と・ぶ【飛ぶ/跳ぶ】例文一覧 31件

  1. ・・・ 板の裂ける音、錠のはね飛ぶ音、――戸はとうとう破れました。しかし肝腎の部屋の中は、まだ香炉に蒼白い火がめらめら燃えているばかり、人気のないようにしんとしています。 遠藤はその光を便りに、怯ず怯ずあたりを見廻しました。 するとす・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・若者の身のまわりには白い泡がきらきらと光って、水を切った手が濡れたまま飛魚が飛ぶように海の上に現われたり隠れたりします。私はそんなことを一生懸命に見つめていました。 とうとう若者の頭と妹の頭とが一つになりました。私は思わず指を口の中から・・・<有島武郎「溺れかけた兄妹」青空文庫>
  3. ・・・傘の飛ぶがごとし。天赤かりしとや。天狗相伝の餅というものこれなり。 いつぞやらん、その松任より、源平島、水島、手取川を越えて、山に入る、辰口という小さな温泉に行きて帰るさ、件の茶屋に憩いて、児心に、ふと見たる、帳場にはあらず、奥の別なる・・・<泉鏡花「一景話題」青空文庫>
  4. ・・・燕の夫婦はいつしか二つがいになった、時々緑の短冊に腹を擦って飛ぶは何のためか。心長閑にこの春光に向かわば、詩人ならざるもしばらく世俗の紛紜を忘れうべきを、春愁堪え難き身のおとよは、とても春光を楽しむの人ではない。 男子家にあるもの少なく・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  5. ・・・小さい時から長袖が志望であったというから、あるいは画師となって立派に門戸を張る心持がまるきりなかったとも限らないが、その頃は淡島屋も繁昌していたし、椿岳の兄の伊藤八兵衛は飛ぶ鳥を落す勢いであったから、画を生活のたつきとする目的よりはやはり金・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  6. ・・・そして弾丸が始終高い所ばかりを飛ぶようになった。 女房もやはり気がぼうっとして来て、なんでももう百発も打ったような気がしている。その目には遠方に女学生の白いカラが見える。それをきのう的を狙ったように狙って打っている。その白いカラの外には・・・<著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外「女の決闘」青空文庫>
  7. 一 小さな芽 小さな木の芽が土を破って、やっと二、三寸ばかりの丈に伸びました。木の芽は、はじめて広い野原を見渡しました。大空を飛ぶ雲の影をながめました。そして、小鳥の鳴き声を聞いたのであります。(ああ、これが世の中と考えました。・・・<小川未明「明るき世界へ」青空文庫>
  8. ・・・何とやらして空飛ぶ鳥は、どこのいずこで果てるやらって唄があるが、まったく私らの身の上さね。こうやってトドの究りは、どこかの果の土になるんだ。そりゃまあいいが、旅で死んだ日にゃ犬猫も同じで、死骸も分らなけりゃ骨も残らねえ――残しておいてもしよ・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  9. ・・・「流血の検挙をよそに闇煙草は依然梅田新道にその涼しい顔をそろへてをり、昨日もまた今日もあの路地を、この街角で演じられた検挙の乱闘を怖れる気色もなく、ピースやコロナが飛ぶやうに売れて行く。地元曾根崎署の取締りを嘲笑するやうに、今日もま・・・<織田作之助「大阪の憂鬱」青空文庫>
  10.  冬の蠅とは何か? よぼよぼと歩いている蠅。指を近づけても逃げない蠅。そして飛べないのかと思っているとやはり飛ぶ蠅。彼らはいったいどこで夏頃の不逞さや憎々しいほどのすばしこさを失って来るのだろう。色は不鮮明に黝んで、翅体・・・<梶井基次郎「冬の蠅」青空文庫>
  11. ・・・たぶん羽虫が飛ぶのであろう折り折り小さな波紋が消えてはまた現われている、お梅はじっと水を見ていたが、ついに『幸ちゃんの話は何でした。』『神田の叔父の方へしばらく往っていたいがどうしたもんだろうと相談に来たのサ。』『先生何と言って・・・<国木田独歩「郊外」青空文庫>
  12. ・・・同時に橇は、飛ぶような速力を出した。つづいて、シーシコフが発射した。 銃の響きは、凍った闇に吸いこまれるように消えて行った。「畜生! 逃がしちゃった!」     三 戸外で蒙古馬が嘶いた。 馭者の呉はなだめるよう・・・<黒島伝治「国境」青空文庫>
  13. ・・・心は光りの飛ぶごとくにあらゆる道理の中を駈巡ったが、何をとらえることも出来無かった。ただわずかに人の真心――誠というものの一切に超越して霊力あるものということを思い得て、「一心の誠というものは、それほどまでに強いものでしょうかナア。」・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  14. ・・・殊に新聞紙の論説の如きは奇想湧くが如く、運筆飛ぶが如く、一気に揮洒し去って多く改竄しなかったに拘らず、字句軒昂して天馬行空の勢いがあった。其一例を示せば、 我日本国の帝室は地球上一種特異の建設物たり。万国の史を閲読するも此の如き建設・・・<幸徳秋水「文士としての兆民先生」青空文庫>
  15. ・・・熱い空気に蒸される林檎の可憐らしい花、その周囲を飛ぶ蜜蜂の楽しい羽音、すべて、見るもの聞くものは回想のなかだちであったのである。其時自分は目を細くして幾度となく若葉の臭を嗅いで、寂しいとも心細いとも名のつけようのない――まあ病人のように弱い・・・<島崎藤村「朝飯」青空文庫>
  16. ・・・空飛ぶ鳥を見よ。播かず。刈らず。蔵に収めず。」 骨のずいまで小説的である。これに閉口してはならない。無性格、よし。卑屈、結構。女性的、そうか。復讐心、よし。お調子もの、またよし。怠惰、よし。変人、よし。化物、よし。古典的秩序へのあこがれ・・・<太宰治「一日の労苦」青空文庫>
  17. ・・・蠅がワンと飛ぶ。石灰の灰色に汚れたのが胸をむかむかさせる。 あれよりは……あそこにいるよりは、この闊々とした野の方がいい。どれほど好いかしれぬ。満洲の野は荒漠として何もない。畑にはもう熟しかけた高粱が連なっているばかりだ。けれど新鮮な空・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  18. ・・・昼間から怪しかった雲足はいよいよ早くなって、北へ北へと飛ぶ。夕映えの色も常に異なった暗黄色を帯びて物凄いと思う間に、それも消えて、暮れかかる濃鼠の空を、ちぎれちぎれの綿雲は悪夢のように果てもなく沖から襲うて来る。沖の奥は真暗で、漁火一つ見え・・・<寺田寅彦「嵐」青空文庫>
  19. ・・・春は桜の賑ひよりかけて、なき玉菊が燈籠の頃、つづいて秋の新仁和賀には十分間に車の飛ぶことこの通りのみにて七十五輌と数へしも、二の替りさへいつしか過ぎて、赤蜻蛉田圃に乱るれば、横堀に鶉なく頃も近きぬ。朝夕の秋風身にしみわたりて、上清が・・・<永井荷風「里の今昔」青空文庫>
  20. ・・・頬白が桑の枝から枝を渡って懶げに飛ぶのを見ると赤は又立ちあがって吠える。桑畑から田から堀の岸を頬白が向の岸へ飛んでなくなるまでは吠える。そうして赤は主人を見失うのである。そういう時には尻尾を脚の間へ曲げこんで首を垂れて極めて小刻みに帰って行・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  21. ・・・長く連なる廻廊を飛ぶにもあらず、踏むにもあらず、ただ影のままにて動く」「顔は」と髯なしが尋ねる時、再び東隣りの合奏が聞え出す。一曲は疾くにやんで新たなる一曲を始めたと見える。あまり旨くはない。「蜜を含んで針を吹く」と一人が評すると・・・<夏目漱石「一夜」青空文庫>
  22. ・・・ミネルバの梟は、もはや暗い洞窟から出て、白昼を飛ぶことが出来るだろう。僕はその希望を夢に見て楽しんでいる。<萩原朔太郎「僕の孤独癖について」青空文庫>
  23. ・・・「あそこの家の屋根からは、毎晩人魂が飛ぶ。見た事があるかい?」 そうなると、子供や臆病な男は夜になるとそこを通らない。 このくらいのことはなんでもない。命をとられるほどのことはないから。 だが、見たため、知ったために命を落と・・・<葉山嘉樹「死屍を食う男」青空文庫>
  24. ・・・子供の時、春の日和に立っていて体が浮いて空中を飛ぶようで、際限しも無いあくがれが胸に充ちた事がある。また旅をするようになってから、ある時は全世界が輝き渡って薔薇の花が咲き、鐘の声が聞えて余所の光明に照されながら酔心地になっていた事がある。そ・・・<著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外「痴人と死と」青空文庫>
  25. ・・・と詠み、螽飛べば「螽飛ぶ」と詠む。これ尋常のことのごとくなれど曙覧以外の歌人には全くなきことなり。面白からぬに「面白し」と詠み、香もなきに「香に匂ふ」と詠み、恋しくもなきに「恋にあこがれ」と詠み、見もせぬに遠き名所を詠み、しこうして自然の美・・・<正岡子規「曙覧の歌」青空文庫>
  26. ・・・もう飛ぶばかりでしょう」「ええ、もう僕たち遠いとこへ行きますよ。どの風が僕たちを連れて行くかさっきから見ているんです」「どうです。飛んで行くのはいやですか」「なんともありません。僕たちの仕事はもう済んだんです」「こわかありま・・・<宮沢賢治「おきなぐさ」青空文庫>
  27. ・・・ あれから、半年ばかりの間に、どれほどの苦労をしたのかしらんと、恭二は、ぼんやりと、無邪気な、子供が鳥の飛ぶのを驚く様な驚きを持って居た。 隣の間の夫婦は、こっちに声のもれないほどの低い声で、何やら話し会って居るらしい。折々、・・・<宮本百合子「栄蔵の死」青空文庫>
  28. ・・・ 後れ先立つ娘の子の、同じような洗髪を結んだ、真赤な、幅の広いリボンが、ひらひらと蝶が群れて飛ぶように見えて来る。 これもお揃の、藍色の勝った湯帷子の袖が翻る。足に穿いているのも、お揃の、赤い端緒の草履である。「わたし一番よ」・・・<森鴎外「杯」青空文庫>
  29. ・・・その早いこと飛ぶようである。しばらくして車輪が空を飛んで、町や村が遙か下の方に見えなくなった。ツァウォツキイはそれを苦しくも思わない。胸に小刀を貫いている人には、もう物事を苦しく思うことは無いものである。 馬車が駐まった。載せられて来た・・・<著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外「破落戸の昇天」青空文庫>
  30. ・・・野原の急な風……それはなかなか想像のほかで、見る間に草の茎や木の小枝が砂と一途にさながら鳥の飛ぶように幾万となく飛び立ッた。そこで話もたちまち途切れた。途切れたか、途切れなかッたか、風の音に呑まれて、わからないが、まずは確かに途切れたらしい・・・<山田美妙「武蔵野」青空文庫>