とう‐はつ【頭髪】例文一覧 30件

  1. ・・・やがて、中折帽を取って、ごしゃごしゃと、やや伸びた頭髪を引掻く。巻莨に点じて三分の一を吸うと、半三分の一を瞑目して黙想して過して、はっと心着いたように、火先を斜に目の前へ、ト翳しながら、熟と灰になるまで凝視めて、慌てて、ふッふッと吹落して、・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  2. ・・・暗く劃った一条の路を隔てて、数百の燈火の織目から抜出したような薄茫乎として灰色の隈が暗夜に漾う、まばらな人立を前に控えて、大手前の土塀の隅に、足代板の高座に乗った、さいもん語りのデロレン坊主、但し長い頭髪を額に振分け、ごろごろと錫を鳴らしつ・・・<泉鏡花「国貞えがく」青空文庫>
  3. ・・・わずかに束ねたる頭髪は、ふさふさと枕に乱れて、台の上にこぼれたり。 そのかよわげに、かつ気高く、清く、貴く、うるわしき病者の俤を一目見るより、予は慄然として寒さを感じぬ。 医学士はと、ふと見れば、渠は露ほどの感情をも動かしおらざるも・・・<泉鏡花「外科室」青空文庫>
  4. ・・・器である、然るにも係らず、徒に茶器を骨董的に弄ぶものはあっても、真に茶を楽む人の少ないは実に残念でならぬ、上流社会腐敗の声は、何時になったらば消えるであろうか、金銭を弄び下等の淫楽に耽るの外、被服頭髪の流行等極めて浅薄なる娯楽に目も又足・・・<伊藤左千夫「茶の湯の手帳」青空文庫>
  5. ・・・その頃女の断髪が流行したので、椿岳も妻女の頭髪を五分刈に短く刈らして、客が来ると紹介していう、これは同庵の尼でございますと。大抵のお客は挨拶にマゴマゴしてしまった。その頃であった、或る若い文人が椿岳を訪ねると、椿岳は開口一番「能く来なました・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  6. ・・・「わたし、あの、青い花の香りをかいで、お姉さんを思い出したの、背のすらりとした、頭髪のすこしちぢれた方でなくって?」といいました。「ああそうだったよ。」と、お母さまは、よくお姉さんを思い出したといわぬばかりに、我が子の顔を見て、にっ・・・<小川未明「青い花の香り」青空文庫>
  7. ・・・大きくなるにつれて、黒目勝ちで、美しい頭髪の、肌の色のうす紅をした、おとなしいりこうな子となりました。三 娘は、大きくなりましたけれど、姿が変わっているので、恥ずかしがって顔を外へ出しませんでした。けれど、一目その娘を見た人・・・<小川未明「赤いろうそくと人魚」青空文庫>
  8. ・・・子供は、大きくなるにつれて黒眼勝な美しい、頭髪の色のツヤツヤとした、おとなしい怜悧な子となりました。三 娘は、大きくなりましたけれど、姿が変っているので恥かしがって顔を出しませんでした。けれど一目その娘を見た人は、みんなびっ・・・<小川未明「赤い蝋燭と人魚」青空文庫>
  9. ・・・ 温泉宿の客引きだった。頭髪が固そうに、胡麻塩である。 こうして客引きが出迎えているところを見ると、こんな夜更けに着く客もあるわけかとなにかほっとした。それにしても、この客引きのいる宿屋は随分さびれて、今夜もあぶれていたに違いあるま・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  10. ・・・ポマードでぴったりつけた頭髪を二三本指の先で揉みながら、「じつはお宅の何を小生の……」 妻にいただきたいと申し出でた。 金助がお君に、お前は、と訊くと、お君は、おそらく物心ついてからの口癖であるらしく、表情一つ動かさず、しいてい・・・<織田作之助「雨」青空文庫>
  11. ・・・それ故私は高等学校にはいってから伸ばそうという計画を樹て、学校もなるべく頭髪の型に関する自由を許してくれそうな学校を選んだ。倖い私のはいった学校は自由を校風としていた。授業のはじめと終りに鳴る鐘は自由の鐘とよばれていて、その学校のシンボルで・・・<織田作之助「髪」青空文庫>
  12. ・・・さてこそ置去り…… と思うと、慄然として、頭髪が弥竪ったよ。しかし待てよ、畑で射られたのにしては、この灌木の中に居るのが怪しい。してみればこれは傷の痛さに夢中で此処へ這込だに違いないが、それにしても其時は此処まで這込み得て、今は身動もな・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  13. ・・・前の大きな鏡に映る蒼黒い、頬のこけた、眼の落凹んだ自分の顔を、他人のものかのように放心した気持で見遣りながら、彼は延びた頭髪を左の手に撫であげ/\、右の手に盃を動かしていた。そして何を考えることも、何を怖れるというようなことも、出来ない程疲・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  14. ・・・と井山という眼のしょぼしょぼした頭髪の薄い、痩方の紳士が促した。「イヤ岡本君が見えたから急に行りにくくなったハハハハ」と炭鉱会社の紳士は少し羞にかんだような笑方をした。「何ですか?」 岡本は竹内に問うた。「イヤ至極面白いんだ・・・<国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」青空文庫>
  15. ・・・うち見には十五六と思わる、蓬なす頭髪は頸を被い、顔の長きが上に頬肉こけたれば頷の骨尖れり。眼の光濁り瞳動くこと遅くいずこともなくみつむるまなざし鈍し。纒いしは袷一枚、裾は短かく襤褸下がり濡れしままわずかに脛を隠せり。腋よりは蟋蟀の足めきたる・・・<国木田独歩「源おじ」青空文庫>
  16. ・・・ 頭髪も髯も胡麻白にて塵にまみれ、鼻の先のみ赤く、頬は土色せり。哀れいずくの誰ぞや、指してゆくさきはいずくぞ、行衛定めぬ旅なるかも。 げに寒き夜かな。独りごちし時、総身を心ありげに震いぬ。かくて温まりし掌もて心地よげに顔を摩りたり。・・・<国木田独歩「たき火」青空文庫>
  17. ・・・ 母親の抱擁、頬ずり、キッス、頭髪の愛撫、まれには軽ろい打擲さえも、母性愛を現実化する表現として、いつまでも保存さるべきものである。おしっこの世話、おしめの始末、夜泣きの世話、すべて直接に子どもの肉体的、生理的な方面に関係のあるケヤーは・・・<倉田百三「女性の諸問題」青空文庫>
  18. ・・・今思えば真実に夢のようなことでまるで茫然とした事だが、まあその頃はおれの頭髪もこんなに禿げてはいなかったろうというものだし、また色も少しは白かったろうというものだ。何といっても年が年だから今よりはまあ優しだったろうさ、いや何もそう見っともな・・・<幸田露伴「太郎坊」青空文庫>
  19. ・・・男は年も三十一二、頭髪は漆のごとく真黒にて、いやらしく手を入れ油をつけなどしたるにはあらで、短めに苅りたるままなるが人に優れて見好きなり。されば兀ちょろ爺と罵りたるはわざとになるべく、蹙足爺とはいつまでも起き出でぬ故なるべし。男は罵られても・・・<幸田露伴「貧乏」青空文庫>
  20. ・・・誰だって、いつまでも上品な坊ちゃんではおられない。頭髪は、以前より少し濃くなったくらいであった。瀬川先生もこれで全く御安心なさるだろう、と私は思った。「おめでとう。」と私が笑いながら言ったら、「やあ、このたびは御苦労。」と北京の新郎・・・<太宰治「佳日」青空文庫>
  21. ・・・母親は白い頭髪を短く角刈にして、気品があった。妹は二十歳前後の小柄な痩せた女で、矢絣模様の銘仙を好んで着ていた。あんな家庭を、つつましやかと呼ぶのであろう。ほぼ半年くらい住まって、それから品川のほうへ越していったけれど、その後の消息を知らな・・・<太宰治「彼は昔の彼ならず」青空文庫>
  22. ・・・試みにこれらの絵の頭髪を薄色にしてしまったとしたら絵の全部の印象が消滅するように私には思われる。この基調をなす黒斑に対応するためにいろいろの黒いものが配合されている。たとえば塗下駄や、帯や、蛇の目傘や、刀の鞘や、茶托や塗り盆などの漆黒な斑点・・・<寺田寅彦「浮世絵の曲線」青空文庫>
  23. ・・・よれよれに寝くたれた、しかも不つりあいに派手な浴衣を、だらしなく前上がりに着て、後ろへはほどけかかった帯の端をだらりとたらしている。頭髪もすずめの巣のように乱れているが、顔には年に似合わぬ厚化粧をしている。何かの病気で歩行が困難らしい。妙な・・・<寺田寅彦「軽井沢」青空文庫>
  24. ・・・流れのなかをいくらかめだつたかい背の白浴衣地がまむかいにきて、視線があったとたん、ややあかっぽい頭髪がうつむいた。 ――すれちがうとき、女はつれの小娘に肩をぶっつけるようにしてまた笑い声をたてた。ひびく声であった。三吉は橋の袂までいって・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  25. ・・・阿呆陀羅経のとなりには塵埃で灰色になった頭髪をぼうぼう生した盲目の男が、三味線を抱えて小さく身をかがめながら蹲踞んでいた。阿呆陀羅経を聞き飽きた参詣戻りの人たちが三人四人立止る砂利の上の足音を聞分けて、盲目の男は懐中に入れた樫のばちを取り出・・・<永井荷風「深川の唄」青空文庫>
  26. ・・・ 再び彼の体を戦慄がかけ抜け、頭髪に痛さをさえ感じた。 電燈がパッと消えた。 深谷が静かにドアを開けて出て行った。 ――奴は恋人でもできたのだろうか?―― 安岡は考えた。けれども深谷は決して女のことなど考えたり、まして恋・・・<葉山嘉樹「死屍を食う男」青空文庫>
  27. ・・・ 先ず風から見ると、頭髪をわけ、うしろでまるめるはよいが、白いゴムに光る碧石が入った大きなお下げどめをし、紺サージの洋服に水色毛糸帽同色リボンつきといういでたち。顔に縦じわ非常に多く、すっかりあかのつまった長い爪、顔の色あかぐろく、やせ・・・<宮本百合子「一九二三年冬」青空文庫>
  28. ・・・彼は片手に彼女の頭髪を繩のように巻きつけた。――逃げよ。余はコルシカの平民の息子である。余はフランスの貴族を滅ぼした。余は全世界の貴族を滅ぼすであろう。逃げよ。ハプスブルグの女。余は高貴と若さを誇る汝の肉体に、平民の病いを植えつけてやるであ・・・<横光利一「ナポレオンと田虫」青空文庫>
  29. ・・・りを打って、シクシク泣ていたのが、夜に入ってから少しウツウツしたと思って、フト眼を覚すと、僕の枕元近く奥さまが来ていらっしゃって、折ふし霜月の雨のビショビショ降る夜を侵していらしったものだから、見事な頭髪からは冷たい雫が滴っていて、気遣わし・・・<若松賤子「忘れ形見」青空文庫>
  30. ・・・ 一年もたたぬ間にイタリーは小さいデュウゼに充ち充ちた。頭髪をかきむしり、指を噛み、よろめき泣く。彼らは彼女の芸術を見るばかりでなくその人をまねた。世間の人は毎日毎日彼女を夢に見てあくがれているように見えた。 ヘルマン・バアルは・・・<和辻哲郎「エレオノラ・デュウゼ」青空文庫>