とび‐いろ【×鳶色】例文一覧 16件

  1. ・・・ 銀灰色の靄と青い油のような川の水と、吐息のような、おぼつかない汽笛の音と、石炭船の鳶色の三角帆と、――すべてやみがたい哀愁をよび起すこれらの川のながめは、いかに自分の幼い心を、その岸に立つ楊柳の葉のごとく、おののかせたことであろう。・・・<芥川竜之介「大川の水」青空文庫>
  2. ・・・それは始終涎に濡れた、ちょうど子持ちの乳房のように、鳶色の斑がある鼻づらだった。「へええ、して見ると鼻の赭い方が、犬では美人の相なのかも知れない。」「美男ですよ、あの犬は。これは黒いから、醜男ですわね。」「男かい、二匹とも。ここ・・・<芥川竜之介「奇怪な再会」青空文庫>
  3. ・・・やや鳶色の口髭のかげにやっと犬歯の見えるくらい、遠慮深そうに笑ったのである。「君は何しろ月給のほかに原稿料もはいるんだから、莫大の収入を占めているんでしょう。」「常談でしょう」と言ったのは今度は相手の保吉である。それも粟野さんの言葉・・・<芥川竜之介「十円札」青空文庫>
  4. ・・・ことに東京の空を罩める「鳶色の靄」などという言葉に。     三七 日本海海戦 僕らは皆日本海海戦の勝敗を日本の一大事と信じていた。が、「今日晴朗なれども浪高し」の号外は出ても、勝敗は容易にわからなかった。するとある日の午飯・・・<芥川竜之介「追憶」青空文庫>
  5. ・・・ たいてい洋服で、それもスコッチの毛の摩れてなくなった鳶色の古背広、上にはおったインバネスも羊羹色に黄ばんで、右の手には犬の頭のすぐ取れる安ステッキをつき、柄にない海老茶色の風呂敷包みをかかえながら、左の手はポッケットに入れている。・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  6. ・・・花にもなんだか生気が少なく、葉も少し縮れ上がって、端のほうはもう鳶色に朽ちかかっていた。自分はこの花について妙な連想がある。それはベルリンにいたころの事である。アカチーン街の語学の先生の誕生日に、何か花でも贈り物にしたいと思って、アポステル・・・<寺田寅彦「病室の花」青空文庫>
  7. ・・・怖る怖る首を擡げた蜀黍の穂がすぐに日に焼けた鳶色に変じ出した。太十は番小屋の穢い蚊帳へ裸でもぐった。西の空に見えた夕月がだんだん大きくなって東の空から蜀黍の垣根に出るようになって畑の西瓜もぐっと蔓を突きあげてどっしりと黄色な臀を据えた。西瓜・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  8. ・・・しまいには遠き未来の世を眼前に引き出したるように窈然たる空の中にとりとめのつかぬ鳶色の影が残る。その時この鳶色の奥にぽたりぽたりと鈍き光りが滴るように見え初める。三層四層五層共に瓦斯を点じたのである。余は桜の杖をついて下宿の方へ帰る。帰る時・・・<夏目漱石「カーライル博物館」青空文庫>
  9. ・・・その杉には鳶色の実がなり立派な緑の枝さきからはすきとおったつめたい雨のしずくがポタリポタリと垂れました。虔十は口を大きくあけてはあはあ息をつきからだからは雨の中に湯気を立てながらいつまでもいつまでもそこに立っているのでした。 ところがあ・・・<宮沢賢治「虔十公園林」青空文庫>
  10. ・・・ 次に来たのは鳶色と白との粘土で顔をすっかり隈取って、口が耳まで裂けて、胸や足ははだかで、腰に厚い簑のようなものを巻いたばけものでした。一人の判事が書類を読みあげました。「ウウウウエイ。三十五歳。アツレキ三十一年七月一日夜、表、アフ・・・<宮沢賢治「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」青空文庫>
  11. ・・・ 非常に砂壁の落ちる棚の上だの部屋の周囲にはトランクから出した許りで入れるものもない沢山の本が只じかに並べてあって、鳶色をした薄い同じ本が沢山荒繩にくくられてころがって在ったりした。 その鳶色の本を今見れば彼が非常に苦心して出版した・・・<宮本百合子「追憶」青空文庫>
  12. ・・・経営主任の責任ある位置にいるひとはやっと三十そこそこで、その辺にいる誰彼と一向違わない鳶色のルバーシカを着、元気に仕事をやっている。鞄を小脇に抱えた連中が盛に出入りする、青い技師の制帽をかぶったのも来る。主任は日本の女がモスクワから遠い炭坑・・・<宮本百合子「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」青空文庫>
  13. ・・・などと云う母親の顔へ無理でも自分の顔を押しあて様とする事がありますと、彼はもう此上ない憤りに胸を掻き乱されながら鳶色の愛情でこり固まった様な拳を作って拳闘をする様な構えで非常に「無法な姉」に掛って来ました。 年上の者達が一言でも母の悪る・・・<宮本百合子「二月七日」青空文庫>
  14. ・・・    冬の日差しの悲しまれける 着ぶくれて見にくき姿うつしみて  わびしき思ひ鏡の面 今の心語りつたへんとももがなと    空しき宙に姿絵をかく ステンドクラッスの紫よ緋よ、鳶色よ    病なき国抱けるが如・・・<宮本百合子「日記」青空文庫>
  15. ・・・持物は鳶色ごろふくの懐中物、鼠木綿の鼻紙袋、十手早縄である。文吉も取って置いた花色の単物に御納戸小倉の帯を締めて、十手早縄を懐中した。 木賃宿の主人には礼金を遣り、摂津国屋へは挨拶に立ち寄って、九郎右衛門主従は六月二十八日の夜船で、伏見・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>
  16. ・・・大きな鳶色の瞳を囲んでいる白い所がすっかりと見えるほどだ。時々身ぶりをするけれども決して相手に触れたり、腕に手を置いたりなどはしない。深刻な眼は相手の人の額の後ろに隠れている思想を見徹しているようだ。肉体と肉体とがいかに接近してもそれは彼女・・・<和辻哲郎「エレオノラ・デュウゼ」青空文庫>