どう‐くつ【洞窟】例文一覧 20件

  1. ・・・ さらばじゃと、大袈裟な身振りを残すと、あっという間に佐助は駈けだして、その夜のうちに、鳥居峠の四里の山道を登って、やがて除夜の鐘の音も届かぬ山奥の洞窟の中に身を隠してしまった。 こうして、下界との一切の交通を絶ってしまった佐助・・・<織田作之助「猿飛佐助」青空文庫>
  2. ・・・その下に立って見上げると、深い大きな洞窟のように見える。梟の声がその奥にしていることがある。道の傍らには小さな字があって、そこから射して来る光が、道の上に押し被さった竹藪を白く光らせている。竹というものは樹木のなかで最も光に感じやすい。山の・・・<梶井基次郎「闇の絵巻」青空文庫>
  3. ・・・ 小豆島の西方、女木島という島には、海賊の住家だったらしい洞窟がある。巧妙にできた、かなり広い洞窟であるが、それがいま、オトギバナシの「桃太郎」の鬼が住んでいたところだと云われて、その島をも鬼ガ島と名づけ、遊覧者を引こうがための好奇心を・・・<黒島伝治「海賊と遍路」青空文庫>
  4. ・・・ 六百尺の、エジプトのスフィンクスの洞窟のような廃坑に、彼女は幽霊のように白い顔で立っていた。 彼は、差し出したカンテラが、彼女にぶつかりそうになって、始めてそれに気がついた。水のしずくが、足もとにポツ/\落ちていた。カンテラの火が・・・<黒島伝治「土鼠と落盤」青空文庫>
  5. ・・・小鳥では無いまでも、いずれ暖い洞窟が待っているのでは無い獣でもあるか。 薄筵の一端を寄せ束ねたのを笠にも簑にも代えて、頭上から三角なりに被って来たが、今しも天を仰いで三四歩ゆるりと歩いた後に、いよいよ雪は断れるナと判じたのだろう、「・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  6. ・・・裸の大きい岩が急な勾配を作っていくつもいくつも積みかさなり、ところどころに洞窟のくろい口のあいているのがおぼろに見えた。これは山であろうか。一本の青草もない。 私は岩山の岸に沿うてよろよろと歩いた。あやしい呼び声がときどき聞える。さほど・・・<太宰治「猿ヶ島」青空文庫>
  7. ・・・そこに案内者のはまりやすい「洞窟」がある。 ニュールンベルグの古城で、そこに収集された昔の物すごい刑具の類を見物した事がある。名高い「鉄の処女」の前で説明をしていた案内者はまだうら若い女であった。いったいに病身らしくて顔色も悪く、なんと・・・<寺田寅彦「案内者」青空文庫>
  8. ・・・ 人類がまだ草昧の時代を脱しなかったころ、がんじょうな岩山の洞窟の中に住まっていたとすれば、たいていの地震や暴風でも平気であったろうし、これらの天変によって破壊さるべきなんらの造営物をも持ち合わせなかったのである。もう少し文化が進んで小・・・<寺田寅彦「天災と国防」青空文庫>
  9. ・・・一方ではまたわが国の科学者がおりにふれてはそのいわゆるアカデミックな洞窟をいでて火災現象の基礎科学的研究にも相当の注意を払うことを希望したいと思う次第である。 まさにこの稿を書きおわらんとしているきょう四月五日の夕刊を見るとこの日午前十・・・<寺田寅彦「函館の大火について」青空文庫>
  10. ・・・窓を射る日の眩ゆきまで明かなるに、室のうちは夏知らぬ洞窟の如くに暗い。輝けるは五尺に余る鉄の鏡と、肩に漂う長き髪のみ。右手より投げたる梭を左手に受けて、女はふと鏡の裡を見る。研ぎ澄したる剣よりも寒き光の、例ながらうぶ毛の末をも照すよと思うう・・・<夏目漱石「薤露行」青空文庫>
  11. ・・・彼らは涙の浪に揺られてこの洞窟のごとく薄暗きアーチの下まで漕ぎつけられる。口を開けて鰯を吸う鯨の待ち構えている所まで来るやいなやキーと軋る音と共に厚樫の扉は彼らと浮世の光りとを長えに隔てる。彼らはかくしてついに宿命の鬼の餌食となる。明日食わ・・・<夏目漱石「倫敦塔」青空文庫>
  12. ・・・あの小さな狡猾さうな眼をした、梟のやうな哲学者ショーペンハウエルは、彼の暗い洞窟の中から人生を隙見して、無限の退屈な欠伸をしながら、厭がらせの皮肉ばかりを言ひ続けた。一方であの荒鷲のやうなニイチェは、もつと勇敢に正面から突撃して行き、彼の師・・・<萩原朔太郎「ニイチェに就いての雑感」青空文庫>
  13. ・・・ 僕の天性の我がまま気儘も、これに輪をかけて自分を洞窟の仙人にした。人と人との交際ということは、所詮相互の自己抑制と、利害の妥協関係の上に成立する。ところで僕のような我がまま者には、自己を抑制することが出来ない上に、利害交換の妥協という・・・<萩原朔太郎「僕の孤独癖について」青空文庫>
  14. ・・・大学士の吸う巻煙草がポツンと赤く見えるだけ、「斯う納まって見ると、我輩もさながら、洞熊か、洞窟住人だ。ところでもう寝よう。闇の向うで涛がぼとぼと鳴るばかり鳥も啼かなきゃ洞をのぞきに人も来ず、と。ふん、斯んなあ・・・<宮沢賢治「楢ノ木大学士の野宿」青空文庫>
  15. ・・・天照という女酋長が、出来上ることをたのしみにして織っていた機の上に弟でありまた良人であって乱暴もののスサノオが馬の生皮をぶっつけて、それを台なしにしてしまったのを怒って、天の岩戸――洞窟にかくれた話がつたえられている。天照大神の岩戸がくれは・・・<宮本百合子「衣服と婦人の生活」青空文庫>
  16. ・・・ 人間の生活が、きわめて原始的であって、わずかに棍棒を武器として野獣を狩って生活していた頃の生産状態では、文化も非常に原始的で数の観念さえもはっきりせず、絵といえば穴居の洞窟の壁にほりつけた野獣の絵があるにとどまった有様であった。それが・・・<宮本百合子「今日の文化の諸問題」青空文庫>
  17. ・・・延安の洞窟のなかで生れる文学はどういうものであろうか。それを知りたいと思っているのである。附記 「春桃」一巻の本文、特に主人公たちの名前を、編者は親切に中国の発音に準じてフリガナをつけていてくれる。しかし、作者たちの名に、それがつい・・・<宮本百合子「春桃」青空文庫>
  18. ・・・ そもそも人類の祖先たちが文字を発明した動機は何だったろう。洞窟に木の皮や獣の皮をまとって生活していた原始生活から発展して来て、ただその場かぎりの餌としてたべてしまうよりも多い計画的な狩猟や農耕がはじまり、交換が行われるようになると・・・<宮本百合子「文学と生活」青空文庫>
  19. ・・・中国の最も進歩した世代の人々が、古き大地の第何世紀層かの洞窟ぐらしをしている不思議さ。今日この地球は、人間の発展のための矛盾や摩擦の諸問題にあふれています。そのままの姿が、住居の問題、建築の問題に映っていると思われます。 日本の若い建築・・・<宮本百合子「よろこびの挨拶」青空文庫>
  20. ・・・原始的な造形において眼がそういう役目を持っていることは、フロベニウスに言わせると、南フランスの洞窟の動物画以来のことであって、なにも埴輪人形に限ったことではないのであるが、しかし埴輪人形において特にこのことを痛感せしめられるということも、軽・・・<和辻哲郎「人物埴輪の眼」青空文庫>