との‐さま【殿様】例文一覧 30件

  1. ・・・第一、百万石の殿様が、真鍮の煙管を黙って持っている筈がねえ。」 宗俊は、口早にこう云って、独り、斉広の方へやって行った。あっけにとられた了哲を、例の西王母の金襖の前に残しながら。 それから、半時ばかり後である。了哲は、また畳廊下で、・・・<芥川竜之介「煙管」青空文庫>
  2. ・・・「へえさてさて殿様には……」――それから与六の長い Soliloque が始まった。 人形の出来は、はなはだ、簡単である。第一、着附の下に、足と云うものがない。口が開いたり、目が動いたりする後世の人形に比べれば、格段な相違である。手の指・・・<芥川竜之介「野呂松人形」青空文庫>
  3. ・・・第一の盗人 どうだい、この殿様に売ってしまうのは?第三の盗人 なるほど、それも好いかも知れない。第二の盗人 ただ値段次第だな。王子 値段は――そうだ。そのマントルの代りには、この赤いマントルをやろう、これには刺繍の縁もついて・・・<芥川竜之介「三つの宝」青空文庫>
  4. ・・・いずれ、身勝手な――病のために、女の生肝を取ろうとするような殿様だもの……またものは、帰って、腹を割いた婦の死体をあらためる隙もなしに、やあ、血みどれになって、まだ動いていまする、とおのが手足を、ばたばたと遣りながら、お目通、庭前で斬られた・・・<泉鏡花「絵本の春」青空文庫>
  5. ・・・、それはいけずの、いたずらでね、なかの妹は、お人形をあつかえばって、屏風を立てて、友染の掻巻でおねんねさせたり、枕を二つならべたり、だったけれど、京千代と来たら、玉乗りに凝ってるから、片端から、姉様も殿様も、紅い糸や、太白で、ちょっとかがっ・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  6. ・・・ 最も得意なのは、も一つ茸で、名も知らぬ、可恐しい、故郷の峰谷の、蓬々しい名の無い菌も、皮づつみの餡ころ餅ぼたぼたと覆すがごとく、袂に襟に溢れさして、山野の珍味に厭かせたまえる殿様が、これにばかりは、露のようなよだれを垂し、「牛肉の・・・<泉鏡花「茸の舞姫」青空文庫>
  7. ・・・小やすみの庄屋が、殿様の歌人なのを知って、家に持伝えた人麿の木像を献じた。お覚えのめでたさ、その御機嫌の段いうまでもない――帰途に、身が領分に口寄の巫女があると聞く、いまだ試みた事がない。それへ案内をせよ。太守は人麿の声を聞こうとしたのであ・・・<泉鏡花「神鷺之巻」青空文庫>
  8. ・・・緑雨のお父さんというは今の藤堂伯の先々代で絢尭斎の名で通ってる殿様の准侍医であった。この絢尭斎というは文雅風流を以て聞えた著名の殿様であったが、頗る頑固な旧弊人で、洋医の薬が大嫌いで毎日持薬に漢方薬を用いていた。この煎薬を調進するのが緑雨の・・・<内田魯庵「斎藤緑雨」青空文庫>
  9. ・・・今でこそ樟脳臭いお殿様の溜の間たる華族会館に相応わしい古風な建造物であるが、当時は鹿鳴館といえば倫敦巴黎の燦爛たる新文明の栄華を複現した玉の台であって、鹿鳴館の名は西欧文化の象徴として歌われたもんだ。 当時の欧化熱の中心地は永田町で、こ・・・<内田魯庵「四十年前」青空文庫>
  10. ・・・それに、父親は今なお一銭天婦羅で苦労しているのだ。殿様のおしのびめいたり、しんみり父親の油滲んだ手を思い出したりして、後に随いて廻っているうちに、だんだんに情緒が出た。 新世界に二軒、千日前に一軒、道頓堀に中座の向いと、相合橋東詰にそれ・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  11. ・・・……書けないなら書かないなんて……だから君はお殿様だというんだよ!」こういった調子で、鞭撻を続けてくれたのだ。しかし何という情けないことだろう! 私は何が、自分をこんなにまで弱らしてしまったのかを、考えることができない。愚か者の妻の――愚痴・・・<葛西善蔵「遁走」青空文庫>
  12. ・・・「竜なら竜、虎なら虎の木彫をする。殿様御前に出て、鋸、手斧、鑿、小刀を使ってだんだんとその形を刻み出す。次第に形がおよそ分明になって来る。その間には失敗は無い。たとい有ったにしても、何とでも作意を用いて、失敗の痕を無くすことが出来る。時・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  13. ・・・ですから、客は上布の着物を着ていても釣ることが出来ます訳で、まことに綺麗事に殿様らしく遣っていられる釣です。そこで茶の好きな人は玉露など入れて、茶盆を傍に置いて茶を飲んでいても、相手が二段引きの鯛ですから、慣れてくればしずかに茶碗を下に置い・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  14. ・・・四国の或る殿様の別家の、大谷男爵の次男で、いまは不身持のため勘当せられているが、いまに父の男爵が死ねば、長男と二人で、財産をわける事になっている。頭がよくて、天才、というものだ。二十一で本を書いて、それが石川啄木という大天才の書いた本よりも・・・<太宰治「ヴィヨンの妻」青空文庫>
  15. ・・・ 剣術の上手な若い殿様が、家来たちと試合をして片っ端から打ち破って、大いに得意で庭園を散歩していたら、いやな囁きが庭の暗闇の奥から聞えた。「殿様もこのごろは、なかなかの御上達だ。負けてあげるほうも楽になった。」「あははは。」・・・<太宰治「水仙」青空文庫>
  16. ・・・お城へ行ってじきじき殿様へ救済をお願いすればいいのじゃ。おれが行く。惣助は、やあ、と突拍子もない歓声をあげた。それからすぐ、これはかるはずみなことをしたと気づいたらしく一旦ほどきかけた両手をまた頭のうしろに組み合せてしかめつらをして見せた。・・・<太宰治「ロマネスク」青空文庫>
  17. ・・・子供らは得意になって殿様がたのような気持ちになってクラブをふるうているのである。リンクの入り口には「危険」だから入場するなというような意味の立て札がある。ちょっとしたアイロニーを感じさせる。垣根からのぞくと広々とした緑の海の上にぽつりぽつり・・・<寺田寅彦「軽井沢」青空文庫>
  18. ・・・この映画に現われて来る登場人物のうちで誰が一番幸福な人間かと思って見ると、天晴れ衆人の嘲笑と愚弄の的になりながら死ぬまで騎士の夢をすてなかったドンキホーテと、その夢を信じて案山子の殿様に忠誠を捧げ尽すことの出来たサンチョと、この二人にまさる・・・<寺田寅彦「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」青空文庫>
  19. ・・・御飯焚のお悦、新しく来た仲働、小間使、私の乳母、一同は、殿様が時ならぬ勝手口にお出での事とて戦々恟々として、寒さに顫えながら、台所の板の間に造り付けたように坐って居た。 父は田崎が揃えて出す足駄をはき、車夫喜助の差翳す唐傘を取り、勝手口・・・<永井荷風「狐」青空文庫>
  20. ・・・正午すこし前、お民は髪を耳かくしとやらに結い、あらい石だたみのような飛白お召の単衣も殊更袖の長いのに、宛然田舎源氏の殿様の着ているようなボカシの裾模様のある藤紫の夏羽織を重ね、ダリヤの花の満開とも言いたげな流行の日傘をさして、山の手の静な屋・・・<永井荷風「申訳」青空文庫>
  21. ・・・あすこをもっと行くと諏訪の森の近くに越後様という殿様のお邸があった。あのお邸の中に桑木厳翼さんの阿母さんのお里があって鈴木とかいった。その鈴木の家の息子がおりおり僕の家へ遊びに来たことがあった。 僕の家の裏には大きな棗の木が五六本もあっ・・・<夏目漱石「僕の昔」青空文庫>
  22. ・・・ なぜかなら、その村は、殿様が追い詰められた時に、逃げ込んで無理にこしらえた山中の一村であったから、なんにも産業というものがなかった。 で、中学の存在によって繁栄を引き止めようとしたが、困ったことには中学がその地方十里以内の地域に一・・・<葉山嘉樹「死屍を食う男」青空文庫>
  23. ・・・ また、四民同権の世態に変じたる以上は、農商も昔日の素町人・土百姓に非ずして、藩地の士族を恐れざるのみならず、時としては旧領主を相手取りて出訴に及び、事と品によりては旧殿様の家を身代限にするの奇談も珍しからず。昔年、馬に乗れば切捨てられ・・・<福沢諭吉「徳育如何」青空文庫>
  24. ・・・、朝夕主人の言行を厳重正格にして、家人を視ること他人の如くし、妻妾児孫をして己れに事うること奴隷の主君におけるが如くならしめ、あたかも一家の至尊には近づくべからず、その忌諱には触るべからず、俗にいえば殿様旦那様の御機嫌は損ずべからずとして、・・・<福沢諭吉「日本男子論」青空文庫>
  25. ・・・日本の封建性――殿様とだんな様との御乱行がいつもそのめしたのものや女に向ってあらわされるというなさけない習慣です。泉山蔵相のくだのなかで「新給与問題よりも山下春江女史の方がすきだということの方が問題だ」といったということが新聞にでていますが・・・<宮本百合子「泉山問題について」青空文庫>
  26. ・・・ 明治維新は本当のブルジョア革命でなく、昔の殿様である封建領主、下級武士たちの権力に未熟な産業資本が結合したもので、土地小作の関係は実に古い封建制度のままもちこされた。そのために日本の農村の貧困は甚しく農家から貧乏のために一年幾ら、二年・・・<宮本百合子「衣服と婦人の生活」青空文庫>
  27. ・・・忠直卿は、昔の殿様としてはびっくりするくらいむき出しのヒューメンな若者として扱われており、その点では作者が一見常識を蹴とばしているようだのに、さてそれならそのように苦しむ自分を虚偽と知らぬ虚偽でとりかこみ、それを命にかけて守っている者どもと・・・<宮本百合子「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」青空文庫>
  28. ・・・余り賢くあること、余り英邁であること、それさえも脅威をもたらした。殿様は馬鹿でなければならなかった。そういう日本の封建の気風の中では、一つの藩が、とびぬけて卓抜な学者、芸術家をもっているということさえも不安であった。 東北の伊達一族は、・・・<宮本百合子「木の芽だち」青空文庫>
  29. ・・・それは殿様がお隠れになった当日から一昨日までに殉死した家臣が十余人あって、中にも一昨日は八人一時に切腹し、昨日も一人切腹したので、家中誰一人殉死のことを思わずにいるものはなかったからである。二羽の鷹はどういう手ぬかりで鷹匠衆の手を離れたか、・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  30. ・・・ これまでは、ズット北の山の中に、徳蔵おじと一処にいたんですが、そのまえは、先の殿様ね、今では東京にお住いの従四位様のお城趾を番していたんです。足利時代からあったお城は御維新のあとでお取崩しになって、今じゃ塀や築地の破れを蔦桂が漸く着物・・・<若松賤子「忘れ形見」青空文庫>