とう‐ひ〔タウ‐〕【逃避】例文一覧 30件

  1. ・・・ 私を、現実の苦しみから救うものは、逃避でもなく、妥協でもなく、また終わりなき戦いでもなく、全く、創造の熱愛があるからです。私は、創造のために、いかなる戦いも辞せない。 私達が、この現実に於て、あらゆる方面や、形に於て戦うということ・・・<小川未明「『小さな草と太陽』序」青空文庫>
  2. ・・・キリストの無抵抗主義若しくは犠牲というものは、そういうような逃避的な卑屈のものではなかった。五 私はアルツィバーセフの作にあった一節、彼のピラトがシモンに向って、「おれはあのユダヤの乞食哲学者に対しては不思議な感じがした。そして・・・<小川未明「反キリスト教運動」青空文庫>
  3. ・・・自然主義文学が、資本主義的生産関係を反映し、あるがまゝに現実を描こうと企図したのに対して、この写生派、余裕派、低徊派等は支配階級の中に根強く巣喰っている封建主義を多分に反映して逃避的唯美的傾向に走っていた。それが、この派をして、社会的現実と・・・<黒島伝治「明治の戦争文学」青空文庫>
  4. ・・・尤も、よく馴れたわれわれの手を遁げる遁げ方と時々屋前を通る職人や旅客などを逃避する逃げ方とではまるでにげ方が違う。前の場合だとちょっと手の届かぬ処へにげるだけだのに、後の場合だと狼狽の表情を明示していきなり池の中へころがり込むようである。と・・・<寺田寅彦「高原」青空文庫>
  5. ・・・ 俳句を修業するということは、以上の見地から考えると、退嬰的な無常観への逃避でもなければ、消極的なあきらめの哲学の演習でもなく、またひとりよがりの自慰的お座敷芸でもない。それどころか、ややもすればわれわれの中のさもしい小我のために失われ・・・<寺田寅彦「俳句の精神」青空文庫>
  6. ・・・作者の自覚なしに行われたこういう題材の飛躍的な選択は、一方から見れば現実からの逃避であった。けれども、また他の一方から観察すると、そこに微妙な心理の契機がひそんでもいる。自分をどう解放していいのか分らない女の思い。身もだえする若い妻としての・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」青空文庫>
  7. ・・・妙にロマンティックに異性の間の友情というようなものを描いて、実際には恋愛ともいえ、あるいはもっといい加減に男女の間に浮動する感情を、その友情というようなところへ持ちこんで逃避したりする、無責任なくせにまぎらわしい甘ったるさを嫌って、かえって・・・<宮本百合子「異性の間の友情」青空文庫>
  8. ・・・ あらゆる文学が、芸術的表現・社会表現としての性質からそうであるように、歴史文学も、歴史の現実とのかかわり合いかたによって、逃避ともなるし文学の廃頽となっても現れるということについて戒心されなければなるまいと思う。 註 本文に引・・・<宮本百合子「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」青空文庫>
  9. ・・・団体行動の流行は、一人一人の人間としての向上に細かい目を向けないで、ただそこへくっついていさえすればいいのだからという逃避の無責任さを、一層細心にとりのぞいて行かなければなるまい。 若い娘たちの行進の美しさと心をたかめる力は、そこに肉体・・・<宮本百合子「女の行進」青空文庫>
  10. ・・・今日のひとが山を好むのは、さわがしい下界からの逃避の心持からばかりではないだろうと思う。自分の体力、智力、自分とひととの経験の総和についての知識とその実力とが、むき出しな自然の動きと直面し対決してゆく、その味わいでの山恋いではないだろうか。・・・<宮本百合子「科学の常識のため」青空文庫>
  11. ・・・ 明治末期から大正にかけて、日本のブルジョア・インテリゲンツィアの文学の一つを代表した作家夏目漱石は、文学的生涯の終りに、自分のリアリズムにゆきづまって、東洋風な現実からの逃避の欲望と、近代的な現実探究の態度との間に宙ぶらりんとなって、・・・<宮本百合子「行為の価値」青空文庫>
  12. ・・・場合になると、漢文脈の熟語、形容詞をつかって、こんにちの読者にはふり仮名なしにはよめない麗句で朝日ののぼる姿を描き、あるいは、余情綿々たる和文調で草木の美を叙し、しかも根本を貫いている思想は、自然への逃避を志す東洋的態度の旧套を脱せず、人間・・・<宮本百合子「自然描写における社会性について」青空文庫>
  13. ・・・あの映画が現在のアメリカが経済的な行詰りを感じていながら、それを徹底的な方向で打開し得ず人々の心がまた現在自分たちの置かれている矛盾や困難を写実的にとりあげた作品を喜ばないような逃避的な気持にいる、その一面の現れがあの映画にでている訳でしょ・・・<宮本百合子「女性の生活態度」青空文庫>
  14. ・・・ 文学におけるロマンチシズムは、初め十九世紀の或る進歩性として現れ、つづいて現実逃避として自身を色彩づけ、現在はドイツにおいて明らかなようにファシズムの虹として役割を果しつつある。 亀井氏は嘗て左翼の文学に近くあったことがある。昨今・・・<宮本百合子「全体主義への吟味」青空文庫>
  15. ・・・にうごかされ、高らかにロマンティシズムの調を謳いつつ、藤村の詩がその第一詩集から形式・用語において過去の日本文学和文派の遺産の上に立っていたことは、自然に身をうちまかせる彼の情緒の本質がやはり自然への逃避の性質を多分にもっていたことを語って・・・<宮本百合子「藤村の文学にうつる自然」青空文庫>
  16. ・・・とばかり執拗に、果敢に破綻をもおそれず、即発燃焼を志して一箇の芸術境をきずいて行った姿というものは、平俗に逃避したりおさまったりした枯淡と何等の通じるものをもっていない。はりつめて対象の底にまで流れ入り、それを浮上らせている精神の美があるか・・・<宮本百合子「芭蕉について」青空文庫>
  17. ・・・芸術作品は単に作品だけが独立して生れるものではない、生活が作品を作るのですから、感傷的逃避的な生活から、立派な作品が生れる筈はありません。 それならばプロレタリア作家の方はどうか。これは極めて興味ある問題です。女流作家「不振」を叫ぶ批評・・・<宮本百合子「婦人作家の「不振」とその社会的原因」青空文庫>
  18. ・・・川端康成の或る作品などは表面個人主義的な現実からの逃避を示しながら、現在の火華の出るような階級対立の現実から自身、眼を外らし、同時に読者をも科学的な世界観から切り離してくる点において完全にファッシズムの一つの支柱としての役割を持っている。群・・・<宮本百合子「ブルジョア作家のファッショ化に就て」青空文庫>
  19. ・・・        現実逃避の文学          ――神秘主義とファッシズム――「水晶幻想」と「抒情歌」との間には一年の歳月が流れている。しかも一九三一年は、日本をこめて資本主義世界の一般的経済恐慌が、金融恐慌にまで発展・・・<宮本百合子「文芸時評」青空文庫>
  20. ・・・をかいた鏡花がお化けの世界へ逃避してしまった動機にも日本の軍国主義文化の圧力があった。 一つの戦争ごとに日本の社会全体が国際的接触をまし、日本の民草も、自分たちが資本主義をこやすかいばとしての蒼生ではなくて、人民であり、生産者であり、そ・・・<宮本百合子「平和への荷役」青空文庫>
  21. ・・・歴史文学というにしろ、ただ髷物であれば歴史文学であるという考えかたに反対し、同時に、今日の現実にとり組んで行きにくいからと逃避の方向で歴史の中に素材の求められる態度も、正しい歴史文学への理解でないとするのが、高木卓氏などの見解に代表されてい・・・<宮本百合子「歴史と文学」青空文庫>
  22. ・・・は、十九世紀のロマン主義時代に生れたフランスの婦人作家が、女にとって苦しい結婚生活と宗教との負担に、情緒的に反抗しつつその解決は作品の中でだけ可能な夢幻境へ逃避の形でまとめているのは注目にあたいする。バルザックの「従妹ベット」「ウウジニイ・・・・<宮本百合子「若い婦人のための書棚」青空文庫>
  23. ・・・生活から逃避することで、それらは得られない時代だと思う。雄々しく現実の複雑さいっぱいを、自分としての生活の建て前で判断し、整理し、働きかける筋をつかみ、そこから湧く生活の弾力ある艶が、若い女の明日の新しい美ともなるのだろう。 今日の若い・・・<宮本百合子「若い娘の倫理」青空文庫>
  24. ・・・私はいくらあせってもこの問題を逃避しない限りある「時」が来るまでは自分をどうすることもできないのです。私もまさかこのジメジメした気分を側の者に振りかけなければいられないほど弱くはありません。しかし人の前でそれを少しも顔に出さないでいられるほ・・・<和辻哲郎「ある思想家の手紙」青空文庫>
  25. ・・・これらの仏画を眼中に置いて現在の日本画を見れば、その弱さと薄さ、その現実を逃避する卑怯な態度などにおいて、明らかに絵の具の罪よりも画家の罪が認められるのである。色彩のみならず線の引き方においても、リズムの貧弱な、ノッペリとした現在の線は、絵・・・<和辻哲郎「院展遠望」青空文庫>
  26. ・・・あるいはまた怯懦な知識階級の特色としての現実逃避であるとも見られるであろう。しかしこれらの観照は「悠々たる」観の世界を持つものとは言えない。人が悠々として観る態度を取り得るのは、人間の争いに驚かない不死身な強さを持つからである。著者はシナの・・・<和辻哲郎「『青丘雑記』を読む」青空文庫>
  27. ・・・――私は自己の内のある者を滅ぼすのが直ちに自己を逃避することになるとは思わない。私は自分の上に降りかかってくるように感じられる運命に対しては、それがいかに苦しいことであっても、勇ましく堪え忍び、それによって自己を培う。しかし事が自分の自由の・・・<和辻哲郎「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」青空文庫>
  28. ・・・などと現在のある境遇に反撥心を抱くことは、現実の生に対するふまじめであり、また現実からの逃避である。そこにはもはや自己の改造や成長の望みはない。我々はただ現在の運命を如実に見きわめることによって、多産なる未来の道をきり開く事ができる。時には・・・<和辻哲郎「停車場で感じたこと」青空文庫>
  29. ・・・ 超脱の要求は現実よりの逃避ではなくて現実の征服を目ざしている。現実の外に夢を築こうとするのではなくて現実の底に徹する力強いたじろがない態度を獲得しようとするのである。先生の人格が昇って行く道はここにあった。公正の情熱によって「私」を去・・・<和辻哲郎「夏目先生の追憶」青空文庫>
  30. ・・・ 病苦は号泣や哀訴によってごまかすことはできても、全然逃避し得る性質のものでない。しかし精神的な生の悩みは、露出させる事によってごまかし得るほかに、また全然逃避することもできるのである。 ある内的必然によって意志を緊張させた場合を想・・・<和辻哲郎「ベエトォフェンの面」青空文庫>