉 浪花節語り     K、Sの性格 ○小さい時から花柳界に育ち男をだますのを手柄と思って居た、 ○或若者、年上の・・・<宮本百合子「一九二五年より一九二七年一月まで」青空文庫>
  25. ・・・そりゃあ、人間が今でも云い伝えているそうだが、あの若者のカインに、始めてアベルを殺させたのも手柄の一つには違いないが、規模の壮大さで比較にならぬ。ミーダ 然し手間はかかったな。俺の一心を凝らした点から云えば、カインの仕事をやり遂げて以来・・・<宮本百合子「対話」青空文庫>
  26. ・・・最初討手を仰せつけられたときに、お次へ出るところを劍術者新免武蔵が見て、「冥加至極のことじゃ、ずいぶんお手柄をなされい」と言って背中をぽんと打った。十太夫は色を失って、ゆるんでいた袴の紐を締め直そうとしたが、手がふるえて締まらなかったそうで・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  27. ・・・これはどうしても今日になって認めずにはいられないが、それを認めたのを手柄にして、神を涜す。義務を蹂躙する。そこに危険は始て生じる。行為は勿論、思想まで、そう云う危険な事は十分撲滅しようとするが好い。しかしそんな奴の出て来たのを見て、天国を信・・・<森鴎外「かのように」青空文庫>
  28. ・・・牧民の職にいて賢者を礼するというのが、手柄のように思われて、閭に満足を与えるのである。 台州から天台県までは六十里半ほどである。日本の六里半ほどである。ゆるゆる輿を舁かせて来たので、県から役人の迎えに出たのに逢ったとき、もう午を過ぎてい・・・<森鴎外「寒山拾得」青空文庫>
  29. ・・・和主もこれから見参して毎度手柄をあらわしなされよ」「これからはまた新田の力で宮方も勢いを増すでおじゃろ。楠や北畠が絶えたは惜しいが、また二方が世に秀れておじゃるから……」「嬉しいぞや。早う高氏づらの首を斬りかけて世を元弘の昔に復した・・・<山田美妙「武蔵野」青空文庫>
  30. ・・・は、中の部であるが六%にすぎず、「武辺の手柄を望み、一道にすく男」は、下の部であっても一二%にすぎず、あと八〇%は「人並みの男」に過ぎないのであるが、強すぎた大将の下では、上中下の二〇%の武士を戦死させ、人並みの猿侍のみが残ることになるから・・・<和辻哲郎「埋もれた日本」青空文庫>