とな・える〔となへる〕【唱える/称える】例文一覧 24件

  1. ・・・と」と称える僧衣らしい。そう云えば「こんたつ」と称える念珠も手頸を一巻き巻いた後、かすかに青珠を垂らしている。 堂内は勿論ひっそりしている。神父はいつまでも身動きをしない。 そこへ日本人の女が一人、静かに堂内へはいって来た。紋を染め・・・<芥川竜之介「おしの」青空文庫>
  2. ・・・さあ、もう呪文なぞを唱えるのはおやめなさい。」 オルガンティノはやむを得ず、不愉快そうに腕組をしたまま、老人と一しょに歩き出した。「あなたは天主教を弘めに来ていますね、――」 老人は静かに話し出した。「それも悪い事ではないか・・・<芥川竜之介「神神の微笑」青空文庫>
  3. ・・・そうかと云って、あの婆は、呪文を唱える暇もぬかりなく、じっとこちらの顔色を窺いすましているのですから、隙を狙って鏡から眼を離すと云う訣にも行きません。その内に鏡はお敏の視線を吸いよせるように、益々怪しげな光を放って、一寸ずつ、一分ずつ、宿命・・・<芥川竜之介「妖婆」青空文庫>
  4. ・・・新浪漫主義を唱える人と主観の苦悶を説く自然主義者との心境にどれだけの扞格があるだろうか。淫売屋から出てくる自然主義者の顔と女郎屋から出てくる芸術至上主義者の顔とその表れている醜悪の表情に何らかの高下があるだろうか。すこし例は違うが、小説「放・・・<石川啄木「時代閉塞の現状」青空文庫>
  5. ・・・本人も語らず、またかかる善根功徳、人が咎めるどころの沙汰ではない、もとより起居に念仏を唱える者さえある、船で題目を念ずるに仔細は無かろう。 されば今宵も例に依って、船の舳を乗返した。 腰を捻って、艪柄を取って、一ツおすと、岸を放れ、・・・<泉鏡花「葛飾砂子」青空文庫>
  6. ・・・ 人の事は云われないが、連の男も、身体つきから様子、言語、肩の瘠せた処、色沢の悪いのなど、第一、屋財、家財、身上ありたけを詰込んだ、と自ら称える古革鞄の、象を胴切りにしたような格外の大さで、しかもぼやけた工合が、どう見ても神経衰弱という・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  7. ・・・蕎麦は二銭さがっても、このせち辛さは、明日の糧を思って、真面目にお念仏でも唱えるなら格別、「蛸とくあのく鱈。」などと愚にもつかない駄洒落を弄ぶ、と、こごとが出そうであるが、本篇に必要で、酢にするように切離せないのだから、しばらく御海容を願い・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  8. ・・・ と折から唸るように老人が唱えると、婆娘は押冠せて、「南無阿弥陀仏。」と生若い声を出す。「さて、どうも、お珍しいとも、何んとも早や。」と、平吉は坐りも遣らず、中腰でそわそわ。「お忙しいかね。」と織次は構わず、更紗の座蒲団を引・・・<泉鏡花「国貞えがく」青空文庫>
  9. ・・・おなじ発心をしたにしても、これが鰌だと引導を渡す処だが、これじゃ、お念仏を唱えるばかりだ。――ああ、お町ちゃん。」 わざとした歎息を、陽気に、ふッと吹いて、「……そういえば、一昨日の晩……途中で泊った、鹿落の温泉でね。」「ええ。・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  10. ・・・……また合成銀と称えるのを、大阪で発明して銀煙草を並べて売る。「諸君、二円五十銭じゃ言うたんじゃ、可えか、諸君、熊手屋が。露店の売品の値価にしては、いささか高値じゃ思わるるじゃろうが、西洋の話じゃ、で、分るじゃろう。二円五十銭、可えか、・・・<泉鏡花「露肆」青空文庫>
  11. ・・・一座は化石したようにしんとしてしまって、鼻を去む音と、雇い婆が忍びやかに題目を称える声ばかり。 やがてかすかに病人の唇が動いたと思うと、乾いた目を見開いて、何か求むるもののように瞳を動かすのであった。「水を上げましょうか?」とお光が・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  12. ・・・私の本心の一側は、たしかにこの事実に対して不満足を唱える。もっと端的にわれらの実行道徳を突き動かす力が欲しい、しかもその力は直下に心眼の底に徹するもので、同時に讃仰し羅拝するに十分な情味を有するものであって欲しい。私はこの事実をわれらの第一・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  13. ・・・これはもちろん、形式上の分類法からすれば当然のことであって、これに対して何人も異議を唱えるものはないであろう。しかしまたここに少しちがった立場に立つものの見方からすると、このような区別は必ずしも唯一無二ではないのである。早わかりのするために・・・<寺田寅彦「科学と文学」青空文庫>
  14. ・・・ 彼の実証主義写実主義の現われとしてその筆によって記録された雑多の時代世相風俗資料は近頃ある人達の称える「考現学的」の立場から見て貴重な材料を供給するものであることは周知なことである。例えば当時の富人の豪奢の実況から市井裏店の風景、質屋・・・<寺田寅彦「西鶴と科学」青空文庫>
  15. ・・・と唱えると鉦の音がこれを請けて「カーンコ、カンコ」と響くのである。どういう意味だかわからない。ある人は「南門殿還幸」を意味すると言っていたがそれはあまり当てにはならない。私はむしろ意味のわからないほうがいいような気がしていた。 神輿の前・・・<寺田寅彦「田園雑感」青空文庫>
  16. ・・・ 十七字のパーミュテーション、コンビネーションが有限であるから俳句の数に限りがあるというようなことを言う人もあるが、それはたぶん数学というものを習いそこねたかと思われるような人たちの唱える俗説である。少なくも人間の思想が進化し新しい観念・・・<寺田寅彦「俳句の精神」青空文庫>
  17. ・・・お念仏を称えるもの、お札を頂くものさえあったが、母上は出入のもの一同に、振舞酒の用意をするようにと、こまこま云付けて居られた。 私は時々縁側に出て見たが、崖下には人一人も居ないように寂として居て、それかと思う烟も見えず、近くの植込の間か・・・<永井荷風「狐」青空文庫>
  18. ・・・花圃の北方、地盤の稍小高くなった処に御成座敷と称える一棟がある。百日紅の大木の蟠った其縁先に腰をかけると、ここからは池と庭との全景が程好く一目に見渡されるようになっている。苗のまだ舒びない花畑は、その間の小径も明かに、端から端まで目を遮るも・・・<永井荷風「百花園」青空文庫>
  19. ・・・ 私は、箇人主義を称える多くの人々の心を疑う。 彼の人々は、至上に自己を愛しながら自らの心を痛め、苦痛、不愉快を日一日と加えて行くではないか。真から一歩一歩遠ざかるが故に煩悶はますのである。 思いがけぬ醜い仮面の陰に箇人主義の真・・・<宮本百合子「大いなるもの」青空文庫>
  20. ・・・それを唱える人々は、読者を目的として意識しながら、実際には読者そのものの生活現実を作家の現実にうちこめられたものとして感じるというより、寧ろ、それを唱える人々の現実というものへの主観的な態度を、読者に向って示そうとした性質のものであった。そ・・・<宮本百合子「今日の読者の性格」青空文庫>
  21. ・・・ 不安の文学という声は、先ずそれを唱える人々が、その不安を追究する方法をもっていないことで忽ち深い混迷に陥った。社会と文学との感覚で不安は感じられているのだが、不安の彼方に何を求めて、どう不安を克服しようとしているのかと云われると、その・・・<宮本百合子「昭和の十四年間」青空文庫>
  22. ・・・夫唱婦随が美俗とされるところでは、夫の唱える知性の流れがどのように低い川底を走っていなければならないかということに新鮮なおどろきと悲しみの眼を瞠ったとき、婦人の知性の開眼はおこなわれるのであるとさえ思うのである。〔一九三九年八月〕・・・<宮本百合子「知性の開眼」青空文庫>
  23. ・・・という十分の自覚に立って日本の文学古典のうち最も生活と芸術とが融合一致していた万葉時代の、生命力に溢れた芸術の精神を唱えるという人々の矛盾を、私たちは何と解釈すべきであろうか。万葉とは対蹠的な罪業や来世の観念に貫かれた王朝の精神というものを・・・<宮本百合子「文学における今日の日本的なるもの」青空文庫>
  24. ・・・一族討手を引き受けて、ともに死ぬるほかはないと、一人の異議を称えるものもなく決した。 阿部一族は妻子を引きまとめて、権兵衛が山崎の屋敷に立て籠った。 おだやかならぬ一族の様子が上に聞えた。横目が偵察に出て来た。山崎の屋敷では門を厳重・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>