てん‐で例文一覧 30件

  1. ・・・まるでぺてんですものね。始めから先方に腹を立てさすつもりで談判をするなどというのは、馬鹿馬鹿しいくらい私にはいやな気持ちです」 彼は思い切ってここまで突っ込んだ。「お前はいやな気持ちか」「いやな気持ちです」「俺しはいい気持ち・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  2. ・・・校長も、黒馬会の白島先生も藤田先生も、およそ先生と名のつく先生は、彼の作品を見たものは一人残らず、ただ驚嘆するばかりで、ぜひ展覧会に出品したらというんだが、奴、つむじ曲がりで、うんといわないばかりか、てんで今の大家なんか眼中になく、貧乏しな・・・<有島武郎「ドモ又の死」青空文庫>
  3. ・・・ そん時だ、われの、顔は真蒼だ、そういう汝の面は黄色いぜ、と苫の間で、てんでんがいったあ。――あやかし火が通ったよ。 奴、黙って漕げ、何ともするもんじゃねえッて、此家の兄哥が、いわっしゃるで、どうするもんか。おら屈んでな、密とその火・・・<泉鏡花「海異記」青空文庫>
  4. ・・・ 真中の卓子を囲んで、入乱れつつ椅子に掛けて、背嚢も解かず、銃を引つけたまま、大皿に装った、握飯、赤飯、煮染をてんでんに取っています。 頭を振り、足ぶみをするのなぞ見えますけれども、声は籠って聞えません。 ――わあ―― と罵・・・<泉鏡花「雪霊続記」青空文庫>
  5. ・・・ますが、長男は、来年小学校を出るのですが、図画、唱歌、手工、こうしたものは自からも好み、天分も、その方にはあるのですが、何にしても、数学、地理、歴史というような、与えられたる事実を記憶したりする学課はてんで駄目で、いまから中学へはいられるか・・・<小川未明「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」青空文庫>
  6. ・・・ 私も――縁起でもないけど――何しろお前さんの便りはなし、それにあちこち聞き合わして見ると、てんで船の行方からして分らないというんだもの。ああ気の毒に! 金さんはそれじゃ船ぐるみ吹き流されるか、それとも沖中で沈んでしまって、今ごろは魚の餌食・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  7. ・・・ 全く、私は女の言うことも男の言うことも、てんで身を入れてきかない覚悟をきめていた。「それをきいて安心しました」 女は私の言葉をなんときいたのか、生真面目な顔で言った。私はまだこの女の微笑した顔を見ていない、とふと思った。 ・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  8. ・・・ 昔、政党がさかんだった頃、自身は閣僚になる意志はてんで無く、ただ、誰かこいつと見込んだ男を大臣にするために、しきりに権謀術策をもちい、暗中飛躍をした男がいたが、良い例ではないけれども、まず、おれの気持もそんなとこだったろうか。 も・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  9. ・・・ 軽部君がねえ、そんなことをやったかねえ、こいつは愉快だ、と上機嫌に笑うばかりで、てんで私の話なんか受けつけようとしなかった。私はなんだか自分までが馬鹿にされたような気になり、ああ、いやだ、いやだ、昼行燈みたいにぼうっとして、頼りない人だと・・・<織田作之助「天衣無縫」青空文庫>
  10. ・・・つまり、てんで、私の出席するしないが、彼には問題ではないらしい。 いったい今度の会は、最初から出版記念とか何とかいった文壇的なものにするということが主意ではなかったので、ほんの彼の親しい友人だけが寄って、とにかくに彼のこのたびの労作に対・・・<葛西善蔵「遁走」青空文庫>
  11. ・・・――君もこの信玄袋を背負って帰るんだから、まあ幸福者だろうてんでね、ハハハ」 惣治にはおかしくもなかった。相変らずあんなことばかし言って、ふわふわしているのだろうという気がされて、袋から眼を反らした。その富貴長命という字が模様のように織・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  12. ・・・ またこうも思った、見る見ないは別問題だ、てんであんな音が耳に入るようでそれが気になるようでそのために気をもむようではだめなんだ。もし真にわが一心をこの画幅とこの自然とに打ち込むなら大砲の音だって聞こえないだろうと。そこで画板にかじりつ・・・<国木田独歩「郊外」青空文庫>
  13. ・・・けれども元大先生からして自己流ですから弟子も皆な自己流で、ただむやみと吹くばかり、そのうち手が慣れて来れば、やれ誰が巧いとか拙いとかてんでに評判をし合って皆なで天狗になったのでございます。私の性質でありましょうか、私だけは若い者の中でも別段・・・<国木田独歩「女難」青空文庫>
  14. ・・・ てんでんにつつみをしょってかけ出した人も、やがて往来が人一ぱいで動きがとれなくなり、仕方なしに荷をほうり出す、むりにせおってつきぬけようとした人も、その背中の荷物へ火の子がとんでもえついたりするので、つまりは同じく空手のまま、やっとく・・・<鈴木三重吉「大震火災記」青空文庫>
  15. ・・・私は、その翌年の春、大学を卒業する筈になっていたのだが、試験には一つも出席せず、卒業論文も提出せず、てんで卒業の見込みの無い事が、田舎の長兄に見破られ、神田の、兄の定宿に呼びつけられて、それこそ目の玉が飛び出る程に激しく叱られていたのである・・・<太宰治「一燈」青空文庫>
  16. ・・・ 私は自分が小説を書く事に於いては、昔から今まで、からっきし、まったく、てんで自信が無くて生きて来たが、しかし、ひとの作品の鑑賞に於いては、それだけに於いては、ぐらつく事なく、はっきり自信を持ちつづけて来たつもりなのである。 私はそ・・・<太宰治「『井伏鱒二選集』後記」青空文庫>
  17. ・・・それ以来、私は、てんで女というものを信用しなくなりました。うちの女房なんか、あんな薄汚い婆でも、あれで案外、ほかに男をこしらえているかも知れない。いや、それは本当に、わからないものですよ。」と笑わずに言って、次のように田舎の秘話を語り聞かせ・・・<太宰治「嘘」青空文庫>
  18. ・・・そうして案内記などにはてんでかまわないで飛び出して行く。そうして自分の足と目で自由に気に向くままに歩き回り見て回る。この方法はとかくいろいろな失策や困難をひき起こしやすい。またいわゆる名所旧跡などのすぐ前を通りながら知らずに見のがしてしまっ・・・<寺田寅彦「案内者」青空文庫>
  19. ・・・多数の人の血眼になっていきせき追っかけるいわゆる先端的前線などは、てんでかまわないような顔をしてのんきそうに骨董いじりをしているように見えていた。そうして思いもかけぬ間道を先くぐりして突然前哨の面前に顔を突き出して笑っているようなところがあ・・・<寺田寅彦「時事雑感」青空文庫>
  20. ・・・もっとも戸外と言ってもただ庭をあちらから見たりこちらから見たり、あるいは二階か近所の屋根や木のこずえを見たところなど、もしこれがほんとうの画家ならば始めからてんで相手にしないようなものを、無理に拾い出し、切り取っては画布に塗り込むのであった・・・<寺田寅彦「写生紀行」青空文庫>
  21. ・・・現にその発現は世の中にどんな形になって、どんなに現れているかと云うことは、この競争劇甚の世に道楽なんどとてんでその存在の権利を承認しないほど家業に励精な人でも少し注意されれば肯定しない訳に行かなくなるでしょう。私は昨晩和歌の浦へ泊りましたが・・・<夏目漱石「現代日本の開化」青空文庫>
  22. ・・・「俺の家だと思えばどうか知らんが、てんで俺の家だと思いたくないんだからね。そりゃ名前だけは主人に違いないさ。だから門口にも僕の名刺だけは張り付けて置いたがね。七円五十銭の家賃の主人なんざあ、主人にしたところが見事な主人じゃない。主人中の・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  23. ・・・なたがたは主人である、だからおとなしくしなくてはならない、とこう云おうとすれば云われない事もないでしょうが、それは上面の礼式にとどまる事で、精神には何の関係もない云わば因襲といったようなものですから、てんで議論にはならないのです。別の例を挙・・・<夏目漱石「私の個人主義」青空文庫>
  24. ・・・検閲が通らないだろうなどと云うことは、てんで問題にしないでいても自分で秘密にさえ書けないんだから仕方がない。 だが下らない前置を長ったらしくやったものだ。 私は未だ極道な青年だった。船員が極り切って着ている、続きの菜っ葉服が、矢・・・<葉山嘉樹「淫賣婦」青空文庫>
  25. ・・・ そこで四人の男たちは、てんでにすきな方へ向いて、声を揃えて叫びました。「ここへ畑起してもいいかあ。」「いいぞお。」森が一斉にこたえました。 みんなは又叫びました。「ここに家建ててもいいかあ。」「ようし。」森は一ぺん・・・<宮沢賢治「狼森と笊森、盗森」青空文庫>
  26. ・・・このなかで、いちばんえらくなくて、ばかで、めちゃくちゃで、てんでなっていなくて、あたまのつぶれたようなやつが、いちばんえらいのだ。」 どんぐりは、しいんとしてしまいました。それはそれはしいんとして、堅まってしまいました。 そこで山猫・・・<宮沢賢治「どんぐりと山猫」青空文庫>
  27. ・・・満ちているところを追々のぼって五階の廊下へ出たら、ここの廊下も同じく隈ない明るさにしーんとしずまって、人気もない沢山のドアの前へ、どこの洒落もののいたずらか、男と女との靴が、一組一組、みんなちんばに、てんでばらばらな途方もない片方ずつによせ・・・<宮本百合子「十四日祭の夜」青空文庫>
  28. ・・・何と云うか、てんで相手ではないんです。高岡只一がモスコーで支那人かと思われた。と云うといろいろ為になる陳述の間は質問一つせず静まりかえっていた宮城裁判長が、例の鼻にかかった声で「ヨーロッパで日本人が支那人に間違えられるのは珍しいこっちゃない・・・<宮本百合子「共産党公判を傍聴して」青空文庫>
  29. ・・・』『わしは誓います、わしはてんでそんなことはまるきり知らねエだ。』『でもお前は見つかッたゾ。』『人がわしを見たッて、わしを。そのわしを見つけたチゅうのは全体たれのこッてござりますべエ。』『馬具匠のマランダン。』 そこで老・・・<著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩「糸くず」青空文庫>
  30. ・・・そして十二時の時計が鳴り始めると同時に、さあ新年だと云うので、その酒を注いだ杯をてんでんに持って、こつこつ打ち附けて、プロジット・ノイヤアルと大声で呼んで飲むのです。それからふざけながら町を歩いて帰ると、元日には寝ていて、午まで起きはしませ・・・<森鴎外「かのように」青空文庫>