とおり‐す・ぎる〔とほり‐〕【通り過ぎる】例文一覧 21件

  1. ・・・が、庚申堂を通り過ぎると、人通りもだんだん減りはじめた。僕は受け身になりきったまま、爪先ばかり見るように風立った路を歩いて行った。 すると墓地裏の八幡坂の下に箱車を引いた男が一人、楫棒に手をかけて休んでいた。箱車はちょっと眺めた所、肉屋・・・<芥川竜之介「年末の一日」青空文庫>
  2. ・・・このとき、沖のはるかに、赤い筋の入った一そうの大きな汽船が、波を上げて通り過ぎるのが見えました。露子は、ふと、この汽船は遠くの遠くへいくのではないかと思って見ていますと、お姉さまも、またじっとその船をごらんになりました。「お姉さま、この・・・<小川未明「赤い船」青空文庫>
  3. ・・・私はもしこの時分に起きて家の外に出て道の上に立っていたなら、偶然にこの新聞配達夫が通り過ぎるのを見ないとは限らないと思ったので、或日の朝私は早く起きて家の外に出た。 まだうす暗かった、暁の風は、灰色の雲を破って、東の方から夜はほの/″\・・・<小川未明「ある日の午後」青空文庫>
  4. ・・・旅人は、お城の門を通り過ぎるときに、足を止めてお城のあちらを仰ぎました。けれど、そこからは、なにも見ることができませんでした。「なんでも、きれいな御殿があるということだ。」と、一人の旅人がいいますと、「美しいお姫さまがいられて、いい・・・<小川未明「お姫さまと乞食の女」青空文庫>
  5. ・・・変にこう身体がぞくぞくしてくるんで、『お出でなすったな』と思っていると、背後から左りの肩越しに、白い霧のようなものがすうっと冷たく顔を掠めて通り過ぎるのだ。俺は膝頭をがたがた慄わしながら、『やっぱし苦しいと見えて、また出やがったよ』と、泣笑・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  6. ・・・龍介は通り過ぎる時にちょっと中をのぞいてみた。眼の悪い三十五、六の女が三味線を持って何か言っていた。その前に、十二、三の薄汚んで中をのぞいてみた。いないようだった。彼は入口まで行った。障子にはめてある硝子には半紙が貼ってあって、ハッキリ中は・・・<小林多喜二「雪の夜」青空文庫>
  7. ・・・子供は到底母親だけのものか、父としての自分は偶然に子供の内を通り過ぎる旅人に過ぎないのか――そんな嘆息が、時には自分を憂鬱にした。そのたびに気を取り直して、また私は子供を護ろうとする心に帰って行った。 安い思いもなしに、移り行く世相・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  8. ・・・婆やが来てそこへ寝床を敷いてくれる頃には、深い秋雨の戸の外を通り過ぎる音がした。その晩はおげんは娘と婆やと三人枕を並べて、夜遅くまで寝床の中でも話した。 翌日は小山の養子の兄が家の方からこの医院に着いた。いよいよみんなに暇乞いして停車場・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  9. ・・・年のいかない生徒等は門の外へ出て、いずれも線路側の柵に取附き、通り過ぎる列車を見ようとした。「どうも汽車の音が喧しくて仕様が有りません。授業中にあいつをやられようものなら、硝子へ響いて、稽古も出来ない位です」 大尉は一寸高瀬の側へ来・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  10.  ふと大塚さんは眼が覚めた。 やがて夜が明ける頃だ。部屋に横たわりながら、聞くと、雨戸へ来る雨の音がする。いかにも春先の根岸辺の空を通り過ぎるような雨だ。その音で、大塚さんは起されたのだ。寝床の上で独り耳を澄まして、彼は・・・<島崎藤村「刺繍」青空文庫>
  11. ・・・次郎が毎日はく靴を買ったという店の前あたりを通り過ぎると、そこはもう新橋の手前だ。ある銀行の前で、私は車を停めさせた。 しばらく私たちは、大きな金庫の目につくようなバラック風の建物の中に時を送った。「現金でお持ちになりますか。それと・・・<島崎藤村「分配」青空文庫>
  12. ・・・何だか、そこに、幽かでも障子の鳥影のように、かすめて通り過ぎる気がかりのものが感じられて、僕はいよいよ憂鬱になるばかりであった。 それから半年ほども経ったろうか、戦地の君から飛行郵便が来た。君は南方の或る島にいるらしい。その手紙には、別・・・<太宰治「未帰還の友に」青空文庫>
  13. ・・・ふと汽車――豊橋を発ってきた時の汽車が眼の前を通り過ぎる。停車場は国旗で埋められている。万歳の声が長く長く続く。と忽然最愛の妻の顔が眼に浮かぶ。それは門出の時の泣き顔ではなく、どうした場合であったか忘れたが心からかわいいと思った時の美しい笑・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  14. ・・・赤い服、白い袴、黒い長靴の騎手の姿が樹の間を縫うて嵐のように通り過ぎる。群を離れた犬が一疋汀へ飛んで来て草の間を嗅いでいたが、笛の音が響くと弾かれたように駆け出して群の後を追う。 猟の群が通り過ぎると、ひっそりする。沼の面が鏡のように静・・・<寺田寅彦「ある幻想曲の序」青空文庫>
  15. ・・・で、盲者が、話し声の反響で室の広さを判断しうるような微妙な音色の差別を再現することはまだできないのであるが、それにもかかわらず適当な雑音の適当な插入が画面の空間の特性を強調する事は驚くべきものである。通り過ぎる汽車の音の強まり弱まり消え去る・・・<寺田寅彦「映画芸術」青空文庫>
  16. ・・・谷をおおう黒ずんだ青空にはおりおり白雲が通り過ぎるが、それはただあちこちの峰に藍色の影を引いて通るばかりである。咽喉がかわいて堪え難い。道ばたの田の縁に小みぞが流れているが、金気を帯びた水の面は青い皮を張って鈍い光を照り返してい・・・<寺田寅彦「花物語」青空文庫>
  17. ・・・従って問題にしようともしなければ、また見ても見ないつもりで目をつぶって通り過ぎるのが通例である。 上記のごとき現象が純粋な自然探究者にとって決して興味がなくはないのであっても、それが現在の学問の既成体系の網に引っかからない限りは、それが・・・<寺田寅彦「物理学圏外の物理的現象」青空文庫>
  18. ・・・殊に清作が通り過ぎるときは、ちょっとあざ笑いました。清作はどうも仕方ないというような気がしてだまって画かきについて行きました。 ところがどうも、どの木も画かきには機嫌のいい顔をしますが、清作にはいやな顔を見せるのでした。 一本のごつ・・・<宮沢賢治「かしわばやしの夜」青空文庫>
  19. ・・・まさかこんな林には気も付かずに通り過ぎるだろうと思っていたら二人の役人がどこかで番をして見ていたのです。万一殺されないにしてももう縛られると私どもは覚悟しました。慶次郎の顔を見ましたらやっぱりまっ青で唇まで乾いて白くなっていました。私は役人・・・<宮沢賢治「二人の役人」青空文庫>
  20. ・・・他の一部の若い人々は全く山村のようにくよくよしずにさりとて現状に抗わず、僅かに自分の時間でせめては本だけでも読んだりして雨宿りでもしているように、現在の状態が通り過ぎることを傍観的に待っている。そのようにして「やがての時代までも健康に生きの・・・<宮本百合子「ヒューマニズムへの道」青空文庫>
  21. ・・・市の方から塔へ来て、塔から市の方へ帰る車が、己の前を通り過ぎる。どの車にも、軟い鼠色の帽の、鍔を下へ曲げたのを被った男が、馭者台に乗って、俯向き加減になっている。 不精らしく歩いて行く馬の蹄の音と、小石に触れて鈍く軋る車輪の響とが、単調・・・<森鴎外「沈黙の塔」青空文庫>