と‐ざし【鎖し/×扃し】例文一覧 19件

  1. ・・・いや、しまいには門を鎖したまま、返事さえろくにしないのです。そこで翁はやむを得ず、この荒れ果てた家のどこかに、蔵している名画を想いながら、惆悵と独り帰って来ました。 ところがその後元宰先生に会うと、先生は翁に張氏の家には、大癡の秋山図が・・・<芥川竜之介「秋山図」青空文庫>
  2. ・・・が、門の奥にある家は、――茅葺き屋根の西洋館はひっそりと硝子窓を鎖していた。僕は日頃この家に愛着を持たずにはいられなかった。それは一つには家自身のいかにも瀟洒としているためだった。しかしまたそのほかにも荒廃を極めたあたりの景色に――伸び放題・・・<芥川竜之介「悠々荘」青空文庫>
  3. ・・・と、外は薄雲のかかった月の光が、朦朧と漂っているだけで、停留場の柱の下は勿論、両側の町家がことごとく戸を鎖した、真夜中の広い往来にも、さらに人間らしい影は見えません。妙だなと思う途端、車掌がベルの綱を引いたので、電車はそのまま動き出しました・・・<芥川竜之介「妖婆」青空文庫>
  4. ・・・ 社の神木の梢を鎖した、黒雲の中に、怪しや、冴えたる女の声して、「お爺さん――お取次。……ぽう、ぽっぽ。」 木菟の女性である。「皆、東京の下町です。円髷は踊の師匠。若いのは、おなじ、師匠なかま、姉分のものの娘です。男は、円髷・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  5. ・・・北も南も吹荒んで、戸障子を煽つ、柱を揺ぶる、屋根を鳴らす、物干棹を刎飛ばす――荒磯や、奥山家、都会離れた国々では、もっとも熊を射た、鯨を突いた、祟りの吹雪に戸を鎖して、冬籠る頃ながら――東京もまた砂埃の戦を避けて、家ごとに穴籠りする思い。・・・<泉鏡花「菎蒻本」青空文庫>
  6. ・・・ ――逢いに来た――と報知を聞いて、同じ牛込、北町の友達の家から、番傘を傾け傾け、雪を凌いで帰る途中も、その婦を思うと、鎖した町家の隙間洩る、仄な燈火よりも颯と濃い緋の色を、酒井の屋敷の森越に、ちらちらと浮いつ沈みつ、幻のように視たので・・・<泉鏡花「第二菎蒻本」青空文庫>
  7. ・・・ 木下闇、その横径の中途に、空屋かと思う、廂の朽ちた、誰も居ない店がある……       四 鎖してはないものの、奥に人が居て住むかさえ疑わしい。それとも日が暮れると、白い首でも出てちとは客が寄ろうも知れぬ。店一杯に雛壇・・・<泉鏡花「伯爵の釵」青空文庫>
  8. ・・・そこに鎖した雨戸々々が透通って、淡く黄を帯びたのは人なき燈のもれるのであろう。 鐘の音も聞えない。 潟、この湖の幅の最も広く、山の形の最も遠いあたりに、ただ一つ黒い点が浮いて見える。船か雁か、※かいつぶりか、ふとそれが月影に浮ぶお澄・・・<泉鏡花「鷭狩」青空文庫>
  9. ・・・――柳を中に真向いなる、門も鎖し、戸を閉めて、屋根も、軒も、霧の上に、苫掛けた大船のごとく静まって、梟が演戯をする、板歌舞伎の趣した、近江屋の台所口の板戸が、からからからと響いて、軽く辷ると、帳場が見えて、勝手は明い――そこへ、真黒な外套が・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  10. ・・・一方八重の遅桜、三本ばかり咲満ちたる中に、よろず屋の店見ゆ。鎖したる硝子戸に、綿、紙、反もの類。生椎茸あり。起癈散、清暑水など、いろいろに認む。一枚戸を開きたる土間に、卓子椅子を置く。ビール、サイダアの罎を並べ、菰かぶり一樽、焼酎の瓶見ゆ。・・・<泉鏡花「山吹」青空文庫>
  11. ・・・両側の店はゴミ箱を舗道に出して戸を鎖してしまっている。所どころに嘔吐がはいてあったり、ゴミ箱が倒されていたりした。喬は自分も酒に酔ったときの経験は頭に上り、今は静かに歩くのだった。 新京極に折れると、たてた戸の間から金盥を持って風呂へ出・・・<梶井基次郎「ある心の風景」青空文庫>
  12. ・・・戸を鎖し眠りに入っている。星空の下に、闇黒のなかに。彼らはなにも知らない。この星空も、この闇黒も。虚無から彼らを衛っているのは家である。その忍苦の表情を見よ。彼は虚無に対抗している。重圧する畏怖の下に、黙々と憐れな人間の意図を衛っている。・・・<梶井基次郎「温泉」青空文庫>
  13. ・・・ 堯はそれを見終わると、絶望に似た感情で窓を鎖しにかかる。もう夜を呼ぶばかりの凩に耳を澄ましていると、ある時はまだ電気も来ないどこか遠くでガラス戸の摧け落ちる音がしていた。        二 堯は母からの手紙を受け取った・・・<梶井基次郎「冬の日」青空文庫>
  14. ・・・ここは秩父第一の町なれば、家数も少からず軒なみもあしからねど、夏ながら夜の賑わしからで、燈の光の多く見えず、物売る店々も門の戸を早く鎖したるが多きなど、一つは強き雨の後なればにもあるべけれど、さすがに田舎びたりというべし。この日さのみ歩みし・・・<幸田露伴「知々夫紀行」青空文庫>
  15. ・・・ 女は手ばしこく門を鎖した。佳い締り金物と見えて音も少く、しかもぴったりと厳重に鎖されたようだった。雲の余りの雪は又ちらちらと降って来た。女は門の内側に置いてあった恐ろしい大きな竹の笠、――茶の湯者の露次に使う者を片手で男の上へかざして・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  16. ・・・幸に世界を流るる一の大潮流は、暫く鎖した日本の水門を乗り越え潜り脱けて滔々と我日本に流れ入って、維新の革命は一挙に六十藩を掃蕩し日本を挙げて統一国家とした。その時の快豁な気もちは、何ものを以てするも比すべきものがなかった。諸君、解脱は苦痛で・・・<徳冨蘆花「謀叛論(草稿)」青空文庫>
  17. ・・・ その界隈にこの頃たつ家は、いずれもぐるりをコンクリートの塀で犇とかこって、面白いこともなさそうに往来に向って門扉も鎖してしずまっている。だが、昔ながらの木と土と紙でこしらえた家のまわりだけをそんないかめしいコンクリートでかこってみるの・・・<宮本百合子「犬三態」青空文庫>
  18. ・・・ 令子は、そっと、動物たちを驚ろかさないように雨戸を鎖した。 朝になったが、萩の葉の裏に水銀のような月の光が残って居る。 令子は海面に砕ける月を見たい心持になって来た。月の光にはいつもほのかな香いがあるが、秋の潮は十六夜の月・・・<宮本百合子「黒い驢馬と白い山羊」青空文庫>
  19. ・・・山崎の屋敷では門を厳重に鎖して静まりかえっていた。市太夫や五太夫の宅は空屋になっていた。 討手の手配りが定められた。表門は側者頭竹内数馬長政が指揮役をして、それに小頭添島九兵衛、同じく野村庄兵衛がしたがっている。数馬は千百五十石で鉄砲組・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>