でん‐せん【伝染】例文一覧 30件

  1. ・・・のみならず僕は彼がうたった万葉集の歌以来、多少感傷主義に伝染していた。「ニニイだね。」「さもなければ僕の中の声楽家だよ。」 彼はこう答えるが早いか、途方もなく大きい嚔めをした。        五 ニイスにいる彼の・・・<芥川竜之介「彼 第二」青空文庫>
  2. ・・・たとえば、閣下の使用せられる刑事の中にさえ、閣下の夢にも御存知にならない伝染病を持っているものが、大勢居ります。殊にそれが、接吻によって、迅速に伝染すると云う事実は、私以外にほとんど一人も知っているものはございません。この例は、優に閣下の傲・・・<芥川竜之介「二つの手紙」青空文庫>
  3. ・・・ さあ、お奥では大騒動、可恐しい大熱だから伝染ても悪し、本人も心許ないと云うので、親許へ下げたのだ。医者はね、お前、手を放してしまったけれども、これは日ならず復ったよ。 我に反るようになってから、その娘の言うのには、現の中ながらどう・・・<泉鏡花「湯女の魂」青空文庫>
  4. ・・・ 咳というものは伝染するものか、それとも私をたしなめるための咳ばらいだったのかなと考えながら、雨戸を諦めて寐ることにした。がらんとした部屋の真中にぽつりと敷かれた秋の夜の旅の蒲団というものは、随分わびしいものである。私はうつろな気持で寐・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  5. ・・・ 気の弱い寺田はもともと注射が嫌いで、というより、注射の針の中には悪魔の毒気が吹込まれていると信じている頑冥な婆さん以上に注射を怖れ、伝染病の予防注射の時など、針の先を見ただけで真蒼になって卒倒したこともあり、高等教育を受けた男に似合わ・・・<織田作之助「競馬」青空文庫>
  6. ・・・彼等は鮮人に接近すると、汚い伝染病にでも感染するかのように、一間ばかり離れて、珍しそうに、水飴のように大地にへばりつこうとする老人を眺めた。「伍長殿。」剣鞘で老人の尻を叩いている男に、さきの一人が思い切った調子で云った。それは栗島だった・・・<黒島伝治「穴」青空文庫>
  7. ・・・見ず知らずの女達から旦那を通して伝染させられたような病毒のために、いつか自分の命の根まで噛まれる日の来まいものでもない、とは考えたばかりでも恐ろしいことであった。「蛙が鳴いとる」 と言って、三吉はおげんの側へ寄った。何時の間に屋外へ・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  8. ・・・けれども私は伝染病患者として、世田谷区・経堂の内科病院に移された。Hは、絶えず私の傍に附いていた。ベエゼしてもならぬと、お医者に言われました、と笑って私に教えた。その病院の院長は、長兄の友人であった。私は特別に大事にされた。広い病室を二つ借・・・<太宰治「東京八景」青空文庫>
  9. ・・・去勢されたような男にでもなれば僕は始めて一切の感覚的快楽をさけて、闘争への財政的扶助に専心できるのだ、と考えて、三日ばかり続けてP市の病院に通い、その伝染病舎の傍の泥溝の水を掬って飲んだものだそうだ。けれどもちょっと下痢をしただけで失敗さ、・・・<太宰治「葉」青空文庫>
  10. ・・・、たまには、私にうんと甘えてもらいたい様子なのですが、私だって、二十八のおばあちゃんですし、それに、こんなおたふくなので、その上、あの人の自信のない卑下していらっしゃる様子を見ては、こちらにも、それが伝染しちゃって、よけいにぎくしゃくして来・・・<太宰治「皮膚と心」青空文庫>
  11. ・・・近代になって、これが各種の伝染病菌の運搬者、播布者として、その悪名を宣伝されるようになり、その結果がいわゆる「蠅取りデー」の出現を見るにいたったわけである。著名の学者の筆になる「蠅を憎むの辞」が現代的科学的修辞に飾られて、しばしばジャーナリ・・・<寺田寅彦「蛆の効用」青空文庫>
  12. ・・・この歌が街頭へ飛び出して自動車のおやじから乗客の作曲家に伝染し、この男が汽車へ乗ったおかげで同乗の兵隊に乗り移る。兵隊が行軍している途中からこの歌の魂がピーターパンの幽霊のような姿に移って横にけし飛んだと思うと、やがて流浪の民の夜営のたき火・・・<寺田寅彦「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」青空文庫>
  13. ・・・これでは犠牲者は全く浮かばれない。伝染病患者を内証にしておけば患者がふえる。あれと似たようなものであろう。 こうは言うもののまたよくよく考えて見ていると災難の原因を徹底的に調べてその真相を明らかにして、それを一般に知らせさえすれば、それ・・・<寺田寅彦「災難雑考」青空文庫>
  14. ・・・先生自身が自然探究に対する熱愛をもっていれば、それは自然に生徒に伝染しないはずはない。実例の力はあらゆる言詞より強いからである。 すべての小学校、中学校の先生が皆立派な科学者でなければならないという事を望むのは無理である。実行不可能であ・・・<寺田寅彦「雑感」青空文庫>
  15. ・・・しかしわたくしが西瓜や真桑瓜を食うことを禁じられていたのは、恐るべき伝染病のためばかりではない。わたくしの家では瓜類の中で、かの二種を下賤な食物としてこれを禁じていたのである。魚類では鯖、青刀魚、鰯の如き青ざかな、菓子のたぐいでは殊に心太を・・・<永井荷風「西瓜」青空文庫>
  16. ・・・がよく後指さして厭がる醜い傴僂や疥癬掻や、その手の真黒な事から足や身体中はさぞかしと推量されるように諸有る汚い人間、または面と向うと蒜や汗の鼻持ちならぬ悪臭を吹きかける人たちの事を想像するし、不具者や伝染病や病人の寝汗や、人間の身体の汚いと・・・<永井荷風「夏の町」青空文庫>
  17. ・・・自分ながらこの時は相手の寒い顔が伝染しているに相違ないと思った。咄嗟の間に死んだ女の所天の事が聞いて見たくなる。「それでその所天の方は無事なのかね」「所天は黒木軍についているんだが、この方はまあ幸に怪我もしないようだ」「細君が死・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  18. ・・・僕が看病をして、僕が伝染して、本人の君は助けるようにしてやるよ」「そうか、それじゃ安心だ。まあ、少々あるくかな」「そら、天気もだいぶよくなって来たよ。やっぱり天祐があるんだよ」「ありがたい仕合せだ。あるく事はあるくが、今夜は御馳・・・<夏目漱石「二百十日」青空文庫>
  19. ・・・において一致するならば、一歩進んで全然その作物の奥より閃めき出ずる真と善と美と壮に合して、未来の生活上に消えがたき痕跡を残すならば、なお進んで還元的感化の妙境に達し得るならば、文芸家の精神気魄は無形の伝染により、社会の大意識に影響するが故に・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  20. ・・・正岡さんは肺病だそうだから伝染するといけないおよしなさいと頻りにいう。僕も多少気味が悪かった。けれども断わらんでもいいと、かまわずに置く。僕は二階に居る、大将は下に居る。其うち松山中の俳句を遣る門下生が集まって来る。僕が学校から帰って見ると・・・<夏目漱石「正岡子規」青空文庫>
  21. ・・・が次の瞬間には、まるで深谷の身軽さが伝染しでもしたように、風のように深谷の後を追った。 深谷は、寄宿舎に属する松林の間を、忍術使いででもあるように、フワフワとしかも早く飛んでいた。 やがて、代々木の練兵場ほども広いグラウンドに出た。・・・<葉山嘉樹「死屍を食う男」青空文庫>
  22. ・・・癩病は伝染性にして神ならぬ身に時としては犯さるゝこともある可し。固より本人の罪に非ず。然るを婦人が不幸にして斯る悪疾に罹るの故を以て離縁とは何事ぞ。夫にして仮初にも人情あらば、離縁は扨置き厚く看護して、仮令い全快に至らざるも其軽快を祈るこそ・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  23. ・・・政治の気風が学問に伝染してなお広く他の部分に波及するときは、人間万事、政党をもって敵味方を作り、商売工業も政党中に籠絡せられて、はなはだしきは医学士が病者を診察するにも、寺僧または会席の主人が人に座を貸すにも、政派の敵味方を問うの奇観を呈す・・・<福沢諭吉「学問の独立」青空文庫>
  24. ・・・いかなる独主独行の士人といえども、この間にひとりするを得ざるは、伝染病の地方にいて、ひとりこれを免かるるの術なきが如し。独立の品行、まことに嘉みすべしといえども、おのずからその限りあるものにして、限界を超えて独立せんとするも、人間生々の中に・・・<福沢諭吉「徳育如何」青空文庫>
  25. ・・・これは先刻風呂に這入った反動が来たのであるけれど、時機が時機であるから、もしやコレラが伝染したのであるまいかという心配は非常であった。この梅干船(この船は賄が悪いのでこの仇名が我最期の場所かと思うと恐しく悲しくなって一分間も心の静まるという・・・<正岡子規「病」青空文庫>
  26. ・・・先方の余りの何でもなさがこちらにも伝染し、万一ひょいとした機勢に、愛が「ね、こないだのかみ入れね」と云い出したとしても、照子は瞬き一つせず、勿論極りなど悪がらず、「ああ、あれ、入ってなかったんですね。がっかりしちまった」と笑・・・<宮本百合子「斯ういう気持」青空文庫>
  27. ・・・を嘲笑し「伝染」というものはないとした。しかし、新鮮な空気の利きめは彼女が自分の目で見、その手で開けた窓々からスクータリーへ導き入れたのである。新鮮な空気が必要なのに、窓を密閉していたとき、それを開放した彼女の方法は貴重であった。けれども、・・・<宮本百合子「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」青空文庫>
  28. ・・・ 相互に真実な愛もなく、一方は無智による無我夢中、一方は醜劣な獣心の跳梁にまかせての性的交渉が結ばれたとしたら、そして、その百鬼夜行の雰囲気が伝染したとしたら、言葉で云えない惨めさです。とがめ、責める先に暗澹とした心持になります。 ・・・<宮本百合子「惨めな無我夢中」青空文庫>
  29. ・・・そして、梶は自分も少しは彼に伝染して、発狂のきざしがあったのかもしれないと疑われた。梶は玉手箱の蓋を取った浦島のように、呆ッと立つ白煙を見る思いで暫く空を見あげていた。技師も死に、栖方も死んだいま見る空に彼ら二人と別れた横須賀の最後の日が映・・・<横光利一「微笑」青空文庫>
  30. ・・・先生は自分で味わってみせて、その味わい方をほかの人にも伝染させるのであった。たとえばわかりにくい俳句などを「舌の上でころがしている」やり方などがそれである。わかろうとあせったり、意味を考えめぐらしたりなどしても、味は出てくるものではない。だ・・・<和辻哲郎「露伴先生の思い出」青空文庫>