とお‐め〔とほ‐〕【遠目/遠眼】例文一覧 19件

  1. ・・・その顔は大きい海水帽のうちに遠目にも活き活きと笑っていた。「水母かな?」「水母かも知れない。」 しかし彼等は前後したまま、さらに沖へ出て行くのだった。 僕等は二人の少女の姿が海水帽ばかりになったのを見、やっと砂の上の腰を起し・・・<芥川竜之介「海のほとり」青空文庫>
  2. ・・・が、彼女の前髪や薄い黄色の夏衣裳の川風に波を打っているのは遠目にも綺麗に違いなかった。「見えたか?」「うん、睫毛まで見える。しかしあんまり美人じゃないな。」 僕は何か得意らしい譚ともう一度顔を向い合せた。「あの女がどうかした・・・<芥川竜之介「湖南の扇」青空文庫>
  3. ・・・菰の下からは遠目にも両足の靴だけ見えるらしかった。「死骸はあの人たちが持って行ったんです。」 こちら側のシグナルの柱の下には鉄道工夫が二三人、小さい焚火を囲んでいた。黄いろい炎をあげた焚火は光も煙も放たなかった。それだけにいかにも寒・・・<芥川竜之介「寒さ」青空文庫>
  4. ・・・それから――遠目にも愛くるしい顔に疑う余地のない頬笑みを浮かべた? が、それは掛け価のない一二秒の間の出来ごとである。思わず「おや」と目を見はった時には、少女はもういつのまにか窓の中へ姿を隠したのであろう。窓はどの窓も同じように人気のない窓・・・<芥川竜之介「少年」青空文庫>
  5. ・・・彼女の着ているのは遠目に見ても緑いろのドレッスに違いなかった。僕は何か救われたのを感じ、じっと夜のあけるのを待つことにした。長年の病苦に悩み抜いた揚句、静かに死を待っている老人のように。……     四 まだ? 僕はこのホテ・・・<芥川竜之介「歯車」青空文庫>
  6. ・・・ 露地が、遠目鏡を覗く状に扇形に展けて視められる。湖と、船大工と、幻の天女と、描ける玉章を掻乱すようで、近く歩を入るるには惜いほどだったから…… 私は――(これは城崎関弥 ――道をかえて、たとえば、宿の座敷から湖の向うにほん・・・<泉鏡花「小春の狐」青空文庫>
  7. ・・・恋人同志が一年にいちど相逢う姿を、遠目鏡などで眺めるのは、実に失礼な、また露骨な下品な態度だと思っていた。とても恥ずかしくて、望見出来るものではない。 そんな事を考えながら七夕の町を歩いていたら、ふいとこんな小説を書きたくなった。毎年い・・・<太宰治「作家の手帖」青空文庫>
  8. ・・・双方の感情を害する媒介たるに反し、遠く相離れて相互に見るが如く見ざるが如くして、相互に他の内事秘密に立入らざれば、新旧恰も独立して自から家計経営の自由を得るのみならず、其遠ざかるこそ相引くの道にして、遠目に見れば相互に憎からず、舅姑と嫁との・・・<福沢諭吉「新女大学」青空文庫>
  9. ・・・その傍を通り過た漁船、裸の漁師の踏張った片脚、愕きでピリリとしたのを遠目に見た。自分、段々段々その死んで漂って行った若い男が哀れになり、太陽が海を温めているから、赤い小旗は活溌にひらひらしているから、猶々切ない心持であった。夜こわく悲しく、・・・<宮本百合子「狐の姐さん」青空文庫>
  10. ・・・艫からメイン・マスト、舳へと一条張られたイルミネーションは遠目に細かく燦めき、海面の夜の濃さを感じさせた。 室へ帰って手帳に物を書いていたら、薄いカーテンに妙に青っぽい閃光が映り、目をあげて外を見ると、窓前のプラタナスに似た街路樹の葉へ・・・<宮本百合子「石油の都バクーへ」青空文庫>
  11. ・・・初冬の午後の日光に、これがほんとに蜀紅という紅なのだと思わせて燃えている黄櫨の、その枝かげを通りすがりに、下から見上げたら、これはまた遠目にはどこにも分らなかった柔かい緑のいろが紅に溶けつつ面白く透いていて、紅葉しつつ深山の木のように重なり・・・<宮本百合子「図書館」青空文庫>
  12. ・・・そのヴェランダは遠目にも快活に海の展望を恣ままにしているのが想像される。大分坂の上になるらしいが、俥夫はあの玄関まで行くのであろうか。長崎名物の石段道なら、俥は登るまいなど、周囲から際立って瀟洒でさえある遙かな建物を眺めていると、私は俥の様・・・<宮本百合子「長崎の印象」青空文庫>
  13. ・・・その白い花の色が遠目に立った。やがて桜が咲いて散り、石崖の横に立つ何だかわからない二丈ばかりの木が、白い蕾を膨らませ始める。――五月の緑の間に咲く白い花を私は愛する。東京を立って来る前、隣りの花園で梨の花が咲いた。もう葉桜だ。その木の間がく・・・<宮本百合子「夏遠き山」青空文庫>
  14. ・・・女も男も獣の皮か木の葉をかけて、極く短い綴りの言葉を合図にして穴居生活を営んでいる時代に、原始男女の世界は彼等の遠目のきく肉眼で見渡せる地平線が世界というものの限界であった。人類によって理解され征服されていなかった自然の中には、様々のおそろ・・・<宮本百合子「人間の結婚」青空文庫>
  15. ・・・ そして紺碧である。 頂に固く凍った雪の面は、太陽にまともから照らされて、眩ゆい銀色に輝きわたり、ややうすれた燻し銀の中腹から深い紺碧の山麓へとその余光を漂わせている。 遠目には見得ようもない地の襞、灌木の茂みに従って、同じ紺碧・・・<宮本百合子「禰宜様宮田」青空文庫>
  16. ・・・のうちに、社会発展の法則を次第に遠くまで見とおす具体的な条件がまして来るにつれて、リアリズムは日常的な目前の現象にくっついて歩いて、その細部を描き出す単純な写実から成長して、人民の歴史を前方に展望する遠目のきくリアリズムにまで育って来る。・・・<宮本百合子「文学と生活」青空文庫>
  17. ・・・怪訝に思いつつ振返って見ると、派手な帯のところだけ遠目に立たせ若い女が小走りにこちらに向って来る。石川が止ると、手を挙げてひどくおいでおいでをし、力を盛返して駈け出した。変に縋りつくようなところがある。双方から近よると、石川は、「何だね・・・<宮本百合子「牡丹」青空文庫>
  18. ・・・ 五十を越した労働者風のその男は、俄に顎を顫わせ、遠目にも涙のわかる顔を、窓から引こめてしまう。 浦和、蕨あたりからは、一旦逃げのびた罹災者が、焼跡始末に出て来る為、一日以来の東京の惨状は、口伝えに広まった。実に、想像以上の話だ。天・・・<宮本百合子「私の覚え書」青空文庫>
  19. ・・・さてその前後左右に綺羅星の如くに居並んでいる人々は、遠目の事ゆえ善くは見えぬが、春陽堂の新小説の宙外、日就社の読売新聞の抱月などという際立った性格のある頭が、肱を張って控えて居るだけは明かに見える。此等は随分博文館の天下をも争いかねぬ面魂で・・・<森鴎外「鴎外漁史とは誰ぞ」青空文庫>