でん‐ぽ【田畝/田×圃】例文一覧 30件

  1. ・・・何とおいいでも肯分けないものだから母様が、(それでは林へでも、裏の田圃 それから私、あの、梅林のある処に参りました。 あの桜山と、桃谷と、菖蒲の池とある処で。 しかし、それはただ青葉ばかりで、菖蒲の短いのがむらがってて、水の・・・<泉鏡花「化鳥」青空文庫>
  2. ・・・おお、それからいまのさき、私が田圃から帰りがけに、うつくしい女衆が、二人づれ、丁稚が一人、若い衆が三人で、駕籠を舁いてぞろぞろとやって来おった。や、それが空駕籠じゃったわ。もしもし、清心様とおっしゃる尼様のお寺はどちらへ、と問いくさる。はあ・・・<泉鏡花「清心庵」青空文庫>
  3. ・・・ これから、名を由之助という小山判事は、埃も立たない秋の空は水のように澄渡って、あちらこちら蕎麦の茎の西日の色、真赤な蕃椒が一団々々ある中へ、口にしたその葉巻の紫の煙を軽く吹き乱しながら、田圃道を楽しそう。 その胸の中もまた察すべき・・・<泉鏡花「政談十二社」青空文庫>
  4. ・・・ここから見おろすと少しの田圃がある。色よく黄ばんだ晩稲に露をおんで、シットリと打伏した光景は、気のせいか殊に清々しく、胸のすくような眺めである。民子はいつの間にか来ていて、昨日の雨で洗い流した赤土の上に、二葉三葉銀杏の葉の落ちるのを拾ってい・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  5. ・・・裏の行きとまりに低い珊瑚樹の生垣、中ほどに形ばかりの枝折戸、枝折戸の外は三尺ばかりの流れに一枚板の小橋を渡して広い田圃を見晴らすのである。左右の隣家は椎森の中に萱屋根が見える。九時過ぎにはもう起きてるものも少なく、まことに静かに穏やかな夜だ・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  6. ・・・ 裏手は田圃である。ずッと遠くまで並び立った稲の穂は、風に靡いてきらきら光っている。僕は涼風のごとく軽くなり、月光のごとく形なく、里見亭の裏二階へ忍んで行きたかった。しかし、板壁に映った自分の黒い影が、どうも、邪魔になってたまらない。・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  7. ・・・が彼は思いもかけず自分の前途に一道の光明を望みえたような軽い気持になって、汽車の進むにしたがって、田圃や山々にまだ雪の厚く残っているほの白い窓外を眺めていた。「光の中を歩め」の中の人々の心持や生活が、類いもなく懐しく慕わしいものに思われた。・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  8. ・・・二十七年の夏も半ばを過ぎて盆の十七日踊りの晩、お絹と吉次とが何かこそこそ親しげに話して田圃の方へ隠れたを見たと、さも怪しそうにうわさせし者ありたれど恐らくそれは誤解ならん。なるほど二人は内密話しながら露繁き田道をたどりしやも知れねど吉次がこ・・・<国木田独歩「置土産」青空文庫>
  9. ・・・     九 かならずしも道玄坂といわず、また白金といわず、つまり東京市街の一端、あるいは甲州街道となり、あるいは青梅道となり、あるいは中原道となり、あるいは世田ヶ谷街道となりて、郊外の林地田圃に突入する処の、市街ともつかず宿駅と・・・<国木田独歩「武蔵野」青空文庫>
  10. ・・・眺望のこれと指して云うべきも無けれど、かの市より此地まであるいは海浜に沿いあるいは田圃を過ぐる路の興も無きにはあらず、空気殊に良好なる心地して自然と愉快を感ず。林長館といえるに宿りしが客あしらいも軽薄ならで、いと頼もしく思いたり。 三十・・・<幸田露伴「突貫紀行」青空文庫>
  11. ・・・コウ、もう煮奴も悪くねえ時候だ、刷毛ついでに豆腐でもたんと買え、田圃の朝というつもりで堪忍をしておいてやらあ。ナンデエ、そんな面あすることはねえ、女ッ振が下がらあな。「おふざけでないよ、寝ているかとおもえば眼が覚めていて、出しぬけに床ん・・・<幸田露伴「貧乏」青空文庫>
  12. ・・・何処かの田圃の方からでも伝わって来るような、さかんな繁殖の声は人に迫るように聞えるばかりでなく、医院の庭に見える深い草木の感じまでが憂鬱で悩ましかった。「何だか俺はほんとに狂にでも成りそうだ」 とおげんは半分串談のように独りでそんな・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  13. ・・・高い白壁の蔵が並んだ石垣の下に接して、竹薮や水の流に取囲かれた位置にある。田圃に近いだけに、湿気深い。「お早う」 と高瀬は声を掛けて、母屋の横手から裏庭の方へ来た。 深い露の中で、学士は朝顔鉢の置並べてある棚の間をあちこちと歩い・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  14. ・・・甲府市外の湯村温泉、なんの変哲もない田圃の中の温泉であるが、東京に近いわりには鄙びて静かだし、宿も安直なので、私は仕事がたまると、ちょいちょいそこへ行って、そこの天保館という古い旅館の一室に自らを閉じこめて仕事をはじめるということにしていた・・・<太宰治「黄村先生言行録」青空文庫>
  15. ・・・駅から一丁ほど田圃道を歩いて、撮影所の正門がある。白いコンクリートの門柱に蔦の新芽が這いのぼり、文化的であった。正門のすぐ向いに茅屋根の、居酒屋ふうの店があり、それが約束のミルクホールであった。ここで待って居れ、と言われた。かれは、その飲食・・・<太宰治「花燭」青空文庫>
  16. ・・・お酌の女は何の慾もなく、また見栄もなく、ただもう眼前の酔いどれの客を救おうとして、こん身の力で大尉を引き起し、わきにかかえてよろめきながら田圃のほうに避難します。避難した直後にはもう、神社の境内は火の海になっていました。 麦を刈り取った・・・<太宰治「貨幣」青空文庫>
  17. ・・・町から東のO村まで二里ばかりの、樹蔭一つない稲田の中の田圃道を歩いて行った。向うへ着いたときに一同はコップに入れた黄色い飲料を振舞われた。それは強い薬臭い匂と甘い味をもった珍しい飲料であった。要するにそれは一種の甘い水薬であったのである。も・・・<寺田寅彦「さまよえるユダヤ人の手記より」青空文庫>
  18. ・・・草原の草を縛り合わせて通りかかった人を躓かせたり、田圃道に小さな陥穽を作って人を蹈込ませたり、夏の闇の夜に路上の牛糞の上に蛍を載せておいたり、道端に芋の葉をかぶせた燈火を置いて臆病者を怖がらせたりと云ったような芸術にも長じていた。月夜に往来・・・<寺田寅彦「重兵衛さんの一家」青空文庫>
  19. 大正十二年八月二十四日 曇、後驟雨 子供等と志村の家へ行った。崖下の田圃路で南蛮ぎせるという寄生植物を沢山採集した。加藤首相痼疾急変して薨去。八月二十五日 晴 日本橋で散弾二斤買う。ランプの台に入れるため。・・・<寺田寅彦「震災日記より」青空文庫>
  20. ・・・見はらしのきく頂上へきて、岩の上にひざを抱いてすわると、熊本市街が一とめにみえる。田圃と山にかこまれて、樹木の多い熊本市は、ほこりをあびてうすよごれてみえた。裁判所の赤煉瓦も、避雷針のある県庁や、学校のいらかも、にぶく光っている坪井川の流れ・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  21. ・・・――明日息子達が川端田圃の方へ出かけるから、俺ァひとつ榛の木畑の方へ、こっそり行ってやろう――。   二 畑も田圃も、麦はいまが二番肥料で、忙しい筈だった。――榛の木畑の方も大分伸びたろう。土堤下の菜種畑だって、はやくウ・・・<徳永直「麦の芽」青空文庫>
  22. ・・・ 浄瑠璃と草双紙とに最初の文学的熱情を誘い出されたわれわれには、曲輪外のさびしい町と田圃の景色とが、いかに豊富なる魅力を示したであろう。 その頃、見返柳の立っていた大門外の堤に佇立んで、東の方を見渡すと、地方今戸町の低い人家の屋根を・・・<永井荷風「里の今昔」青空文庫>
  23. ・・・「田圃へかかったね」と背中で云った。「どうして解る」と顔を後ろへ振り向けるようにして聞いたら、「だって鷺が鳴くじゃないか」と答えた。 すると鷺がはたして二声ほど鳴いた。 自分は我子ながら少し怖くなった。こんなものを背負っ・・・<夏目漱石「夢十夜」青空文庫>
  24. ・・・そもそも文字の意味を広くしていえば、政治もまた学問中の一課にして、政治家は必ず学者より出で、学校は政談家を生ずるの田圃なれども、学校の業成るの日において、その成業の人物が社会の人事にあたるに及びては、おのおのその赴くところを異にせざるをえず・・・<福沢諭吉「学問の独立」青空文庫>
  25. ・・・ 烏の義勇艦隊は、その雲に圧しつけられて、しかたなくちょっとの間、亜鉛の板をひろげたような雪の田圃のうえに横にならんで仮泊ということをやりました。 どの艦もすこしも動きません。 まっ黒くなめらかな烏の大尉、若い艦隊長もしゃんと立・・・<宮沢賢治「烏の北斗七星」青空文庫>
  26. ・・・けれども亮二はもうそっちへは行かないで、ひとり田圃の中のほの白い路を、急いで家の方へ帰りました。早くお爺さんに山男の話を聞かせたかったのです。ぼんやりしたすばるの星がもうよほど高くのぼっていました。 家に帰って、厩の前から入って行きます・・・<宮沢賢治「祭の晩」青空文庫>
  27. ・・・ 関東の農村は、汽車でとおっても、雑木林をぬけたところには畑があり、そこでヒエが穂を出しているかと思うと、南瓜畑があり、田圃の上にはとうもろこしのひろい葉がゆれている。草堤に萩が咲いていたりもする。 ところが秋田から山形沿線の稲田の・・・<宮本百合子「青田は果なし」青空文庫>
  28. ・・・吉田首相がどんなに綺麗な白足袋をはいているかということではなくて、続々と失業させられている労働者の食べられるもの、着ていられるものは何か、田圃で働いている人々、苦しい中小商工業の人々の生活で、赤坊の着ているものはどういうものかということに、・・・<宮本百合子「新しい抵抗について」青空文庫>
  29. ・・・爺いの背中で、上野の焼けるのを見返り見返りして、田圃道を逃げたのだ。秩父在では己達を歓迎したものだ。己の事を江戸の坊様と云っていた。」「なんでも江戸の坊様に御馳走をしなくちゃあならないというので、蕎麦に鳩を入れて食わしてくれたっけ。鴨南・・・<森鴎外「里芋の芽と不動の目」青空文庫>
  30. ・・・ 田圃の中に出る。稲の植附はもう済んでいる。おりおり蓑を着て手籠を担いで畔道をあるいている農夫が見える。 段々小倉が近くなって来る。最初に見える人家は旭町の遊廓である。どの家にも二階の欄干に赤い布団が掛けてある。こんな日に干すのでも・・・<森鴎外「鶏」青空文庫>