どう‐き【動機】例文一覧 30件

  1. ・・・――この二つの動機が一つになった時、彼の手は自ら、その煙管を、河内山の前へさし出した。「おお、とらす。持ってまいれ。」「有難うございまする。」 宗俊は、金無垢の煙管をうけとると、恭しく押頂いて、そこそこ、また西王母の襖の向うへ、・・・<芥川竜之介「煙管」青空文庫>
  2. ・・・ とにかく己はそう云ういろいろな動機で、とうとう袈裟と関係した。と云うよりも袈裟を辱めた。そうして今、己の最初に出した疑問へ立ち戻ると、――いや、己が袈裟を愛しているかどうかなどと云う事は、いくら己自身に対してでも、今更改めて問う必要は・・・<芥川竜之介「袈裟と盛遠」青空文庫>
  3. ・・・真個の第四階級から発しない思想もしくは動機によって成就された改造運動は、当初の目的以外の所に行って停止するほかはないだろう。それと同じように、現在の思想家や学者の所説に刺戟された一つの運動が起こったとしても、そしてその運動を起こす人がみずか・・・<有島武郎「宣言一つ」青空文庫>
  4. ・・・相矛盾せる両傾向の不思議なる五年間の共棲を我々に理解させるために、そこに論者が自分勝手に一つの動機を捏造していることである。すなわち、その共棲がまったく両者共通の怨敵たるオオソリテイ――国家というものに対抗するために政略的に行われた結婚であ・・・<石川啄木「時代閉塞の現状」青空文庫>
  5. ・・・ 僕も、これが動機となって、いくらかきまりが悪くなったのに加えて、自分の愛する者が年の若い娘にいじめられるところなどへ行きたくなくなった。また、お貞が、僕の顔さえ見れば、吉弥の悪口をつくのは、あんな下司な女を僕があげこそすれ、まさか、関・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  6. ・・・十一 画人椿岳椿岳の画才及び習画の動機 椿岳の実家たる川越の内田家には芸術の血が流れていたと見えて、椿岳の生家にもその本家にも画人があったそうだ。椿岳も児供の時から画才があって、十二、三歳の頃に描いた襖画が今でも川越の家・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  7. ・・・彼に、こうした興味を呼び起した動機は、偶然、野原かどこかで、小さな美しい草ぜみの死骸を見出したことからです。「お父さん、ごらんなさい。こんな小さいせみがありますよ」 と、示されたのを見た時に、自分も、おどろいたのでした。この年齢・・・<小川未明「近頃感じたこと」青空文庫>
  8. ・・・何の主義によらず唱えらるゝに至った動機、世間が之を認めたまでには、痛切な根柢と時勢に対する悲壮な反抗と思想上の苦闘があったことを知らなければならぬ。だから、批評家が一朝机上の感想で、之を破壊することは不可能であるし、また無理だと思う。 ・・・<小川未明「若き姿の文芸」青空文庫>
  9. ・・・が、この記録を一篇の小説にたとえるとすれば、そのヤマは彼女が石田の料亭の住込仲居になる動機と径路ではなかろうか、――彼女は石田の所へ雇われる前、名古屋の「寿」という料亭の仲居をしていた。その時中京商業の大宮校長と知り合った、大宮校長は検事の・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  10. ・・・その口答試問の席上で、志願の動機や家庭の情況を問われた時、「姉妹二人の暮しでしたが……。」 と言いながら、道子は不覚にも涙を落し、「あ、こんなに取り乱したりして、きっと口答試問ではねられてしまうわ。」 と心配したが、それから・・・<織田作之助「旅への誘い」青空文庫>
  11. ・・・彼はあの作の動機に好意を持っていてくれてる。モグラモチのように蠢きながらも生きて行かねばならぬ、罪業の重さに打わなきながらも明るみを求めて自棄してはならぬ――こういった彼の心持の真実は自分にもよくわかる気がする。といって自分のあの作が、それ・・・<葛西善蔵「死児を産む」青空文庫>
  12. ・・・最初の動機は、Fの意気地なしの懲しめと慰めとを兼ねて一週間も遊びに帰えすつもりだったのが、つい自分ながらいくらか意外なような結果になったのだった。しかしこうした場合だから迷わんで断行した方がいいと私はしいて気を張っていたが、さすがにFと別れ・・・<葛西善蔵「父の出郷」青空文庫>
  13. ・・・しかし利他の動機は確かに利己から独立に存在しても、利己と利他とが矛盾するときいずれをさきに、いかなる条件にしたがって満足せしむべきかの問題は依然として残る。これが「ギリシャ主義とキリスト教主義との調和の道」を求めねばならぬ所以であり、他人の・・・<倉田百三「学生と教養」青空文庫>
  14. ・・・それが青年を美しくし、弾力を与え、ものの考え方を純真ならしめる動機力なのだ。 私は青春をすごして、青春を惜しむ。そして青春が如何に人生の黄金期であったかを思うときにその幸福を惜しめとすすめたくなるのだ。そしてそれには童貞をなるだけ長く保・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  15. ・・・それが動機で普通道徳の道を歩んでいる場合も多い。そしてこれが本当の道徳だとも思った。しかしだんだん種々の世故に遭遇するとともに、翻って考えると、その同情も、あらゆる意味で自分に近いものだけ濃厚になるのがたしかな事実である。して見るとこれもあ・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  16. ・・・何かのメモのつもりであろうが、僕自身にも書いた動機が、よくわからぬ。 窓外、庭ノ黒土ヲバサバサ這イズリマワッテイル醜キ秋ノ蝶ヲ見ル。並ハズレテ、タクマシキガ故ニ、死ナズ在リヌル。決シテ、ハカナキ態ニハ非ズ。と書かれてある。 これを書・・・<太宰治「ア、秋」青空文庫>
  17. ・・・けれどもその動機は深遠でなかった。私とそっくりおなじ男がいて、この世にひとつものがふたつ要らぬという心から憎しみ合ったわけでもなければ、その男が私の妻の以前のいろであって、いつもいつもその二度三度の事実をこまかく自然主義ふうに隣人どもへ言い・・・<太宰治「逆行」青空文庫>
  18. ・・・ユダヤ人種排斥という日本人にはちょっと分らない、しかし多くのドイツ人には分りやすい原理に、幾分は別の妙な動機も加わって、一団のアインシュタイン排斥同盟のようなものが出来た。勿論大多数は物理学者以外の人で、中にはずいぶんいかがわしい人も交じっ・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  19. ・・・ こんな事を考えたのが動機となって、ふと大根が作ってみたくなったので、花壇の鳳仙花を引っこぬいてしまってそのあとへ大根の種を蒔いてみた。二、三日するともう双葉が出て来た。あの小さな黒の粒の中からこんな美しいエメラルドのようなものが出て来・・・<寺田寅彦「鸚鵡のイズム」青空文庫>
  20. ・・・「しかし、もうそうなっちゃ、どちらもおもしろくなかろう。動機がお互いに不純だから、とうていうまくゆくまい」「さあ、そうでしょうかね」姉は太息をついていた。「ふみ江さんも人の言うことを肯かんからいけない。何でも皆んなに相談してやる・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  21. ・・・その行動について不満があるとしても、誰か志士としてその動機を疑い得る。諸君、西郷も逆賊であった。しかし今日となって見れば、逆賊でないこと西郷のごとき者があるか。幸徳らも誤って乱臣賊子となった。しかし百年の公論は必ずその事を惜しんで、その志を・・・<徳冨蘆花「謀叛論(草稿)」青空文庫>
  22. ・・・ さてかく自然主義の道徳文学のために、自己改良の念が浅く向上渇仰の動機が薄くなるということは必ずあるに相違ない。これは慥に欠点であります。 従って現代の教育の傾向、文学の潮流が、自然主義的であるためにボツボツその弊害が表われて、日本・・・<夏目漱石「教育と文芸」青空文庫>
  23. ・・・――余が決断を促がす動機の一部分をも形づくらなかったからである。尤も先生がこれら知名の人の名を挙げたのは、辞任の必ずしも非礼でないという実証を余に紹介されたまでで、これら知名の人を余に比較するためでなかったのは無論である。 先生いう、―・・・<夏目漱石「博士問題とマードック先生と余」青空文庫>
  24. ・・・これが人生観についての苦悶を呼起した大動機になってるんだ。即ちこんな苦痛の中に住んでて、人生はどうなるだろう、人生の目的は何だろうなぞという問題に、思想上から自然に走ってゆく。実に苦しい。従ってゆっくりと其問題を研究する余裕がなく、ただ断腸・・・<二葉亭四迷「予が半生の懺悔」青空文庫>
  25. ・・・自分でもする事の本当の動機を知らずにいることもございますし、またその動機がたいてい分かりそうになって来ていても、それを自分で認めるだけの勇気が無いこともございます。そう云うわけですから、わたくし達の手紙はやはりわたくし達の霊をありのままに現・・・<著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外「田舎」青空文庫>
  26. ・・・わたしたちの心にあるこの抗議と抵抗の動機は、人間らしい、美しい、瑞々しい人生をもちたいという痛切な願いからです。わたしたちみんなの心にこの訴えがあります。わたしたちは、ただ一度しかない人生をいとおしみます。このやわらかい心。やわらかい心が苦・・・<宮本百合子「新しい抵抗について」青空文庫>
  27. ・・・封建的な人間抑圧への反抗ということも、理由とされているが、それは、その第一歩、第一作の書かれた動機のかげにあった一つのぼんやりしたバネであったにすぎない。二作、三作、ましてそれで儲かって書きつづけてゆく作品のモティーヴになってはいない。・・・<宮本百合子「新しい文学の誕生」青空文庫>
  28. ・・・又何事もないと、わざわざ人を挑んで詞尻を取って、怒の動機を作る。さて怒が生じたところで、それをあらわに発動させずに、口小言を言って拗ねている。 こう云う状態が二三日続いた時、文吉は九郎右衛門に言った。「若檀那の御様子はどうも変じゃござい・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>
  29. ・・・人間のする事の動機は縦横に交錯して伸びるサフランの葉の如く容易には自分にも分からない。それを強いて、烟脂を舐めた蛙が膓をさらけだして洗うように洗い立てをして見たくもない。今私がこの鉢に水を掛けるように、物に手を出せば弥次馬と云う。手を引き込・・・<森鴎外「サフラン」青空文庫>
  30. ・・・柔らかで細かい、静かで淡い全体の調子も、この動機を力強く生かせている。 このような淡い繊弱な画が、強烈な刺激を好む近代人の心にどうして響くか、と人は問うであろう。しかしその答えはめんどうでない。極度に敏感になった心には、微かな濃淡も強す・・・<和辻哲郎「院展日本画所感」青空文庫>