とび‐おり【飛(び)降り/飛(び)下り】例文一覧 30件

  1. ・・・もし『幸福』を掴まえる気ならば、一思いに木馬を飛び下りるが好い。――」「まさかほんとうに飛び下りはしまいな?」 からかうようにこういったのは、木村という電気会社の技師長だった。「冗談いっちゃいけない。哲学は哲学、人生は人生さ。―・・・<芥川竜之介「一夕話」青空文庫>
  2. ・・・ 彼は肩越しに神山へ、こう言葉をかけながら、店員の誰かが脱ぎ捨てた板草履の上へ飛び下りた。そうしてほとんど走るように、市街自動車や電車が通る大通りの方へ歩いて行った。 大通りは彼の店の前から、半町も行かない所にあった。そこの角にある・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  3. ・・・…… 僕は目を醒ますが早いか、思わずベッドを飛び下りていた。僕の部屋は不相変電燈の光に明るかった。が、どこかに翼の音や鼠のきしる音も聞えていた。僕は戸をあけて廊下へ出、前の炉の前へ急いで行った。それから椅子に腰をおろしたまま、覚束ない炎・・・<芥川竜之介「歯車」青空文庫>
  4. ・・・仁右衛門は酔いが一時に醒めてしまって馬力から飛び下りた。小屋の中にはまだ二、三人人がいた。妻はと見ると虫の息に弱った赤坊の側に蹲っておいおい泣いていた。笠井が例の古鞄を膝に引つけてその中から護符のようなものを取出していた。「お、広岡さん・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  5. ・・・誰ぞかわんなはらねえかって、艫からドンと飛下りただ。 船はぐらぐらとしただがね、それで止まるような波じゃねえだ。どんぶりこッこ、すっこッこ、陸へ百里やら五十里やら、方角も何も分らねえ。」 女房は打頷いた襟さみしく、乳の張る胸をおさえ・・・<泉鏡花「海異記」青空文庫>
  6. ・・・ 飛下りて、胴の間に膝をついて、白髪天頭を左右に振ったが、突然水中へ手を入れると、朦朧として白く、人の寝姿に水の懸ったのが、一揺静に揺れて、落着いて二三尺離れて流れる、途端に思うさま半身を乗出したので反対の側なる舷へざぶりと一波浴せたが・・・<泉鏡花「葛飾砂子」青空文庫>
  7. ・・・ 兄のことばの終わらぬうちに省作は素足で庭へ飛び降りた。 彼岸がくれば籾種を種井の池に浸す。種浸す前に必ず種井の水を汲みほして掃除をせねばならぬ。これはほとんどこの地の習慣で、一つの年中行事になってる。二月に入ればよい日を見て種井浚・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  8. ・・・と、ひらひらと飛び下りて、さあ、いっしょに歌って遊ぼうよと、二人は学校でおそわった唱歌などを声をそろえて歌ったのであります。そして二人は、べにがにや、美しい貝がらや、白い小石などを拾って、晩方までおもしろく遊んでいました。いつしか夕暮れ方に・・・<小川未明「海の少年」青空文庫>
  9. ・・・私は、羽などはなくっても、この体が、自由になれば、すぐにもここから飛び降りてみせます。そして、この広い野原も縦横に駈けるであろう。」といって、くまは、かごの外の自然に憧れるのでした。「ああ、自由に放たれていて、しかも、羽すら持ちながら、・・・<小川未明「汽車の中のくまと鶏」青空文庫>
  10. ・・・もし止まる余裕がなかったら惰力で自分は石垣から飛び下りなければならなかった。しかし飛び下りるあたりに石があるか、材木があるか、それはその石垣の出っ鼻まで行かねば知ることができなかった。非常な速さでその危険が頭に映じた。 石垣の鼻のザラザ・・・<梶井基次郎「路上」青空文庫>
  11. ・・・私は慄るい上って縁がわから飛び下り、一目散に飯塚の家から駈け出しました。 それからというものは決して飯塚に参りません、おさよに途で逢っても逃げ出しました。おさよは私の逃げ出すのを見ていつもただ笑っていましたから、私はなおおさよが自分を欺・・・<国木田独歩「女難」青空文庫>
  12. ・・・』 膝の猫がびっくりして飛び下りた。『ばか! 貴様に言ったのじゃないわ。』 猫はあわてて厨房の方へ駆けていってしまった。柱時計がゆるやかに八時を打った。『お婆さん、吉蔵が眠そうにしているじゃあないか、早く被中炉を入れてやって・・・<国木田独歩「忘れえぬ人々」青空文庫>
  13. ・・・ こう言ってしきりにとめましたが、ウイリイはほしくて/\たまらないものですから、馬のいうことを聞かないで、とうとう飛び下りてひろいました。すると、その一本だけでなく、ついでに前のもみんなひろっていきたくなりました。ウイリイはわざわざ後も・・・<鈴木三重吉「黄金鳥」青空文庫>
  14. ・・・ギンはいきなりざぶりと水の中へ飛び下りてむかいにいきました。 女は今日はギンがさし出したパンを、ほほえみながらうけとって、ギンと一しょに岸へ上りました。ギンはそのときに、女の右の靴のひものむすびかたが、左のとちがっているのをちらと目にと・・・<鈴木三重吉「湖水の女」青空文庫>
  15. ・・・ と連呼し、やがて、ジャンジャンジャンというまことに異様な物音が内から聞え、それは婆が金盥を打ち鳴らしているのだという事が後でわかりましたが、私は身の毛のよだつほどの恐怖におそわれ、屋根から飛び降りて逃げようとしたとたんに、女房たちの騒ぎを・・・<太宰治「男女同権」青空文庫>
  16. ・・・騒ぐな、騒ぐな、と息をつめたような声で言ってから、庭へ飛び降り小石を拾い、はっしとぶっつけた。狆の頭部に命中した。きゃんと一声するどく鳴いてから狆の白い小さいからだがくるくると独楽のように廻って、ぱたとたおれた。死んだのである。雨戸をしめて・・・<太宰治「ロマネスク」青空文庫>
  17. ・・・こないだ電車から飛び下りておれのわざと忘れて置いた包みを持って来てくれて、自分の名刺をくれた男である。 おれはそいつのふくらんだ腹を見て、ポッケットに入れていたナイフを出してそのナイフに付いていた十二本の刃を十二本ともそいつの腹へずぶり・・・<著:ディモフオシップ 訳:森鴎外「襟」青空文庫>
  18. ・・・そうしてまた実に驚くべく非科学的なる市民、逆上したる街頭の市民傍観者のある者が、物理学も生理学もいっさい無視した五階飛び降りを激励するようなことがなかったら、あたら美しい青春の花のつぼみを舗道の石畳に散らすような惨事もなくて済んだであろう。・・・<寺田寅彦「火事教育」青空文庫>
  19. ・・・なんとなく直感的にその幕の中には人が死んでいそうな気がしたが、夕刊を見るとやっぱり飛び降り自殺であった。あまり珍しくないそれであった。 それから数日後にまた同じ屋上庭園から今度は少しばかり前とちがって建物の反対側へ飛んだ女があった。そう・・・<寺田寅彦「LIBER STUDIORUM」青空文庫>
  20. ・・・ しかし、犬は素早く畑を飛び出すと、畑のくろをめぐって、下の畑へ飛び下りた。そしてこれも顔を赤くホテらした断髪の娘は、土堤から畑の中へ飛び下りると、其処此処の嫌いなく、麦の芽を、踏みしだきながら、喚めいた。「チロルや、チロルや」・・・<徳永直「麦の芽」青空文庫>
  21. ・・・電車は広い大通りを越して向側のやや狭い街の角に止まるのを待ちきれず二、三人の男が飛び下りた。「止りましてからお降り下さい。」と車掌のいうより先に一人が早くも転んでしまった。無論大した怪我ではないと合点して、車掌は見向きもせず、曲り角の大・・・<永井荷風「深川の唄」青空文庫>
  22. ・・・この刺激の強い都を去って、突然と太古の京へ飛び下りた余は、あたかも三伏の日に照りつけられた焼石が、緑の底に空を映さぬ暗い池へ、落ち込んだようなものだ。余はしゅっと云う音と共に、倏忽とわれを去る熱気が、静なる京の夜に震動を起しはせぬかと心配し・・・<夏目漱石「京に着ける夕」青空文庫>
  23. ・・・鳴り込みましたので男は手切金を出して手を切る談判を始めると、女はその金を床の上に叩きつけて、こんなものが欲しいので来たのではない、もし本当にあなたが私を捨てる気ならば私は死んでしまう、そこにある窓から飛下りて死んでしまうと言った。男は平気な・・・<夏目漱石「現代日本の開化」青空文庫>
  24. ・・・両方の乗降口に立っていた制服巡査は飛び下りた。 思わず、彼は深い吐息をついた。そして、自分の吐息の大きさに慌てて、車室を見廻した。乗客は汽車が動き出すと一緒に、長くなったり、凭れに頭を押しつけたりして、眠りを続けた。 汽車は・・・<葉山嘉樹「乳色の靄」青空文庫>
  25. ・・・ 彼は叱言を独りで云いながら、ロープの上へ乗っかった。 ロープ、捲かれたロープは、……… どうもロープらしくなかった。「何だ!」 水夫見習は、も一度踏みつけて見た。 彼は飛び下りた。 躯を直角に曲げて、耳をおっ立・・・<葉山嘉樹「労働者の居ない船」青空文庫>
  26. ・・・「ぼく、飛び下りて、あいつをとって、また飛び乗ってみせようか。」ジョバンニは胸を躍らせて云いました。「もうだめだ。あんなにうしろへ行ってしまったから。」 カムパネルラが、そう云ってしまうかしまわないうち、次のりんどうの花が、いっ・・・<宮沢賢治「銀河鉄道の夜」青空文庫>
  27. ・・・ 平右衛門はひらりと縁側から飛び下りて、はだしで門前の白狐に向って進みます。 みんなもこれに力を得てかさかさしたときの声をあげて景気をつけ、ぞろぞろ随いて行きました。 さて平右衛門もあまりといえばありありとしたその白狐の姿を見て・・・<宮沢賢治「とっこべとら子」青空文庫>
  28. ・・・ ――まだここから飛び降りた奴あねえ。「もっとこちらへいらっしゃい」 音や人目や色彩や、それが余り繁いので、つまり無いと同じ雑踏の中で油井はみのえの手を執り、自分の傍へ引きよせた。油井が大人の男であるのがみのえの満足であった。彼・・・<宮本百合子「未開な風景」青空文庫>
  29. ・・・初め操縦士と合図しといて落下傘で飛び降りてから、その後の空虚の飛行機へ光線をあてたのです。うまくゆきましたよ。操縦士と夕べは握手して、ウィスキイを二人で飲みました。愉快でしたよそのときは。」 自信に満ちた栖方の笑顔は、日常眼にする群衆の・・・<横光利一「微笑」青空文庫>
  30. ・・・すると吉は跣足のまま庭へ飛び降りて梯子を下から揺すぶり出した。「恐いよう、これ、吉ってば。」 肩を縮めている姉はちょっと黙ると、口をとがらせて唾を吐きかける真似をした。「吉ッ!」と父親は叱った。 暫くして屋根裏の奥の方で、・・・<横光利一「笑われた子」青空文庫>