どう‐ぞ例文一覧 36件

  1. ・・・あの女がまだ娘の時分に、この清水の観音様へ、願をかけた事がございました。どうぞ一生安楽に暮せますようにと申しましてな。何しろ、その時分は、あの女もたった一人のおふくろに死別れた後で、それこそ日々の暮しにも差支えるような身の上でございましたか・・・<芥川竜之介「運」青空文庫>
  2. ・・・おまえどうぞ私のからだの中から金をはぎとってそれをくわえて行って知れないようにあの窓から投げこんでくれまいか」 とこういうたのみでした。燕は王子のありがたいお志に感じ入りはしましたが、このりっぱな王子から金をはぎ取る事はいかにも進みませ・・・<有島武郎「燕と王子」青空文庫>
  3. ・・・       十一「どうぞこれへ。」 椅子を差置かれた池の汀の四阿は、瑪瑙の柱、水晶の廂であろう、ひたと席に着く、四辺は昼よりも明かった。 その時打向うた卓子の上へ、女の童は、密と件の将棋盤を据えて、そのまま、陽炎の・・・<泉鏡花「伊勢之巻」青空文庫>
  4. ・・・民子は私が手を掛けて殺したも同じ。どうぞ堪忍してくれ、政夫……私は民子の跡追ってゆきたい……」 母はもうおいおいおいおい声を立てて泣いている。民子の死ということだけは判ったけれど、何が何やら更に判らぬ。僕とて民子の死と聞いて、失神するほ・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  5. ・・・――うちの人は、いつも、あないなことばかり云うとります。どうぞ、しかってやってお呉れやす。」「まア、こういう人間は云いたいだけ云わして置きゃア済むんですよ。」「そうどすか?」と、細君は亭主の方へ顔を向けた。「まだ女房にしかられる・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  6. ・・・「あの、どうぞわたくしを縛って下さいまし、わたくしは決闘を致しまして、人を一人殺しました。」 それを聞いた役場の書記二人はこれまで話に聞いた事もない出来事なので、女房の顔を見て微笑んだ。少し取り乱してはいるが、上流の奥さんらしく見える人・・・<著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外「女の決闘」青空文庫>
  7. ・・・「わたしは、どんなにでも働きますから、どうぞ知らない南の国へ売られてゆくことは、許してくださいまし。」といいました。 しかし、もはや、鬼のような心持ちになってしまった年寄り夫婦は、なんといっても、娘のいうことを聞き入れませんでした。・・・<小川未明「赤いろうそくと人魚」青空文庫>
  8. ・・・私にはよく分りましたけど、全くそういうわけで御返事を上げなかったんですから……さあどうぞお敷き下さい」 お光は蓐火鉢と気を利かして、茶に菓子に愛相よくもてなしながら、こないだ上った時にはいろいろ御馳走になったお礼や、その後一度伺おう伺お・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  9. ・・・ああ、これから天国のお庭の梨の実を盗んで参りますから、どうぞお目留められて御一覧を願います。」 爺さんはそう言いながら、側に置いてある箱から長い綱の大きな玉になったのを取り出しました。それから、その玉をほどくと、綱の一つの端を持って、そ・・・<小山内薫「梨の実」青空文庫>
  10. ・・・お部屋の用意をしてお待ち申しておりやんすによって、どうぞごゆるりお越し下されやんせッ」 あっという間に、闇の中へ走りだしてしまった。 私はことの意外におどろいた。「あ、ちょっと……。宿はどこですか。どの道を行くんですか。ここ真っ・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  11. ・・・「……K君――」「どうぞ……」 Kは毛布を敷いて、空気枕の上に執筆に疲れた頭をやすめているか、でないとひとりでトランプを切って占いごとをしている。「この暑いのに……」 Kは斯う警戒する風もなく、笑顔を見せて迎えて呉れると・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  12. ・・・この東天下茶屋中を馳け廻って医師を探せなどと無理を言いました。どうぞ赦して下さい」と苦しげな息の下から止ぎれ止ぎれに言って、あとはまた眼を閉じ、ただ荒い息づかいが聞えるばかりでした。どうやらそのまま眠ってゆく様子です。 やれやれ眠って呉・・・<梶井久「臨終まで」青空文庫>
  13. ・・・部屋へと二人は別れ際に、どうぞチトお遊びにおいで下され。退屈で困りまする。と布袋殿は言葉を残しぬ。ぜひ私の方へも、と辰弥も挨拶に後れず軽く腰を屈めつ。 かくして辰弥は布袋の名の三好善平なることを知りぬ。娘は末の子の光代とて、秘蔵のものな・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  14. ・・・受付はそれを受取り急いで二階に上って去ったが間もなく降りて来て「どうぞ此方へ」と案内した、導かれて二階へ上ると、煖炉を熾に燃いていたので、ムッとする程温かい。煖炉の前には三人、他の三人は少し離れて椅子に寄っている。傍の卓子にウイスキーの・・・<国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」青空文庫>
  15. ・・・「お前ンとこへ遊びに行ってもいいかい?」「どうぞ。」「何か、いいことでもあるかい?」「何ンにもない。……でもいらっしゃい、どうぞ。」 その言葉が、朗らかに、快活に、心から、歓迎しているように、兵卒達には感じられた。 ・・・<黒島伝治「渦巻ける烏の群」青空文庫>
  16. ・・・の若さ、公の清らに老い痩枯れたるさまの頼りなさ、それに実生の松の緑りもかすけき小ささ、わびきったる釣瓶なんどを用いていらるるはかなさ、それを思い、これを感じて、貞徳はおのずから優しい心を動かしたろう、どうぞこの松のせめて一、二尺になるまでも・・・<幸田露伴「魔法修行者」青空文庫>
  17. ・・・ どうぞ、お願いします。 この手紙を、私のところへよく話しにくる或る小学教師が持って来た。高等科一年の級長の書いたものだそうである。原文のまゝである。――私はこれを読んで、もう一息だと思った。然しこの級長はこれから打ち当って行く・・・<小林多喜二「級長の願い」青空文庫>
  18. ・・・ミエが推っつやっつのあげくしからば今一夕と呑むが願いの同伴の男は七つのものを八つまでは灘へうちこむ五斗兵衛が末胤酔えば三郎づれが鉄砲の音ぐらいにはびくりともせぬ強者そのお相伴の御免蒙りたいは万々なれどどうぞ御近日とありふれたる送り詞を、契約・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  19. ・・・「熊吉も、どうぞお願いだから、俺に入っていてくれと言うげな」「小山の養子はどうした」「養子か。あれも、俺に出て来て貰っては困ると言うぞい」「直次はどうした」「あれもそうだ」「お玉はどうした」「あれは俺を欺して連れ・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  20. ・・・ あくる朝、ウイリイは王女のところへ行って、「どうぞ一しょにお立ち下さいまし。」とたのみました。王女は、「いくにはいくけれど、それより先に、ちょっとこの絹糸のかせの中から、私を見つけ出してごらんなさい。」 こういって、じきそ・・・<鈴木三重吉「黄金鳥」青空文庫>
  21. ・・・に腕を巻きつけて、「どうぞ、お母さん、私を行かせないで下さいまし。貴女のお手で、私を確かり抱いて頂戴。斯うやって、私がすがり付いているように。そして、どうぞしっかり捕えていて下さい」と云いでもするように。 カルカッタの家に着いて・・・<著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子「唖娘スバー」青空文庫>
  22. ・・・「すみません。どうぞ、おあがりになって、お話を聞かして下さいまし」 と言って私は式台にあがってしゃがみ、「私でも、あとの始末は出来るかも知れませんから。どうぞ、おあがりになって、どうぞ。きたないところですけど」 二人の客は顔・・・<太宰治「ヴィヨンの妻」青空文庫>
  23. ・・・秘密警察署の方は官吏でございますから、報酬は取りませんが、私立探偵事務所の方がございますので。どうぞ悪しからず。それから潜水夫がお心付けを戴きたいと申しました。」 おれはすっかり気色を悪くして、もう今晩は駄目だと思った。もうなんにもすま・・・<著:ディモフオシップ 訳:森鴎外「襟」青空文庫>
  24. ・・・そして、「このつれならまだいくらでもありますから、どうぞいいのを御持ち下さい」という。 一体私がこの壷を買う事に決定してから取り落してこわしたのだから、別に私の方であやまる必要もなければ、主人も黙って破片を渡せばいいのではなかったかと、・・・<寺田寅彦「ある日の経験」青空文庫>
  25. ・・・「先生、おひろもどうぞひとつ」森さんは道太に言っていた。 森さんは去年細君に逝かれて、最近また十八になる長子と訣れたので、自身劇場なぞへ顔を出すのを憚かっていた。 森さんはまたお茶人で、東京の富豪や、京都の宗匠なぞに交遊があった・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  26. ・・・「まア、どうぞ御免なすって……。」と銀杏返は顔を真赤に腰をかがめて会釈しようとすると、電車の動揺でまたよろけ掛ける。「ああ、こわい。」「おかけなさい。姉さん。」 薄髯の二重廻が殊勝らしく席を譲った。「どうもありがとう……・・・<永井荷風「深川の唄」青空文庫>
  27. ・・・男は平気な顔を装ってどうぞと云わぬばかりに女を窓の方へ誘う所作をした。すると女はいきなり馳けて行って窓から飛下りた。死にはしなかったが生れもつかぬ不具になってしまいました。男もこれほど女の赤心が眼の前へ証拠立てられる以上、普通の軽薄な売女同・・・<夏目漱石「現代日本の開化」青空文庫>
  28. ・・・ どうぞあなたの貴重な時間の十五分間をわたくしに御割愛なさって下さいまし。ちょうど夫は取引用で旅行いたしまして、五六日たたなくては帰りません。明晩までに、差出人なしに「承知」と云う電信をお発し下さいましたら、わたくしはすぐにパリイへ立つ・・・<著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外「田舎」青空文庫>
  29. ・・・それに何だか咽が締るようで、髪の毛が一本一本上に向いて立つような心持がする。どうぞ帰ってくれい。お前は死だな。ここに何の用がある。ええ気味の悪い。どうぞ帰ってくれい。ええ、声を立てようにも声も立てられぬわい。(へたへたと尻餅命の空気が脱け出・・・<著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外「痴人と死と」青空文庫>
  30. ・・・マアどうぞ、サアこちらへ。お目出とう御座います。旧年中はいろいろ、相変りませず。」「お目出とう御座います。」「今朝もお噂さを致して居りましたところです。こんなによくおなりになろうとは実に思い懸けがなかったのです。まだそれでもお足がすこしよろ・・・<正岡子規「初夢」青空文庫>