て‐ちょう〔‐チヤウ|‐テフ〕【手帳/手×帖】例文一覧 30件

  1. ・・・銀行から歳暮によこす皮表紙の懐中手帳に、細手の鉛筆に舌の先の湿りをくれては、丹念に何か書きこんでいた。スコッチの旅行服の襟が首から離れるほど胸を落として、一心不乱に考えごとをしながらも、気ぜわしなくこんな注意をするような父だった。 停車・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  2. ・・・きっと十月、中の十日から二十日の間、三年つづいて十七日というのを、手帳につけて覚えています。季節、天気というものは、そんなに模様の変らないものと見えて、いつの年も秋の長雨、しけつづき、また大あらしのあった翌朝、からりと、嘘のように青空になる・・・<泉鏡花「縷紅新草」青空文庫>
  3. ・・・巡査が手帳持って覗きに来よる。桃山行きや、消毒やいうて、えらい騒動や。そのあげく、乳飲ましたらあかんぜ、いうことになった。そらそや、いくら何でもチビスの乳は飲めんさかいナ。さア、お腹は空いてくるわ、なんぼ泣いてもほっとかれるわ。お襁褓もかえ・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  4. ・・・私は例の切抜きと手帳と万年筆くらい持ちだして、無断で下宿を出た。「とにかくまあ何も考えずに、田舎で静養してきたまえ、実際君の弱り方はひどいらしい。しかしそれもたんに健康なんかの問題でなくて、別なところ来てるのかもしれないが、しかしとにか・・・<葛西善蔵「遁走」青空文庫>
  5. ・・・る景色を変え、塊然たる物象を化して夢となし、幻となし、霊となし、怪となし、というに至っては水多く山多き佐伯また実にそうである、しかししいてわが佐伯をウォーズウォルスの湖国と対照する必要はない。手帳と鉛筆とを携えて散歩に出掛けたスコッ・・・<国木田独歩「小春」青空文庫>
  6. ・・・ 彼の寝台の上には、手帳や、本や、絵葉書など、私物箱から放り出したまゝ散らかっていた。小使が局へ持って行った貯金通帳は、一円という預入金額を記入せずに拡げられてあった。彼は、無断で私物箱を調べられるというような屈辱には馴れていた。が、聯・・・<黒島伝治「穴」青空文庫>
  7. ・・・と家内に一言して、餌桶と網魚籠とを持って、鍔広の大麦藁帽を引冠り、腰に手拭、懐に手帳、素足に薄くなった薩摩下駄、まだ低くならぬ日の光のきらきらする中を、黄金色に輝く稲田を渡る風に吹かれながら、少し熱いとは感じつつも爽かな気分で歩き出した・・・<幸田露伴「蘆声」青空文庫>
  8. ・・・私は縁側に腰をかけ、しぶしぶ懐中から手帖を出した。このように先生が鹿爪らしい調子でものを言い出した時には、私がすぐに手帖を出してそれを筆記しなければならぬ習慣になっていた。いちど私が、よせばいいのに、先生のご機嫌をとろうと思って、先生の座談・・・<太宰治「黄村先生言行録」青空文庫>
  9. ・・・ろが出て来たので、二、三度、いや、正確に三度、机のうえでころがしてみて、それから、片方に白いふさふさの羽毛を附したる竹製の耳掻きを見つけて、耳穴を掃除し、二十種にあまるジャズ・ソングの歌詞をしるせる豆手帳のペエジをめくり、小声で歌い、歌いお・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  10. ・・・次席訓導は手帖へ、『好奇心』と書き込んだ。それから私と次席訓導とが少し議論を始めた。先生も人間、僕も人間、と書いてあるが、人間というものは皆おなじものか、と彼は尋ねた。そう思う、と私はもじもじしながら答えた。私はいったいに口が重い方であった・・・<太宰治「苦悩の年鑑」青空文庫>
  11. ・・・奉公に来て二日目の朝、てるは庭先で手帖を一冊ひろった。それには、わけのわからぬ事が、いっぱい書かれて在った。美濃十郎の手帖である。○あれでもない、これでもない。○何も無い。○FNへチップ五円わすれぬこと。薔薇の花束、白と薄紅がよ・・・<太宰治「古典風」青空文庫>
  12. ・・・けれども、家の者は、何やら小さい手帖に日記をつけている様子であるから、これを借りて、それに私の註釈をつけようと決心したのである。「おまえ、日記をつけているようだね。ちょっと貸しなさい。」と何気なさそうな口調で言ったのであるが、家の者は、・・・<太宰治「作家の像」青空文庫>
  13. ・・・軍隊手帖を引き出すのがわかる。かれの眼にはその兵士の黒く逞しい顔と軍隊手帖を読むために卓上の蝋燭に近く歩み寄ったさまが映った。三河国渥美郡福江村加藤平作……と読む声が続いて聞こえた。故郷のさまが今一度その眼前に浮かぶ。母の顔、妻の顔、欅で囲・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  14. ・・・ 主婦は奧の間から古ぼけた手帳のようなものを出して来た。それをあけて見ながら、何かしら単語のようなものを切れ切れに読んで聞かせた。それは「コンニチワ」「オハヨオ」などというような種類のものであったが、あまり発音が変っているから、はじめは・・・<寺田寅彦「異郷」青空文庫>
  15. ・・・そんな時には手帳の端へ暗号のような言葉でその考えの端緒を書き止めたりしていた。しかしそのような状態はいつまでも持続するわけではなくて、これと反対な倦怠の状態も週期的に循環して来た。そういう時には何を読んでも空虚であった。そこに書いてある表面・・・<寺田寅彦「球根」青空文庫>
  16. ・・・ このおもしろい研究の結果を聞かされたときに、ふと妙な空想が天の一方から舞い下って手帳のページにマークをつけた。それを翻訳すると次のようなことになる。 時間の長さの相対的なものであることは古典的力学でも明白なことである。それを測る単・・・<寺田寅彦「空想日録」青空文庫>
  17. ・・・しかし、気をつけないと、自働交換台の豆電燈の瞬きを手帳に記録するだけで満足するようなことになる恐れがないとは云われない。         七 ドンキホーテの映画を見た。彼の誇大妄想狂の原因は彼の蒐集した書物にあるから、これを・・・<寺田寅彦「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」青空文庫>
  18. ・・・と言いながら何か書き留めていた手帳をかくしに収めた。 ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた。○○の○○○○に対するのでも△△の△△△△△に対するのでも、やは・・・<寺田寅彦「小爆発二件」青空文庫>
  19. ・・・のことをきくと、渡しはもうありませんが、蒸汽は七時まで御在ますと言うのに、やや腰を据え、舟なくば雪見がへりのころぶまで舟足を借りておちつく雪見かな その頃、何や彼や書きつけて置いた手帳は、その後いろいろな反古と共に、一た・・・<永井荷風「雪の日」青空文庫>
  20. ・・・そしたら僕は大きな手帳へ二冊も書いて来て見せよう。五月七日今朝父へ学校からの手紙を渡してそれからいろいろ先生の云ったことを話そうとした。すると父は手紙を読んでしまってあとはなぜか大へんあたりに気兼ねしたようすで僕が半・・・<宮沢賢治「或る農学生の日誌」青空文庫>
  21. ・・・富沢は色鉛筆で地図を彩り直したり、手帳へ書き込んだりした。斉田は岩石の標本番号をあらためて包み直したりレッテルを張ったりした。そしてすっかり夜になった。 さっきから台所でことことやっていた二十ばかりの眼の大きな女がきまり悪そうに夕食を運・・・<宮沢賢治「泉ある家」青空文庫>
  22. ・・・ 画かきは、赤いしゃっぽもゆらゆら燃えて見え、まっすぐに立って手帳をもち鉛筆をなめました。「さあ、早くはじめるんだ。早いのは点がいいよ。」 そこで小さな柏の木が、一本ひょいっと環のなかから飛びだして大王に礼をしました。 月の・・・<宮沢賢治「かしわばやしの夜」青空文庫>
  23. ・・・今日で何度目だと思う。手帳へつけるよ。つけるよ。あんまりいけなけあ仕方ないから館長様へ申し上げてアイスランドへ送っちまうよ。 ええおい。さあ坊ちゃん。きっとこいつは談します。早く涙をおふきなさい。まるで顔中ぐじゃぐじゃだ。そらええああす・・・<宮沢賢治「黄いろのトマト」青空文庫>
  24. ・・・(将軍籠にくだものを盛りて出で来る。手帳を出しすばやく何か書きつく、特務曹長に渡す、順次列中に渡る、唱バナナン大将の行進歌合唱「いさおかがやく バナナン軍マルトン原に  たむろせど荒さびし山河の すべもなく・・・<宮沢賢治「饑餓陣営」青空文庫>
  25. ・・・ 手帖にうつしているとY、赤鉛筆をこねて切抜の整理しながら、 ――何ゴソゴソしているのさ。 ――知ってる? あなた。牛乳生産組合がどんな風に農民から牛乳を集めるか。 СССРで集団農業に移ろうとした時、農民及政府双方で一・・・<宮本百合子「新しきシベリアを横切る」青空文庫>
  26. ・・・ わたし達は子供たちが出して何か書いてくれという手帳に次のように書きました。「みなさん! わたし達はみなさんに会って本当にうれしいと思います。ソヴェト同盟の新しい社会の値うちがみなさんの生活のうちに生きているのを見るのは、何とう・・・<宮本百合子「従妹への手紙」青空文庫>
  27. ・・・電車にぶら下って行くのを見つけられると、職業組合手帖を見せて、一留罰金をとられる。 数台まって、やっと乗りこんだ電車は行く先の関係で殆ど労働者専用車だ。鳥打帽をかぶり、半外套をひっかけた大きな体の連中が、二人分の座席に三人ずつ腰かけ、通・・・<宮本百合子「「鎌と鎚」工場の文学研究会」青空文庫>
  28. ・・・ 手提袋から、彼女は手帖を一つ出した。二寸に三寸位の緑色の手帖であった。或る頁には日記のようなものが書いてあり、或る頁にはいろいろの絵が細かく万年筆で描いてある。時事漫画に久夫でも描きそうな野球試合鳥瞰図があると思うと、西洋の女がい、男・・・<宮本百合子「高台寺」青空文庫>
  29. ・・・令丁がその太鼓を打ってしまったと思うと、キョトキョト声で、のべつに読みあげた――『ゴーデルヴィルの住人、その他今日の市場に出たる皆の衆、どなたも承知あれ、今朝九時と十時の間にブーズヴィルの街道にて手帳を落とせし者あり、そのうちには金五百・・・<著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩「糸くず」青空文庫>
  30. ・・・梶は膝の上に手帖を開いたまま、中の座敷の方に背を向け、柱にもたれていた。枝をしなわせた橙の実の触れあう青さが、梶の疲労を吸いとるようであった。まだ明るく海の反射をあげている夕空に、日ぐらしの声が絶えず響き透っていた。「これは僕の兄でして・・・<横光利一「微笑」青空文庫>