とう‐めい【透明】例文一覧 30件

  1. ・・・それから何か透明な水薬を一杯飲ませました。僕はベッドの上に横たわったなり、チャックのするままになっていました。実際また僕の体はろくに身動きもできないほど、節々が痛んでいたのですから。 チャックは一日に二三度は必ず僕を診察にきました。また・・・<芥川竜之介「河童」青空文庫>
  2. ・・・そう思っている中に、足は見る見る透明になって、自然と雲の影に吸われてしまった。 その足が消えた時である。何小二は心の底から、今までに一度も感じた事のない、不思議な寂しさに襲われた。彼の頭の上には、大きな蒼空が音もなく蔽いかかっている。人・・・<芥川竜之介「首が落ちた話」青空文庫>
  3. ・・・後にはただ、白葡萄酒のコップとウイスキイのコップとが、白いテエブル・クロオスの上へ、うすい半透明な影を落して、列車を襲いかかる雨の音の中に、寂しくその影をふるわせている。       ――――――――――――――――――――――――・・・<芥川竜之介「西郷隆盛」青空文庫>
  4. ・・・高い腰の上は透明なガラス張りになっている雨戸から空をすかして見ると、ちょっと指先に触れただけでガラス板が音をたてて壊れ落ちそうに冴え切っていた。 将来の仕事も生活もどうなってゆくかわからないような彼は、この冴えに冴えた秋の夜の底にひたり・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  5. ・・・夏の夜の透明な空気は青み亘って、月の光が燐のように凡ての光るものの上に宿っていた。蚊の群がわんわんうなって二人に襲いかかった。 仁右衛門は死体を背負ったまま、小さな墓標や石塔の立列った間の空地に穴を掘りだした。鍬の土に喰い込む音だけが景・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  6. ・・・ 見ても、薄桃色に、また青く透明る、冷い、甘い露の垂りそうな瓜に対して、もの欲げに思われるのを恥じたのであろう。茶店にやや遠い人待石に―― で、その石には腰も掛けず、草に蹲って、そして妙な事をする。……煙草を喫むのに、燐寸を摺った。・・・<泉鏡花「瓜の涙」青空文庫>
  7. ・・・ 湖水の水は手にすくってみると玉のごとく透明であるが、打見た色は黒い。浅いか深いかわからぬが深いには相違ない。平生見つけた水の色ではない、予はいよいよ現世を遠ざかりつつゆくような心持ちになった。「じいさん、この湖水の水は黒いねー、ど・・・<伊藤左千夫「河口湖」青空文庫>
  8. ・・・ほとんど黄金を透明にしたような色だ。強みがあって輝きがあってそうして色がある。その色が目に見えるほど活きた色で少しも固定しておらぬ。一度は強く輝いてだんだんに薄くなる。木の葉の形も小鳥の形もはっきり映るようになると、きわめて落ちついた静かな・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  9. ・・・地面はなにか玻璃を張ったような透明で、自分は軽い眩暈を感じる。「あれはどこへ歩いてゆくのだろう」と漠とした不安が自分に起りはじめた。…… 路に沿うた竹藪の前の小溝へは銭湯で落す湯が流れて来ている。湯気が屏風のように立騰っていて匂・・・<梶井基次郎「泥濘」青空文庫>
  10. ・・・ 穉い堯は捕鼠器に入った鼠を川に漬けに行った。透明な水のなかで鼠は左右に金網を伝い、それは空気のなかでのように見えた。やがて鼠は網目の一つへ鼻を突っ込んだまま動かなくなった。白い泡が鼠の口から最後に泛んだ。…… 堯は五六年前は、自分・・・<梶井基次郎「冬の日」青空文庫>
  11. ・・・われとわが亡友との間、半透明の膜一重なるを感じた。 そうでない、ただかれは疲れはてた。一杯の水を求めるほどの気もなくなった。 豊吉は静かに立ち上がって河の岸に下りた。そして水の潯をとぼとぼとたどって河下の方へと歩いた。 月はさえ・・・<国木田独歩「河霧」青空文庫>
  12. ・・・青い煙、白い煙、目の先に透明に光って、渦を巻いて消えゆく。「オヤ、あれは徳じゃないか。」と石井翁は消えゆく煙の末に浮かび出た洋服姿の年若い紳士を見て思った。芝生を隔てて二十間ばかり先だから判然しない。判然しないが似ている。背格好から・・・<国木田独歩「二老人」青空文庫>
  13. ・・・青黒く透明な鉱泉からは薄い湯気が立っていた。先生は自然と出て来る楽しい溜息を制えきれないという風に、心地の好い沸かし湯の中へ身を浸しながら、久し振で一緒に成った高瀬を眺めたり、田舎風な浅黄の手拭で自分の顔の汗を拭いたりした。仮令性質は冷たく・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  14. ・・・このときの思い出だけは、霞が三角形の裂け目を作って、そこから白昼の透明な空がだいじな肌を覗かせているようにそんな案配にはっきりしている。祖母は顔もからだも小さかった。髪のかたちも小さかった。胡麻粒ほどの桜の花弁を一ぱいに散らした縮緬の着物を・・・<太宰治「玩具」青空文庫>
  15. ・・・強い光線を受けて、からだが透明になるような感じ。あるいは、聖霊の息吹きを受けて、つめたい花びらをいちまい胸の中に宿したような気持ち。日本も、けさから、ちがう日本になったのだ。 隣室の主人にお知らせしようと思い、あなた、と言いかけると直ぐ・・・<太宰治「十二月八日」青空文庫>
  16. ・・・その怪物の透明な肢体の各部がいろいろ複雑微妙な運動をしている。しかしわれわれ愚かな人間にはそれらの運動が何を意味するか、何を目的としているか全くわからない。わからないから見ていて恐ろしくなりすごくなる。哀れな人間の科学はただ茫然として口をあ・・・<寺田寅彦「映画時代」青空文庫>
  17. ・・・しかも、これによって、生きている人をそのままに透明な幽霊にして壁へでもなんでもぺたぺたと張り付けあるいは自由に通り抜けさせることができるのである。 映画における空間の特異性はこの二次元性だけではない。これに劣らず重要なことは、その空間の・・・<寺田寅彦「映画の世界像」青空文庫>
  18. ・・・往来の上に縦横の網目を張っている電線が透明な冬の空の眺望を目まぐるしく妨げている。昨日あたり山から伐出して来たといわぬばかりの生々しい丸太の電柱が、どうかすると向うの見えぬほど遠慮会釈もなく突立っている。その上に意匠の技術を無視した色のわる・・・<永井荷風「深川の唄」青空文庫>
  19. ・・・「純透明だね」と出臍の先生は、両手に温泉を掬んで、口へ入れて見る。やがて、「味も何もない」と云いながら、流しへ吐き出した。「飲んでもいいんだよ」と碌さんはがぶがぶ飲む。 圭さんは臍を洗うのをやめて、湯槽の縁へ肘をかけて漫然と・・・<夏目漱石「二百十日」青空文庫>
  20. ・・・象牙を半透明にした白さである。この嘴が粟の中へ這入る時は非常に早い。左右に振り蒔く粟の珠も非常に軽そうだ。文鳥は身を逆さまにしないばかりに尖った嘴を黄色い粒の中に刺し込んでは、膨くらんだ首を惜気もなく右左へ振る。籠の底に飛び散る粟の数は幾粒・・・<夏目漱石「文鳥」青空文庫>
  21. ・・・それらの夢の景色の中では、すべての色彩が鮮やかな原色をして、海も、空も、硝子のように透明な真青だった。醒めての後にも、私はそのヴィジョンを記憶しており、しばしば現実の世界の中で、異様の錯覚を起したりした。 薬物によるこうした旅行は、だが・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  22. ・・・その死体は、大理石のように半透明であった。<葉山嘉樹「死屍を食う男」青空文庫>
  23. ・・・いまはすっかり青ぞらに変ったその天頂から四方の青白い天末までいちめんはられたインドラのスペクトル製の網、その繊維は蜘蛛のより細く、その組織は菌糸より緻密に、透明清澄で黄金でまた青く幾億互に交錯し光って顫えて燃えました。「ごらん、そら、風・・・<宮沢賢治「インドラの網」青空文庫>
  24. ・・・何せそう云ういい天気で、帆布が半透明に光っているのですから、実にその調和のいいこと、もうこここそやがて完成さるべき、世界ビジテリアン大会堂の、陶製の大天井かと思われたのであります。向うには勿論花で飾られた高い祭壇が設けられていました。そのと・・・<宮沢賢治「ビジテリアン大祭」青空文庫>
  25. ・・・ 未来の絵姿はそのように透明生気充満したものであるとしても、現在私たちの日常は実に女らしさの魑魅魍魎にとりまかれていると思う。女にとって一番の困難は、いつとはなし女自身が、その女らしさという観念を何か自分の本態、あるいは本心に附随したも・・・<宮本百合子「新しい船出」青空文庫>
  26. ・・・今頃は、どの耕野をも満して居るだろう冬枯れの風の音と、透明そのもののような空気の厳かさを想った。底冷えこそするが、此庭に、そのすがすがしさが十分の一でもあるだろうか。 ――間近に迫った人家の屋根や雨に打れ風に曝された羽目を見、自分の立っ・・・<宮本百合子「餌」青空文庫>
  27.        一 丘の先端の花の中で、透明な日光室が輝いていた。バルコオンの梯子は白い脊骨のように突き出ていた。彼は海から登る坂道を肺療院の方へ帰って来た。彼はこうして時々妻の傍から離れると外を歩き、また、妻の顔を新・・・<横光利一「花園の思想」青空文庫>
  28. ・・・全身に溢れた力が漲りつつ、頂点で廻転している透明なひびきであった。 梶は立った。が、またすぐ坐り直し、玄関の戸を開け加減の音を聞いていた。この戸の音と足音と一致していないときは、梶は自分から出て行かない習慣があったからである。間もなく戸・・・<横光利一「微笑」青空文庫>
  29. ・・・大きい愛について考えていた父親は、この小さい透明な心をさえも暖めてやることができませんでした。 私は自分を呪いました。食事の時ぐらいはなぜ他の者といっしょの気持ちにならなかったのでしょう。なぜ子供に対してまで「自分の内に閉じこもること」・・・<和辻哲郎「ある思想家の手紙」青空文庫>
  30. ・・・油絵の具は第一に不透明であって、厚みの感じや、実質が中に充ちている感じを、それ自身の内に伴なっている。日本絵の具は透明で、一種の清らかな感じと離し難くはあるが、同時にまたいかにも中の薄い、実質の乏しい感じから脱れる事ができない。次に油絵の具・・・<和辻哲郎「院展遠望」青空文庫>