どうじ‐に【同時に】例文一覧 48件

  1. ・・・と、――」 遠藤の言葉が終らない内に、もう魔法が始まるのでしょう。今まで明るかった二階の窓は、急にまっ暗になってしまいました。と同時に不思議な香の匂が、町の敷石にも滲みる程、どこからか静に漂って来ました。     四 そ・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・土下座せんばかりの母親の挨拶などに対しても、父は監督に対すると同時に厳格な態度を見せて、やおら靴を脱ぎ捨てると、自分の設計で建て上げた座敷にとおって、洋服のままきちんと囲炉裡の横座にすわった。そして眼鏡をはずす間もなく、両手を顔にあてて、下・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  3. ・・・気の利いたような、そして同時に勇往果敢な、不屈不撓なような顔附をして、冷然と美しい娘や職工共を見ている。へん。お前達の前にすわっている己様を誰だと思う。この間町じゅうで大評判をした、あの禽獣のような悪行を働いた罪人が、きょう法律の宣告に依っ・・・<著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外「罪人」青空文庫>
  4. ・・・そういう心持は、自分自身のその現在に全く没頭しているのであるから、世の中にこれ位性急な(同時に、石鹸玉心持はない。……そういう心持が、善いとも、又、悪いとも言うのではない。が、そういう心持になった際に、当然気が付かなければならないところの、・・・<石川啄木「性急な思想」青空文庫>
  5. ・・・ あッという声がして、女中が襖をと思うに似ず、寂莫として、ただ夫人のものいうと響くのが、ぶるぶると耳について、一筋ずつ髪の毛を伝うて動いて、人事不省ならんとする、瞬間に異ならず。 同時に真直に立った足許に、なめし皮の樺色の靴、宿を欺・・・<泉鏡花「伊勢之巻」青空文庫>
  6. ・・・よいあんばいだなと思う心と、失望みたような心が同時にわく。湯は明いてますからとお袋がいうままに省作は風呂場へゆく。風呂はとろとろ火ながら、ちいちいと音がしてる。蓆蓋を除けて見ると垢臭い。随分多勢はいったと見える。省作は取りあえずはいる。はい・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  7. ・・・かしらをあげると、井筒屋は大景気で、三味の音がすると同時に、吉弥のうわ気な歌声がはッきりと聴えて来た。僕は青木の顔と先刻車から出た時の親夫婦の姿とを思い浮べた。     一一 その夜はまんじりとも眠れなかった。三味の音が浪の・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  8. ・・・が、伊藤八兵衛の智嚢として円転滑脱な才気を存分に振ったにしろ、根が町人よりは長袖を望んだ風流人肌で、算盤を持つのが本領でなかったから、維新の変革で油会所を閉じると同時に伊藤と手を分ち、淡島屋をも去って全く新らしい生活に入った。これからが満幅・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  9. ・・・とあれば、天国とは人の心の福なる状態であると云う、人類の審判に関わるイエスの大説教(馬太伝二十四章・馬可は是猶太思想の遺物なりと称して、之を以てイエスの熱心を賞揚すると同時に彼の思想の未だ猶太思想の旧套を脱卻する能わざりしを憐む、彼等は神の・・・<内村鑑三「聖書の読方」青空文庫>
  10. ・・・それと同時に草原を物狂わしく走っていた間感じていた、旨く復讐をし遂げたという喜も、次第に詰まらぬものになって来た。丁度向うで女学生の頸の創から血が流れて出るように、胸に満ちていた喜が逃げてしまうのである。「これで敵を討った」と思って、物に追・・・<著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外「女の決闘」青空文庫>
  11. ・・・それと同時に、ブーンといって、バイオリンの糸の鳴り音がきこえたのであります。 少年は、はっと心に思いました。なぜならその音色は、きき覚えのあるなつかしい音色でありましたからです。 もうすこしのことに、気づかずに通り過ぎようとしました・・・<小川未明「海のかなた」青空文庫>
  12. ・・・ほっとしたが、同時に夜が心配になりだした。夜になれば、また雨戸が閉って、あの重く濁った空気を一晩中吸わねばならぬのかと思うと、痩せた胸のあたりがなんとなく心細い。たまらなかった。 夜雨戸を閉めるのはいずれ女中の役目だろう故、まえもってそ・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  13. ・・・ 併し食わなければならぬという事が、人間から好い感興性を奪い去ると同時に悪い感興性の弾力をも奪い取って了うのだ。そして穴のあいたゴム鞠にして了うのだ――「そうだ、感興性を失った芸術家の生活なんて、それは百姓よりも車夫よりもまたもっと悪い・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  14. ・・・これと同時に、脚や足の甲がむくむくと浮腫みを増して来ました。そして、病人は肝臓がはれ出して痛むと言います。これは医師が早くから気にしていたことで、その肝臓が痛み出しては、いよいよこれでお仕舞だと思いましたが、注射をしてからは少し痛みが楽に成・・・<梶井久「臨終まで」青空文庫>
  15. ・・・彼らはは入って来ると同時にウエイトレスの方へ色っぽい眼つきを送りながら青年達の横のテーブルへ坐った。彼らの眼は一度でも青年達の方を見るのでもなければ、お互いに見交わすというのでもなく、絶えず笑顔を作って女の方へ向いていた。「ポーリンさん・・・<梶井基次郎「ある崖上の感情」青空文庫>
  16. ・・・ 元来志村は自分よりか歳も兄、級も一年上であったが、自分は学力優等というので自分のいる級と志村のいる級とを同時にやるべく校長から特別の処置をせられるので自然志村は自分の競争者となっていた。 然るに全校の人気、校長教員を始め何百の生徒・・・<国木田独歩「画の悲み」青空文庫>
  17. ・・・健康なる青年にあってはその性慾の目ざめと同時に、その倫理的感覚が呼びさまされ、恋愛と正義とがひとつに融かされて要請されるものである。 さてかような倫理的要請は必ず倫理学という学に向かうとは限らない。一般に科学というものを知らなかった上古・・・<倉田百三「学生と教養」青空文庫>
  18. ・・・ 必死の、鋭い、号泣と叫喚が同時に、老人の全身から溢れた。それは、圧迫せられた意気の揚らない老人が発する声とはまるで反対な、力のある、反抗的な声だった。彼は「何をするのだ! 俺がどうして斬られるようなことをしたんだ!」と、叫んでいるよう・・・<黒島伝治「穴」青空文庫>
  19. ・・・その別に取立てて云うほどの何があるでも無い眼を見て、初めて夫がホントに帰って来たような気がし、そしてまた自分がこの人の家内であり、半身であると無意識的に感じると同時に、吾が身が夫の身のまわりに附いてまわって夫を扱い、衣類を着換えさせてやった・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  20. ・・・今後、幾百年かの星霜をへて、文明はますます進歩し、物質的には公衆衛生の知識がいよいよ発達し、一切の公共の設備が安固なのはもとより、各個人の衣食住もきわめて高等・完全の域に達すると同時に、精神的にもつねに平和・安楽であって、種々の憂悲・苦労の・・・<幸徳秋水「死刑の前」青空文庫>
  21. ・・・という気持を同時に感じた。相手が出ぬ前、受話機をかけてしまうかと思い、ためらった、がその時電話口にSの妹が出た。Sはいなかった。彼はがっかりした。今晩はまただめになったと思った。 本屋を出たとき龍介は、ギョッとした。――恵子だ! 明るい・・・<小林多喜二「雪の夜」青空文庫>
  22. ・・・兄弟であって、同時に競争者――それは二人の子供に取って避けがたいことのように見えた。なるべく思い思いの道を取らせたい。その意味から言っても、私は二人の子供を引き離したかった。「次郎ちゃん、おもしろい話があるんだが、お前はそれを聞いてくれ・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  23. ・・・けれども同時にその源が神秘なものでも荘厳なものでもなくなって、第一義真理の魅力を失い、崇拝にも憧憬にも当たらなくなってしまう。四 知識で押して行けば普通道徳が一の方便になるとともに、その根柢に自己の生を愛するという積極的な目・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  24. ・・・それと同時に胸に一ぱい息を溜めた。そしてその息を唇から外へ洩らすまいとしたが、とうとう力のないうめきになって洩れた。そのうめきのうちに早口に囁くような詞が聞えた。「いやだ、いやだ。」そして両手を隠しから出した。幅の広い鉄で鍛えたような鍛冶職・・・<著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外「鴉」青空文庫>
  25. ・・・ 或人は、電車で神田神保町のとおりを走っているところへ、がたがたと来て、電車はどかんととまる、びっくりしてとび下りると同時に、片がわの雑貨店の洋館がずしんと目のまえにたおれる、そちこちで、はりさけるような女のさけび声がする、それから先は・・・<鈴木三重吉「大震火災記」青空文庫>
  26. ・・・耳を澄まして注意をしていると、夏になると同時に、虫が鳴いているのだし、庭に気をくばって見ていると、桔梗の花も、夏になるとすぐ咲いているのを発見するし、蜻蛉だって、もともと夏の虫なんだし、柿も夏のうちにちゃんと実を結んでいるのだ。 秋は、・・・<太宰治「ア、秋」青空文庫>
  27. ・・・ そう思うと同時に、平生の傲慢が萌す。幸な事には、いつまでもこんな事をする必要がない。出来たからって、えらがるのは、沙汰の限りだ。こう思うと、頗る愉快になって来た。 その時銀行員は戸を叩いた。ポルジイは這入らせはしたが、ちょっと誰だ・・・<著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外「世界漫遊」青空文庫>
  28. ・・・ところが押しつけられるようで、不愉快で不愉快でしかたがない。ややともすると胸がむかつきそうになる。不安の念がすさまじい力で全身を襲った。と同時に、恐ろしい動揺がまた始まって、耳からも頭からも、種々の声が囁いてくる。この前にもこうした不安はあ・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  29. ・・・無論同時に秘密警察署へも報告をいたしまして、私立探偵事務所二箇所へ知らせましたそうで。」「なるほど。シエロック・ホルムス先生に知らせたのだね。」 門番はおれの顔を見た。その見かたは慇懃ではあるが、変に思っているという見かたであった。・・・<著:ディモフオシップ 訳:森鴎外「襟」青空文庫>
  30. ・・・こういう物の運動に関係した問題に触れ初めると同時に、今までそっとしておいた力学の急所がそろそろ痛みを感ずるようになって来た。ロレンツのごとき優れた老大家は疾くからこの問題に手を附けて、色々な矛盾の痛みを局部的の手術で治療しようとして骨折って・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>