どうして‐も例文一覧 43件

  1. ・・・が、お嬢さんの身の上を思うと、どうしてもじっとしてはいられません。そこでとうとう盗人のように、そっと家の中へ忍びこむと、早速この二階の戸口へ来て、さっきから透き見をしていたのです。 しかし透き見をすると言っても、何しろ鍵穴を覗くのですか・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・けれども折角そこまで来ていながら、そのまま引返すのはどうしてもいやでした。で、妹に帽子を脱がせて、それを砂の上に仰向けにおいて、衣物やタオルをその中に丸めこむと私たち三人は手をつなぎ合せて水の中にはいってゆきました。「ひきがしどいね」・・・<有島武郎「溺れかけた兄妹」青空文庫>
  3. ・・・私は自分の閲歴の上から、どうしても詩の将来を有望なものとは考えたくなかった。たまたまそれらの新運動にたずさわっている人々の作を、時おり手にする雑誌の上で読んでは、その詩の拙いことを心ひそかに喜んでいた。 散文の自由の国土! 何を書こうと・・・<石川啄木「弓町より」青空文庫>
  4. ・・・そうしてどうしても三回、必ずポストを周って見る。それが夜ででもあればだが、真昼中狂気染みた真似をするのであるから、さすがに世間が憚られる、人の見ぬ間を速疾くと思うのでその気苦労は一方ならなかった。かくてともかくにポストの三めぐりが済むとなお・・・<泉鏡花「おばけずきのいわれ少々と処女作」青空文庫>
  5. ・・・目のさきからじきに山すそに連続した、三、四里もある草木あるいは石の原などをひと目に見わたすと、すべての光景がどうしてもまぼろしのごとく感ずる。 予はふかくこの夢幻の感じに酔うて、河口湖畔の舟津へいでた。舟津の家なみや人のゆききや、馬のゆ・・・<伊藤左千夫「河口湖」青空文庫>
  6. ・・・もなくよろこび心をおちつけて油単の包をあらためて肩にかけながら、「私は越前福井の者でござりまするが先年二人の親に死に別れてしまったのでこの様な姿になりましたけれ共それがもうよっぽど時はすぎましたけれ共どうしてもなくなった二親の事が忘られない・・・<著:井原西鶴 訳:宮本百合子「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」青空文庫>
  7. ・・・「それがつらいのか?」「どうしても、疑わしいッて聴かないんだもの、癪にさわったから、みんな言っちまった――『あなたのお世話にゃならない』て」「それでいいじゃアないか?」「じゃア、向うがこれからのお世話は断わると言うんだが、い・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  8. ・・・が、どうしてもそれまで起きていられないので燈火の消える時刻を突留める事が出来なかった。或る晩、深夜に偶と眼が覚めて寝つかれないので、何心なく窓をあけて見ると、鴎外の書斎の裏窓はまだポッカリと明るかった。「先生マダ起きているな、」と眺めている・・・<内田魯庵「鴎外博士の追憶」青空文庫>
  9. ・・・しかしこの場を立ち上がって、あの倒れている女学生の所へ行って見るとか、それを介抱して遣るとかいう事は、どうしてもして遣りたくない。女房はこの出来事に体を縛り付けられて、手足も動かされなくなっているように、冷淡な心持をして、時の立つのを待って・・・<著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外「女の決闘」青空文庫>
  10. ・・・「私は、からだが、そう強いほうではないし、それに故郷は寒いんですから、帰りたくはないけれど、どうしても帰るようになるかもしれないのよ。」 ある日、先生は、こんなことをおっしゃいました。そのとき、年子は、どんなに驚いたでしょう。それよ・・・<小川未明「青い星の国へ」青空文庫>
  11. ・・・水ぎわには昼でも淡く水蒸気が見えるが、そのくせ向河岸の屋根でも壁でも濃くはっきりと目に映る。どうしてももう秋も末だ、冬空に近い。私は袷の襟を堅く合せた。「ねえ君、二三日待ちなせえよ。きっと送るから。」と船に乗り移る間ぎわにも、銭占屋はそ・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  12. ・・・ しかし、ふと女が素足にはいていた藁草履のみじめさを想いだすと、もう新吉は世間に引き戻されて情痴のにおいはにわかに薄らいでしまった。 どうしても会わねばならないと思いつめた女の一途さに、情痴のにおいを嗅ぐのは、昨日の感覚であり、今日・・・<織田作之助「郷愁」青空文庫>
  13. ・・・それでもどうしても云うことを聴かない奴は、懲 これがKの、西蔵のお伽噺――恐らくはKの創作であろう――というものであった。話上手のKから聴かされては、この噺は幾度聴かされても彼にはおもしろかった。「何と云って君はジタバタしたって、所・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  14. ・・・私は病気の故でその頃夜がどうしても眠れないのでした。その晩もとうとう寝床を起きてしまいまして、幸い月夜でもあり、旅館を出て、錯落とした松樹の影を踏みながら砂浜へ出て行きました。引きあげられた漁船や、地引網を捲く轆轤などが白い砂に鮮かな影をお・・・<梶井基次郎「Kの昇天」青空文庫>
  15. ・・・年、自分は美少年ではあったが、乱暴な傲慢な、喧嘩好きの少年、おまけに何時も級の一番を占めていて、試験の時は必らず最優等の成績を得る処から教員は自分の高慢が癪に触り、生徒は自分の圧制が癪に触り、自分にはどうしても人気が薄い。そこで衆人の心持は・・・<国木田独歩「画の悲み」青空文庫>
  16. ・・・しかし幸福説は道徳的意識の深みと先験性とをどうしても説明し得ない。それは量的に拡がり得るが質的のインテンシチイにおいてはなはだ足らず、心奥の神秘を探究するのにいかにも竿が短かい。幸福主義は必ず結果主義と結びつき、動機を重んずる人格主義と対立・・・<倉田百三「学生と教養」青空文庫>
  17. ・・・「道が、どうしても、」松木は息切れがして、つづけてものを云うことが出来なかった。「どうしても、分らないんであります。」「露助は、どうしてるんだ。」「はい。スメターニンは、」また息切れがした。「雪で見当がつかんというのであります。・・・<黒島伝治「渦巻ける烏の群」青空文庫>
  18. ・・・で、なかなか立派に見える中村が、客座にどっしりと構えて鷹揚にまださほどは居ぬ蚊を吾家から提げた大きな雅な団扇で緩く払いながら、逼らぬ気味合で眼のまわりに皺を湛えつつも、何か話すところは実に堂々として、どうしても兄分である。そしてまたこの家の・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  19.  誰よりも一番親孝行で、一番おとなしくて、何時でも学校のよく出来た健吉がこの世の中で一番恐ろしいことをやったという――だが、どうしても母親には納得がいかなかった。見廻りの途中、時々寄っては話し込んで行く赫ら顔の人の好い駐在所・・・<小林多喜二「争われない事実」青空文庫>
  20. ・・・「ああいうところは、どうしても次郎ちゃんだ。」 と、宿屋の亭主は快活に笑った。 ややもすれば兄をしのごうとするこの弟の子供を制えて、何を言われても黙って順っているような太郎の性質を延ばして行くということに、絶えず私は心を労しつづ・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  21. ・・・世間にはこの目標を目障りだと言って見まいとするものもあるが、自分にはどうしても見えると言う方が正直としか思われない。従って今のところ、もし私の知識で人生の理想標榜というようなものを立てよというなら、まずさしあたりこれを持って来る。人生の理想・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  22. ・・・なんの目的で河が流れているかは知れないが、どうしても目的がありそうである。この男等の生涯も単調な、疲労勝な労働、欲しいものがあっても得られない苦、物に反抗するような感情に富んでいるばかりで、気楽に休む時間や、面白く暮す時間は少ないのであるが・・・<著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外「鴉」青空文庫>
  23. ・・・王さまはその王女でなくてはどうしてもおいやなので、それなり今日までだれもおもらいにならないのでした。 ところが、今ウイリイの羽根を見てびっくりなすったのもそのはずです。羽根の中の画顔は王さまが今まで一日もお忘れになることが出来なかった、・・・<鈴木三重吉「黄金鳥」青空文庫>
  24. ・・・そしてどうしても遠ざかることが出来なかったのだわ。なんでもお前さんはその黒い目で、蛇が人を睨めるようにわたしを見ていて、わたしを化してしまったのだわ。今思って見ればわたしはお前さんにじりじり引き寄せられていたのだわ。両足を括って水に漬られて・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外「一人舞台」青空文庫>
  25. ・・・人は、生活に破れかけて来ると、どうしても何かの予言に、すがりつきたくなるものでございます。悲しいことでございます。その辻占は、あぶり出し式になって居ります。博士はマッチの火で、とろとろ辻占の紙を焙り、酔眼をかっと見ひらいて、注視しますと、は・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  26.  渠は歩き出した。 銃が重い、背嚢が重い、脚が重い、アルミニウム製の金椀が腰の剣に当たってカタカタと鳴る。その音が興奮した神経をおびただしく刺戟するので、幾度かそれを直してみたが、どうしても鳴る、カタカタと鳴る。もう厭になってしまっ・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  27. ・・・眼の中には異様な光がある。どうしても自分の心の内部に生活している人の眼である。」「彼が壇上に立つと聴衆はもうすぐに彼の力を感ずる。ドイツ語がわかる分らぬは問題でない。ともかくも力強く人に迫るある物を感ずる。」「重大な事柄を話そうとす・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  28. ・・・あるだけのものを、どうしても働かしてゆけない運命にできているの。私たちに比べると、世間の人はそれこそしゃあしゃあしたもんや。私なんかそばではらはらするようなことでも平気や」おひろは珍らしく気を吐いた。「いつ見ても何となしぱっとしないよう・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  29. ・・・いいながら自分に腹がたってくる。どうしてもこの男にバカにされてしまう。――用件というのは、東京の「前衛」社から高島貞喜がくるという通知を受けとったこと、その演説会と座談会をやるため、印刷工組合と友愛会支部とで出来ている熊本労働組合連合会の役・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  30. ・・・然らずば何となく気が急いて、出て行けがしにされるような僻みが起って、どうしても長く腰を落ち付けている事が出来ない。 これに反して停車場内の待合所は、最も自由で最も居心地よく、聊かの気兼ねもいらない無類上等の Caf である。耳の遠い髪の・・・<永井荷風「銀座」青空文庫>