てり【照り】例文一覧 30件

  1. ・・・さもなければ忘れたように、ふっつり来なくなってしまったのは、――お蓮は白粉を刷いた片頬に、炭火の火照りを感じながら、いつか火箸を弄んでいる彼女自身を見出した。「金、金、金、――」 灰の上にはそう云う字が、何度も書かれたり消されたりし・・・<芥川竜之介「奇怪な再会」青空文庫>
  2. ・・・従ってもし読者が当時の状景を彷彿しようと思うなら、記録に残っている、これだけの箇条から、魚の鱗のように眩く日の光を照り返している海面と、船に積んだ無花果や柘榴の実と、そうしてその中に坐りながら、熱心に話し合っている三人の紅毛人とを、読者自身・・・<芥川竜之介「さまよえる猶太人」青空文庫>
  3. ・・・うらうらと春の日の照り渡った中に木樵りの爺さんを残したまま。……――昭和二年二月――<芥川竜之介「女仙」青空文庫>
  4. ・・・なだらかに高低のある畑地の向こうにマッカリヌプリの規則正しい山の姿が寒々と一つ聳えて、その頂きに近い西の面だけが、かすかに日の光を照りかえして赤ずんでいた。いつの間にか雲一ひらもなく澄みわたった空の高みに、細々とした新月が、置き忘れられた光・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  5. ・・・砂は蹄鉄屋の前の火の光に照りかえされて濛々と渦巻く姿を見せた。仕事場の鞴の囲りには三人の男が働いていた。鉄砧にあたる鉄槌の音が高く響くと疲れ果てた彼れの馬さえが耳を立てなおした。彼れはこの店先きに自分の馬を引張って来る時の事を思った。妻は吸・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  6.  ドゥニパー湾の水は、照り続く八月の熱で煮え立って、総ての濁った複色の彩は影を潜め、モネーの画に見る様な、強烈な単色ばかりが、海と空と船と人とを、めまぐるしい迄にあざやかに染めて、其の総てを真夏の光が、押し包む様に射して居る・・・<有島武郎「かんかん虫」青空文庫>
  7. ・・・ 前挿、中挿、鼈甲の照りの美しい、華奢な姿に重そうなその櫛笄に対しても、のん気に婀娜だなどと云ってはなるまい。       四 一目見ても知れる、濃い紫の紋着で、白襟、緋の長襦袢。水の垂りそうな、しかしその貞淑を思わせる・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  8. ・・・ 通り雨ですから、すぐに、赫と、まぶしいほどに日が照ります。甘い涙の飴を嘗めた勢で、あれから秋葉ヶ原をよろよろと、佐久間町の河岸通り、みくら橋、左衛門橋。――とあの辺から両側には仕済した店の深い問屋が続きますね。その中に――今思うと船宿・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  9. ・・・黒き人影あとさきに、駕籠ゆらゆらと釣持ちたる、可惜その露をこぼさずや、大輪の菊の雪なすに、月の光照り添いて、山路に白くちらちらと、見る目遥に下り行きぬ。 見送り果てず引返して、駈け戻りて枝折戸入りたる、庵のなかは暗かりき。「唯今!」・・・<泉鏡花「清心庵」青空文庫>
  10. ・・・夕照りうららかな四囲の若葉をその水面に写し、湖心寂然として人世以外に別天地の意味を湛えている。 この小湖には俗な名がついている、俗な名を言えば清地を汚すの感がある。湖水を挟んで相対している二つの古刹は、東岡なるを済福寺とかいう。神々しい・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  11. ・・・その麓に水車が光っているばかりで、眼に見えて動くものはなく、うらうらと晩春の日が照り渡っている野山には静かな懶さばかりが感じられた。そして雲はなにかそうした安逸の非運を悲しんでいるかのように思われるのだった。 私は眼を溪の方の眺めへ移し・・・<梶井基次郎「蒼穹」青空文庫>
  12. ・・・ 自分は持て来た小説を懐から出して心長閑に読んで居ると、日は暖かに照り空は高く晴れ此処よりは海も見えず、人声も聞えず、汀に転がる波音の穏かに重々しく聞える外は四囲寂然として居るので、何時しか心を全然書籍に取られて了った。 然にふと物・・・<国木田独歩「運命論者」青空文庫>
  13. ・・・月はさやかに照りて海も陸もおぼろにかすみ、ここかしこの舷燈は星にも似たり。 げに見るに忍びざりき、されど彼女自ら招く報酬なるをいかにせん、わがこの言葉は二郎のよろこぶところにあらず。 二郎、君は報酬と言うや、何の報酬ぞ。 われ、・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  14. ・・・かくて彼が心は人々の知らぬ間に亡び、人々は彼と朝日照り炊煙棚引き親子あり夫婦あり兄弟あり朋友あり涙ある世界に同居せりと思える間、彼はいつしか無人の島にその淋しき巣を移しここにその心を葬りたり。 彼に物与えても礼言わずなりぬ。笑わずなりぬ・・・<国木田独歩「源おじ」青空文庫>
  15. ・・・ その翌日になった。照りはせぬけれども穏やかな花ぐもりの好い暖い日であった。三先輩は打揃って茅屋を訪うてくれた。いずれも自分の親としてよい年輩の人々で、その中の一人は手製の東坡巾といったようなものを冠って、鼠紬の道行振を被ているという打・・・<幸田露伴「野道」青空文庫>
  16. ・・・ でも日は照り切って、森の中の空気はそよともしません。「さあおりてすこし歩いてみるんですよ」 と言いながらおかあさんはむすめをおろしました。「もうくたびれてしまったんですもの」 子どもは泣く泣くすわりこんでしまいます。・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎「真夏の夢」青空文庫>
  17. ・・・マムシの照り焼です。これもまた、地方文化の一つじゃないでしょうか。この地方の産物を、出来るだけおいしくたべる事に、独自の工夫をこらした結果、こんなものが出来上ったんです。地方文化研究のためにも、たべてみて下さい。」 私は、観念して、たべ・・・<太宰治「母」青空文庫>
  18. ・・・野には明るい日が照り、秋草が咲き、里川が静かに流れ、角のうどん屋では、かみさんがせっせとうどんを伸していた。 私は最初に、かれのつとめていた学校をたずねた。かれの宿直をした室、いっしょに教鞭を取った人たち、校長、それからオルガンの前にも・・・<田山花袋「『田舎教師』について」青空文庫>
  19. ・・・日がうらうらと照り渡って、空気はめずらしくくっきりと透き徹っている。富士の美しく霞んだ下に大きい櫟林が黒く並んで、千駄谷の凹地に新築の家屋の参差として連なっているのが走馬燈のように早く行き過ぎる。けれどこの無言の自然よりも美しい少女の姿の方・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  20. ・・・河とは名ばかりの黄色き砂に水の気なくて、照りつく日のきらめく暑そうなり。川口に当りて海面鏡のごとく帆船の大き小さきも見ゆ。多門通りより元の道に出てまた前の氷屋に一杯の玉壺を呼んで荷物を受取り停車場に行く。今ようやく八時なればまだ四時間はこゝ・・・<寺田寅彦「東上記」青空文庫>
  21. ・・・女にしか見られないその浅黒い顔の色の、妙に滑っこく磨き込まれている様子は、丁度多くの人手にかかって丁寧に拭き込まれた桐の手あぶりの光沢に等しく、いつも重そうな瞼の下に、夢を見ているようなその眼色には、照りもせず曇りも果てぬ晩春の空のいい知れ・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  22. ・・・八重は夜具を敷く前、塵を掃出すために縁側の雨戸を一枚あけると、皎々と照りわたる月の光に、樹の影が障子へうつる。八重はあしたの晩、哥沢節のさらいに、二上りの『月夜烏』でも唱おうかという時、植込の方で烏らしい鳥の声がしたので、二人は思わず顔を見・・・<永井荷風「西瓜」青空文庫>
  23. ・・・ その日は照り続いた八月の日盛りの事で、限りもなく晴渡った青空の藍色は滴り落つるが如くに濃く、乾いて汚れた倉の屋根の上に高く広がっていた。横町は真直なようでも不規則に迂曲っていて、片側に続いた倉庫の戸口からは何れも裏手の桟橋から下る堀割・・・<永井荷風「夏の町」青空文庫>
  24. ・・・松の緑と朱塗の門が互いに照り合ってみごとに見える。その上松の位地が好い。門の左の端を眼障にならないように、斜に切って行って、上になるほど幅を広く屋根まで突出しているのが何となく古風である。鎌倉時代とも思われる。 ところが見ているものは、・・・<夏目漱石「夢十夜」青空文庫>
  25. ・・・そのうち何だかわたくしどもの影が前の方へ落ちているようなので、うしろを振り向いて見ますと、おお、はるかなモリーオの市のぼぉっとにごった灯照りのなかから、十六日の青い月が奇体に平べったくなって半分のぞいているのです。わたくしどもは思わず声をあ・・・<宮沢賢治「ポラーノの広場」青空文庫>
  26. ・・・よだかはその火のかすかな照りと、つめたいほしあかりの中をとびめぐりました。それからもう一ぺん飛びめぐりました。そして思い切って西のそらのあの美しいオリオンの星の方に、まっすぐに飛びながら叫びました。「お星さん。西の青じろいお星さん。どう・・・<宮沢賢治「よだかの星」青空文庫>
  27. ・・・旧市街はその下に午後のうっすり寒い光を照りかえしている。足場。盛に積まれつつある煉瓦。 十月二十八日。 水色やかんを下げてYが、ヒョイヒョイとぶような足つきで駅の熱湯供給所へ行く後姿を、自分は列車のデッキから見送っている。あたり・・・<宮本百合子「新しきシベリアを横切る」青空文庫>
  28. ・・・ 日本の文学が、今日そういう足の萎えた状態にあることは、まったく日本の明治文化の本質の照りかえしである。明治維新は、日本において人権を確立するだけの力がなかった。ヨーロッパの近代文化が確立した個人、個性の発展性の可能は、明治を経て今日ま・・・<宮本百合子「歌声よ、おこれ」青空文庫>
  29. ・・・日々の生活にあっては、今日と云い、今と云う、一画にぱっと照りつけた強い光りにぼかされて、微に記憶の蠢く過去と、糢糊としての予測のつかない未来とが、意識の両端に、静に懸っているのである。有のままをいえば、遠く過ぎ去った小学校時代を屡々追想して・・・<宮本百合子「思い出すかずかず」青空文庫>
  30. ・・・大夫の赤顔が、座の右左に焚いてある炬火を照り反して、燃えるようである。三郎は炭火の中から、赤く焼けている火ひばしを抜き出す。それを手に持って、しばらく見ている。初め透き通るように赤くなっていた鉄が、次第に黒ずんで来る。そこで三郎は安寿を引き・・・<森鴎外「山椒大夫」青空文庫>