とつ‐じょ【突如】例文一覧 30件

  1. ・・・この至廉な札を眺めると共に、今まで恋愛と芸術とに酔っていた、お君さんの幸福な心の中には、そこに潜んでいた実生活が、突如としてその惰眠から覚めた。間髪を入れずとは正にこの謂である。薔薇と指環と夜鶯と三越の旗とは、刹那に眼底を払って消えてしまっ・・・<芥川竜之介「葱」青空文庫>
  2. ・・・ と当着けるように言った。 が、まだ二人ともなにも言わなかった時、連と目配せをしながら、赤ら顔の継母は更めて、男の前にわざとらしく小腰、――と云っても大きい――を屈めた。 突如噛着き兼ねない剣幕だったのが、飜ってこの慇懃な態度に・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  3. ・・・―― と精々喜多八の気分を漾わせて、突出し店の硝子戸の中に飾った、五つばかり装ってある朱の盆へ、突如立って手を掛けると、娘が、まあ、と言った。 ――あら、看板ですわ―― いや、正のものの膝栗毛で、聊か気分なるものを漾わせ過ぎた形・・・<泉鏡花「雛がたり」青空文庫>
  4. ・・・その年もようやく暮れて、十二月半ばごろに突如として省作の縁談が起こった。隣村某家へ婿養子になることにほぼ定まったのである。省作はおはまの手引きによって、一日おとよさんと某所に会し今までの関係を解決した。 お互いに心の底を話して見れば、い・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  5. ・・・ 北海の波の音、絶えず物の崩るる様な響、遠く家を離れてるという感情が突如として胸に湧く。母屋の方では咳一つするものもない。世間一体も寂然と眠に入った。予は何分寝ようという気にならない。空腹なる人の未だ食事をとり得ない時の如く、痛く物足ら・・・<伊藤左千夫「浜菊」青空文庫>
  6. ・・・ その位混むと、乗客は次第に人間らしい感覚を失って、自然動物的な感覚になって、浅ましくわめき散らすのだったが、わずかに人間的な感覚といえば、何となくみじめな想いと、そして突如として肚の底からこみ上げて来る得体の知れない何ものかに対する得・・・<織田作之助「昨日・今日・明日」青空文庫>
  7. ・・・ 私にもっとも近しい、そして恩人である作家を、突如として失ってしまった、私はもう言うべきことを知らない。私としても非常に残念で痛惜やる方ないが、文壇としても残念であろう。しかし最も残念なのは、武田さんの無二の親友である藤沢さんであろう。・・・<織田作之助「武田麟太郎追悼」青空文庫>
  8. ・・・たとえば、正面切った大官の演説内容よりも、演説の最中に突如として吹き起った烈風のために、大官のシルクハットが吹き飛ばされたという描写の方を、読者はしばしば興味をもって読みがちである。 実は、その出来事が新聞に載らなかったのは、たった一人・・・<織田作之助「夜光虫」青空文庫>
  9. ・・・あたりの空を赤くして、ぐるぐるまわっているのを、地獄の鬼の舌みたいやと、怖れて見上げ、二つある入口のどちらからはいったものかと、暫くうろうろしていると、突如としてなかから楽隊が鳴ったので、びっくりした拍子に、そわそわと飛び込み、色のついた酒・・・<織田作之助「雪の夜」青空文庫>
  10. ・・・それでいったいどんな文句の葉書が皆さんのところへ送られたのか、じつは私としてはまったく突如に皆さんの御承諾の御返事をいただいたような始末でして……まったく発起人という名義を貸しただけでして……発起人としてかようなことを申しあげるのは誠に失礼・・・<葛西善蔵「遁走」青空文庫>
  11. ・・・そして今もし突如この平衡を破るものが現われたら自分はどうなるかしれないということを思っていた。だから吉田の頭には地震とか火事とか一生に一度遭うか二度遭うかというようなものまでが真剣に写っているのだった。また吉田がこの状態を続けてゆくというの・・・<梶井基次郎「のんきな患者」青空文庫>
  12. ・・・ そこを過ぎると道は切り立った崖を曲がって、突如ひろびろとした展望のなかへ出る。眼界というものがこうも人の心を変えてしまうものだろうか。そこへ来ると私はいつも今が今まで私の心を占めていた煮え切らない考えを振るい落としてしまったように感じ・・・<梶井基次郎「闇の絵巻」青空文庫>
  13. ・・・この時本町の方より突如と現われしは巡査なり。ずかずかと歩み寄りて何者ぞと声かけ、燈をかかげてこなたの顔を照らしぬ。丸き目、深き皺、太き鼻、逞ましき舟子なり。「源叔父ならずや」、巡査は呆れし様なり。「さなり」、嗄れし声にて答う。「・・・<国木田独歩「源おじ」青空文庫>
  14. ・・・ 自分勝手な空想を描きながら急いで往ってみると、村長は最早座に居て酒が初まっていた。梅子は例の如く笑味を含んで老父の酌をしている。「ヤ細川! 突如に出発ので驚いたろう、何急に東京を娘に見せたくなってのう。十日ばかりも居る積じゃったが癪に・・・<国木田独歩「富岡先生」青空文庫>
  15. ・・・そこで弘長元年五月十二日幕吏は突如として、彼の説法中を小町の街頭で捕えて、由比ヶ浜から船に乗せて伊豆の伊東に流した。これが彼の第二の法難であった。 この配流は日蓮の信仰を内面的に強靭にした。彼はあわただしい法戦の間に、昼夜唱題し得る閑暇・・・<倉田百三「学生と先哲」青空文庫>
  16. ・・・その兄が、その夏に、東京の同人雑誌なるものを、三十種類くらい持って来て、そうしてその頃はやりの、突如活字を大きくしたり、またわざと活字をさかさにしたり、謂わば絵画的手法とでもいったようなものを取りいれた奇妙な作品に、やたらに興じて、「これか・・・<太宰治「『井伏鱒二選集』後記」青空文庫>
  17. ・・・私は、おもむろに、かの同行の書生に向い、この山椒魚の有難さを説いて聞かせようと思ったとたんに、かの書生は突如狂人の如く笑い出しましたので、私は実に不愉快になり、説明を中止して匆々に帰宅いたしたのでございます。きょうは皆様に、まずこの山椒魚の・・・<太宰治「黄村先生言行録」青空文庫>
  18. ・・・五人女にも、於七が吉三のところへ夜決心してしのんで行って、突如、からからと鈴の音、たちまち小僧に、あれ、おじょうさんは、よいことを、と叫ばれ、ひたと両手合せて小僧にたのみいる、ところがあったと覚えているが、あの思わざる鈴の音には読むものすべ・・・<太宰治「音に就いて」青空文庫>
  19. ・・・聞いてみると、これもやはりアメリカの人たちの指導のおかげか、戦前、戦時中のあの野暮ったさは幾分消えて、なんと、なかなか賑やかなもので、突如として教会の鐘のごときものが鳴り出したり、琴の音が響いて来たり、また間断無く外国古典名曲のレコード、ど・・・<太宰治「家庭の幸福」青空文庫>
  20. ・・・案ずるに、かれはこの数行の文章をかれ自身の履歴書の下書として書きはじめ、一、二行を書いているうちに、はや、かれの生涯の悪癖、含羞の火煙が、浅間山のそれのように突如、天をも焦がさむ勢にて噴出し、ために、「なあんてね」の韜晦の一語がひょいと顔を・・・<太宰治「狂言の神」青空文庫>
  21. ・・・八十年むかしに日本の政治や学術は突如として西洋化した。それに後れること殆ど一世紀にして裸体の見世物が戦敗後の世人の興味を引きのばしたのだ。時代と風俗の変遷を観察するほど興味の深いものはない。昭和廿四年正月・・・<永井荷風「裸体談義」青空文庫>
  22. ・・・しかるに一家の批判を以て任ずべき文芸家もしくは文学家が、国家を代表する政府の威信の下に、突如として国家を代表する文芸家と化するの結果として、天下をして彼らの批判こそ最終最上の権威あるものとの誤解を抱かしむるのは、その起因する所が文芸その物と・・・<夏目漱石「文芸委員は何をするか」青空文庫>
  23. ・・・それを一通り調べてもまだ足らぬ所があるので、やはり上代から漕ぎ出して、順次に根気よく人文発展の流を下って来ないと、この突如たる勃興の真髄が納得出来ないという意味から、次に上代以後足利氏に至るまでを第一巻として発表されたものと思われる。そうは・・・<夏目漱石「マードック先生の『日本歴史』」青空文庫>
  24. ・・・』 其女の方の後には、幾個かの人の垣を為た様に取巻いて、何人も呆れてお居での様でした。『彼の女は僕の云う様な事を云っている。』 突如に斯う云った人があったのです。見返ると、あの可厭々々学生が、何時か私達の傍近くに立って居たではあ・・・<広津柳浪「昇降場」青空文庫>
  25. ・・・然るに主筆はまた突如として来られて、是非書けと促される。その情極めて慇懃である。好し好し。然らば主筆のために強いて書こう。同じく文壇の評ではあるが、これは過去の文壇の評で、しかもその過去の文壇の一分子たりし鴎外漁史の事である。原と主筆が予に・・・<森鴎外「鴎外漁史とは誰ぞ」青空文庫>
  26. ・・・ 彼は張り切った綱が切れたように、突如として笑い出した。だが、忽ち彼の笑声が鎮まると、彼の腹は獣を入れた袋のように波打ち出した。彼はがばと跳ね返った。彼の片手は緞帳の襞をひっ攫んだ。紅の襞は鋭い線を一握の拳の中に集めながら、一揺れ毎に鐶・・・<横光利一「ナポレオンと田虫」青空文庫>
  27. ・・・ 彼はこのときから、突如として新しい意志を創り出した。彼はその一個の意志で、総ゆる心の暗さを明るさに感覚しようと努力し始めた。もう彼にとって、長い間の虚無は、一睡の夢のように吹き飛んだ。 彼は深い呼吸をすると、快活に妻のベッドの傍へ・・・<横光利一「花園の思想」青空文庫>
  28. ・・・やがて時が迫って来て彼女の特有な心持ちにはいると、突如全身の情熱を一瞬に集めて恐ろしい破裂となり、熱し輝き煙りつつあるラヴァのごとくに観客の官能を焼きつくす。その感動の烈しさは劇場あって以来かつてない事である。この瞬間には彼女は自己というも・・・<和辻哲郎「エレオノラ・デュウゼ」青空文庫>
  29. ・・・一瞬間深い沈黙と静止が起こる。突如として鋭い金属の響きが堂内を貫ぬき通るように響く。美しい高い女高音に近い声が、その響きにからみついて緩やかな独唱を始める。やがてそれを追いかけるように低い大きい合唱が始まる。屈折の少ない、しかし濃淡の細やか・・・<和辻哲郎「偶像崇拝の心理」青空文庫>
  30. ・・・人間を取り巻く植物、家、道具、衣服等々の細かな形態が、深い人生の表現としての巨大な意義を、突如として我々に示してくれる。風物記はそのままに人間性の表現の解釈となっている。特に人間の風土性に関心を持つ自分にとっては、これらの風物記は汲み尽くせ・・・<和辻哲郎「『青丘雑記』を読む」青空文庫>