て‐の‐ひら【手の平/掌】例文一覧 30件

  1. ・・・ 慎太郎は父の云いつけ通り、両手のに母の手を抑えた。母の手は冷たい脂汗に、気味悪くじっとり沾っていた。 母は彼の顔を見ると、頷くような眼を見せたが、すぐにその眼を戸沢へやって、「先生。もういけないんでしょう。手がしびれて来たよ・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  2. ・・・ふりかえると、そこには、了哲が、うすいものある顔をにやつかせながら、彼のの上にある金無垢の煙管をもの欲しそうに、指さしていた。「こう、見や。」 河内山は、小声でこう云って、煙管の雁首を、了哲の鼻の先へ、持って行った。「とうとう・・・<芥川竜之介「煙管」青空文庫>
  3. ・・・クララは、見つめるほど、骨肉のいとしさがこみ上げて来て、そっとで髪から頬を撫でさすった。その手に感ずる暖いなめらかな触感はクララの愛欲を火のようにした。クララは抱きしめて思い存分いとしがってやりたくなって半身を起して乗しかかった。同時にそ・・・<有島武郎「クララの出家」青空文庫>
  4. ・・・真白い左の手の上に粉のふいた紫色の房を乗せて、細長い銀色の鋏で真中からぷつりと二つに切って、ジムと僕とに下さいました。真白い手の平に紫色の葡萄の粒が重って乗っていたその美しさを僕は今でもはっきりと思い出すことが出来ます。 僕はその時から・・・<有島武郎「一房の葡萄」青空文庫>
  5. ・・・百姓はで自分の膝を叩いて、また呼んだ。「来いといったら来い。シュッチュカ奴。馬鹿な奴だ。己れはどうもしやしない。」 そこで犬は小股に歩いて、百姓の側へ行掛かった。しかしその間に百姓の考が少し変って来た。それは今まで自分の良い人だと思っ・・・<著:アンドレーエフレオニード・ニコラーエヴィチ 訳:森鴎外「犬」青空文庫>
  6. ・・・ さそくに後を犇と閉め、立花はに据えて、瞳を寄せると、軽く捻った懐紙、二隅へはたりと解けて、三ツ美く包んだのは、菓子である。 と見ると、白と紅なり。「はてな。」 立花は思わず、膝をついて、天井を仰いだが、板か、壁か明かなら・・・<泉鏡花「伊勢之巻」青空文庫>
  7. ・・・地獄も見て来たよ――極楽は、お手のものだ、とト筮ごときはである。且つ寺子屋仕込みで、本が読める。五経、文選すらすらで、書がまた好い。一度冥途をってからは、仏教に親んで参禅もしたと聞く。――小母さんは寺子屋時代から、小僧の父親とは手習傍輩で・・・<泉鏡花「絵本の春」青空文庫>
  8. ・・・ 美しい、赤い実をの上にのせて、ながめていた義雄さんは、なんの実だろうかと思いました。「お母さん、木の実でしょうか、草の実でしょうか?」と、ききました。「やぶの中に生えている、なにかの木の実のようですね。」「これを土にうず・・・<小川未明「赤い実」青空文庫>
  9. ・・・ 蝸牛をにのせ、腕を這わせ、肩から胸へ、じめじめとした感触を愉しんだ。 また、銭湯で水を浴びるのを好んだ。湯気のふきでている裸にざあッと水が降りかかって、ピチピチと弾みきった肢態が妖しく顫えながら、すくッと立った。官能がうずくのだ・・・<織田作之助「雨」青空文庫>
  10. ・・・頓て其蒼いのも朦朧となって了った…… どうも変さな、何でも伏臥になって居るらしいのだがな、眼に遮ぎるものと云っては、唯大の地面ばかり。小草が数本に、その一本を伝わって倒に這降りる蟻に、去年の枯草のこれが筐とも見える芥一摘みほど――・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  11. 一 車に注意されて、彼は福島で下車した。朝の五時であった。それから晩の六時まで待たねばならないのだ。 耕吉は昨夜の十一時上野発の列車へ乗りこんだのだ、が、奥羽線廻りはその前の九時発のだったのである。あわてて、酔払って、二三・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  12. ・・・と女は欠伸まじりに言い、束髪の上へ載せる丸く編んだ毛をに載せ、「帰らしてもらいまっさ」と言って出て行った。喬はそのまままた寝入った。     四 喬は丸太町の橋の袂から加茂磧へ下りて行った。磧に面した家々が、そこに午後の日・・・<梶井基次郎「ある心の風景」青空文庫>
  13. ・・・と二郎が目と空にあいし時のさまをわれいつまでか忘るべき、貴嬢は微かにアと呼びたもうや真蒼になりたまいぬ、弾力強き心の二郎はずかずかと進みて貴嬢が正面の座に身を投げたれど、まさしく貴嬢を見るあたわず両のもて顔をおおいたるを貴嬢が同伴者の年若・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  14. ・・・その態度は、を引っくりかえしたように、今、全然見られなかった。上等兵の表情には、これまで、病院で世話になったことのないあかの他人であるような意地悪く冷酷なところがあった。 こういう態度の豹変は憲兵や警官にはあり勝ちなことだ。憲兵や警官・・・<黒島伝治「穴」青空文庫>
  15. ・・・かりそめながら戦ったわがを十分に洗って、ふところ紙三、四枚でそれを拭い、そのまま海へ捨てますと、白い紙玉は魂ででもあるようにふわふわと夕闇の中を流れ去りまして、やがて見えなくなりました。吉は帰りをいそぎました。 「南無阿弥陀仏、南無阿・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  16. ・・・そして、最初箸の先にちょんびり肴を挾んで左手のにそれを置いて口にもってゆくとき、龍介をちょっとぬすみ見て、身体を少しくねらし、顔をわきにむけて、食べた。彼はすぐまた酒をついでやった。女はまたさかなを食った。章魚の方にも箸をつけた。腹が減っ・・・<小林多喜二「雪の夜」青空文庫>
  17. ・・・こちらからおいでおいでと新田足利勧請文を向けるほどに二ツ切りの紙三つに折ることもよく合点しやがて本文通りなまじ同伴あるを邪魔と思うころは紛れもない下心、いらざるところへ勇気が出て敵は川添いの裏二階もうのうちと単騎馳せ向いたるがさて行義よく・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  18. ・・・ その時どうしたのだか知らないが、忽ち向うの白けた空の背景の上に鼠色の山の峯が七つ見えているあたりに、かっと日に照らされた、手の平ほどの処が見えて来た。その処は牧場である。緩傾斜をなして、一方から並木で囲まれている。山のよほど高い処にあ・・・<著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外「鴉」青空文庫>
  19. ・・・藤さんは章坊が蒲団へ落した餡を手の平へ拾う。影法師が壁に写っている。頭が動く。やがてそれがきちんと横向きに落ちつくと、自分は目口眉毛を心でつける。小母さんの臂がちょいちょい写る。簪で髪の中を掻いているのである。 裏では初やが米を搗く。・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  20. ・・・はじめはで、お顔の汗を拭い払って居りましたが、とてもそんなことで間に合うような汗ではございませぬ。それこそ、まるで滝のよう、額から流れ落ちる汗は、一方は鼻筋を伝い、一方はこめかみを伝い、ざあざあ顔中を洗いつくして、そうしてみんな顎を伝って・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  21. ・・・ 火の消えない吸殻をに入れて転がしながら、それで次の一服を吸付けるという芸当も真似をした。この方はそんなに六かしくはなかったが時々はずいぶん痛い思いをしたようである。やはりそれが出来ないと一人前の男になれないような気がしたものらしい。・・・<寺田寅彦「喫煙四十年」青空文庫>
  22. ・・・ 善ニョムさんは、片手を伸すと、一握りの肥料を掴みあげて片ッ方の団扇のようなへ乗せて、指先で掻き廻しながら、鼻のところへ持っていってから、ポンともとのところへ投げた。「いい出来だ、これでお天気さえよきゃあ豊年だぞい」 善ニョム・・・<徳永直「麦の芽」青空文庫>
  23. ・・・是等の人達の上に立って営業の事務一切をる支配人が一人、其助手が一人あった。数え来れば少からぬ人員となる。是の人員が一団をなして業を営む時には、ここに此の一団固有の天地の造り出されるのは自然の勢である。同じ銀座通に軒を連ねて同じ営業をしてい・・・<永井荷風「申訳」青空文庫>
  24. ・・・はっと押えた時文造の手の平は赤くなった。犬の血に尋いで更に文造の血が番小屋に灑がれた。雨の大きな粒がまばらに蜀黍の葉を打って来た。霧の如く白雨の脚が軟弱な稲を蹴返し蹴返し迫って来た。田甫を渡って文造はひた走りに走った。夕立がどっと来た。黄褐・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  25. ・・・ 余は婆さんの労に酬ゆるために婆さんのの上に一片の銀貨を載せた。ありがとうと云う声さえも朗読的であった。一時間の後倫敦の塵と煤と車馬の音とテームス河とはカーライルの家を別世界のごとく遠き方へと隔てた。・・・<夏目漱石「カーライル博物館」青空文庫>
  26. ・・・このタテタテの花というのは紫色の小さな袋のような花で、その中にある蕊を取ってそれをの上に並べ置き、手の脈所のところをトントンと叩くとその小さな蕊が縦に立ってにひっついて居るのが面白いので、子供の中にこの花を見つけるといつでもこういう遊び・・・<正岡子規「病牀苦語」青空文庫>
  27. ・・・と言いながら、屈んで一本のすすきを引き抜いて、その根から土をにふるい落して、しばらく指でこねたり、ちょっと嘗めてみたりしてから云いました。「うん。地味もひどくよくはないが、またひどく悪くもないな。」「さあ、それではいよいよこことき・・・<宮沢賢治「狼森と笊森、盗森」青空文庫>
  28. ・・・そして、がさがさの手の平で顔じゅう撫でた。植村婆さんは、一寸皮肉に笑いながら云った。「婆やつき合がひろいから、暇乞いだけでも容易であんめ?」「早く上らなくちゃならなかったんですがね、一日に二とこは歩けないもんだから」「そうともよ・・・<宮本百合子「秋の反射」青空文庫>
  29. ・・・初のは半紙の罫紙であったが、こん度のは紫板の西洋紙である。手の平にべたりと食っ附く。丁度物干竿と一しょに蛞蝓を掴んだような心持である。 この時までに五六人の同僚が次第に出て来て、いつか机が皆塞がっていた。八時の鐸が鳴って暫くすると、課長・・・<森鴎外「あそび」青空文庫>
  30. ・・・一度、人は心から自分の手の平を合して見るが良い。とどの詰りはそれより無く、もし有ったところで、それは物があるということだけかも知れぬ。人人の認識というものはただ見たことだけだ。雑念はすべて誤りという不可思議な中で、しきりに人は思わねばならぬ・・・<横光利一「鵜飼」青空文庫>