て‐ばなし【手放し】例文一覧 25件

  1. ・・・ただ、都へはいる前に、太刀だけはもう手放していました。――わたしの白状はこれだけです。どうせ一度は樗の梢に、懸ける首と思っていますから、どうか極刑に遇わせて下さい。(昂然清水寺に来れる女の懺悔 ――その紺の水干を着た男は、わ・・・<芥川竜之介「藪の中」青空文庫>
  2. ・・・ところが今夜の出合いがあの婆に見つかったとなると、恐らく明日はお敏を手放して、出さないだろうと思うんだ。だからよしんばあの婆の爪の下から、お敏を救い出す名案があってもだね、おまけにその名案が今日明日中に思いついたにしてもだ。明日の晩お敏に逢・・・<芥川竜之介「妖婆」青空文庫>
  3. ・・・預りものだ、手放して可いものですかい。 けれども、おいそれとは今言ったような工合ですから、いずれ、その何んでさ。ま、ま、めし飲れ、熱い処を。ね、御緩り。さあ、これえ、お焼物がない。ええ、間抜けな、ぬたばかり。これえ、御酒に尾頭は附物だわ・・・<泉鏡花「国貞えがく」青空文庫>
  4. ・・・ ヒイと声を揚げて弟子が二人、幕の内で、手放しにわっと泣いた。 赤ら顔の大入道の、首抜きの浴衣の尻を、七のずまで引めくったのが、苦り切ったる顔して、つかつかと、階を踏んで上った、金方か何ぞであろう、芝居もので。 肩をむずと取ると・・・<泉鏡花「伯爵の釵」青空文庫>
  5. ・・・ そのとき、のぶ子は、お人形の着物をきかえさせて、遊んでいましたが、それを手放して、すぐにお母さまのそばへやってきました。「わたしをかわいがってくださったお姉さんから、送ってきたのですか?」と、のぶ子はいいました。「ああ、そうだ・・・<小川未明「青い花の香り」青空文庫>
  6. ・・・「これを手放してしまえば、明日から、自分は、猟にゆくことができない。」と、思いましたが、妻が病気なら、そんなことをいっていられませんので、ある朝、鉄砲を持って、町へ出かけようとしました。 ちょうど、そこへ、旅の薬屋さんがやってきまし・・・<小川未明「猟師と薬屋の話」青空文庫>
  7. ・・・ところが世間に得てあるところの例で、品物を売る前には金が貴く思えて品物を手放すが、品物を手放してしまうとその物のないのが淋しくなり、それに未練が出て取返したくなるものである。杜九如の方ではテッキリそれだと思ったから、贋物だったなぞというのは・・・<幸田露伴「骨董」青空文庫>
  8. ・・・彼女は一日も手放しがたいものに思うお新を連れ、預り子の小さな甥を連れ、附添の婆やまで連れて、賑かに家を出て来たが、古い馴染の軒を離れる時にはさすがに限りない感慨を覚えた。彼女はその昂奮を笑いに紛わして来た。「みんな、行って来るぞい」その言葉・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  9. ・・・という電文を、田舎の家にあてて頼信紙に書きしたためながら、当時三十三歳の長兄が、何を思ったか、急に手放しで慟哭をはじめたその姿が、いまでも私の痩せひからびた胸をゆすぶります。父に早く死なれた兄弟は、なんぼうお金はあっても、可哀想なものだと思・・・<太宰治「兄たち」青空文庫>
  10. ・・・一万円でも手放しやしない。一尺二十円とは、笑わせやがる。旦那、間が抜けて見えますぜ。」「すべて、だめだ。」「口の悪いのは、私の親切さ。突飛な慾は起さぬがようござんす。それでは、ごめんこうむります。」まじめに言って一礼した。「お送・・・<太宰治「黄村先生言行録」青空文庫>
  11. ・・・ もう一晩この家に寝かせて下さい、玄関の夾竹桃も僕が植えたのだ、庭の青桐も僕が植えたのだ、と或る人にたのんで手放しで泣いてしまったのを忘れていない。一ばん永く住んでいたのは、三鷹町下連雀の家であろう。大戦の前から住んでいたのだが、ことしの春・・・<太宰治「十五年間」青空文庫>
  12. ・・・それから、運がわるく、また、この家を手放した。けれども、私が、もし君のお父さん、お母さんだったら、べつに、それを悲しまないね。子供が、二人とも、立派に成長して、よその人にも、うしろ指一本さされず、爽快に、その日その日を送って、こんなに嬉しい・・・<太宰治「新樹の言葉」青空文庫>
  13. ・・・私は、もう、一万円でも手放しませんよ。」「見せて下さい。」 水仙の絵である。バケツに投げ入れられた二十本程の水仙の絵である。手にとってちらと見てビリビリと引き裂いた。「なにをなさる!」老画伯は驚愕した。「つまらない絵じゃあり・・・<太宰治「水仙」青空文庫>
  14. ・・・けれども私は、そのころすべてにだらしなくなっていて、ほとんど私の身にくっついてしまったかのようにも思われていたその賢明な、怪我の少い身構えの法をさえ持ち堪えることができず、謂わば手放しで、節度のない恋をした。好きなのだから仕様がないという嗄・・・<太宰治「ダス・ゲマイネ」青空文庫>
  15. ・・・いくら酒を飲んでも、乱れるのは大きらいのたちですから、その悪口も笑って聞き流していましたが、家へ帰って、おそい夕ごはんを食べながら、あまり口惜しくて、ぐしゃと嗚咽が出て、とまらなくなり、お茶碗も箸も、手放して、おいおい男泣きに泣いてしまって・・・<太宰治「美男子と煙草」青空文庫>
  16. ・・・と腋の下に両手を当てそのまま、私は手放しで、ぐしゃと泣いて、たまらずああんと声が出て、みっともない二十八のおたふくが、甘えて泣いても、なんのいじらしさが在ろう、醜悪の限りとわかっていても、涙がどんどん沸いて出て、それによだれも出てしまって、・・・<太宰治「皮膚と心」青空文庫>
  17. ・・・生計不如意の家は扨置き、筍も資力あらん者は、仮令い娘を手放して人の妻にするも、万一の場合に他人を煩さずして自立する丈けの基本財産を与えて生涯の安心を得せしむるは、是亦父母の本意なる可し。古風の教に婦人の三従と称し、幼にして父母に従い、嫁して・・・<福沢諭吉「新女大学」青空文庫>
  18. ・・・ 漸う巧く見附けたと思ったらすぐポカと手放して仕舞うんだもの、 そんなだから話のらちが明かないんですよ。「いい加減にしよ、 川窪はんの云いはる事なら間違いないと思うとるんやさかい、ああやって、出来にくい相談にも乗ってもろうた・・・<宮本百合子「栄蔵の死」青空文庫>
  19. ・・・き同じ小姓の蜂谷を殺害したそのいきさつも、その償として甲斐の甘利の寝首を掻いた前後のいきさつも、主人である家康の命には決してそむいていないのだが、やりかたに何とも云えぬ冷酷鋭利なところがあって、家康は手放しては使いたくない人物だという危険を・・・<宮本百合子「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」青空文庫>
  20. ・・・二三百人もの彌次馬に囲まれて、全財産を手放したマルクス一家は新しい小部屋に引移った。 この年の末、次男ヘンリーが死んだ。二年後に三女のフランチスカが亡くなった。その棺を買う二ポンドの金さえもフランスの亡命者から借りなければならなかった。・・・<宮本百合子「カール・マルクスとその夫人」青空文庫>
  21. ・・・ が、とうとう堪えられなくなって一粒涙がこぼれ出すともう遠慮も何もなくなって私は手放しの啜り泣きを始めた。 手を握って居ながら叔父はまるで別な事を考えて居るらしかった。 彼は一層陰気な顔になってうつむきながら私を慰め様ともすかそ・・・<宮本百合子「追憶」青空文庫>
  22. ・・・と云うと、女中は手放しでオイオイ泣きながら、「出て行くともね、 手、手をつついて居て下さいったって誰が居てやるもんか。 馬鹿馬鹿しい。 此処ば、ばかりにおててんとうさまが照るんじゃあるまいし。 覚えてろ。・・・<宮本百合子「二十三番地」青空文庫>
  23. ・・・ 引きちぎったり踏み躪ったりした藁束を、憎さがあまって我ながら、どうしていいのか分らないように足蹴にしながら、水口まで来ると、お石は上り框に突伏してオイオイ、オイオイと手放しで号泣した。怨んだとて、呪ったとて、海老屋の年寄にはどうせかな・・・<宮本百合子「禰宜様宮田」青空文庫>
  24. ・・・「あれは手放しては使いとうない。この頃身方についた甲州方の者に聞けば、甘利はあれをわが子のように可哀がっておったげな。それにむごい奴が寝首を掻きおった」 甚五郎はこのことばを聞いて、ふんと鼻から息をもらして軽くうなずいた。そしてつと座を・・・<森鴎外「佐橋甚五郎」青空文庫>
  25. ・・・ところがいよいよ子爵夫人の格式をお授けになるという間際、まだ乳房にすがってる赤子を「きょうよりは手放して以後親子の縁はなきものにせい」という厳敷お掛合があって涙ながらにお請をなさってからは今の通り、やん事なき方々と居並ぶ御身分とおなりなさっ・・・<若松賤子「忘れ形見」青空文庫>