と‐けい【時計/土×圭】例文一覧 35件

  1. ・・・ 遠藤は手紙を読み終ると、懐中時計を出して見ました。時計は十二時五分前です。「もうそろそろ時刻になるな、相手はあんな魔法使だし、御嬢さんはまだ子供だから、余程運が好くないと、――」 遠藤の言葉が終らない内に、もう魔法が始まる・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・父は蒲団の左角にひきつけてある懐中道具の中から、重そうな金時計を取りあげて、眼を細めながら遠くに離して時間を読もうとした。 突然事務所の方で弾条のゆるんだらしい柱時計が十時を打った。彼も自分の時計を帯の間に探ったが十時半になっていた。・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  3. ・・・フレンチは時計を出して一目見て、身を起した。 出口のところで、フレンチが靴の上に被せるものを捜しているときになって、奥さんはやっと臆病げに口を開いた。「あなた御病気におなりなさりはしますまいね。」 フレンチは怒が心頭より発した。・・・<著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外「罪人」青空文庫>
  4. ・・・       十 その中に最も人間に近く、頼母しく、且つ奇異に感じられたのは、唐櫃の上に、一個八角時計の、仰向けに乗っていた事であった。立花は夢心地にも、何等か意味ありげに見て取ったので、つかつかと靴を近けて差覗いたが、もの・・・<泉鏡花「伊勢之巻」青空文庫>
  5. ・・・一寸時計を見ると九時二十分になる。改札口を出るまでは躊躇せず急いで出たが、夜は意外に暗い。パッタリと闇夜に突当って予は直ぐには行くべき道に践み出しかねた。 今一緒に改札口を出た男女の客は、見る間に影の如く闇に消えて終った。軒燈の光り鈍く・・・<伊藤左千夫「浜菊」青空文庫>
  6. ・・・と、正ちゃんが時計を見て口を出した。「また、あの青木と蕎麦屋へ行ったのだろう」お君が長い顎を動かした。蕎麦屋と聴けば、僕も吉弥に引ッ込まれたことがあって、よく知っているから、そこへ行っている事情は十分察しられるので、いいことを聴かしてく・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  7. ・・・急いで時計を見ると払暁の四時だった。「これじゃアとても競争が出来ない、」とその後私の許へ来て話した。 尤も二時三時まで話し込むお客が少くなかったのだから、書斎のアカリの消えるのが白々明けであるのは不思議でない。「人間は二時間寝れば沢山だ・・・<内田魯庵「鴎外博士の追憶」青空文庫>
  8. ・・・カーライルの何十年ほどかかった『革命史』を焼いてしまった。時計の三分か四分の間に煙となってしまった。それで友人がこのことを聞いて非常に驚いた。何ともいうことができない。ほかのものであるならば、紙幣を焼いたならば紙幣を償うことができる、家を焼・・・<内村鑑三「後世への最大遺物」青空文庫>
  9. ・・・丁度時計のセコンドのようである。セコンドや時間がどうなろうと、そんな事は、もうこの二人には用がないのである。女学生の立っている右手の方に浅い水溜があって、それに空が白く映っている。それが草原の中に牛乳をこぼしたように見える。白樺の木共はこれ・・・<著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外「女の決闘」青空文庫>
  10. ・・・それは時計台で、塔の上に大きな時計があって、その時計のガラスに月の光がさして、その時計が真っ青に見えていました。下には窓があって、一つのガラス窓の中には、それは美しいものばかりがならべてありました。金銀の時計や、指輪や、赤・青・紫、いろいろ・・・<小川未明「青い時計台」青空文庫>
  11. ・・・ そのうちに、階下の八角時計が九時を打った。それから三十分も経ったと思うころ、外から誰やら帰ってきた気勢で、「もう商売してきたの、今夜は早いじゃないか。」と上さんの声がする。 すると、何やらそれに答えながら、猿階子を元気よく上っ・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  12. ・・・ もう夜の十時十八分であった。「でも、あと二分ですから、見送らせていただきますわ」 時計を見て、言った。発車は十時二十分である。「二分か。この二分の間に、俺は何か言わねばならない」 と、白崎はひそかに呟いた。「――し・・・<織田作之助「昨日・今日・明日」青空文庫>
  13. ・・・家内ひっそりと、八角時計の時を刻む音ばかり外は物すごき風狂えり。『時に吉さんはどうしてるだろう』と幸衛門が突然の大きな声に、『わたしも今それを思っていたのよ』とお絹は針の手をやめて叔父の方を見れば叔父も心配らしいまじめな顔つき。・・・<国木田独歩「置土産」青空文庫>
  14. ・・・慶応贔屓で、試合の仲継放送があると、わざわざ隣村の時計屋の前まで、自転車できゝに出かけた。 五月一日の朝のことである。今時分、O市では、中ノ島公園のあの橋をおりて、赤い組合旗と、沢山の労働者が、どん/\集っていることだろうな、と西山は考・・・<黒島伝治「鍬と鎌の五月」青空文庫>
  15. ・・・龍介は落ちつかない気持で待合の入口を何度も行ったり来たりした。時計を何度も見た。それから恵子のくる通りの方へも出かけてみた。汽車がプラットフォームへ入った。恵子は来なかった! 龍介は汽車が出てしまったあと、どうしようか、と思ったが、カフ・・・<小林多喜二「雪の夜」青空文庫>
  16.  子供らは古い時計のかかった茶の間に集まって、そこにある柱のそばへ各自の背丈を比べに行った。次郎の背の高くなったのにも驚く。家じゅうで、いちばん高い、あの子の頭はもう一寸四分ぐらいで鴨居にまで届きそうに見える。毎年の暮れに、・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  17. ・・・ 子どもは顔をおかあさんの胸にうずめて、心配で胸の動悸は小時計のようにうちました。「私こわい」 と小さな声で言います。「天に在します神様――お助けください」 とおかあさんはいのりました。 と黒鳥の歌が松の木の間で聞こ・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎「真夏の夢」青空文庫>
  18. ・・・古い達磨の軸物、銀鍍金の時計の鎖、襟垢の着いた女の半纏、玩具の汽車、蚊帳、ペンキ絵、碁石、鉋、子供の産衣まで、十七銭だ、二十銭だと言って笑いもせずに売り買いするのでした。集る者は大抵四十から五十、六十の相当年輩の男ばかりで、いずれは道楽の果・・・<太宰治「老ハイデルベルヒ」青空文庫>
  19. ・・・これ程の大損をさせるプリュウンというものを、好くも見ずに置くのは遺憾だと云って、時計の鎖に下げたのである。またある時はどこかの二等線路を一手に引き受けられる程の数の機関車を所有していた。またある時は、平生活人画以上の面白味は解せないくせに、・・・<著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外「世界漫遊」青空文庫>
  20. ・・・ みずから時計を出してみて、「道理だ」という顔をして、そのままポケットに収めた。 「何時です?」 「二時十五分」 二人は黙って立っている。 苦痛がまた押し寄せてきた。唸り声、叫び声が堪え難い悲鳴に続く。 「気の毒だナ・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  21. ・・・またたとえば教授の出勤時刻をしらせる時計の音が何度も出て来る。教場の光景も初めと終わりに現われそれが皆それぞれ全く変わった主人公の心境の背景として現われるのである。同じ女の絵はがきでも初めは生徒の手から没収したのを後には自分でお客に売り歩く・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  22. ・・・鉄の門の内側は広大な熊本煙草専売局工場の構内がみえ、時計台のある中央の建物へつづく砂利道は、まだつよい夏のひざしにくるめいていて、左右には赤煉瓦の建物がいくつとなく胸を反らしている。―― いつものように三吉は、熊本城の石垣に沿うてながい・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  23. ・・・朝夕の秋風身にしみわたりて、上清が店の蚊遣香懐炉灰に座をゆづり、石橋の田村やが粉挽く臼の音さびしく、角海老が時計の響きもそぞろ哀れの音を伝へるやうになれば、四季絶間なき日暮里の火の光りもあれが人を焼く烟かとうら悲しく、茶屋が裏ゆく土手下の細・・・<永井荷風「里の今昔」青空文庫>
  24. ・・・ 真夜中頃に、枕頭の違棚に据えてある、四角の紫檀製の枠に嵌め込まれた十八世紀の置時計が、チーンと銀椀を象牙の箸で打つような音を立てて鳴った。夢のうちにこの響を聞いて、はっと眼を醒ましたら、時計はとくに鳴りやんだが、頭のなかはまだ鳴ってい・・・<夏目漱石「京に着ける夕」青空文庫>
  25. ・・・町の四辻に写真屋があり、その気象台のような硝子の家屋に、秋の日の青空が侘しげに映っていた。時計屋の店先には、眼鏡をかけた主人が坐って、黙って熱心に仕事をしていた。 街は人出で賑やかに雑鬧していた。そのくせ少しも物音がなく、閑雅にひっそり・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  26. ・・・ 蚊帳の中には四つになる彼の長男が、腐った飯粒見たいに体中から汗を出して、時計の針のようにグルグル廻って、眠っていた。かますの乾物のように、痩せて固まった彼の母は、寝苦しいものと見えて、時々溜息をついていた。 彼は、暑さにジタバ・・・<葉山嘉樹「生爪を剥ぐ」青空文庫>
  27. ・・・ 少時前報ッたのは、角海老の大時計の十二時である。京町には素見客の影も跡を絶ち、角町には夜を警めの鉄棒の音も聞える。里の市が流して行く笛の音が長く尻を引いて、張店にもやや雑談の途断れる時分となッた。 廊下には上草履の音がさびれ、台の・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  28. ・・・アラバステル石の時計がある。壁に塗り込んだ煖炉の上に燭台が載せてある。 ピエエル・オオビュルナンはこんな光景を再び目の前に浮ばせてみた。この男はそう云う昔馴染の影像を思い浮べて、それをわざとあくまで霊の目に眺めさせる。そうして置けば、そ・・・<著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外「田舎」青空文庫>
  29. ・・・たらちねの花見の留守や時計見る 内の者の遊山も二年越しに出来たので、予に取っても病苦の中のせめてもの慰みであった。彼らの楽みは即ち予の楽みである。○二、三年前に不折が使い古しの絵具を貰って、寝て居りながら枕元にある活花盆栽などの・・・<正岡子規「病牀苦語」青空文庫>
  30. ・・・「おい、お前は時計は要らないか。」丸太で建てたその象小屋の前に来て、オツベルは琥珀のパイプをくわえ、顔をしかめて斯う訊いた。「ぼくは時計は要らないよ。」象がわらって返事した。「まあ持って見ろ、いいもんだ。」斯う言いながらオツベル・・・<宮沢賢治「オツベルと象」青空文庫>