とう‐ぞく〔タウ‐〕【盗賊】例文一覧 30件

  1. ・・・近代的懐疑とか、近代的盗賊とか、近代的白髪染めとか――そう云うものは確かに存在するでしょう。しかしどうも恋愛だけはイザナギイザナミの昔以来余り変らないように思いますが。 主筆 それは理論の上だけですよ。たとえば三角関係などは近代的恋愛の・・・<芥川竜之介「或恋愛小説」青空文庫>
  2. ・・・ 一時間の後陳彩は、彼等夫婦の寝室の戸へ、盗賊のように耳を当てながら、じっと容子を窺っている彼自身を発見した。寝室の外の廊下には、息のつまるような暗闇が、一面にあたりを封じていた。その中にただ一点、かすかな明りが見えるのは、戸の向うの電・・・<芥川竜之介「影」青空文庫>
  3. ・・・「汝ゃ乞食か盗賊か畜生か。よくも汝が餓鬼どもさ教唆けて他人の畑こと踏み荒したな。殴ちのめしてくれずに。来」 仁右衛門は火の玉のようになって飛びかかった。当の二人と二、三人の留男とは毬になって赤土の泥の中をころげ廻った。折重なった人々・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  4. ・・・彼の名はヤコフ・イリイッチと云って、身体の出来が人竝外れて大きい、容貌は謂わばカザン寺院の縁日で売る火難盗賊除けのペテロの画像見た様で、太い眉の下に上睫の一直線になった大きな眼が二つ。それに挾まれて、不規則な小亜細亜特有な鋭からぬ鼻。大きな・・・<有島武郎「かんかん虫」青空文庫>
  5. ・・・……いいえ、盗賊や風俗の方ばかりじゃありません。」「いや、大きに――それじゃ違ったろう。……安心した。――時に……実は椎の樹を通ってもらおうと思ったが、お藻代さんの話のいまだ。今度にしようか。」「ええ、どちらでも。……ですが、もうこ・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  6. ・・・ 学士が驚いた――客は京の某大学の仏語の教授で、榊三吉と云う学者なのだが、無心の小児に向っては、盗賊もあやすと言う……教授でも学者でも同じ事で、これには莞爾々々として、はい、今日は、と言った。この調子で、薄暗い広間へ、思いのほかのものが・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  7. ・・・さっそく妙な男は、盗賊とまちがえられて警察へ連れられていきましたが、まったくの盗賊でないことがわかって、放免されました。それからというものは、妙な男は夜も外へ出なくなって、昼も夜もへやに閉じこもっていました。そして、その電信柱も、いろいろ世・・・<小川未明「電信柱と妙な男」青空文庫>
  8. ・・・ そこでまたこうも思った、何もそう固まるには及ばない、気になるならなるで、ちょっと見て烏か狐か盗賊か鬼か蛇かもしくは一つ目小僧か大入道かそれを確かめて、安心して画いたがよサそうなものだ、よろしいそうだと振り向こうとしたが、残念でたまらな・・・<国木田独歩「郊外」青空文庫>
  9. ・・・さては盗賊と半ば身体を起してきょろきょろと四辺を見廻したが、森としてその様子もない。夢であったか現であったか、頭が錯乱しているので判然しない。 言うに言われぬ恐怖さが身内に漲ぎってどうしてもそのまま眠ることが出来ないので、思い切って起上・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  10. ・・・悪口をいえば骨董は死人の手垢の附いた物ということで、余り心持の好いわけの物でもなく、大博物館だって盗賊の手柄くらべを見るようなものだが、そんな阿房げた論をして見たところで、野暮な談で世間に通用しない。骨董が重んぜられ、骨董蒐集が行われるお蔭・・・<幸田露伴「骨董」青空文庫>
  11. ・・・男はこの様子を見て四方をきっと見廻わしながら、火鉢越に女の顔近く我顔を出して、極めて低き声ひそひそと、「そんなら汝、おれが一昨日盗賊をして来たんならどうするつもりだ。と四隣へ気を兼ねながら耳語き告ぐ。さすがの女ギョッとして身を退きし・・・<幸田露伴「貧乏」青空文庫>
  12. ・・・髪を茶筅とも無く粗末に異様に短く束ねて、町人風の身づくりはしたれど更に似合わしからず、脇差一本指したる体、何とも合点が行かず、痩せて居れども強そうに、今は貧相なれども前には人の上に立てるかとも思われ、盗賊の道の附入りということを現在には為し・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  13. ・・・刑死の人には、実に盗賊あり、殺人あり、放火あり、乱臣・賊子あると同時に、賢哲あり、忠臣あり、学者あり、詩人あり、愛国者・改革者もあるのである。これは、ただ目下のわたくしが、心にうかびでるままに、その二、三をあげたのである。もしわたくしの手も・・・<幸徳秋水「死刑の前」青空文庫>
  14. ・・・なった、ペロプスカヤもオシンスキーも死刑となった、王子比干や商鞅も韓非も高青邱も呉子胥も文天祥も死刑となった、木内宗五も吉田松蔭も雲井龍雄も江藤新平も赤井景韶も富松正安も死刑となった、刑死の人には実に盗賊あり殺人あり放火あり乱臣賊子あると同・・・<幸徳秋水「死生」青空文庫>
  15. ・・・正義が顕れて、大きな盗賊やみじめな物乞いが出た。 私たちの家の婆やは、そういう時の私の態度を見ると、いつでも憤慨した。毎月働いても十八円の給金にしかならないと言いたげなこの婆やは、見ず知らずの若者が私のところから持って行く一円、二円の金・・・<島崎藤村「分配」青空文庫>
  16. ・・・     盗賊 ことし落第ときまった。それでも試験は受けるのである。甲斐ない努力の美しさ。われはその美に心をひかれた。今朝こそわれは早く起き、まったく一年ぶりで学生服に腕をとおし、菊花の御紋章かがやく高い大きい鉄の門をくぐっ・・・<太宰治「逆行」青空文庫>
  17. ・・・僕の部屋の窓を夜どおし明けはなして盗賊の来襲を待ち、ひとつ彼に殺させてやろうと思っているのであるが、窓からこっそり忍びこむ者は、蛾と羽蟻とかぶとむし、それから百万の蚊軍。(君曰君、一緒に本を出さないか。僕は、本でも出して借金を全部かえしてし・・・<太宰治「ダス・ゲマイネ」青空文庫>
  18. ・・・私はあくまで狡智佞弁の弟になって兄たちを欺いていなければならぬ、と盗賊の三分の理窟に似ていたが、そんなふうに大真面目に考えていた。私は、やはり一週間にいちどは、制服を着て登校した。Hも、またその新聞社の知人も、来年の卒業を、美しく信じていた・・・<太宰治「東京八景」青空文庫>
  19. ・・・この婆さんから色々の客の内輪の話も聞かされた。盗賊が紳商に化けて泊っていた時の話、県庁の役人が漁師と同腹になって不正を働いた一条など、大方はこんな話を問わず語りに話した。中には哀れな話もあった。数年前の夏、二階に泊っていた若い美しい人の妻の・・・<寺田寅彦「嵐」青空文庫>
  20. ・・・ たとえば野獣も盗賊もない国で、安心して野天や明け放しの家で寝ると、風邪を引いて腹をこわすかもしれない。○を押さえると△があばれだす。天然の設計による平衡を乱す前には、よほどよく考えてかからないと危険なものである。・・・<寺田寅彦「蛆の効用」青空文庫>
  21. ・・・翌朝出入の鳶の者や、大工の棟梁、警察署からの出張員が来て、父が居間の縁側づたいに土足の跡を検査して行くと、丁度冬の最中、庭一面の霜柱を踏み砕いた足痕で、盗賊は古井戸の後の黒板塀から邸内に忍入ったものと判明した。古井戸の前には見るから汚らしい・・・<永井荷風「狐」青空文庫>
  22. ・・・子供が成長して後、その身を過ち盗賊となれば世に害を貽す。子供が将来何者になるかは未知の事に属する。これを憂慮すれば子供はつくらぬに若くはない。 わたくしは既に中年のころから子供のない事を一生涯の幸福と信じていたが、老後に及んでますますこ・・・<永井荷風「西瓜」青空文庫>
  23. ・・・然るに今新に書を著わし、盗賊又は乱暴者あらば之を取押えたる上にて、打つなり斬るなり思う存分にして懲らしめよ。況んや親の敵は不倶戴天の讐なり。政府の手を煩わすに及ばず、孝子の義務として之を討取る可し。曾我の五郎十郎こそ千載の誉れ、末代の手本な・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  24. ・・・また、いかなる盗賊にても博徒にても、外に対しては乱暴無状なりといえども、その内部に入りて仲間の有様を見れば、朋輩の間、自から約束あり、規則あり。すなわちその約束規則は自家の安全をはかるものより外ならず。しかのみならず、この法外の輩が、たがい・・・<福沢諭吉「教育の目的」青空文庫>
  25. ・・・――一滴もいけなかった私が酒を飲み出す、子供の時には軽薄な江戸ッ児風に染まって、近所の女のあとなんか追廻したが、中年になって真面目になったその私が再び女に手を出す――全く獣的生活に落ちて、終には盗賊だって関わないとまで思った。いや、真実なん・・・<二葉亭四迷「予が半生の懺悔」青空文庫>
  26. ・・・雖然どう考えても、例えば此間盗賊に白刃を持て追掛けられて怖かったと云う時にゃ、其人は真実に怖くはないのだ。怖いのは真実に追掛けられている最中なので、追想して話す時にゃ既に怖さは余程失せている。こりゃ誰でもそうなきゃならんように思う。私も同じ・・・<二葉亭四迷「私は懐疑派だ」青空文庫>
  27. ・・・彼が屋根裏で、台所の隅で、祖母から聞いた古代ロシアの伝説、盗賊や順礼の物語は、みずみずしく記憶にきざみつけられたのみか、ゴーリキイの初期の創作のうちに反映しているほどである。 祖父はやがて染物工場を閉鎖した。伯父の一人は自殺し、一人は家・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」青空文庫>
  28. ・・・祖父の留守の夜の台所の炉辺の団欒で、或は家じゅうを巻きこむ狂気騒ぎから逃げ込んで屋根裏の祖母さんの部屋の箱の上で、ゴーリキイが話して貰った古代ロシアの沢山の伝説、盗賊や巡礼の物語は、息づまる生活の裡からゴーリキイの心に広い世の中の様々な出来・・・<宮本百合子「逝けるマクシム・ゴーリキイ」青空文庫>
  29. ・・・親切な町年寄は、若し取り逃がしてはならぬと云って、盗賊方二人を同行させることにした。町で剣術師範をしている小川某と云うものも、町年寄の話を聞いて、是非その場に立ち会って、場合に依っては助太刀がしたいと申し込んだ。 九郎右衛門、宇平の二人・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>
  30. ・・・乞食もいなければ、盗賊もいないからである。斜面をなしている海辺の地の上に、神の平和のようなものが広がっている。何もかも故郷のドイツなどとは違う。更けても暗くはならない、此頃の六月の夜の薄明りの、褪めたような色の光線にも、また翌日の朝焼けまで・・・<著:ランドハンス 訳:森鴎外「冬の王」青空文庫>