どう‐ぜん【同然】例文一覧 30件

  1. ・・・と云って兵衛が生きたにせよ、彼自身が命を墜したら、やはり永年の艱難は水泡に帰すのも同然であった。彼はついに枕を噛みながら、彼自身の快癒を祈ると共に、併せて敵瀬沼兵衛の快癒も祈らざるを得なかった。 が、運命は飽くまでも、田岡甚太夫に刻薄で・・・<芥川竜之介「或敵打の話」青空文庫>
  2. ・・・こう云う粟野さんに芸術のないのは犬に草のないのも同然であろう。しかし保吉に芸術のないのは驢馬に草のないのも同然である。六十何銭かは堀川保吉に精神的饑渇の苦痛を与えた。けれども粟野廉太郎には何の痛痒をも与えないであろう。「堀川君。」 ・・・<芥川竜之介「十円札」青空文庫>
  3. ・・・ 前垂掛――そう、髪もいぼじり巻同然で、紺の筒袖で台所を手伝いながら――そう、すなわち前に言った、浜町の鳥料理の頃、鴾氏に誘われて四五度出掛けた。お妻が、わが信也氏を知ったというはそこなのである。が、とりなりも右の通りで、ばあや、同様、・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  4. ・・・それ、貴下から預かっているも同然な品なんだから、出入れには、自然、指垢、手擦、つい汚れがちにもなりやしょうで、見せぬと言えば喧嘩になる……弱るの何んの。そこで先ず、貸したように、預けたように、余所の蔵に秘ってありますわ。ところが、それ。」・・・<泉鏡花「国貞えがく」青空文庫>
  5. ・・・人間が見て、俺たちを黒いと云うと同一かい、別して今来た親仁などは、鉄棒同然、腕に、火の舌を搦めて吹いて、右の不思議な花を微塵にしょうと苛っておるわ。野暮めがな。はて、見ていれば綺麗なものを、仇花なりとも美しく咲かしておけば可い事よ。三の・・・<泉鏡花「紅玉」青空文庫>
  6. ・・・夏この滝の繁昌な時分はかえって貴方、邪魔もので本宅の方へ参っております、秋からはこうやって棄てられたも同然、私も姨捨山に居ります気で巣守をしますのでざいましてね、いいえ、愚痴なことを申上げますのではございませんが、お米もそこを不便だと思って・・・<泉鏡花「政談十二社」青空文庫>
  7. ・・・三方崩れかかった窪地の、どこが境というほどの杭一つあるのでなく、折朽ちた古卒都婆は、黍殻同然に薙伏して、薄暗いと白骨に紛れよう。石碑も、石塔も、倒れたり、のめったり、台に据っているのはほとんどない。それさえ十ウの八つ九つまでは、ほとんど草が・・・<泉鏡花「燈明之巻」青空文庫>
  8. ・・・ ただくたばりそこねた者が帰って来て、その味が甘かったとか、辛かったとか云うて、えらそうに吹聴するのや、僕等は丸で耻さらしに帰って来たんも同然やないか?」「そう云やア、僕等は一言も口嘴をさしはさむ権利はない、さ」「まァ、死にそこねた・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  9. ・・・あたかも疾病の襲うところとなりて人の健康がわかると同然であります。平常のときには弱い人も強い人と違いません。疾病に罹って弱い人は斃れて強い人は存るのであります。そのごとく真に強い国は国難に遭遇して亡びないのであります。その兵は敗れ、その財は・・・<内村鑑三「デンマルク国の話」青空文庫>
  10. ・・・はじめから死んでいるも同然な街の建物や、人間などの造った家や、堤防やいっさいのものは、打衝っていっても、ほんとうに死んでいるのだから張り合いがない。そこへいくと、おまえたちや、海などは、生きているのだから、俺が打衝ってゆくと叫びもするし、ま・・・<小川未明「明るき世界へ」青空文庫>
  11. ・・・「枯れたのも同然のものだが、まだすこしばかり命があるらしい。私の丹誠で助けたいと思っている。」と、おじいさんは答えました。 こうしたやさしいおじいさんでありますから、小さいもの、弱いものに対して、平常からしんせつでありました。「・・・<小川未明「おじいさんが捨てたら」青空文庫>
  12. ・・・おまえさんは無神経も同然だからいいが、私は困る。」と、顔をしかめて不賛成をとなえだした。 電信柱は、背を二重にして腰をかがめていたが、「そんなら、いいことが思いあたった。おまえさんは身体が小さいから、どうだね、町の屋根を歩いたら、私・・・<小川未明「電信柱と妙な男」青空文庫>
  13. ・・・文子は女中と二人暮しでもう寝ていましたが、表の戸を敲く音を旦那だと思って明けたところ、まるで乞食同然の姿をした男がしょぼんと立っていたので、びっくりしたようでした。しかし、やっと私だということが判ると、やはりなつかしそうに上げてくれました。・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  14. ・・・一つには、毎夜徹夜同然な生活をしているので、起きて食事を済まして、煙草を吸っているうちに、もう郵便局の時間がたってしまう。前の晩に頼めばいいというものの、彼は仕事に夢中でそんなことは忘れている。では、昼間食事の時に頼めばよいということになる・・・<織田作之助「鬼」青空文庫>
  15. ・・・造の野心はもくもくと動きだして、よし、おれも一番記者になって……と、雨に敲かれた眼にきっと光を見せたが、しかし、お抱え俥夫から一足飛びに記者になろうというのは、町医者づきの俥夫が医者になろうというのと同然、とてものことに見込みはなかったから・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  16. ・・・ 一本の足を一寸動かすだけでも、一日の配給量の半分のカロリーが消耗されるくらいの努力が要り、便所へも行けず、窓以外には出入口はないのも同然であった。 その位混むと、乗客は次第に人間らしい感覚を失って、自然動物的な感覚になって、浅まし・・・<織田作之助「昨日・今日・明日」青空文庫>
  17. ・・・ 生垣一つ隔てて物置同然の小屋があった。それに植木屋夫婦が暮している。亭主が二十七八で、女房はお徳と同年輩位、そしてこの隣交際の女性二人は互に負けず劣らず喋舌り合っていた。 初め植木屋夫婦が引越して来た時、井戸がないので何卒か水を汲・・・<国木田独歩「竹の木戸」青空文庫>
  18. ・・・まるで、人間の命と銅とをかけがえにしているのと同然だった。祖母や、母は、まだ、ケージを取りつけなかった頃、重い、鉱石を背負って、三百尺も四百尺も下から、丸太に段を刻みつけた梯子を這い上っていた。三百尺の梯子を、身体一ツで登って行くのでさえ容・・・<黒島伝治「土鼠と落盤」青空文庫>
  19. ・・・帰って来居る時までは、おのれ等、敵の寄せぬ城に居るも同然じゃ。好きにし居れ、おのれ等。楽まば楽め。人のさまたげはせぬが功徳じゃ。主人が帰るそれまでは、我とおのれ等とは何の関りも無い。帰る。宜かろう。何様じゃ。互に用は無い。勝手にしおれおのれ・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  20. ・・・チベットへ行くのは僕の年来の理想であって、中学時代に学業よりも主として身体の鍛錬に努めて来たのも実はこのチベット行のためにそなえていたのだ、人間は自分の最高と信じた路に雄飛しなければ、生きていても屍同然である、お母さん、人間はいつか必ず死ぬ・・・<太宰治「花火」青空文庫>
  21. ・・・お金をずいぶん欲しがっているくせに、わざとぞんざいに扱ってみせて、こんなものは紙屑同然だとおっしゃる、罰が当りますよ、どんなお札にだって菊の御紋が付いているんですよ、でもまあ、そうしてお金だけで事をすましてくれるお百姓さんはまだいいほうで、・・・<太宰治「やんぬる哉」青空文庫>
  22. ・・・ことに芸術家で己の無い芸術家は蝉の脱殻同然で、ほとんど役に立たない。自分に気の乗った作ができなくてただ人に迎えられたい一心でやる仕事には自己という精神が籠るはずがない。すべてが借り物になって魂の宿る余地がなくなるばかりです。私は芸術家という・・・<夏目漱石「道楽と職業」青空文庫>
  23. ・・・実は我と物を区別してこれを手際よく安置するために空間と時間の御堂を建立したも同然である。御堂ができるや否や待ち構えていた我々は意識を攫んでは抛げ、攫んでは抛げ、あたかも粟餅屋が餅をちぎって黄ナ粉の中へ放り込むような勢で抛げつけます。この黄ナ・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  24. ・・・即ち私が利用するも同然である。のみならず、読者に対してはどうかと云うに、これまた相済まぬ訳である……所謂羊頭を掲げて狗肉を売るに類する所業、厳しくいえば詐欺である。 之は甚い進退維谷だ。実際的と理想的との衝突だ。で、そのジレンマを頭で解・・・<二葉亭四迷「予が半生の懺悔」青空文庫>
  25. ・・・わたくしは畜生同然の身分でございますが、私のようなものにさえまことの力はこのようにおおきくはたらきます」「ではそのまことの力とはどんなものかおれのまえで話してみよ」「陛下よ。私は私を買って下さるお方には、おなじくつかえます。武士族の・・・<宮沢賢治「手紙 二」青空文庫>
  26. ・・・原爆を第一に経験した日本の住民が、世界の平和投票に率先しないなら、それは、われわれが生きる権利をすててしまっているも同然である。 原爆使用は禁止されなければならない。このことを世界の正義と良心に向って、しんから叫ぶことのできるのは、その・・・<宮本百合子「いまわれわれのしなければならないこと」青空文庫>
  27. ・・・「あの先の主人の政吉はんとは知っとるが、この頃では、東京の学校を卒った二番目の息子が何でもさばいて、あの人はもう隠居同然にしとるんやからなあ。ほらあの、父親のつけた名が下品やとか云うて自分で、何男とやら改名した人や。 金の事にな・・・<宮本百合子「栄蔵の死」青空文庫>
  28. ・・・方向のなさ、意欲のはっきりしなさ、昨今はみな御同然お互様と云わば近所づきあいの朝夕の挨拶のようなところがあるように思える。 読者の生活が生きている現実の一部として作家の作品の方法や内容と密接にかかわりあってゆく自然な在りようは、考え・・・<宮本百合子「今日の読者の性格」青空文庫>
  29. ・・・ この現実では作家と云われる人々の私の実体も元より同然の組立てになっている。そして、現代のような時代を生きる人々の心には、自分たちの生きて来た日々、生きている刻々、生きるであろう明日について、ひっくるめてこの人生のあるありかたについて、・・・<宮本百合子「人生の共感」青空文庫>
  30. ・・・生の享楽を知らないものは死んでいるのも同然です。底まで味わおうとしないのは生に対する卑怯です。もとより享楽に走るものはいろいろな過失に陥りはしますが、ゲエテも言ったように、Wer nicht mehr liebt und nicht・・・<和辻哲郎「すべての芽を培え」青空文庫>