と‐だえ【途絶え/跡絶え】例文一覧 30件

  1. ・・・ 彼の言葉は一度途絶えてから、また荒々しい嗄れ声になった。「お前だろう。誰だ、お前は?」 もう一人の陳彩は、しかし何とも答えなかった。その代りに眼を挙げて、悲しそうに相手の陳彩を眺めた。すると椅子の前の陳彩は、この視線に射すくま・・・<芥川竜之介「影」青空文庫>
  2. ・・・坂を下りて、一度ぐっと低くなる窪地で、途中街燈の光が途絶えて、鯨が寝たような黒い道があった。鳥居坂の崖下から、日ヶ窪の辺らしい。一所、板塀の曲角に、白い蝙蝠が拡ったように、比羅が一枚貼ってあった。一樹が立留まって、繁った樫の陰に、表町の淡い・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  3. ・・・ 御手洗の音も途絶えて、時雨のような川瀬が響く。……       八「そのまんま消えたがのう。お社の柵の横手を、坂の方へ行ったらしいで、後へ、すたすた。坂の下口で気が附くと、驚かしやがらい、畜生めが。俺の袖の中から、皺び・・・<泉鏡花「茸の舞姫」青空文庫>
  4. ・・・ 人通りも殆ど途絶えた。 が、何処ともなく、柳に暗い、湯屋の硝子戸の奥深く、ドブンドブンと、ふと湯の煽ったような響が聞える。…… 立淀んだ織次の耳には、それが二股から遠く伝わる、ものの谺のように聞えた。織次の祖母は、見世物のその・・・<泉鏡花「国貞えがく」青空文庫>
  5. ・・・しばらく言途絶えたり。「高峰、ちっと歩こうか」 予は高峰とともに立ち上がりて、遠くかの壮佼を離れしとき、高峰はさも感じたる面色にて、「ああ、真の美の人を動かすことあのとおりさ、君はお手のものだ、勉強したまえ」 予は画師たるが・・・<泉鏡花「外科室」青空文庫>
  6. ・・・ と、言が途絶えた。「小さな児が、この虫を見ると?……」「あの……」「どうするんです。」「唄をうとうて囃しますの。」「何と言って……その唄は?」「極が悪うございますわ。…………薄暮合には、よけい沢山飛びますの。」・・・<泉鏡花「小春の狐」青空文庫>
  7. ・・・ とややありて切なげにいいし一句にさえ、呼吸は三たびぞ途絶えたる。昼中の日影さして、障子にすきて見ゆるまで、空蒼く晴れたればこそかくてあれ、暗くならば影となりて消えや失せむと、見る目も危うく窶れしかな。「切のうござんすか。」 ミ・・・<泉鏡花「誓之巻」青空文庫>
  8. ・・・ 私は暗い路ばたに悄り佇んで、独り涙含んでいたが、ふと人通りの途絶えた向うから車の轍が聞えて、提灯の火が見えた。こちらへ近いてくるのを見ると、年の寄った一人の車夫が空俥を挽いている。私は人懐しさにいきなり声を懸けた。 先方は驚いて立・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  9. ・・・やがて、どれだけ時間がたったでしょうか、中華料理屋の客席の灯が消え、歯医者の二階の灯が消え、電車が途絶え、ボートの影も見えなくなってしまっても、私はそこを動きませんでした。夜の底はしだいに深くなって行った。私は力なく起ち上って、じっと川の底・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  10. ・・・ どういう風の吹き廻しか、さんざん駄洒落たあと、先生の声はそこで途絶えて、暫らくの別れであった。「ああ、ありがたし、かたじけなし、この日、この刻、この術を、許されたとは、鬼に金棒」 と、佐助は天にも登る心地がした途端に、はや五体・・・<織田作之助「猿飛佐助」青空文庫>
  11. ・・・ それは、一時途絶えたかと思うと、また、警戒兵が気を許している時をねらって、闇に乗じてしのびよってきた。 五月にもやってきた。六月にもやってきた。七月にもやってきた。「畜生! あいつらのしつこいのには根負けがしそうだぞ!」 ・・・<黒島伝治「国境」青空文庫>
  12. ・・・だら/\流れ出た血が所々途絶え、また、所々、点々や、太い線をなして、靴あとに添うて走っていた。恐らく刃を打ちこまれた捕虜が必死に逃げのびたのだろう。足あとは血を引いて、一町ばかり行って、そこで樹々の間を右に折れ、左に曲り、うねりうねってある・・・<黒島伝治「氷河」青空文庫>
  13. ・・・けれどもそこは小児の思慮も足らなければ意地も弱いので、食物を用意しなかったため絶頂までの半分も行かぬ中に腹は減って来る気は萎えて来る、路はもとより人跡絶えているところを大概の「勘」で歩くのであるから、忍耐に忍耐しきれなくなって怖くもなって来・・・<幸田露伴「雁坂越」青空文庫>
  14. ・・・ しばらく親子の話は途絶えた。震災後、思い思いに暇を取って出て行った以前の番頭や、小僧達の噂がそれからそれと引出されて行った。その時、お三輪は小竹の店のことを新七の前に持ち出した。それを持ち出して、伜の真意を聞こうとした。 新七は言・・・<島崎藤村「食堂」青空文庫>
  15. ・・・やがて水鶏の声はぱったり途絶えてしまって、十三夜ごろの月が雨を帯びた薄雲のすきまから、眠そうにこの静かな谷を照らしていた。水鶏の鳴くのはやはり伴侶を呼ぶのであろう。 このへんには猫がいない、と子供らが言う。なるほど、星野でも千が滝でも沓・・・<寺田寅彦「軽井沢」青空文庫>
  16. ・・・乗組員は全部墜死してしまい、しかも事故の起こったよりずっと前から機上よりの無線電信も途絶えていたから、墜落前の状況については全くだれ一人知った人はない。しかし、幸いなことには墜落現場における機体の破片の散乱した位置が詳しく忠実に記録されてい・・・<寺田寅彦「災難雑考」青空文庫>
  17. ・・・またひとしきりどかどかと続いて来るかと思うとまたぱったり途絶えるのである。それが何となく淋しいものである。 しばらく人の途絶えたときに、仏になった老人の未亡人が椅子に腰かけて看護に疲れたからだを休めていた。その背後に立っていたのは、この・・・<寺田寅彦「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」青空文庫>
  18. ・・・しばらく途絶えていた鳥の声がまた聞こえる。するとどういうものか子供の時分の田舎の光景がありあり目の前に浮かんで来る。土蔵の横にある大きな柿の木の大枝小枝がまっさおな南国の空いっぱいに広がっている。すぐ裏の冬田一面には黄金色の日光がみなぎりわ・・・<寺田寅彦「病院の夜明けの物音」青空文庫>
  19. ・・・然し当時に在っては、不忍池の根津から本郷に面するあたりは殊にさびしく、通行の人も途絶えがちであった。ここに雁の叙景文を摘録すれば、「其頃は根津に通ずる小溝から、今三人の立つてゐる汀まで、一面に葦が茂つてゐた。其葦の枯葉が池の中心に向つて次第・・・<永井荷風「上野」青空文庫>
  20. ・・・ 暖簾外の女郎屋は表口の燈火を消しているので、妓夫の声も女の声も、歩み過る客の足音と共に途絶えたまま、廓中は寝静ってタキシの響も聞えない。引過のこの静けさを幸いといわぬばかり、近くの横町で、新内語りが何やら語りはじめたのが、幾とし月聞き・・・<永井荷風「草紅葉」青空文庫>
  21. ・・・ ここまでは、一人も人に逢わなかったが、板塀の彼方に奉納の幟が立っているのを見て、其方へ行きかけると、路地は忽ち四方に分れていて、背広に中折を冠った男や、金ボタンの制服をきた若い男の姿が、途絶えがちながら、あちこちに動いているのを見た。・・・<永井荷風「寺じまの記」青空文庫>
  22. ・・・昼中でも道行く人は途絶えがちで、たまたま走り過る乗合自動車には女車掌が眠そうな顔をして腰をかけている。わたくしは夕焼の雲を見たり、明月を賞したり、あるいはまた黙想に沈みながら漫歩するには、これほど好い道は他にない事を知った。それ以来下町へ用・・・<永井荷風「深川の散歩」青空文庫>
  23. ・・・渡すかぎり、自分より高いものはないような気がして、四方の眺望は悉く眼下に横わっているが、しかし海や川が見えるでもなく、砂漠のような埋立地や空地のところどころに汚い長屋建の人家がごたごたに寄集ってはまた途絶えている光景は、何となく知らぬ国の村・・・<永井荷風「元八まん」青空文庫>
  24. ・・・ ベルが段々調子を上げ、全で余韻がなくなるほど絶頂に達すると、一時途絶えた。 五人の坑夫たちは、尖ったり、凹んだりした岩角を、慌てないで、然し敏捷に導火線に火を移して歩いた。 ブスッ! シュー、と導火線はバットの火を受けると、細・・・<葉山嘉樹「坑夫の子」青空文庫>
  25. ・・・の短く途絶えた序曲のような性質をもっている。あるいは、嵐がおそって来る前の稲妻の閃きのような。「白い蚊帳」は時期から云えば「我に叛く」より数年あとになるが、これも或る意味では「伸子」に添えてよまれるべき性質の作品と云える。「伊太利亜の古・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」青空文庫>
  26. ・・・ また一九四一年にはいってからは、ほんの断片的な執筆しかなくて、それも前半期以後は全く途絶えてしまっているのは、一九四一年の一月から太平洋戦争を準備していた権力によってはげしい言論抑圧が進行し、宮本百合子の書いたものは、批判的であり、非・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」青空文庫>
  27. ・・・温室の窓のように若々しく汗をかいた硝子戸の此方にはほのかに満開の薫香をちらすナーシサス耳ざわりな人声は途絶えきおい高まったわが心とたくましい大自然の息ぶきばかりが丸き我肉体の内外を包むのだ。ああ よき暴風・・・<宮本百合子「海辺小曲(一九二三年二月――)」青空文庫>
  28. ・・・世俗にみて就職がおくれることを問題としなくても、学問上の研究をその間途絶えさせることもある。 現代の若い心は、さけがたいそれ等の義務に直面していて、雄々しくそれを果していると思う。戦争が世界的な規模になって来ている今、若い世代は次第に沈・・・<宮本百合子「生活者としての成長」青空文庫>
  29. ・・・ 電車が途絶えた折からで、からりとした夜の大通りの上に赤青の信号燈が閃き、普段の夜のとおり明るい事務所の内で執務している従業員の姿が外から見えた。何心なく行くと、引込線の通った車庫のわきに一寸した空地のような場処がある。その叢の物かげに・・・<宮本百合子「電車の見えない電車通り」青空文庫>
  30. ・・・古顔の連中は一高や大学で漱石に教わった人たちであるが、その中で大学の卒業年度の最もあとなのは安倍能成君であって、そのあとはずっと途絶えていた。安倍君と同じ組には魚住影雄、小山鞆絵、宮本和吉、伊藤吉之助、宇井伯寿、高橋穣、市河三喜、亀井高孝な・・・<和辻哲郎「漱石の人物」青空文庫>