とう‐すい〔タウ‐〕【陶酔】例文一覧 30件

  1. ・・・しかしそれは一個の自己陶酔、自己慰藉にすぎないことを知った。 ただし第三階級に踏みとどまらざるをえないにしても、そこにはおのずからまた二つの態度が考えられる。踏みとどまる以上は、極力その階級を擁護するために力を尽くすか、またはそうはしな・・・<有島武郎「想片」青空文庫>
  2. ・・・が、顔を見るとウンザリしてもその声に陶酔した気持は忘れられないと見えて、その後も時々垣根の外へ聞きに行ったらしかった。『平凡』の一節に「新内でも清元でも上手の歌うのを聞いてると、何だかこう国民の精粋というようなものが髣髴としてイキな声や微妙・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  3. ・・・極端に言えば、旧文化に安住している人々には、又その時代の感情に陶酔し、享楽している人々には、ほんとうの意味の詩はない筈である。 子守唄は子供を寝かしつけるための歌であり、又舟乗りの唄は、舟をこぐ苦労を忘れるための歌であり、糸とりの唄はた・・・<小川未明「詩の精神は移動す」青空文庫>
  4. ・・・ 感激した。陶酔した。実に良かった、という外よりはない。既にして場内アナウンスの少女の声が、美しく神秘的である。それが終ると、場内にはにわかに黄昏の色が忍び込んで、鮮かな美しさだ。天井に映された太陽が西へ傾き、落ちると、大阪の夜の空が浮・・・<織田作之助「星の劇場」青空文庫>
  5. ・・・窓のなかの二人はまるで彼の呼吸を呼吸しているようであり、彼はまた二人の呼吸を呼吸しているようである、そのときの恍惚とした心の陶酔を思い出していた。「それに比べて」と彼は考え続けた。「俺が彼女に対しているときはどうであろう。俺はまるで・・・<梶井基次郎「ある崖上の感情」青空文庫>
  6. ・・・恋愛の陶酔から入って、それからさめて、甘い世界から、親としてのまじめな養育、教育のつとめに移って行く。スイートホームというけれども、恋愛の甘さではなく、こうなってから初めて夫婦愛が生まれてくる。子どもを可愛がる夫婦というのはよそ目にも美しく・・・<倉田百三「愛の問題(夫婦愛)」青空文庫>
  7. ・・・心境未だし、デッサン不正確なり、甘し、ひとり合点なり、文章粗雑、きめ荒し、生活無し、不潔なり、不遜なり、教養なし、思想不鮮明なり、俗の野心つよし、にせものなり、誇張多し、精神軽佻浮薄なり、自己陶酔に過ぎず、衒気、おっちょこちょい、気障なり、・・・<太宰治「風の便り」青空文庫>
  8. ・・・「芸術的」陶酔をやめなければならぬ。始めから終りまで「優秀場面」の連続で、そうして全体が、ぐんなりしている。「重慶から来た男」のほうは、これとは、まるで反対であった。およそ「芸術的」でない。優秀場面なんて一つもない。ひどく皆うろたえて走り廻・・・<太宰治「芸術ぎらい」青空文庫>
  9. ・・・しかし、そういう陶酔も瞬時に破れた。私はふたたび驚愕の眼を見はったのである。青葉の下には、水を打った砂利道が涼しげに敷かれていて、白いよそおいをした瞳の青い人間たちが、流れるようにぞろぞろ歩いている。まばゆい鳥の羽を頭につけた女もいた。蛇の・・・<太宰治「猿ヶ島」青空文庫>
  10. ・・・ 回教徒が三十日もの間毎日十二時間の断食をして、そうして自分の用事などは放擲して礼拝三昧の陶酔的生活をする。こういう生活は少なくとも大多数の日本の都人士には到底了解のできない不思議な生活である。 ベナレスの聖地で難行苦行を生涯の唯一・・・<寺田寅彦「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」青空文庫>
  11. ・・・禁欲主義者自身の中でさえその禁欲主義哲学に陶酔の結果年の若いに自殺したローマの詩人哲学者もあるくらいである。映画や小説の芸術に酔うて盗賊や放火をする少年もあれば、外来哲学思想に酩酊して世を騒がせ生命を捨てるものも少なくない。宗教類似の信仰に・・・<寺田寅彦「コーヒー哲学序説」青空文庫>
  12. ・・・そうして付け焼き刃の文明に陶酔した人間はもうすっかり天然の支配に成功したとのみ思い上がって所きらわず薄弱な家を立て連ね、そうして枕を高くしてきたるべき審判の日をうかうかと待っていたのではないかという疑いも起こし得られる。もっともこれは単なる・・・<寺田寅彦「天災と国防」青空文庫>
  13. ・・・ 字を書くことの上手な人はこういう機会に存分に筆を揮って、自分の筆端からほとばしり出る曲折自在な線の美に陶酔する事もあろうが、彼のごとき生来の悪筆ではそれだけの代償はないから、全然お勤めの機械的労働であると思われる上に、自分の悪筆に対す・・・<寺田寅彦「年賀状」青空文庫>
  14. ・・・     九 短歌には作者自身が自分の感情に陶酔して夢中になって詠んだように見えるのがかなり多い。しかし俳句ではたとえ形式の上からは自分の感情を直写しているようでも、そこではやはり、その自分の感情が花鳥風月と同様な一つの対象・・・<寺田寅彦「俳諧瑣談」青空文庫>
  15. ・・・ パール・バックは、文明の新しさに自分から陶酔している状態としてみているらしいけれども、客観的に世界の歴史の進んできた足どりからみれば、これはアメリカの世界最大の資本主義がもたらしている人間の悲劇です。 本当の知的生活が多くのアメリ・・・<宮本百合子「アメリカ文化の問題」青空文庫>
  16. ・・・ どうしても、偏狭や妥協、自己陶酔があると思う。一般的に気質の傾向が感情的だとされる女性にとって、これは有勝な事で、又恐ろしい事であると思わずにはいられない。 ひとむきは決して悪くはないであろう。しとやかな謙譲は褒むべき事であろう。・・・<宮本百合子「概念と心其もの」青空文庫>
  17. ・・・ 軋むような、しかも陶酔して弾かれているような旋律の細かく高いヴァイオリンの音につつみこまれた感じで、夜の一時頃ヴォージラールのホテルへ帰って来た。いつもは十二時過ると扉もおとなしく片開きにしてある入口が、今夜はさあっと開いたままで、煌・・・<宮本百合子「十四日祭の夜」青空文庫>
  18. ・・・未開なバリ島の性の祭典には、けがされない性の陶酔があり、主人公のところに東京のひきさかれた生存の頽廃があるというコントラストだけがとらえられても、従属させられている男女の社会生活におけるヒューマニティーの課題はこたえられきれない。 ・・・<宮本百合子「傷だらけの足」青空文庫>
  19. ・・・ 我々近代人を陶酔させる力はこれだ!』という工合にね。これは工場へ舞い込んでびっくりしているインテリゲンツィアの生産に対する異国趣味だ。労働者なら機械を見たとき、その機械に対するもっと異った注意や愛情、自分の道具としてそれを動かすプロレタリ・・・<宮本百合子「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」青空文庫>
  20. ・・・自己陶酔と独善にうるさい覚醒をもとめてやまない近代精神、理性へのよび声そのものが、この種類の作家たちには気にそまない軽蔑すべきことであるのだろう。 過去三年の間、戦争に協力したという事情から消極な生活にあった作家群が、一九四九年に入って・・・<宮本百合子「五〇年代の文学とそこにある問題」青空文庫>
  21. ・・・ けれども、其なら彼はその耽美の塔に立て籠って、夕栄の雲のような夢幻に陶酔していると云うのだろうか、私は単純に、夢の宮殿を捧げて仕舞えない心持がする。夢で美を見るのと、醒めて美を見ると違うのに彼はおきているのだ。起きていて、心が彼方まで・・・<宮本百合子「最近悦ばれているものから」青空文庫>
  22. ・・・自分は飽食し、安穏に良人と召使とにかしずかれ、眉をかいた細君が、一種の自己陶酔の中で高々とうたい上げる祝詞のような皇軍の歌のかげに、生きて、食っているもののいいようのない脂のこさ、残酷さを感じる心は、決して銃後の女のまじめさと心やさしさに反・・・<宮本百合子「祭日ならざる日々」青空文庫>
  23. ・・・語りつつ彼の心に起る陶酔は、言葉にいつか装飾を加え、その興奮の快さは我を忘れさせます。其処で、智的で洗練された情緒の所有者である米国の女性は、正当に伸張された法律的、政治的権利を保有して、健全な美くしい肉体と倶に、総ての国家的文明に貢献して・・・<宮本百合子「C先生への手紙」青空文庫>
  24. ・・・紫式部は決して、優にやさし、というふぜいの中に陶酔していなかった。 藤原時代の栄華の土台をなした荘園制度――不在地主の経済均衡が崩れて、領地の直接の支配者をしていた地頭とか荘園の主とかいうものが土地争いを始めた。その争いに今ならば暴力団・・・<宮本百合子「女性の歴史」青空文庫>
  25. ・・・年ごろからヒューマニズムの声があり、遅々として発展の困難を示しているが、日本におけるこのヒューマニズムの理解、把握の内部には、さきに述べたような要因と並んで封建時代の文学を支配していた人情、自己放棄の陶酔感などの尾が脈々と絡みついていて、一・・・<宮本百合子「全体主義への吟味」青空文庫>
  26. ・・・小市民の中にある客観的な、自己陶酔でない、歴史とともに前進してゆく進歩性、つまりブルジョア・リアリズムを着実な生成の過程で発展させてゆこうとする進歩性が、社会と芸術の前衛たりうるのではないでしょうか。前衛という言葉の意味は、歴史性のなかでま・・・<宮本百合子「第一回日本アンデパンダン展批評」青空文庫>
  27. ・・・曾ては彼があれほども徹した生活の感覚化への陶酔が、彼にあっては終に自身の高き悟性故に自縛の綱となった。それが彼の残した大いなる苦悶であった。此の潜める生来の彼の高貴な稟性は、終に彼の文学から我が文学史上に於て曾て何者も現し得なかった智的感覚・・・<横光利一「新感覚論」青空文庫>
  28. ・・・がこの場合、美の陶酔に自己の安んずる場所を認めるとすれば、それは右の諸種の道と異なった一つの特殊な道である。ここでは美への関心が善への関心の上に置かれる。そうしてあの苦しみが強ければ強いほど、この安心の方法もまたその意味を深めるのである。・・・<和辻哲郎「享楽人」青空文庫>
  29. ・・・そうしてその肉感的な陶酔を神への奉仕であると信じている。さらにはなはだしいのは神前にささげる閹人の踊りである。閹人たちは踊りが高潮に達した時に小刀をもって腕や腿を傷つける。そうして血みどろになって猛烈に踊り続ける。それを見まもる者はその血の・・・<和辻哲郎「『偶像再興』序言」青空文庫>
  30. ・・・ 音楽に陶酔した彼らは、時々うっとりとした眼をあげて、あの神々しい偶像をながめる。彼らはもう自分自身のことなどを意識しない。彼らの心は偶像の内に融け入り、ただ無限の感謝と祝福との内に、強烈な光燿と全心の軽快とを経験するのである。――実際・・・<和辻哲郎「偶像崇拝の心理」青空文庫>