て‐こ【×梃子/×梃】例文一覧 14件

  1. ・・・すると書斎の鴨居の上に鳶口が一かかっていた。鳶口は柄を黒と朱との漆に巻き立ててあるものだった。誰かこれを持っていたことがある、――僕はそんなことを思い出しながら、いつか書斎でも何でもない、枳殻垣に沿った道を歩いていた。 道はもう暮れか・・・<芥川竜之介「死後」青空文庫>
  2. ・・・が、日本の洋楽が椿岳や彦太楼尾張屋の楼主から開拓されたというは明治の音楽史研究者の余り知らない頗る変 椿岳は諸芸に通じ、蹴鞠の免状までも取った多芸者であった。お玉ヶ池に住んでいた頃、或人が不斗尋ねると、都々逸端唄から甚句カッポレのチリ・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  3. ・・・美妙斎や紅葉の書斎のゴタクサ書籍を積重ねた中に変な画や翫弄物を列べたと反して、余りに簡単過ぎていた。 風采は私の想像と余りに違わなかった。沈毅な容貌に釣合う錆のある声で、極めて重々しく一語々々を腹の底から搾り出すように話した。口の先き・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  4. ・・・落馬癖の有無、騎手の上手下手、距離の適不適まで勘定に入れて、これならば絶対確実だと出馬表に赤鉛筆で印をつけて来たものも、場内を乱れ飛ぶニュースを耳にすると、途端に惑わされて印もつけて来なかったような変な馬を買ってしまう。朝、駅で売っている・・・<織田作之助「競馬」青空文庫>
  5. ・・・で暮しているのだ。でも動かぬといった感じで、ボックスでとぐろを巻いているのだ。しかし、十三時間の間、幾子と口を利くのはほんの二言か三言だ。あとは幾子の顔を見ながら、小説のことを考えたり、雑誌を読んだり、客と雑談したりしているのだ。客のなか・・・<織田作之助「四月馬鹿」青空文庫>
  6. ・・・無学文盲で将棋のほかには全くの阿呆かと思われる坂田が、ボソボソと不景気な声で子供の泣き声が好きだという変な芸談を語ったのである。なにか痛ましい気持がするではないか。悲劇の人をここに見るような気すらする。 その坂田のことを、私はある文芸・・・<織田作之助「勝負師」青空文庫>
  7. ・・・妻を捨て、子も捨てて好きな女と一緒に暮している身に勝目はないが、廃嫡は廃嫡でも貰うだけのものは貰わぬと、後へは行けぬ思て梃子でも動かへんなんだが、親父の言分はどうや。蝶子、お前気にしたあかんぜ。「あんな女と一緒に暮している者に金をやっても死・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  8. ・・・従って実に変な戯曲を書いていたようだ。十九から二十五まで七年の間に、四つ戯曲を書いた。そのうちの二つは、三高の五年生の時に、もう東京帝大へ行っている友人らとはじめた「海風」という同人雑誌に発表したが、問題にされなかった。 大学へ行かず・・・<織田作之助「わが文学修業」青空文庫>
  9. ・・・蝋燭を二も立てて一筋の毛も等閑にしないように、鬢に毛筋を入れているのを、道太はしばしば見かけた。それと反対で毛並みのいいお絹の髪は二十時代と少しも変わらなかった。ことにも生えぎわが綺麗で、曇のない黒目がちの目が、春の宵の星のように和らかに・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  10. ・・・芸者が弘めをする時の手拭の包紙で腰張した壁の上には鬱金の包みを着た三味線が二かけてある。大きな如輪の長火鉢の傍にはきまって猫が寝ている。襖を越した次の座敷には薄暗い上にも更に薄暗い床の間に、極彩色の豊国の女姿が、石州流の生花のかげから、過・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  11. ・・・私はあの救助係の大きな石を鉄で動かすあたりから、あとは勝手に私の空想を書いていこうと思っていたのです。ところが次の日救助係がまるでちがった人になってしまい、泥岩の中からは空想よりももっと変なあしあとなどが出てきたのです。その半分書いた分だ・・・<宮沢賢治「イギリス海岸」青空文庫>
  12. ・・・第一それを云いだしたのは、剃刀を二しかもっていない、下手な床屋のリチキで、すこしもあてにならないのでした。けれどもあんまり小さい子供らは、毎日ちょうざめを見ようとして、そこへ出かけて行きました。いくらまじめに眺めていても、そんな巨きなちょ・・・<宮沢賢治「毒もみのすきな署長さん」青空文庫>
  13. ・・・ はっきりとした声で云ったので母親は身も心もかるくなったようにかけ下りて黄色いふくろに入った三味線を二もって来た。「何にしよう」 母親は指をなめながら云った。 長次はしきりと撥を持ちかえて居たけど、「はでなもん、なんか・・・<宮本百合子「つぼみ」青空文庫>
  14. ・・・ナイチンゲールにとってクリミヤでの成果は彼女の経歴の有益な踏み石に過ぎず、それは世界を働かせる為の梃子台であった。クリミヤでの激労ですっかり健康を害してイギリスに着いた彼女は、心臓衰弱に襲われ、たえず気絶の発作と全身の衰弱に悩まされた。医師・・・<宮本百合子「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」青空文庫>