でん‐とう【電灯】例文一覧 24件

  1. ・・・僕は食事をすませた後、薄暗い船室の電灯の下に僕の滞在費を計算し出した。僕の目の前には扇が一本、二尺に足りない机の外へ桃色の流蘇を垂らしていた。この扇は僕のここへ来る前に誰かの置き忘れて行ったものだった。僕は鉛筆を動かしながら、時々又譚の顔を・・・<芥川竜之介「湖南の扇」青空文庫>
  2. ・・・ 書斎の中には、電灯がついていたのか、それともろうそくがついていたのか、それは覚えていない。が、なんでも、外光だけではなかったようである。僕は、妙に改まった心もちで、中へはいった。そうして、岡田君が礼をしたあとで、柩の前へ行った。 ・・・<芥川竜之介「葬儀記」青空文庫>
  3. ・・・ 自分はその後まもなく、秋の夜の電灯の下で、書棚のすみから樗牛全集をひっぱり出した。五冊そろえて買った本が、今はたった二冊しかない。あとはおおかた売り飛ばすか、借しなくすかしてしまったのであろう。が、幸いその二冊のうちには、あの「わが袖・・・<芥川竜之介「樗牛の事」青空文庫>
  4. ・・・ペンキと電灯とをもって広告と称する下等なる装飾を試みることでもない。ただ道路の整理と建築の改善とそして街樹の養成とである。自分はこの点において、松江市は他のいずれの都市よりもすぐれた便宜を持っていはしないかと思う。堀割に沿うて造られた街衢の・・・<芥川竜之介「松江印象記」青空文庫>
  5. ・・・という俗謡が流行った。電灯が試験的に点火されても一時間に十度も二十度も消えて実地の役に立つものとは誰も思わなかった。電話というものは唯実験室内にのみ研究されていた。東海道の鉄道さえが未だ出来上らないで、鉄道反対の気焔が到る処の地方に盛んであ・・・<内田魯庵「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」青空文庫>
  6. ・・・その料理場では鈍い電灯の光を浴びた裸かの料理人が影絵のようにうごめいていました。その上は客室で、川に面した窓側で、若い男女が料理をつついています。話し合っているのでしょうが、声が聴えないので、だんまりの芝居のようです。隣の家は歯医者らしく、・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  7. ・・・と書いた大提灯がぶら下っていて、その横のガラス箱の中に古びたお多福人形がにこにこしながら十燭光の裸の電灯の下でじっと坐っているのである。暖簾をくぐって、碁盤の目の畳に腰掛け、めおとぜんざいを注文すると、平べったいお椀にいれたぜんざいを一人に・・・<織田作之助「大阪発見」青空文庫>
  8. ・・・という甘い文句の見出しで、店舗の家賃、電灯・水道代は本舗より支弁し、薬は委託でいくらでも送る。しかも、すべて卓効疑いのない請合薬で、卸値は四掛けゆえ十円売って六円の儲けがある。なお、売れても売れなくても、必ず四十円の固定給は支給する云々の条・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  9. ・・・夕方電灯もつけぬ暗い六畳の間の真中にぺたりと坐り込み、腕ぐみして肩で息をしながら、障子紙の破れたところをじっと睨んでいた。柳吉は三味線の撥で撲られた跡を押えようともせず、ごろごろしていた。 もうこれ以上節約の仕様もなかったが、それでも早・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  10. ・・・ 電灯屋、新聞屋、そばや、洋食屋、町内のつきあい――いろんなものがやって来る。室の中に落着いて坐ってることが出来ない。夜も晩酌が無くては眠れない。頭が痛んでふらふらする。胸はいつでもどきん/\している。…… と云って彼は何処へも訪ね・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  11. ・・・装飾品といって何一つない部屋の、昼もつけ放しの電灯のみが、侘しく眺められた。 永い間自分は用心して、子を造るまいと思ってきたのに――自然には敵わないなあ!――ちょうど一年前「蠢くもの」という題でおせいとの醜い啀み合いを書いたが、その・・・<葛西善蔵「死児を産む」青空文庫>
  12. ・・・庫裡に廻って電灯の明るい窓障子の下に立って耳を傾けたが、掛時計のカッタンカッタンといういい音のほかには、何にも聞えてこない。私はまた玄関で二三度叫んだ。それから数株の梅の老木のほかには何一つなく清掃されている庭へ出て、老師の室の前の茅葺きの・・・<葛西善蔵「父の出郷」青空文庫>
  13. ・・・そして電灯を消した暗い室に立った大勢の人たちの後ろに、隠れるように立った。マグネシュウムがまた二三度燃やされた。それから電灯がついて三十人に近い会衆は白布のテーブルを間にして、両側の椅子に席を取った。 主催笹川の左側には、出版屋から、特・・・<葛西善蔵「遁走」青空文庫>
  14. ・・・それは女の姿がその明るい電灯の光を突然遮ったためだった。女が坐って盆をすすめると客のような男がぺこぺこ頭を下げているのが見えた。 石田はなにか芝居でも見ているような気でその窓を眺めていたが、彼の心には先の夜の青年の言った言葉が不知不識の・・・<梶井基次郎「ある崖上の感情」青空文庫>
  15. ・・・ 城の石垣に大きな電灯がついていて、後ろの木々に皎々と照っている。その前の木々は反対に黒ぐろとした蔭になっている。その方で蝉がジッジジッジと鳴いた。 彼は一人後ろになって歩いていた。 彼がこの土地へ来てから、こうして一緒に出歩く・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  16. ・・・ にょきにょきと屋根が尖った、ブラゴウエシチェンスクの市街は、三時半にもう、デモンストレーションのような電灯の光芒に包まれていた。 郊外には闇が迫ってきた。 厚さ三尺ないし八尺、黒竜江の氷は、なおその上に厚さを加えようとして、ワ・・・<黒島伝治「国境」青空文庫>
  17. ・・・むろん電灯もつかないので夜は家の中もまっくらです。いろいろ物そうなので、町々では青年団なぞがそれぞれ自警団を作り、うろんくさいものがいりこむのをふせいだり、火の番をしたりして警戒しました。 郊外から見ると、二日の日なぞは一日中、大きなま・・・<鈴木三重吉「大震火災記」青空文庫>
  18. ・・・近来電気の応用が盛んになるにつれて色々の事に炭を使う、白熱電灯の細い線も炭、アーク灯の中の光る棒も炭である、電話機の受話口の中の最も要用なものは炭でこしらえた丸薬のようなものである。      白炭 小枝に石灰を塗って焼いた・・・<寺田寅彦「歳時記新註」青空文庫>
  19. ・・・ 三吉があわてて電灯の灯の方へ顔をむけると、気のいい人の要慎なさで、白粉の匂いと一緒に顔をくっつけながら、「あなたは、それでいいんですか?」 といった。三吉はくらい方をむいたままうなずいた。すっかり夜になって、草すだれなどつるし・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  20. ・・・家へ帰って護謨合羽を脱ぐと、肩当の裏側がいつの間にか濡れて、電灯の光に露のような光を投げ返した。不思議だからまた羽織を脱ぐと、同じ場所が大きく二カ所ほど汗で染め抜かれていた。余はその下に綿入を重ねた上、フラネルの襦袢と毛織の襯衣を着ていたの・・・<夏目漱石「三山居士」青空文庫>
  21. ・・・ ――ああ、電灯の。 漸く奴には分ったんだ。 ――あれが落ちるほど揺ったかなあ。 医者は感に堪えた風に言って、足の手当をした。 医者が足の手当をし始めると、私は何だか大変淋しくなった。心細くなった。 朝は起床と言って・・・<葉山嘉樹「牢獄の半日」青空文庫>
  22. ・・・お金はぼんやりして、広間の真中に吊るしてある電灯を見ていた。女中達は皆好く寐ている様子で、所々で歯ぎしりの音がする。 その晩は雪の夜であった。寝る前に手水に行った時には綿をちぎったような、大きい雪が盛んに降って、手水鉢の向うの南天と竹柏・・・<森鴎外「心中」青空文庫>
  23. ・・・       *          *          * 電灯の明るく照っている、ホテルの広間に這入ったとき、己は粗い格子の縞羅紗のジャケツとずぼんとを着た男の、長い脚を交叉させて、安楽椅子に仰向けに寝たように腰を掛けて・・・<森鴎外「沈黙の塔」青空文庫>
  24. ・・・ゆるい呼吸の起伏をつづけている臍の周囲のうすい脂肪に、鈍く電灯の光が射していた。蒲団で栖方の顔が隠れているので、首なしのようにみえる若い胴の上からその臍が、「僕、死ぬのが何んだか恐くなりました。」と梶に呟くふうだった。梶は栖方の臍も見た・・・<横光利一「微笑」青空文庫>