どう‐よう〔‐エウ〕【動揺】例文一覧 30件

  1. ・・・彼は突然お嬢さんの目に何か動揺に似たものを感じた。同時にまたほとんど体中にお時儀をしたい衝動を感じた。けれどもそれは懸け値なしに、一瞬の間の出来事だった。お嬢さんははっとした彼を後ろにしずしずともう通り過ぎた。日の光りを透かした雲のように、・・・<芥川竜之介「お時儀」青空文庫>
  2. ・・・ すると、まだその点検がすまない中に、老紳士はつと立上って、車の動揺に抵抗しながら、大股に本間さんの前へ歩みよった。そうしてそのテエブルの向うへ、無造作に腰を下すと、壮年のような大きな声を出して、「やあ失敬」と声をかけた。 本間さん・・・<芥川竜之介「西郷隆盛」青空文庫>
  3. ・・・頭が沈みこむとぬるりと四方からその跡を埋めに流れ寄る泥の動揺は身の毛をよだてた。クララは何もかも忘れて三人を救うために泥の中に片足を入れようとした。 その瞬間に彼女は真黄に照り輝く光の中に投げ出された。芝生も泥の海ももうそこにはなかった・・・<有島武郎「クララの出家」青空文庫>
  4. ・・・ 室内は動揺む。嬰児は泣く。汽車は轟く。街樹は流るる。「誰の麁そそうじゃい。」 と赤ら顔はいよいよ赤くなって、例の白目で、じろり、と一ツずつ、女と、男とを見た。 彼は仰向けに目を瞑った。瞼を掛けて、朱を灌ぐ、――二合壜は、帽・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  5. ・・・ ふらりと廊下から、時ならない授業中に入って来たので、さすがに、わっと動揺めいたが、その音も戸外の風に吹攫われて、どっと遠くへ、山へ打つかるように持って行かれる。口や目ばかり、ばらばらと、動いて、騒いで、小児等の声は幽に響いた。……」・・・<泉鏡花「朱日記」青空文庫>
  6. ・・・僕が民子を思っている感情に何らの動揺を起さなかった。これには何か相当の理由があるかも知れねど、ともかくも事実はそうである。僕はただ理窟なしに民子は如何な境涯に入ろうとも、僕を思っている心は決して変らぬものと信じている。嫁にいこうがどうしよう・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  7. ・・・ おはまからこれだけの言を聞いたばかりで、省作はもう全身の神経に動揺を感じた。この時もはや省作は深田の婿でなくなって、例の省作の事であるから、それを俄かに行為の上に現わしては来ないが、わが身の進転を自ら抑える事のできない傾斜の滑道にはい・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  8. ・・・かつ高価を支払われて外国へ流出したものも沢山あるらしいから、追付けクルトやズッコのお仲間が日本人の余り知らない傑作の複製を挿図した椿岳画伝を出版して欧洲読画界を動揺する事がないとも限られない。「俺の画は死ねば値が出る」と傲語した椿岳は苔下に・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  9. ・・・一同はワヤ/\ガヤ/\して満室の空気を動揺し、半分黒焦げになったりポンプの水を被ったりした商品、歪げたり破れたりしたボール箱の一と山、半破れの椅子や腰掛、ブリキの湯沸し、セメント樽、煉瓦石、材木の端片、ビールの空壜、蜜柑の皮、紙屑、縄切れ、・・・<内田魯庵「灰燼十万巻」青空文庫>
  10. ・・・ この言葉は、みんなに少なからず動揺をあたえました。なかには、また、くすくす笑うものさえありました。しかし、先生が、笑うものをおしかりなさったので、すぐに静かになったけれど、小田は、そのとき、みんなから、なんだか侮辱されたような気がして・・・<小川未明「笑わなかった少年」青空文庫>
  11. ・・・途端に、どういうものか男の顔に動揺の色が走った。そして、ひきつるような苦痛の皺があとに残ったので、びっくりして男の顔を見ていると、男はきっとした眼で私をにらみつけた。 しかし、彼はすぐもとの、鈍重な、人の善さそうな顔になり、「肺やっ・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  12. ・・・ただ私の疲労をまぎらしてゆく快い自動車の動揺ばかりがあった。村の人が背負い網を負って山から帰って来る頃で、見知った顔が何度も自動車を除けた。そのたび私はだんだん「意志の中ぶらり」に興味を覚えて来た。そして、それはまたそれで、私の疲労をなにか・・・<梶井基次郎「冬の蠅」青空文庫>
  13. ・・・げに相模湾を隔てて、一点二点の火、鬼火かと怪しまるるばかり、明滅し、動揺せり。これまさしく伊豆の山人、野火を放ちしなり。冬の旅人の日暮れて途遠きを思う時、遥かに望みて泣くはげにこの火なり。 伊豆の山燃ゆ、伊豆の山燃ゆと、童ら節おもしろく・・・<国木田独歩「たき火」青空文庫>
  14. ・・・けれども、物をはねとばさぬばかりのひどい見幕でやって来る憲兵を見ると、自分が罪人になったような動揺を感ぜずにはいられなかった。 憲兵伍長は、腹立てゝいるようなむずかしい顔で、彼の姓名を呼んだ。彼は、心でそのいかめしさに反撥しながら、知ら・・・<黒島伝治「穴」青空文庫>
  15. ・・・に於て取られた言語体の文章は其組織や其色彩に於いて美妙君のの一派とは大分異っていた為、一部の人々をして言語体の文章と云うものについて、内心に或省察をいだかしめ、若くは感情の上に或動揺を起さしめた点の有った事は、小さな事実には過ぎなかったにせ・・・<幸田露伴「言語体の文章と浮雲」青空文庫>
  16. ・・・浮き揚った湯の花はあだかも陰気な苔のように周囲の岩に附着して、極く静かに動揺していた。 新浴場の位置は略崖下の平地と定った。荒れるに任せた谷陰には椚林などの生い茂ったところもある。桜井先生は大尉を誘って、あちこちと見て廻った。今ある自分・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  17. ・・・船は、かなり動揺しているのである。壁に凭れ、柱に縋り、きざな千鳥足で船室から出て、船腹の甲板に立った。私は目をみはった。きょろきょろしたのである。佐渡は、もうすぐそこに見えている。全島紅葉して、岸の赤土の崖は、ざぶりざぶりと波に洗われている・・・<太宰治「佐渡」青空文庫>
  18. ・・・と同時に、恐ろしい動揺がまた始まって、耳からも頭からも、種々の声が囁いてくる。この前にもこうした不安はあったが、これほどではなかった。天にも地にも身の置きどころがないような気がする。 野から村に入ったらしい。鬱蒼とした楊の緑がかれの上に・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  19. ・・・ただ事がらが非情の物質と、それに関する抽象的な概念の関係に属するために、明白な陳套な語で言い現わされるような感情の動揺を感じることはないであろうが、真なるものを把握することの喜びには、別に変わりはないであろう。 それだのに文学と科学とい・・・<寺田寅彦「科学と文学」青空文庫>
  20. ・・・汽車で明す夜といえば動揺する睡眠に身体も頭も散々な目に逢う。動いて行く箱の中で腰の痛さに目が覚める。皮膚が垢だらけになったような気がする。いろいろな塵が髪と眼の中へ飛込む。すうすう風の這入って来る食堂車でまずい食事をする。それらは私にいわせ・・・<永井荷風「夏の町」青空文庫>
  21. ・・・彼の心は劇しく動揺して且つ困憊した。「それじゃ三次でも連れて来べえ」 対手は去った。太十は一隅を外した蚊帳へもぐった。蚊帳の外には足が投げ出してあった。蠅が足へたかっても動かなかった。犬は蔭の湿った土に腹を冷して長くなって居た。二人・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  22. ・・・と云う訳で、少しでも労力を節減し得て優勢なるものが地平線上に現われてここに一つの波瀾を誘うと、ちょうど一種の低気圧と同じ現象が開化の中に起って、各部の比例がとれ平均が回復されるまでは動揺してやめられないのが人間の本来であります。積極的活力の・・・<夏目漱石「現代日本の開化」青空文庫>
  23. ・・・空気のいささかな動揺にも、対比、均斉、調和、平衡等の美的法則を破らないよう、注意が隅々まで行き渡っていた。しかもその美的法則の構成には、非常に複雑な微分数的計算を要するので、あらゆる町の神経が、非常に緊張して戦いていた。例えばちょっとした調・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  24. ・・・ 船体の動揺の刹那まで、私の足の踝にジャックナイフの突き通るまでは、私にも早朝の爽快さと、溌溂さとがあった。けれども船体の一と揺れの後では、私の足の踝から先に神経は失くなり、多くの血管は断ち切られた。そして、その後では、新鮮な溌溂たる疼・・・<葉山嘉樹「浚渫船」青空文庫>
  25. ・・・るの先例を示されたらば、世間にも次第に学問を貴ぶの風を成して、自然に学者安身の地位も生ずべきがゆえに、専業の工たり農商たり、また政治家たる者の外は、学問社会をもって畢生安心の地と覚悟して、政壇の波瀾に動揺することなきを得べし。我が輩かつてい・・・<福沢諭吉「学問の独立」青空文庫>
  26. ・・・但しこの位置は勝負中多少動揺することあり。甲組競技場に立つ時は乙組は球を打つ者ら一、二人(四人を越の外はことごとく後方に控えおるなり。 本基 第一基 第二基 第三基 攫者の位置 投者の位置 短遮の位置 第・・・<正岡子規「ベースボール」青空文庫>
  27. ・・・には、そういう動揺の気配がよくあらわれている。腐敗した古い婦人団体の内部のこと、町の小さい印刷屋の光景、亀戸あたりの托児所の有様などいく分ひろがった社会的な場面をあやどりながら、何かを求めている女主人公朝子の姿が描かれている。朝子が何を求め・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」青空文庫>
  28. ・・・全身の筋肉が緊縮して、体は板のようになっていて、それが周囲のあらゆる微細な動揺に反応して、痙攣を起す。これは学術上の現症記事ではないから、一々の徴候は書かない。しかし卒業して間もない花房が、まだ頭にそっくり持っていた、内科各論の中の破傷風の・・・<森鴎外「カズイスチカ」青空文庫>
  29. ・・・ここではパートの崩壊、積重、綜合の排列情調の動揺若くはその突感の差異分裂の顫動度合の対立的要素から感覚が閃き出し、主観は語られずに感覚となって整頓せられ爆発する。時として感覚派の多くの作品は古き頭脳の評者から「拵えもの」なる貶称を冠せられる・・・<横光利一「新感覚論」青空文庫>
  30. ・・・江戸幕府の文教政策を定め、儒教をもって当時の思想の動揺を押えようとした当時の政治家は、冷静な理論よりもむしろ狂信的な情熱を必要としたのであろう。 林羅山は慶長十二年以後、幕府の文教政策に参画した。その時二十五歳であった。羅山はそれ以前か・・・<和辻哲郎「埋もれた日本」青空文庫>