とう‐えい【灯影】例文一覧 13件

  1. ・・・暗らくなった谷を距てて少し此方よりも高い位の平地に、忘れたように間をおいてともされた市街地のかすかな灯影は、人気のない所よりもかえって自然を淋しく見せた。彼れはその灯を見るともう一種のおびえを覚えた。人の気配をかぎつけると彼れは何んとか身づ・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  2. ・・・ただ、内へ帰るのを待兼ねて、大通りの露店の灯影に、歩行きながら、ちらちらと見た、絵と、かながきの処は、――ここで小母さんの話した、――後のでない、前の巳巳巳の話であった。 私は今でも、不思議に思う。そして面影も、姿も、川も、たそがれ・・・<泉鏡花「絵本の春」青空文庫>
  3. ・・・――この蝶が、境内を切って、ひらひらと、石段口の常夜燈にひたりと附くと、羽に点れたように灯影が映る時、八十年にも近かろう、皺びた翁の、彫刻また絵画の面より、頬のやや円いのが、萎々とした禰宜いでたちで、蚊脛を絞り、鹿革の古ぼけた大きな燧打袋を・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  4. ・・・赤い袖の色に灯影が浸みわたって、真中に焔が曇るとき、自分はそぞろに千鳥の話の中へはいって、藤さんといっしょに活動写真のように動く。自分の芝居を自分で見るのである。始めから終りまで千鳥の話を詳しく見てしまうまでは、翳す両手のくたぶれるのも知ら・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  5. ・・・そして行手の闇の中にまたたく希望の灯影といったようなものを作家とともに認めてささやき合うような気がする。 明るく鮮やかであった白馬会時代を回想してみると、近年の洋画界の一面に妙に陰惨などす黒いしかもその中に一種の美しさをもったものの影が・・・<寺田寅彦「帝展を見ざるの記」青空文庫>
  6. ・・・洲崎の灯影長うして江水漣れんい清く、電燈煌として列車長きプラットフォームに入れば吐き出す人波。下駄の音靴のひゞき。<寺田寅彦「東上記」青空文庫>
  7. ・・・暗闇阪の街燈には今でもやもりが居るが、元のような空想はもう起らぬ、小さな細長い黒影は平和な灯影に眠っているように思われるのである。<寺田寅彦「やもり物語」青空文庫>
  8. ・・・対岸の黒い松原蔭に、灯影がちらほら見えた。道路の傍には松の生い茂った崖が際限もなく続いていた。そしてその裾に深い叢があった。月見草がさいていた。「これから夏になると、それあ月がいいですぜ」桂三郎はそう言って叢のなかへ入って跪坐んだ。・・・<徳田秋声「蒼白い月」青空文庫>
  9. ・・・蚊遣の烟になお更薄暗く思われる有明の灯影に、打水の乾かぬ小庭を眺め、隣の二階の三味線を簾越しに聴く心持……東京という町の生活を最も美しくさせるものは夏であろう。一帯に熱帯風な日本の生活が、最も活々として心持よく、決して他人種の生活に見られぬ・・・<永井荷風「夏の町」青空文庫>
  10. ・・・わたくしが電報配達人の行衛を見送るかなたに、初て荒川放水路の堤防らしい土手を望んだ時には、その辺の養魚池に臨んだ番小屋のような小家の窓には灯影がさして、池の面は黄昏れる空の光を受けて、きらきらと眩く輝き、枯蘆と霜枯れの草は、かえって明くなっ・・・<永井荷風「元八まん」青空文庫>
  11. ・・・と斧を振り翳して灯影に刃を見る。「婆様ぎりか、ほかに誰もいないか」と髯がまた問をかける。「それから例のがやられる」「気の毒な、もうやるか、可愛相にのう」といえば、「気の毒じゃが仕方がないわ」と真黒な天井を見て嘯く。 たちまち窖も首斬りも・・・<夏目漱石「倫敦塔」青空文庫>
  12. ・・・ 四角い電燈の様なもののささやかな灯影が淋しい露のじめじめした里道をゆれて行くのを見ると今更やるせない気持になって口の大きい気の強い小さい妹の姿を思いうかべながら大きな炉の火をのろのろとなおしたりして居た。 九時頃だったけれ共もう寝・・・<宮本百合子「悲しめる心」青空文庫>
  13. ・・・屋敷町の単純な色と空気の中で人いきれと灯影でポーッとはにかんで居る様な向うの空を見てその下に居る人達の風、町の様子を想像して居る。あの、夜あるくにふさわしい様な――どこまでこのまんま歩いて行ってもその先々にキットたのしい事が待ちかまえて居る・・・<宮本百合子「つぼみ」青空文庫>