とばし【飛ばし】例文一覧 30件

  1. ・・・ 自分はそのころから非常な濫読家だったから、一週間の休暇の間に、それらの本を手に任せて読み飛ばした。もちろん樗牛全集の一巻、二巻、四巻などは、読みは読んでもむずかしくって、よく理窟がのみこめなかったのにちがいない。が、三巻や五巻などは、・・・<芥川竜之介「樗牛の事」青空文庫>
  2.      一 レエン・コオト 僕は或知り人の結婚披露式につらなる為に鞄を一つ下げたまま、東海道の或停車場へその奥の避暑地から自動車を飛ばした。自動車の走る道の両がわは大抵松ばかり茂っていた。上り列車に間に合うかどうか・・・<芥川竜之介「歯車」青空文庫>
  3. ・・・渋紙した顔に黒痘痕、塵を飛ばしたようで、尖がった目の光、髪はげ、眉薄く、頬骨の張った、その顔容を見ないでも、夜露ばかり雨のないのに、その高足駄の音で分る、本田摂理と申す、この宮の社司で……草履か高足駄の他は、下駄を穿かないお神官。 小児・・・<泉鏡花「茸の舞姫」青空文庫>
  4. ・・・ その日午前九時過ぐるころ家を出でて病院に腕車を飛ばしつ。直ちに外科室の方に赴くとき、むこうより戸を排してすらすらと出で来たれる華族の小間使とも見ゆる容目よき婦人二、三人と、廊下の半ばに行き違えり。 見れば渠らの間には、被布着たる一・・・<泉鏡花「外科室」青空文庫>
  5. ・・・鉄橋の下は意外に深く、ほとんど胸につく深さで、奔流しぶきを飛ばし、少しの間流れに遡って進めば、牛はあわて狂うて先に出ようとする。自分は胸きりの水中容易に進めないから、しぶきを全身に浴びつつ水に咽せて顔を正面に向けて進むことはできない。ようや・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  6. ・・・ところが生憎不漁で休みの札が掛っていたので、「折角暴風雨の中を遥々車を飛ばして来たのに残念だ」と、悄気返って頻に愚痴ったので、帳場の主人が気の毒がって、「暫らくお待ち下さいまし」と奥へ相談に行き、「折角ですから一尾でお宜しければ……」といっ・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  7. ・・・尾崎は重なる逐客の一人として、伯爵後藤の馬車を駆りて先輩知友に暇乞いしに廻ったが、尾行の警吏が俥を飛ばして追尾し来るを尻目に掛けつつ「我は既に大臣となれり」と傲語したのは最も痛快なる幕切れとして当時の青年に歓呼された。尾崎はその時学堂を愕堂・・・<内田魯庵「四十年前」青空文庫>
  8. ・・・ 如何に罵られても、この夜ばかりは恨みにきかず、立ちどころに言い返して勝てば、一年中の福があるのだとばかり、智慧を絞り、泡を飛ばし、声を涸らし合うこの怪しげな行事は、名づけて新手村の悪口祭りといい、宵の頃よりはじめて、除夜の鐘の鳴りそめ・・・<織田作之助「猿飛佐助」青空文庫>
  9. ・・・誰が飛ばしたんです」「俺だよ、俺がこの部屋で飛ばしてやったんだよ。この部屋はデマのオンドコだからね。エヘヘ……」「オンドコ……?」「温床だよ」 そう言ってキャッキャッと笑っていた。間もなく私は武田さんの書斎を辞した。 そ・・・<織田作之助「四月馬鹿」青空文庫>
  10. ・・・雨戸を蹶飛ばして老師の前に躍りだしてやるか――がその勇気は私にはなかった。私は絶望と老師を怨じたい気持から涙のにじみでてくる眼をあげて、星もない暗い空を仰いだが、月とも思われない雲の間がひとところポーと黄色く明るんだ。「父だ!」とその瞬間に・・・<葛西善蔵「父の出郷」青空文庫>
  11. ・・・ たちまち小舟を飛ばして近づいて来た者がある、徳二郎であった。「酒を持って来た!」と徳は大声で二三間先から言った。「うれしいのねえ、今、坊様に弟のことを話して泣いていたの」と女の言ううち、徳二郎の小舟はそばに来た。「ハッハッ・・・<国木田独歩「少年の悲哀」青空文庫>
  12. ・・・私が帰るといえばすぐにでも蹶飛ばしそうな剣幕ですから私も仕方なしにそこに坐って黙っていますと、娘は泣いておるのです。嗚咽びかえっているのです、それを見た武の顔はほんとうに例えようがありません、額に青筋を立てて歯を喰いしばるかと思うと、泣き出・・・<国木田独歩「女難」青空文庫>
  13. ・・・そして国境外では、サヴエート同盟に物資が欠乏していると、でたらめを飛ばした。 一方では、飲酒反対、宗教反対のピオニールのデモを見習った対岸の黒河の支那の少年たちが、同様のデモをやったりするのに、他方どうしても、こちらの、すきを伺っては、・・・<黒島伝治「国境」青空文庫>
  14. ・・・乗合自動車がグジョグジョな雪をはね飛ばしていった。後に「チャップリン黄金狂時代、近日上映」という広告が貼ってあった。龍介はフト『巴里の女性』という活動写真を思いだした。それにはチャップリンは出ていなかったが、彼のもので、彼が監督をしていた。・・・<小林多喜二「雪の夜」青空文庫>
  15. ・・・へ特筆大書すべき始末となりしに俊雄もいささか辟易したるが弱きを扶けて強きを挫くと江戸で逢ったる長兵衛殿を応用しおれはおれだと小春お夏を跳ね飛ばし泣けるなら泣けと悪ッぽく出たのが直打となりそれまで拝見すれば女冥加と手の内見えたの格をもってむず・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  16. ・・・ ウイリイはその二つのびんをかかえて、馬を飛ばしてかえりました。 王女は、もう今度はどうしても御婚礼をしなければなりませんでした。しかしその前に、二つの水がほんとうにきき目があるかどうか、ためして見ていただきたいと言いました。けれど・・・<鈴木三重吉「黄金鳥」青空文庫>
  17. ・・・解き聞かせてもらいたげの態度なれば、先輩も面くらい、そこのところがわかればねえ、などと呟き、ひどく弱って、頭をかかえ、いよいよ腐って沈思黙考、地平は知らず、きょとんと部屋の窓の外、風に吹かれて頬かむり飛ばして女房に追わせる畑の中の百姓夫婦を・・・<太宰治「喝采」青空文庫>
  18. ・・・して一番になりたいだけで、どだい、目的のためには手段を問わないのは、彼ら腕力家の特徴ではあるが、カンシャクみたいなものを起して、おしっこの出たいのを我慢し、中腰になって、彼は、くしゃくしゃと原稿を書き飛ばし、そうして、身辺のものに清書させる・・・<太宰治「如是我聞」青空文庫>
  19. ・・・ で、その足で、熊谷町まで車を飛ばした。例の用水に添った描写は、この時に写生したものである。それから萩原君を、町の通りの郵便局に訪ねた。ちょうど、執務中なので、君の家の泉州という料理屋に行って待っていた。萩原君はそこの二男か三男で、今は・・・<田山花袋「『田舎教師』について」青空文庫>
  20. ・・・これを翻訳すると「変な老婆が登場して、変な老爺をしかり飛ばした」というのである。その芝居の下手さが想像される。 つい近ごろある映画の試写会に出席したら、すぐ前の席にやはり十歳ぐらいの男の子を連れた老紳士がいた。その子供がおそらく生まれて・・・<寺田寅彦「生ける人形」青空文庫>
  21. ・・・このような神経の異常を治療するのにいちばん手軽な方法は、講演会場から車を飛ばしてどこかの常設映画館に入場することである。上映中の映画がどんな愚作であってもそれは問題でない、のみならずあるいはむしろ愚作であればあるほどその治療的効果が大きいよ・・・<寺田寅彦「映画と生理」青空文庫>
  22. ・・・忙しく泡を飛ばして其無数の口が囁く。そうして更に無数の囁が騒然として空間に満ちる。電光が針金の如き白熱の一曲線を空際に閃かすと共に雷鳴は一大破壊の音響を齎して凡ての生物を震撼する。穹窿の如き蒼天は一大玻璃器である。熾烈な日光が之を熱して更に・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  23. ・・・もっとも滑稽物や何かで帽子を飛ばして町内中逐かけて行くと云ったような仕草は、ただそのままのおかしみで子供だって見ていさえすれば分りますから質問の出る訳もありませんが、人情物、芝居がかった続き物になると時々聞かれます。その問ははなはだ簡単でた・・・<夏目漱石「中味と形式」青空文庫>
  24. ・・・と圭さんが云い了らぬうちに、雨を捲いて颯とおろす一陣の風が、碌さんの麦藁帽を遠慮なく、吹き込めて、五六間先まで飛ばして行く。眼に余る青草は、風を受けて一度に向うへ靡いて、見るうちに色が変ると思うと、また靡き返してもとの態に戻る。「痛快だ・・・<夏目漱石「二百十日」青空文庫>
  25. ・・・ 私はとりとめもないことを旋風器のように考え飛ばしていた。 ――俺は飢えてるんじゃないか。そして興奮したじゃないか、だが俺は打克った。フン、立派なもんだ。民平、だが、俺は危くキャピタリスト見たよな考え方をしようとしていたよ。俺が何も・・・<葉山嘉樹「淫賣婦」青空文庫>
  26. ・・・風がそれをけむりのように飛ばしました。 かんじきをはき毛皮を着た人が、村の方から急いでやってきました。「もういいよ。」雪童子は子供の赤い毛布のはじが、ちらっと雪から出たのをみて叫びました。「お父さんが来たよ。もう眼をおさまし。」・・・<宮沢賢治「水仙月の四日」青空文庫>
  27. ・・・つかまえてドアから飛ばしてやろうとゴーシュが手を出しましたらいきなりかっこうは眼をひらいて飛びのきました。そしてまたガラスへ飛びつきそうにするのです。ゴーシュは思わず足を上げて窓をばっとけりました。ガラスは二三枚物すごい音して砕け窓はわくの・・・<宮沢賢治「セロ弾きのゴーシュ」青空文庫>
  28. ・・・ 砂を飛ばしてころがるとき、陽子の胸を若々しい歓ばしさと一緒に小さい鋭い悲しさが貫くのであった。転がれ、転がれ、わがからだ! 夫のいない世界まで。悲しみのない処まで!「ウワーイ!」 犬ころのように、陽子は悌と並んだり、篤介とぶつ・・・<宮本百合子「明るい海浜」青空文庫>
  29. ・・・風が袂をふき飛ばした。晴子も手を振った。が、父は動かず、却ってこっちに来い、来い、と合図している。佐和子と晴子は手をひき合い、かけ声をかけて砂丘をのぼって行った。「何御用」「Kへ行きませんか」「行ってもよくてよ」 Kは九八丁・・・<宮本百合子「海浜一日」青空文庫>
  30. ・・・やがて板切れを抱いて水を跳ね飛ばしながら駛け上がって来る。――生が踊り跳ねている。生が自然と戦いそれを征服している。 私はそこに現われた集中と純一と全存在的な活動とのゆえにしばし恍惚とした。 この気持ちのよさは我々がすべての活動に追・・・<和辻哲郎「生きること作ること」青空文庫>