とう‐ぜん〔タウ‐〕【当然】例文一覧 36件

  1. ・・・彼等が復讐の挙を果して以来、江戸中に仇討が流行した所で、それはもとより彼の良心と風馬牛なのが当然である。しかし、それにも関らず、彼の心からは、今までの春の温もりが、幾分か減却したような感じがあった。 事実を云えば、その時の彼は、単に自分・・・<芥川竜之介「或日の大石内蔵助」青空文庫>
  2. ・・・まして父がそううたぐるのは当然なことだ。彼はすぐ注意して父を見た。その眼は明らかに猜疑の光を含んで、鋭く矢部の眼をまともに見やっていた。 最後の白兵戦になったと彼は思った。 もう夕食時はとうに過ぎ去っていたが、父は例の一徹からそんな・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  3. ・・・むしろ当然敵とすべき者に服従した結果なのである。彼らはじつにいっさいの人間の活動を白眼をもって見るごとく、強権の存在に対してもまたまったく没交渉なのである――それだけ絶望的なのである。 かくて魚住氏のいわゆる共通の怨敵が実際において存在・・・<石川啄木「時代閉塞の現状」青空文庫>
  4. ・・・このくらいな事は当然で。 対の蒲団を、とんとんと小形の長火鉢の内側へ直して、「さ、さ、貴女。」 と自分は退いて、「いざまず……これへ。」と口も気もともに軽い、が、起居が石臼を引摺るように、どしどしする。――ああ、無理はない、・・・<泉鏡花「売色鴨南蛮」青空文庫>
  5. ・・・ そりゃ境遇が違えば、したがって心持ちも違うのが当然じゃと、無造作に解決しておけばそれまでであるけれど、僕らはそれをいま少し深く考えてみたいのだ。いちじるしき境遇の相違は、とうていくまなくあい解することはできないにしても、なるべくは解し・・・<伊藤左千夫「去年」青空文庫>
  6. ・・・かつ淡島屋の身代は先代が作ったので、椿岳は天下の伊藤八兵衛の幕僚であっても、身代を作るよりは減らす方が上手で、養家の身代を少しも伸ばさなかったから、こういう破目となると自然淡島屋を遠ざかるのが当然であって、維新後は互に往来していても家族的関・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  7. ・・・斯くの如き批評や作品に人を動かす力の足らないのは当然である。既に形式的に出来上っているところの主義の為めの作物、主義の為めの批評と云うものは、虚心平気で、自己対自然の時に感じた真面目な感じとは是非区別されるものと思う。 よく真面目と云う・・・<小川未明「動く絵と新しき夢幻」青空文庫>
  8. ・・・ もうひとつ、私の部屋の雨戸をあけるとすれば、当然隣りの部屋もそうしなくてはならない。それ故、一応隣室の諒解を求める必要がある。けれど、隣室の人たちはたぶん雨戸をあけるのを好まないだろう。 すっかり心が重くなってしまった。 夕暮・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  9. ・・・やがて、当然、彼の頭の中に、これを送った処のYという人間が浮んで来た。あの明確な頭脳の、旺盛な精力の、如何なる運命をも肯定して驀地らに未来の目標に向って突進しようという勇敢な人道主義者――、常に異常な注意力と打算力とを以て自己の周囲を視廻し・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  10. ・・・私は引受けた以上は病人のために医師を探してやるのが当然でもあり、またこれが最後となっては心残りだからと言って、弟を出してやりました。 陰うつな暫時が過ぎてゆきました。其処へ弟が汗ばんだ顔で帰って来て「基ちゃん、貰って来たぜ、市営住宅で探・・・<梶井久「臨終まで」青空文庫>
  11. ・・・苗字のないという子がいるので聞いてみると木樵の子だからと言って村の人は当然な顔をしている。小学校には生徒から名前の呼び棄てにされている、薫という村長の娘が教師をしていた。まだそれが十六七の年頃だった。―― 北牟婁はそんな所であった。峻は・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  12. ・・・無いのが当然で、かく申す自分すら、自分の身が流れ流れて思いもかけぬこの島でこんな暮を為るとは夢にも思わなかったこと。 噂をすれば影とやらで、ひょっくり自分が現われたなら、升屋の老人喫驚りして開いた口がふさがらぬかも知れない。「いったい君・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  13. ・・・この天与の性的要求の自由性と、人間生活の理想との間に矛盾が起こるのはむしろ当然のことである。この際自由の抑制、すなわち善というわけにいかぬものがある。 この男性にあらわれる生活精力上、審美上、優生学上の天然の意志については、婦人は簡単に・・・<倉田百三「愛の問題(夫婦愛)」青空文庫>
  14.  いろ/\なものを読んで忘れ、また、読んで忘れ、しょっちゅう、それを繰りかえして、自分の身についたものは、その中の、何十分の一にしかあたらない。僕はそんな気がしている。がそれは当然らしい。中には、毒になるものがあるし、また、・・・<黒島伝治「愛読した本と作家から」青空文庫>
  15. ・・・という細君の言葉は差当って理の当然なので、主人は落胆したという調子で、「アア諦めるよりほか仕方が無いかナア。アアアア、物の命数には限りがあるものだナア。」と悵然として嘆じた。 細君はいつにない主人が余りの未練さをやや訝りなが・・・<幸田露伴「太郎坊」青空文庫>
  16. ・・・その二、三をあげれば、天寿をまっとうして死ぬのでなく、すなわち、自然に老衰して死ぬのでなくして、病疾その他の原因から夭折し、当然うけるであろう、味わうであろう生を、うけえず、味わいえないのをおそれるのである。来世の迷信から、その妻子・眷属に・・・<幸徳秋水「死刑の前」青空文庫>
  17. ・・・かなり魅惑のある恵子が、カフェーの女であるということから受ける当然の事について気をもみだした、それが最初であった。彼はそういう女がいろいろゆがんだ筋道を通ってゆきがちなのを知っていた。その考えが少しでも好意を感じている恵子に来たとき、「ちょ・・・<小林多喜二「雪の夜」青空文庫>
  18. ・・・らぬ女を説くは知力金力権力腕力この四つを除けて他に求むべき道はござらねど権力腕力は拙い極度、成るが早いは金力と申す条まず積ってもごろうじろわれ金をもって自由を買えば彼また金をもって自由を買いたいは理の当然されば男傾城と申すもござるなり見渡す・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  19. ・・・しかしこの思想を一の人生観として取り上げる時、そこに当然消極か積極かという問題が起こり来たらざるを得ないことは、すでにヨーロッパの論者が言っている通りである。而してその当然の解釈が、信ぜず従わずをもって単なる現状の告白とせず、進んでこれを積・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  20. ・・・早稲田界隈の親分を思いがけなく迎えて、当然、呑むべきだと思っているらしい気配なのだ。 私は井伏さんの顔を見た。皆に囲まれて籐椅子に坐って、ああ、あのときの井伏さんの不安の表情。私は忘れることが出来ない。それから、どうなったか、私には、正・・・<太宰治「『井伏鱒二選集』後記」青空文庫>
  21. ・・・尤も彼のような根本的に新しい仕事に参考になる文献の数は比較的極めて少数である事は当然である。いわゆるオーソリティは彼自身の頭蓋骨以外にはどこにも居ないのである。 彼の日常生活はおそらく質素なものであろう。学者の中に折々見受けるような金銭・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  22. ・・・義姉自身の意志が多くそれに働いていたということは、多少不快に思われないことはないにしても、義姉自身の立場からいえば、それは当然すぎるほど当然のことであった。ただ私の父の血が絶えるということが私自身にはどうでもいいことであるにしても、私たちの・・・<徳田秋声「蒼白い月」青空文庫>
  23. ・・・されば現代の人が過去の東洋文学を顧ぬようになるに従って梅花の閑却されるのは当然の事であろう。啻に梅花のみではない。現代の日本人は祖国に生ずる草木の凡てに対して、過去の日本人の持っていたほどの興味を持たないようになった。わたくしは政治もしくは・・・<永井荷風「葛飾土産」青空文庫>
  24. ・・・それより猶お女のつれないということが彼には当然のことなのでそれを格別不足に思うということはなくなって居たのである。女房とすら彼は余所目には打ち解けなかった。朝夕顔を見合わす間柄はそんなに追従いうことの出来ないのは当然である。だが其兄とさえ昵・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  25. ・・・四千万の愚物と天下を罵った彼も住家には閉口したと見えて、その愚物の中に当然勘定せらるべき妻君へ向けて委細を報知してその意向を確めた。細君の答に「御申越の借家は二軒共不都合もなき様被存候えば私倫敦へ上り候迄双方共御明け置願度若し又それ迄に取極・・・<夏目漱石「カーライル博物館」青空文庫>
  26. ・・・理においてはいかにも当然である、私もそれを否定するだけの自信も有ち得なかった。しかしそれに関らず私は何となく乾燥無味な数学に一生を托する気にもなれなかった。自己の能力を疑いつつも、遂に哲学に定めてしまった。四高の学生時代というのは、私の生涯・・・<西田幾多郎「或教授の退職の辞」青空文庫>
  27. ・・・その哲学する精神を欠いた日本の詩人や文学者にとつて、ニイチェが不可解なのは当然と言はねばならぬ。日本の詩人や文学者は、動物のやうに感覚がよく発育して居る。どんな深遠な美の秘密でさへも、いやしくも感覚される限りに於て、すぐに本質を嗅ぎつけてし・・・<萩原朔太郎「ニイチェに就いての雑感」青空文庫>
  28. ・・・私は蛞蝓に会う前から、私の知らない間から、――こいつ等は俺を附けて来たんじゃないかな―― だが、私は、用心するしないに拘らず、当然、支払っただけの金額に値するだけのものは見得ることになった。私の目から火も出なかった。二人は南京街の方へと・・・<葉山嘉樹「淫賣婦」青空文庫>
  29. ・・・誰がお客でないと言ッたんだよ。当然なことをお言いでない」と、吉里は障子を開けて室内に入ッて、後をぴッしゃり手荒く閉めた。「どうしたの。また疳癪を発しておいでだね」 次の間の長火鉢で燗をしながら吉里へ声をかけたのは、小万と呼び当楼のお・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  30. ・・・養子は養家を我家とし嫁は夫の家を我家とす。当然のことにして、又その家の貧富貴賤、その人の才不才徳不徳、その身の強弱、その容貌の醜美に至るまで、篤と吟味するは都て結婚の約束前に在り。裏に表に手を尽して吟味に吟味を重ね、双方共に是れならばと決断・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>