とび【飛び】例文一覧 30件

  1. ・・・もし『幸福』を掴まえる気ならば、一思いに木馬を飛び下りるが好い。――」「まさかほんとうに飛び下りはしまいな?」 からかうようにこういったのは、木村という電気会社の技師長だった。「冗談いっちゃいけない。哲学は哲学、人生は人生さ。―・・・<芥川竜之介「一夕話」青空文庫>
  2. ・・・車夫の空中へ飛び上ったことはフット・ボオルかと思うくらいである。俺は勿論後悔した。同時にまた思わず噴飯した。とにかく脚を動かす時には一層細心に注意しなければならぬ。……」 しかし同僚を瞞着するよりも常子の疑惑を避けることは遥かに困難に富・・・<芥川竜之介「馬の脚」青空文庫>
  3. ・・・眼は飛び出しそうに見開いていました。今の波一つでどこか深い所に流されたのだということを私たちはいい合わさないでも知ることが出来たのです。いい合わさないでも私たちは陸の方を眼がけて泳げるだけ泳がなければならないということがわかったのです。・・・<有島武郎「溺れかけた兄妹」青空文庫>
  4. ・・・しかしそれも退屈だと見えて、直ぐに飛び上がって手を広げて、赤い唇で春の空気に接吻して「まあ好い心持だ事」といった。 その時何と思ったか、犬は音のしないように娘の側へ這い寄ったと思うと、着物の裾を銜えて引っ張って裂いてしまって、直ぐに声も・・・<著:アンドレーエフレオニード・ニコラーエヴィチ 訳:森鴎外「犬」青空文庫>
  5. ・・・ あまり爪尖に響いたので、はっと思って浮足で飛び退った。その時は、雛の鶯を蹂み躙ったようにも思った、傷々しいばかり可憐な声かな。 確かに今乗った下らしいから、また葉を分けて……ちょうど二、三日前、激しく雨水の落とした後の・・・<泉鏡花「海の使者」青空文庫>
  6. ・・・と語り聞かして、つばめは、またどこへか飛び去ってしまいました。 露子は、いまごろはその船は、どこを航海しているだろうかと考えながら、しばしつばめのゆくえを見守りました。<小川未明「赤い船」青空文庫>
  7. ・・・ 提灯が物影から飛び出して来た。温泉へ来たのかという意味のことを訊かれたので、そうだと答えると、もういっぺんお辞儀をして、「お疲れさんで……」 温泉宿の客引きだった。頭髪が固そうに、胡麻塩である。 こうして客引きが出迎えてい・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  8. ・・・ 女の子が追いかける草のなかを、ばったは二本の脚を伸ばし、日の光を羽根一ぱいに負いながら、何匹も飛び出した。 時どき烟を吐く煙突があって、田野はその辺りから展けていた。レンブラントの素描めいた風景が散らばっている。 黝い木立。百・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  9. ・・・西ははるかに水の行衛を見せて、山幾重雲幾重、鳥は高く飛びて木の葉はおのずから翻りぬ。草苅りの子の一人二人、心豊かに馬を歩ませて、節面白く唄い連れたるが、今しも端山の裾を登り行きぬ。 荻の湖の波はいと静かなり。嵐の誘う木葉舟の、島隠れ行く・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  10. ・・・ただいずこともなく誇れる鷹の俤、眉宇の間に動き、一搏して南の空遠く飛ばんとするかれが離別の詞を人々は耳そばだてて聴けど、暗き穴より飛び来たりし一矢深くかれが心を貫けるを知るものなし、まして暗き穴に潜める貴嬢が白き手をや、一座の光景わが目には・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  11. ・・・寝床に横たわると、十年くらいの年月が、急に飛び去ってしまえばいゝ、というようなことを希った。何もかも忘れてしまいたかった。反物を盗んで来た妻のことが気にかゝって仕方がなかった。これまで完全だった妻に、疵がついたようで、それが心にわだかまって・・・<黒島伝治「窃む女」青空文庫>
  12. ・・・それで、その高地を崩していた土方は、まるで熱いお湯から飛びだしてきたように汗まみれになり、フラフラになっていた。皆の眼はのぼせて、トロンとして、腐った鰊のように赤く、よどんでいた。 棒頭が一人走っていった。 もう一人がその後から走っ・・・<小林多喜二「人を殺す犬」青空文庫>
  13. ・・・ で鳩は今度は牧場を飛び越して、ある百姓がしきりと井戸を掘っている山の中の森に来ました。その百姓は深い所にはいって、頭の上に六尺も土のある様子はまるで墓のあなの底にでもいるようでした。 あなの中にいて、大空も海も牧場も見ないこんな人・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎「真夏の夢」青空文庫>
  14. ・・・ 私は飛び上るほど、ぎょっとした。いいえ、もう、それには、とはげしく拒否して、私は言い知れぬ屈辱感に身悶えしていた。 けれども、お巡りは、朗かだった。「子供がねえ、あなた、ここの駅につとめるようになりましてな、それが長男です。そ・・・<太宰治「黄金風景」青空文庫>
  15. ・・・かれの頭はいつか子供の時代に飛び返っている。裏の入江の船の船頭が禿頭を夕日にてかてかと光らせながら子供の一群に向かってどなっている。その子供の群れの中にかれもいた。 過去の面影と現在の苦痛不安とが、はっきりと区画を立てておりながら、しか・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  16. ・・・ アインシュタインの仕事の偉大なものであり、彼の頭脳が飛び離れてえらいという事は早くから一部の学者の間には認められていた。しかし一般世間に持て囃されるようになったのは昨今の事である。遠い恒星の光が太陽の近くを通過する際に、それが重力の場・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  17. ・・・道太はおぼつかないことだと思いながら、何だか本当に来るような気がして、あわててお湯を飛びだした。誰々がここまで来る幸福をもっているだろう。それでも生き残った二人か三人を迎えることができるかしら――彼はそんなことを思いながら、ぽつぽつ落ちてく・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  18. ・・・側は漂渺たる隅田の川水青うして白帆に風を孕み波に眠れる都鳥の艪楫に夢を破られて飛び立つ羽音も物たるげなり。待乳山の森浅草寺の塔の影いづれか春の景色ならざる。実に帝都第一の眺めなり。懸茶屋には絹被の芋慈姑の串団子を陳ね栄螺の壼焼などをも鬻ぐ。・・・<永井荷風「向嶋」青空文庫>
  19. ・・・太十が庭へおりると唯悦んで飛びついた。うっかり抱いて太十はよく其舌で甞められた。赤は太十をなくして畢ってぽさぽさと独りで帰ることがある。春といっても横にひろがった薺が、枝を束ねた桑畑の畝間にすっと延び出して僅かに白い花が見え出してまだ麦が首・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  20. ・・・この時津田君がもしワッとでも叫んだら余はきっと飛び上ったに相違ない。「それで時間を調べて見ると細君が息を引き取ったのと夫が鏡を眺めたのが同日同刻になっている」「いよいよ不思議だな」この時に至っては真面目に不思議と思い出した。「しかし・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  21. ・・・及び鴉等は鳴き叫び風を切りて町へ飛び行くまもなく雪も降り来らむ――今尚、家郷あるものは幸福なるかな。 の初聯で始まる「寂寥」の如き詩は、その情感の深く悲痛なることに於て、他に全く類を見ないニイチェ独特の名・・・<萩原朔太郎「ニイチェに就いての雑感」青空文庫>
  22. ・・・と、一人の男が一体どこから飛び出したのか、危く打つかりそうになるほどの近くに突っ立って、押し殺すような小さな声で呻くように云った。「ピー、カンカンか」 私はポカンとそこへつっ立っていた。私は余り出し抜けなので、その男の顔を穴のあく程・・・<葉山嘉樹「淫賣婦」青空文庫>
  23. ・・・ 一本腕は無意識に手をさし伸べて、爺いさんの左の手に飛び附こうとした。「手を引っ込めろ。」爺いさんはこう云って、一歩退いた。そして左の手を背後へ引いて、右の手を隠しから出した。きらきらと光る小刀を持っていたのである。裸刃で。「手を引・・・<著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外「橋の下」青空文庫>
  24. ・・・波の上に飛びかう鶺鴒は忽ち来り忽ち去る。秋風に吹きなやまされて力なく水にすれつあがりつ胡蝶のひらひらと舞い出でたる箱根のいただきとも知らずてやいと心づよし。遥かの空に白雲とのみ見つるが上に兀然として現われ出でたる富士ここからもなお三千仞はあ・・・<正岡子規「旅の旅の旅」青空文庫>
  25. ・・・けれども飛びあがるところはつい見なかった。ひばりは降りるときはわざと巣からはなれて降りるから飛びあがるとこを見なければ巣のありかはわからない。一千九百二十五年五月六日今日学校で武田先生から三年生の修学旅行のはなしがあ・・・<宮沢賢治「或る農学生の日誌」青空文庫>
  26. ・・・村の往道に一本、誰のものとも判らない樫の木が飛び生えていた。その樫の木はいつ其那ところへ芽を出したのだろうとは誰も考えもせず、永年荷馬車を一寸つないだり、子供が攀じ登りの稽古台にしたり、共同に役立てて暮して来た。沢や婆さんの存在もその通りで・・・<宮本百合子「秋の反射」青空文庫>
  27. ・・・二つの体を一つの意志で働かすように二人は背後から目ざす男に飛び着いて、黙って両腕をしっかり攫んだ。「何をしやあがる」と叫んだ男は、振り放そうと身をもがいた。 無言の二人は釘抜で釘を挟んだように腕を攫んだまま、もがく男を道傍の立木の蔭・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>
  28. ・・・生きた兎が飛び出せば伏勢でもあるかと刀に手が掛かり、死んだ兎が途にあれば敵の謀計でもあるかと腕がとりしばられる。そのころはまだ純粋の武蔵野で、奥州街道はわずかに隅田川の辺を沿うてあッたので、なかなか通常の者でただいまの九段あたりの内地へ足を・・・<山田美妙「武蔵野」青空文庫>
  29. ・・・勘次は飛び起きた。そして、裏庭を突き切って墓場の方へ馳け出すと、秋三は胸を拡げてその後から追っ馳けた。二 本堂の若者達は二人の姿が見えなくなると、彼らの争いの原因について語合いながらまた乱れた配膳を整えて飲み始めた。併し、彼・・・<横光利一「南北」青空文庫>
  30. ・・・おりおり赤松の梢を揺り動かして行く風が消えるように通りすぎたあとには、――また田畑の色が豊かに黄ばんで来たのを有頂天になって喜んでいるらしいおしゃべりな雀が羽音をそろえて屋根や軒から飛び去って行ったあとには、ただ心に沁み入るような静けさが残・・・<和辻哲郎「ある思想家の手紙」青空文庫>