どう‐じ【同時】例文一覧 28件

  1. ・・・が、まだ暮方の光の如く肉の落ちた顔のどこかに、漂っている種類の人であった。が、同時にまたその顔には、貴族階級には珍らしい、心の底にある苦労の反映が、もの思わしげな陰影を落していた。私は先達ても今日の通り、唯一色の黒の中に懶い光を放っている、・・・<芥川竜之介「開化の良人」青空文庫>
  2. ・・・その視線が、煙管へ落ちたのと、河内山が追いかけるように、語を次いだのとが、ほとんど同時である。「如何でございましょう。拝領仰せつけられましょうか。」 宗俊の語の中にあるものは懇請の情ばかりではない、お坊主と云う階級があらゆる大名に対・・・<芥川竜之介「煙管」青空文庫>
  3. ・・・ 姫のその姿が、正面の格子に、銀色の染まるばかり、艶々と映った時、山鴉の嘴太が――二羽、小刻みに縁を走って、片足ずつ駒下駄を、嘴でコトンと壇の上に揃えたが、鴉がなった沓かも知れない、同時に真黒な羽が消えたのであるから。 足が浮いて、・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  4. ・・・最後に、その唇の、幽冥の境より霞一重に暖かいように莞爾した時、小児はわなわなと手足が震えた。同時である。中仕切の暖簾を上げて、姉さんだか、小母さんだか、綺麗な、容子のいいのが、すっと出て来て、「坊ちゃん、あげましょう。」と云って、待て……そ・・・<泉鏡花「夫人利生記」青空文庫>
  5. ・・・――というのは、つまり隊長に言わせれば、「お前たちは俺の酒の肴になると同時に、俺の酒の肴の徴発もしなければならんぞ」 という意味なのである。 言いかえれば、赤井、白崎の二人は、浪花節、逆立ちを或いは上手に或いは下手に隊長の前でや・・・<織田作之助「昨日・今日・明日」青空文庫>
  6. ・・・ 秋ハ夏ト同時ニヤッテ来ル。と書いてある。 夏の中に、秋がこっそり隠れて、もはや来ているのであるが、人は、炎熱にだまされて、それを見破ることが出来ぬ。耳を澄まして注意をしていると、夏になると同時に、虫が鳴いているのだし、庭に気をくば・・・<太宰治「ア、秋」青空文庫>
  7. ・・・君が僕を見つけたのと、僕が君を見つけたのと、ほとんど同時くらいであったようだ。「や。」「や。」 という具合になり、君は軍律もクソもあるものか、とばかりに列から抜けて、僕のほうに走り寄り、「お待たせしまスた。どうスても、逢いた・・・<太宰治「未帰還の友に」青空文庫>
  8. ・・・舞踊演劇楽劇は空間的で同時に時間的であるという点では映画と同様である。しからばこれらの在来の時空四次元的芸術と映画といかなる点でいかに相違するかという問題が起こって来る。 まず最も分明な差別はこれらの視覚的対象と観客との相対位置に関する・・・<寺田寅彦「映画芸術」青空文庫>
  9. ・・・そこでこの容器の底に穴をあけて水を流出させれば水面の降下につれて栓と棒とが降下するのであるが、その穴の大きさをうまく調節すると二つの土器の二つの棒が全く同じ速度で降下しいつでも同じ通信文が同時に容器の口のところに来ているようになるのである。・・・<寺田寅彦「変った話」青空文庫>
  10. ・・・その蝉の声と背中の熱い痛さとが何かしら相関関係のある現象であったかのような幻覚が残っている。同時にまた灸の刺激が一種の涼風のごときかすかな快感を伴なっていたかのごとき漠然たる印象が残っているのである。 背中の灸の跡を夜寝床ですりむいたり・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  11. ・・・従って個体相互の間で「同時」という事がよほど複雑な非常識的なものになってしまう。しかしそこにまたこの時計の妙味もあるのである。譬喩を引けば浦島太郎が竜宮の一年はこの世界の十年に当たるというような空想や、五十年の人生を刹那に縮めて嘗め尽くすと・・・<寺田寅彦「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」青空文庫>
  12. ・・・定まった弾条に定まった重量を吊し、定まった温度その他の同時的条件を一切一様にしても、その長さは一定しないのである。すなわち過去において受けた取扱い如何によって種々の長さを与えるのである。一匁の分銅を一分間吊した後と、一時間あるいは一昼夜吊し・・・<寺田寅彦「方則について」青空文庫>
  13. ・・・ 北極をめぐる諸科学国が互いに協力して同時的に気象学的ならびに一般地球物理学的観測を行なういわゆるインターナショナル・ポーラー・イヤーに際会してソビエト政府は都合八組の観測隊を北氷洋に派遣した。その中の数隊は極北の島々にそれぞれの観測所・・・<寺田寅彦「北氷洋の氷の割れる音」青空文庫>
  14.  プドーフキンやエイゼンシュテインらの映画の芸術的価値が世界的に認められると同時に彼らのいわゆるモンタージュの理論がだいぶ持てはやされ、日本でもある方面ではこのモンタージュということが一種のはやり言葉になったかのように見える・・・<寺田寅彦「ラジオ・モンタージュ」青空文庫>
  15. ・・・もっとも、ただの一句でもそれを読む時の感官的活動は時間的に進行するので、決して同時にいろいろの要素表象が心に響くのではないが、しかし一句としてのまとまった感じは一句を通覧した時に始めて成立するのであるから、物理的には同時でなくても心理的には・・・<寺田寅彦「連句雑俎」青空文庫>
  16. ・・・と押し殺すような声で云ったのと同時であった。「誰だい?」 彼は、大きな声で呶鳴った。「中村だがね、ちょっと署まで来て貰いたいんだ」――誰だい――と呼ぶ吉田の声が、鋭く耳を衝いたので、子供が薄い紙のような眠りを破られた。・・・<葉山嘉樹「生爪を剥ぐ」青空文庫>
  17. ・・・プロレタリア文学の理論、創作方法の問題などが、若干直訳的であったことや、例えば弁証法的創作方法という提案の中には、世界観と創作方法との二つの問題が混同し同時的に提出されていたために、創作の現実にあたって作家を或る困惑に導いたような事実は、当・・・<宮本百合子「今日の文学の展望」青空文庫>
  18. ・・・作品の世界は、幻想的と云われ、或は逞しき奔放さと云われ、華麗と云うような文字でも形容され、デカダンスとも云われ、あらゆる作品の当然の運命として、賞讚と同時の疑問にもさらされた。文学の作品として、かの子さんの幻想ならぬ幻想が、その世界として客・・・<宮本百合子「作品の血脈」青空文庫>
  19. ・・・ 近代日本の文学の中に長い伝統をもっていた私小説というものが、その主観性のせまい枠と同時的なリアリズムの限界の面から否定をもって見られた当時、そこからより広い生活感と文学とへ出るためには、当然の経過と考えられる方法、私小説における私の究・・・<宮本百合子「人生の共感」青空文庫>
  20. ・・・ おなじように、前年度から活動をあらわしたインテリゲンチャの新進作家たちの、本年度の仕事は非常に期待されると同時に、個々別々にそれぞれの作家として発展させなければならないさまざまの矛盾や希望的なモメントを前年度において示しています。・・・<宮本百合子「一九四七・八年の文壇」青空文庫>
  21. ・・・結婚後、まる二年の年月を経、今、自分は、少くとも当面の生活には馴れたことを感じる。同時に落付いた。胸をわくわくさせるような物珍らしさが去った代りに、又文字に書き写せる丈、心に余裕が出来たのである。何年まで此が続くか、如何那ことが起って来るか・・・<宮本百合子「小さき家の生活」青空文庫>
  22. ・・・境内一帯に、簡素な雄勁な、同時に気品ある明るさというようなものが充満していた。建物と建物とを繋いだ直線の快適な落付きと、松葉の薫がいつとはなししみこんだような木地のままの太い木材から来る感銘とが、与って力あるのだ。 黄檗の建物としてはど・・・<宮本百合子「長崎の印象」青空文庫>
  23. ・・・事件の発展につれて登場しているいくたりかの男女は、それぞれに人間としての心のかぎりをつくして行動し、事件そのものに捲き込まれていながらも、同時に事件そのものを判断する関係におかれている。その過程が読むものの心にまた独特の反響をよびさましてゆ・・・<宮本百合子「文学と生活」青空文庫>
  24. ・・・改札口がぴしゃりと閉る。同時であった。藍子は二分のことで乗りおくれたのであった。それでも彼女は、「北條行もう出ましたか」と、改札口を去ろうとする駅員に念を押した。「出ました。この次は銚子行、七時二十分」 それは、旅行案内で藍・・・<宮本百合子「帆」青空文庫>
  25. ・・・日本の民主化の課題の複雑さは、われわれの生活に封建的なものがどっさりこびりついていながら、同時的に資本主義の悪徳にわずらわされているという現実の状態にある。日本の民主主義の道には、この二重の投影がある。したがって、日本での人間性の解放を具体・・・<宮本百合子「真夏の夜の夢」青空文庫>
  26. ・・・ 自分の心臓からとばしり出る血を絵の具にして尊い芸術を――不朽の芸術を完成して最後の一筆を加え終ると同時死んだ画家の気持をどの芸術家にでも持ってもらいたいと思う。 その画家が若かったか老いて居たかは私は知らないけれ共だれでもが生と死・・・<宮本百合子「無題(二)」青空文庫>
  27. ・・・しかも、それが同時的な人間の課題として、今日わたし共の前に提出されているのである。 日夜地球はめぐりつつあり、こうして、或るところでは重く汁気の多い果実が深い草の上に腐れ墜ち、或るところでは実らぬ実を風にもがれているけれども、豊富な人類・・・<宮本百合子「よもの眺め」青空文庫>
  28. ・・・未来派は心象のテンポに同時性を与える苦心に於て立体的な感覚を触発させ、従って立体派の要素を多分に含み、立体派は例えば川端康成氏の「短篇集」に於けるが如く、プロットの進行に時間観念を忘却させ、より自我の核心を把握して構成派的力学形式をとること・・・<横光利一「新感覚論」青空文庫>