とう‐えい【投影】例文一覧 19件

  1. ・・・人生自然の零細な断片的な投影に過ぎないものでも、それはわれ/\の注意力如何によって極めて微妙な思想へまで導いてゆくものである。 読むことから、そして見ることから、われ/\の随時に獲たあるものに対して、統一を与え組織を与えるものは、実に思・・・<小川未明「文章を作る人々の根本用意」青空文庫>
  2. ・・・翳ってしまった低地には、彼の棲んでいる家の投影さえ没してしまっている。それを見ると堯の心には墨汁のような悔恨やいらだたしさが拡がってゆくのだった。日向はわずかに低地を距てた、灰色の洋風の木造家屋に駐っていて、その時刻、それはなにか悲しげに、・・・<梶井基次郎「冬の日」青空文庫>
  3. ・・・だから、そこへは、同じ現実でありながら、全然反対なものが投影している。一方には、従順に、勇敢に、献身的に、一色に塗りつぶされた武者人形。一方には、自意識と神経と血のかよった生きた人間。 勿論、「将軍」に最も正しく現実が伝えられているか否・・・<黒島伝治「明治の戦争文学」青空文庫>
  4. ・・・これは、言うまでもなく、三次の空間が二次の平面に投影されている。三次元の実体は二つ同時に同一空間を占める事はできないが、平面は何枚重ねても平面であるから、映画の写像はいくつでも重ね写しができる。オーヴァーラップの技巧はこの点を利用したものに・・・<寺田寅彦「映画の世界像」青空文庫>
  5. ・・・そういう記憶の断片がはたしてほんとうにあったことなのか、それとも、いつかずっと後年になってから見た一夜の夢の映像の記憶を過去に投影したものだか、記憶の現実性がきわめて頼み少ないものになって来るのである。 自分の幼時のそういう夢のような記・・・<寺田寅彦「銀座アルプス」青空文庫>
  6. ・・・少なくも画家の頭脳の中にしまってある取って置きの粉本をそのまま紙布の上に投影してその上を機械的に筆で塗って行ったものとしか思われなかった。ペンキ屋が看板の文字を書くようにそれはどこから筆を起してどういう方向に運んで行っても没交渉なもののよう・・・<寺田寅彦「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」青空文庫>
  7. ・・・その姿を哀れと見るのは、すなわち日本人の日常生活のあわれを一羽の鳥に投影してしばらくそれを客観する、そこに始めて俳諧が生まれるのである。旅には渡渉する川が横たわり、住には小獣の迫害がある。そうして梨を作り、墨絵をかきなぐり、めりやすを着用し・・・<寺田寅彦「連句雑俎」青空文庫>
  8. ・・・この身分感は、こんにち肉体文学はじめ世相のいたるところにある斜陽族趣味にまで投影して来ているのである。 日本の大学、なかでも帝大といわれた帝国大学は、明治以来のそういう日本的な伝統のなかで、どこよりもふるい力に影響されていたところではな・・・<宮本百合子「新しいアカデミアを」青空文庫>
  9. ・・・そして氏の好みは、過去からの時代性をニュアンスとして持ち、現代の時代性の一面の投影をうけ余り遠く古来の人情、情誼、拳で払う男の涙の領域から勇飛していない。氏のこの感情のありようと現代の或る小市民の感傷とは互に絡みあって最近の尾崎氏の作品に、・・・<宮本百合子「今日の文学の展望」青空文庫>
  10. ・・・流転して止む事ない心の微妙な投影は、其を洞察しつつ、理解しつつ愛に満ちて統御する叡智の高度に準じて価値つけられますでしょう。認識の拡張は人類に冠を授けます。 然し認識の内容は多くの未知を、或は未完成の存在をも、今日の私共の裡に承認する筈・・・<宮本百合子「C先生への手紙」青空文庫>
  11. ・・・彼自身が後年自分の前に空間と自己自らの熱意の投影しか見なかったと告白していることは、よく彼の作家的現実を説明している。ジイドは、作品そのものよりむしろその作品に至るまでの彼の内的過程が注目と興味とを牽く特別な作家の一人なのである。 一九・・・<宮本百合子「ジイドとそのソヴェト旅行記」青空文庫>
  12. ・・・れて来ているし歴史小説の分野では、時代と環境との客観的意義の評価を見直すことでは前進しつつ、そこにゆきかける時代の人間の積極なものとの関係の分析と意義とを従の関係におくことではやはり現代の文学の敗北の投影がみられる。そして、評論の面では、誤・・・<宮本百合子「昭和十五年度の文学様相」青空文庫>
  13. ・・・しかし、戦争挑発をつづけてその恐怖の投影のもとに新たな拡張を実現しようとしている国内国外の力にとって、日本の人民が心から戦争をきらい、戦争にかり立てられることを拒んでいるその感情を、今日行われている戦争挑発の全過程に対する抵抗として結集し、・・・<宮本百合子「世紀の「分別」」青空文庫>
  14. ・・・魯迅の大きい、嘘というもののない人間及び文学者としての投影のなかから、既に、魯迅自身は歩まなかった新しい中国文学の一歩がふみ出されている。丁度ゴーリキイの巨大な懐の中から、夥しい民衆の文学創造力が、かもし出されて、今日のソヴェト文学をゆたか・・・<宮本百合子「春桃」青空文庫>
  15. ・・・ここに、日本の文化の深奥において、思想性はいまだ確立されていなかった過去の悲劇的な投影があるのである。 あらゆる時期と場合にあらゆる変形をもって、合理的な判断を守り、沈黙することは決して思索し、批判することをやめることではない。思想は、・・・<宮本百合子「「どう考えるか」に就て」青空文庫>
  16. ・・・ひろ子のこの苦痛の深さに、一心に暮した十二年の歳月が折りたたまって投影しているとおり、重吉の索漠たる思いにも、同じ長い年月に亙って生活して来た彼のひどい環境の照りかえしが決してないと、どうして云えよう。 閃く稲妻のようにひろ子の心を一つ・・・<宮本百合子「風知草」青空文庫>
  17. ・・・日本の民主主義の道には、この二重の投影がある。したがって、日本での人間性の解放を具体的に考えるとき、それはこの二重の影を二重に、同時的にうちひらいてゆく運動の理解に立たなければならない。理屈の上でそうなのではなくて、事実が、それを求めている・・・<宮本百合子「真夏の夜の夢」青空文庫>
  18. ・・・非常にのろのろと傾きかかり、目前だけを見ればますますその投影がたけを伸ばして来つつあるかのようにさえ感じられる昔の西日の落す陰を身に受けていない者はないのである。 森鴎外という人は、子供を深く愛し、特に教養のことについては無関心でいられ・・・<宮本百合子「歴史の落穂」青空文庫>
  19. ・・・青草に横わって池を眺めると、今は樹間をこめる紫っぽい夕暮の陰翳まで漣とともにひろがり、白鳥ばかり真白に、白樺の投影の裡に伸びた。〔一九二七年五月〕<宮本百合子「わが五月」青空文庫>