てん‐こう〔‐カウ〕【転向】例文一覧 30件

  1. ・・・右翼からの転向は、ただ沈黙あるのみだということを、私たちは肝に銘じて置こうと思う。 戦争が終ると、文化が日本の合言葉になった。過去の文化団体が解散して、新しい文化団体が大阪にも生れかけているが、官僚たる知事を会長にいただくような文化団体・・・<織田作之助「終戦前後」青空文庫>
  2. ・・・左翼の人は僕らの眼の前で転向して、ひどいのは右翼になってしまったね。しかし僕らはもう左翼にも右翼にも随いて行けず、思想とか体系とかいったものに不信――もっとも消極的な不信だが、とにかく不信を示した。といって極度の不安状態にも陥らず、何だか悟・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  3. ・・・それはよろこぶべき転向である。しかしながらまだ、彼らが知性の否定や、啓示の肯定をいうようになる時機はおそらく遠いであろう。 われわれは生の探求に発足した青年に、永遠の真理の把握と人間完成とを志向せしめようと祈願するとき、彼らがいずれはそ・・・<倉田百三「学生と読書」青空文庫>
  4. ・・・事実は知らず、転向という文字には、救いも光明も意味されている筈である。そんなら、かれの場合、これは転向という言葉さえ許されない。廃残である。破産である。光栄の十字架ではなく、灰色の黙殺を受けたのである。ざまのよいものではなかった。幕切れの大・・・<太宰治「花燭」青空文庫>
  5. ・・・ショパンを見捨て、山上憶良に転向しましょうか。「貧窮問答」だったら、いまの私の日常にも、かなりぴったり致します。こんなのを民族的自覚というのでしょうか。 書いているうちに、何もかも、みんな、くだらなくなりました。これで失礼いたします。け・・・<太宰治「風の便り」青空文庫>
  6. ・・・私は、大地主の子である。転向者の苦悩? なにを言うのだ。あれほどたくみに裏切って、いまさら、ゆるされると思っているのか。裏切者なら、裏切者らしく振舞うがいい。私は唯物史観を信じている。唯物論的弁証法に拠らざれば、どのような些々たる現象をも、・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  7. ・・・そうして一時は仏説などの因果の考えとは全く背馳する別物であるかのように見えたのが、近ごろはまた著しい転向を示して来て、むしろ昔の因果に逆もどりしそうな趨勢を示すようにも見られるのである。 要するに科学の基礎には広い意味における「物の見方・・・<寺田寅彦「科学と文学」青空文庫>
  8. ・・・提出を控えるだけならば誠に結構であるが、論文を書くまでに必要な肝心の研究を見合せて転向を想うようになる人の数が幾分でも多くなって来るのであったら、これは少し考えものではないか。 博士がえらいものであったのは何十年前の話である。弊衣破帽の・・・<寺田寅彦「学位について」青空文庫>
  9. ・・・そうしてその頃からマルキシストの転向が新聞紙上で続々として報道されている。後世の頭のいい史家でヨーヨーとマルクスの関係を論ずるものが出ないとも限らない。七月下旬に沓掛へ行ったときは時鳥が盛んに啼いたが、八月中旬に再び行ったときはもう時鳥を聴・・・<寺田寅彦「KからQまで」青空文庫>
  10. ・・・ この著しい「転向」の原因は主に生理的なものらしい。試みに自分のあやしげな素人生理学の知識を基礎にして臆説を立ててみるとおおよそ次のようなことではないかと思う。 われわれが格別の具体的事由なしに憂鬱になったり快活になったりする心情の・・・<寺田寅彦「五月の唯物観」青空文庫>
  11. ・・・人間の場合においては、球技を職業とする人は格別、普通にはとにかく不生産的の遊戯であり、日常生活の営みからの臨時転向である。こう思ってしまえば誠に簡単であるが、自分にはどうもそうばかりとは思われない。人間が色々な球を弄ぶことに興味を感じるのに・・・<寺田寅彦「ゴルフ随行記」青空文庫>
  12. ・・・で左翼が右翼にまた右翼が左翼に「転向」するのも、畢竟は思想のニコルが直角だけ回ったようなものかもしれない。使徒ポールの改宗なども同様な例であろう。耶蘇の幽霊に会ってニコルが回ったのである。しかしどちらへ曲げても結局偏光は偏光である。すべての・・・<寺田寅彦「錯覚数題」青空文庫>
  13. ・・・毎日こういう生徒を相手にしているのでは、ウンラートでなくても、どこか他に転向の新天地が求めたくなるであろうという気がするのであった。 映画では、はじめにウンラートの下宿における慰めなき荒涼無味の生活の描写があり、おまけにかわいがって飼っ・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  14. ・・・ 南洋に発現してから徐々に北西に進み台湾の東から次第に北東に転向して土佐沖に向かって進んで来そうに見えるという点までは今度の颱風とほとんど同じような履歴書を持って来るのがいくらもある。しかしそれがふいと見当をちがえて転向してみたり、また・・・<寺田寅彦「颱風雑俎」青空文庫>
  15. ・・・千住大橋まで行って降りてはみたが、道端の古物市場の外に見るものはないので、すぐに「転向」してまた上野行に乗込み、さて車内の乗客を見渡すと、先刻行きに同乗した見覚えの顔がいくつも見つかったそうである。多分みんな狐につままれたような顔をしていた・・・<寺田寅彦「猫の穴掘り」青空文庫>
  16. ・・・もしも最初の南々西の風が発火後その方向を持続しながら風速を増大したのであったらおそらく火流は停車場付近を右翼の限界として海へ抜けてしまったであろうと思われるのが、不幸にも次第に西へ回った風の転向のために火流の針路が五稜郭の方面に向けられ、そ・・・<寺田寅彦「函館の大火について」青空文庫>
  17. ・・・一九三三年の佐野、鍋山の転向を筆頭とする大腐敗の徴候は、一九三二年三月のプロレタリア文化団体への弾圧以後、次第に日和見的な態度として文学団体の中へもあらわれて来ていたことの証拠である。「一連の非プロレタリア的作品」に対する自己批判として・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」青空文庫>
  18. ・・・これは一九三三年六月に佐野学、鍋山貞親を先頭とする「転向」の濁流の渦巻きとともにあらわれた。その有様のあさましさは今日の想像しにくい毒気をまきちらした。 もとより、一九三一――三年間の、日本におけるプロレタリア文化・芸術運動の方針が、そ・・・<宮本百合子「解説(『風知草』)」青空文庫>
  19. ・・・ 当時のこのようなプロレタリア文化・文学運動が佐野・鍋山の転向のあおりによって息の根をとめられた一九三三―三四年ごろ、プロレタリア文化・文学の組織に属していたすべてのものが、検事局製の運動の自己批判というものを押しつけられた。それは従来・・・<宮本百合子「五〇年代の文学とそこにある問題」青空文庫>
  20. ・・・その他代表的な作品があった。転向文学という独特な通称がおこったほど、当時は過去を描いた作品がプロレタリア作家によって発表されたのであったが、その一貫した特徴は、文化運動を通じての活動によって法律の制裁をも受けた当事者たちの箇人的な意味での自・・・<宮本百合子「今日の文学の展望」青空文庫>
  21. ・・・ます小ブルジョアの無気力を助長するような自嘲、自己嫌悪を吹きこみ、労働者の側からはその現象をさながら動かすことのできないインテリゲンチアの特性であるかのように愚弄するような社会的空気がかもされている。転向の問題などもその一つの現れであろう。・・・<宮本百合子「今日の文化の諸問題」青空文庫>
  22. ・・・によって先頭をきられた一系列の作家の作品の出現によって愈々暗鬱なものとなった。転向文学という一時的な概括で云われたこれらの作品の特徴は、知識人としての作者たちが時代の中に経た生活と思想経験の歴史的な価値と意味とを我から抹殺して、一つの理想に・・・<宮本百合子「昭和の十四年間」青空文庫>
  23. ・・・一九四〇年春ごろから非転向の人たちだけの統一公判がはじまった。事件のあった時から足かけ八年目である。 転向を表明した人々の公判が分離して行われ、大泉兼蔵の公判も行われた。当時傍聴席は、司法関係者と特高だけで占められていた。家族として傍聴・・・<宮本百合子「信義について」青空文庫>
  24. ・・・『大法輪』という四百六十余頁の大宗教雑誌は新年特輯に「転向者仏教座談会」を催し、そこの婦人記者となった長谷川寿子は、自身の略歴を前書にして「遂に過去の一切の共産思想という運動を清算し」大谷尊由に対談して、長谷川「歎異鈔なんか拝読いたしますと・・・<宮本百合子「新年号の『文学評論』その他」青空文庫>
  25. ・・・「急進的な小ブルジョア作家たちの、労働階級への転向は、プロレタリアートが資本主義との闘争において小ブルジョア的労働者の広汎な大衆を自分の側にひきよせることをしめしているものである。」 それ故「小ブルジョア作家、文学者たちを資本主義か・・・<宮本百合子「前進のために」青空文庫>
  26. ・・・ 読者に奇異の感を与えるそのような冒頭の文句ではじまる、長文の上申書の終りは、かつての転向上申書の書式を思わせ、共産党への罵倒と「いかなる罰も天命であって人智のなすべからざるところと。そして後、新たなる魂をもって邦家のために生き抜こうと・・・<宮本百合子「それに偽りがないならば」青空文庫>
  27. ・・・親や家族のものが、本人にとってたえがたい裏切りや転向のために、いろいろとたくらむのは、みんな権力がその人たちをおどすからである。集団的な自主の行動を、おそろしいことのように、わるいことのように思わせるからである。 憲法・民法が個人の自由・・・<宮本百合子「肉親」青空文庫>
  28. ・・・     此の日は、自分に、一生の運命の或決定的な転向を暗示した時である。 人生観の裡に含まれた、多くの曖昧さ、其等は皆、所謂よい家庭の習俗と、甘い、方便に安んじ得る妥協的な利己から来て居たものが、明かな光に照り出された。 ・・・<宮本百合子「日記・書簡」青空文庫>
  29. ・・・我々は今人間生活の大きい厳粛な転向点に立っているのである。三 現戦争がこのように大きい変革を世界史の上にもたらすとすれば、戦後の芸術はどうなるであろうか。 第一に考えられるのは、一般民衆が勢力を得るとともに、在来の貴族的・・・<和辻哲郎「世界の変革と芸術」青空文庫>
  30. 一 過去の生活が突然新しい意義を帯びて力強く現在の生活を動かし初めることがある。その時には生のリズムや転向が著しく過去の生活に刺激され導かれている。そうしてすべての過去が「過ぎ去って」はいないことを思わせる。機縁の成熟は「過去」・・・<和辻哲郎「転向」青空文庫>