てき‐い【敵意】例文一覧 30件

  1. ・・・「と云うと私がひどく邪推深いように聞えますが、これはその若い男の浅黒い顔だちが、妙に私の反感を買ったからで、どうも私とその男との間には、――あるいは私たちとその男との間には、始めからある敵意が纏綿しているような気がしたのです。ですからそ・・・<芥川竜之介「開化の良人」青空文庫>
  2. ・・・ 独逸に対する彼の敵意は勿論僕には痛切ではなかった。従って僕は彼の言葉に多少の反感の起るのを感じた。同時にまた酔の醒めて来るのも感じた。「僕はもう帰る。」「そうか? じゃ僕は……」「どこかこの近所へ沈んで行けよ。」 僕等・・・<芥川竜之介「彼 第二」青空文庫>
  3. ・・・僕は勿論この芝居に、――或はこの芝居のかげになった、存外深いらしい彼等の敵意に好奇心を感ぜずにはいられなかった。「おい、何と言ったんだい?」「その人は誰の出迎いでもない、お母さんの出迎いに行ったんだと言うんだ。何、今ここにいる先生が・・・<芥川竜之介「湖南の扇」青空文庫>
  4. ・・・   又 輿論の存在に価する理由は唯輿論を蹂躙する興味を与えることばかりである。   敵意 敵意は寒気と選ぶ所はない。適度に感ずる時は爽快であり、且又健康を保つ上には何びとにも絶対に必要である。   ・・・<芥川竜之介「侏儒の言葉」青空文庫>
  5. ・・・ 保吉はこの宣教師に軽い敵意を感じたまま、ぼんやり空想に耽り出した。――大勢の小天使は宣教師のまわりに読書の平安を護っている。勿論異教徒たる乗客の中には一人も小天使の見えるものはいない。しかし五六人の小天使は鍔の広い帽子の上に、逆立ちを・・・<芥川竜之介「少年」青空文庫>
  6. ・・・僕は突然何ものかの僕に敵意を持っているのを感じ、電車線路の向うにある或カッフェへ避難することにした。 それは「避難」に違いなかった。僕はこのカッフェの薔薇色の壁に何か平和に近いものを感じ、一番奥のテエブルの前にやっと楽々と腰をおろした。・・・<芥川竜之介「歯車」青空文庫>
  7. ・・・与十の妻は犬に出遇った猫のような敵意と落着きを以て彼れを見た。そして見つめたままで黙っていた。 仁右衛門は脂のつまった大きな眼を手の甲で子供らしくこすりながら、「俺らあすこの小屋さ来たもんだのし。乞食ではねえだよ」といってにこに・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  8. ・・・ 彼らは民衆を基礎として最後の革命を起こしたと称しているけれども、ロシアにおける民衆の大多数なる農民は、その恩恵から除外され、もしくはその恩恵に対して風馬牛であるか、敵意を持ってさえいるように報告されている。真個の第四階級から発しない思・・・<有島武郎「宣言一つ」青空文庫>
  9. ・・・でになりましても、途中、その同乗を求むるものをたって謝絶いたしますと、独占的ブルジョアの横暴ででもありますかのように、階級意識を刺戟しまして――土地が狭いもんですから――われわれをはじめ、お客様にも、敵意を持たれますというと、何かにつけて、・・・<泉鏡花「燈明之巻」青空文庫>
  10. ・・・激して忽ち腹心の門下や昵近の知友となったツモリに独りで定めてしまって同情や好意や推輓や斡旋を求めに行くと案外素気なく待遇われ、合力無心を乞う苦学生の如くに撃退されるので、昨の感激が消滅して幻滅を感じ、敵意を持たないまでも不満を抱き反感を持つ・・・<内田魯庵「三十年前の島田沼南」青空文庫>
  11. ・・・ また電車のなかの人に敵意とはゆかないまでも、棘々しい心を持ちます。これもどうかすると変に人びとのアラを捜しているようになるのです。学生の間に流行っているらしい太いズボン、変にべたっとした赤靴。その他。その他。私の弱った身体にかなわない・・・<梶井基次郎「橡の花」青空文庫>
  12. ・・・いや、そういう君の上品ぶりの古陋頑迷、それから各々ひらき直って、いったい君の小説――云云と、おたがいの腹の底のどこかしらで、ゆるせぬ反撥、しのびがたき敵意、あの小説は、なんだい、とてんから認めていなかったのだから、うまく折合う道理はなし、或・・・<太宰治「喝采」青空文庫>
  13. ・・・こんどは、本心から、この少年に敵意を感じた。       第二回 決意したのである。この少年の傲慢無礼を、打擲してしまおうと決意した。そうと決意すれば、私もかなりに兇悪酷冷の男になり得るつもりであった。私は馬鹿に似ているが、・・・<太宰治「乞食学生」青空文庫>
  14. ・・・お互いにまだ友人になりきれずにいる新入生たちは、教室のおのおのの机に坐ってブルウル氏を待ちつつ、敵意に燃える瞳を煙草のけむりのかげからひそかに投げつけ合った。寒そうに細い肩をすぼませて教室へはいって来たブルウル氏は、やがてほろにがく微笑みつ・・・<太宰治「猿面冠者」青空文庫>
  15. ・・・ふだんは気の弱そうな愛嬌のいい人であったが、その時、僕の顔をちらと見た眼つきは、憎悪と言おうか、敵意と言おうか、何とも言えない実におそろしい光りを帯びていた。僕は、ぎょっとした。 ツネちゃんの怪我はすぐ治って、この事件は、べつだん療養所・・・<太宰治「雀」青空文庫>
  16. ・・・やはり雪は、私の傍を離れなかったけれど、他のお客に対する私の敵意が、私をすこし饒舌にした。場のにぎやかな空気が私を浮き浮きさせたからでもあったろう。「君、僕の昨日のとこね、あれ、君、僕を馬鹿だと思ったろう。」「いいえ。」雪は頬を両手・・・<太宰治「断崖の錯覚」青空文庫>
  17. ・・・従来はよその猫を見るとおかしいほどに恐れて敵意を示していたのが、どうした事か見知らぬ猫と庭のすみをあるいているのを見かける事もあった。一日あるいはどうかするとそれ以上も姿を隠す事があった。始めはもしや猫殺しの手にでもかかったのではないかと心・・・<寺田寅彦「子猫」青空文庫>
  18. ・・・そのかわり社交的技巧の底にかくれた敵意や打算に対してかなりに敏感であったことは先生の作品を見てもわかるのである。「虞美人草」を書いていたころに、自分の研究をしている実験室を見せろと言われるので、一日学校へ案内して地下室の実験装置を見せて・・・<寺田寅彦「夏目漱石先生の追憶」青空文庫>
  19. ・・・くろい、あごのしゃくれた小さい顔は、あらわに敵意をみせていた。女は一度もふりむかないけれど、うしろを意識している気ぶりは、うしろ姿のどこにもあらわれている。裾をけひらくような特徴のある歩き方、紅と紫のあわせ帯をしているすらッとした腰のへん。・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  20. ・・・その上僕の風変りな性格が、小学生時代から仲間の子供とちがって居たので、学校では一人だけ除け物にされ、いつも周囲から冷たい敵意で憎まれて居た。学校時代のことを考えると、今でも寒々とした悪感が走るほどである。その頃の生徒や教師に対して、一人一人・・・<萩原朔太郎「僕の孤独癖について」青空文庫>
  21. ・・・或は上士と下士との軋轢あらざれば、士族と平民との間に敵意ありて、いかなる旧藩地にても、士民共に利害栄辱を與にして、公共のためを謀る者あるを聞かず。故に世上有志の士君子が、その郷里の事態を憂てこれが処置を工夫するときに当り、この小冊子もまた、・・・<福沢諭吉「旧藩情」青空文庫>
  22. ・・・ 現在おかれている有様は受け身の警戒の形なのだが、その犬の心としては主張するところをもっていて、犬の身になってみれば何となしそれが尤もでありそうな、そういう表情が、毛のささくれた穢れた体に漲っている。敵意に充ちているけれども卑屈な表情はちっ・・・<宮本百合子「犬三態」青空文庫>
  23. ・・・テリゲンツィアの典型的代表者であり、うぬぼれのつよい個人主義者であるジイドのブルジョア的良心がどうしても和解することが出来ない多くのものがソヴェトには在り、ジイドの怒りは反動的なブルジョアジーの無力な敵意を反映しているものである、云々と。・・・<宮本百合子「ジイドとそのソヴェト旅行記」青空文庫>
  24. ・・・彼は何という敵意を私に対して抱いていたことだろう。この弟は、すぐ怒って、私の髪をつかんで畳の上へひき倒した。そして殴ったりし、蹴りもした。私にだけそんなことをした。私の困るようなことを見つけるのがうまくて、ああ困ったと思うと私はすぐ、その弟・・・<宮本百合子「青春」青空文庫>
  25. ・・・無智は不明は、敵意の無い挑戦者である。 魂の深みを顧みて見ると、そういう風な悔恨を沁々と味わずには居られない。 此は決して郷愁がさせる業でもなければ、感傷主義の私生児でもない。其は確だ。一つでも、その半片でも、人間が受けている、或は・・・<宮本百合子「追慕」青空文庫>
  26. ・・・一度列車が、その外に出ると、そこにあるのは「無関心な、敵意も反抗もない真黒い無数の中国人」だ。 ファッシズム文化の特色である独善的な民族主義の立場から、筆者は「中国人の平気さにはあきれる」などというが、さすがに、時々はそこから「抵抗のな・・・<宮本百合子「文芸時評」青空文庫>
  27. ・・・「女に対して彼は、私の見るところ妥協し難い敵意を持ち、それを罰することが好きである。」という印象をゴーリキイは受けた。トルストイの当時の心持の中には、夫人との軋轢が一つの鋭いとげとなっていたかも知れない。しかしゴーリキイは非常に公平に一人の・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」青空文庫>
  28. ・・・便便として為すところなき梶自身の無力さに対する嫌悪や、栖方の世界に刃向う敵意や、殺人機の製造を目撃する淋しさや、勝利への予想に興奮する疲労や、――いや、見ないに越したことはない、と梶は思った。そして、栖方の云うままには動けぬ自分の嫉妬が淋し・・・<横光利一「微笑」青空文庫>
  29. ・・・桂の愛らしい緑や微風にそよぐプラタアネの若葉に取り巻かれた肌の美しい女神の像も彼には敵意のほかの何の情緒をも起こさせなかった。台石の回りに咲き乱れている菫や薔薇、その上にキラキラと飛び回っている蜜蜂、――これらの小さい自然の内にも、人間の手・・・<和辻哲郎「『偶像再興』序言」青空文庫>
  30. ・・・母親は知らない人から突然口をきかれて、ほとんど敵意に近い驚愕の色を浮かべた。私が「もうすぐ来ます」と言った時には、あわてて立ち上がって、私に礼を言うどころでなくむしろ当惑したような顔つきで、早口に老人や子供をせき立てた。もう彼女の心には私の・・・<和辻哲郎「停車場で感じたこと」青空文庫>