てん‐にょ【天女】例文一覧 15件

  1. ・・・あの大俗物の堂脇があんな天女を生むんだから皮肉だよ。そうしてかの女は、芸術に対する心からの憧憬を踏みにじられて、ついには大金持ちの馬鹿息子のところにでも片づけられてしまうんだ……あんな人をモデルにつかって一度でも画が描いて見たいなあ。瀬・・・<有島武郎「ドモ又の死」青空文庫>
  2. ・・・……あの戸口には、羽衣を奪われた素裸の天女が、手鍋を提げて、その男のために苦労しそうにさえ思われた。「これなる松にうつくしき衣掛れり、寄りて見れば色香妙にして……」 と謡っている。木納屋の傍は菜畑で、真中に朱を輝かした柿の樹・・・<泉鏡花「小春の狐」青空文庫>
  3. ・・・ 勿論、ここへお誓が、天女の装で、雲に白足袋で出て来るような待遇では決してない。 その愚劣さを憐んで、この分野の客星たちは、他より早く、輝いて顕われる。輝くばかりで、やがて他の大一座が酒池肉林となっても、ここばかりは、畳に蕨が生えそ・・・<泉鏡花「燈明之巻」青空文庫>
  4. ・・・ 花火の中から、天女が斜に流れて出ても、群集はこの時くらい驚異の念は起すまい。 烏帽子もともにこの装束は、織ものの模範、美術の表品、源平時代の参考として、かつて博覧会にも飾られた、鎌倉殿が秘蔵の、いずれ什物であった。 さて、遺憾・・・<泉鏡花「伯爵の釵」青空文庫>
  5. ・・・――何だか、天の川を誘い合って、天女の簪が泳ぐようで、私は恍惚、いや茫然としたのですよ。これは風情じゃ……と居士も、巾着じめの煙草入の口を解いて、葡萄に栗鼠を高彫した銀煙管で、悠暢としてうまそうに喫んでいました。 目の前へ――水が、向う・・・<泉鏡花「半島一奇抄」青空文庫>
  6. ・・・あの、紅また薄紅、うつくしい小さな天女の、水晶の翼は、きらきらと輝くのだけれど、もう冬で……遊びも闌に、恍惚したらしく、夢をさまようように、ふわふわと浮きつ、沈みつ、漾いつ。で、時々目がさめたように、パッと羽を光らせるが、またぼうとなって、・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  7. ・・・欄間にござる天女を、蛇が捲いたような、いや、奥庭の池の鯉を、蠑が食い破りましたそうな儀で。……生命も血も吸いました。――一旦夢がさめますると、その罪の可恐さ。身の置所もござりませぬで。……消えるまで、失せるまでと、雨露に命を打たせております・・・<泉鏡花「山吹」青空文庫>
  8. ・・・ 大提灯にはたはたと翼の音して、雲は暗いが、紫の棟の蔭、天女も籠る廂から、鳩が二三羽、衝と出て飜々と、早や晴れかかる銀杏の梢を矢大臣門の屋根へ飛んだ。 胸を反らして空模様を仰ぐ、豆売りのお婆の前を、内端な足取り、裳を細く、蛇目傘をや・・・<泉鏡花「妖術」青空文庫>
  9. ・・・「善」の段階に比例して、下級のものから取り扱っていった。最低位に「継母」があり、「鬼女」「淫女」等がこれに次ぎ、「淑女」「貴婦人」「童女」「天女」等とさかのぼり、最高の段階に聖母が位した。そして種々の聖母像の中で、どの聖母が最も美しいかを定・・・<倉田百三「女性の諸問題」青空文庫>
  10. ・・・天地人を呪うべき夜叉の姿も、彼が眼には画ける天女の微かに笑を帯べるが如く思わるる。時にはわが思う人の肖像ではなきかと疑う折さえある。只抜け出して語らぬが残念である。 思う人! ウィリアムが思う人はここには居らぬ。小山を三つ越えて大河を一・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  11. ・・・古人が女子を床の下に臥さしめて男天女地の差別を示したるは古人の発意にして、其意は以て人間万世の法とするに足らず。古人も今人も共に社会の人にして、古今おの/\其時勢あり。我輩は不文なる上世の一例に心酔して今日の事を断ぜんとする者に非ず。畢竟す・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  12. ・・・をかたに天女を妻とした伯龍が、女の天人性に悩まされて、三ヵ月の契約をこちらから辞そうとしたら「天に偽りなきものを」と居つづけられて、つよい神経衰弱に陥ったという物語は、何と私たちを笑わせ、そこにある一つの実際を肯かせるだろう。 しかしな・・・<宮本百合子「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」青空文庫>
  13. ・・・レオナルド・ダ・ヴィンチは、聖母でもなければ天女でもない人間の女性像モナリザを描いた。このジョコンダの微笑は、ながく見つめていると人のこころをもの狂わしくするような内面の緊張した情感をたたえている。じっとおさえて、その体とともにレオナルドと・・・<宮本百合子「現代の主題」青空文庫>
  14. ・・・ 永瀬清子氏の『諸国の天女』は、私という文字で、一人の女の心をうたっている時でも、そのわたしという響のなかに、何とはなしどっさりの女の旺な気配が動いていて、『静かなる愛』とは実につよい対照をなす美と生活力とを表現しているのは感興をひかれ・・・<宮本百合子「『静かなる愛』と『諸国の天女』」青空文庫>
  15. ・・・ その後は、境地がなごんで「天女」をかいたといううつりは何を動機としているのだろう。「思いつめるということが、よい方面に向えば勢い熱情となり立派な仕事をなしとげるのですが、一つあやまてば、人をのろう怨霊の化身となる――女の一念も・・・<宮本百合子「「青眉抄」について」青空文庫>