と‐ほう〔‐ハウ〕【途方/十方】例文一覧 30件

  1. ・・・』私『何んでも旧幕の修好使がヴルヴァルを歩いているのを見て、あの口の悪いメリメと云うやつは、側にいたデュマか誰かに「おい、誰が一体日本人をあんな途方もなく長い刀に縛りつけたのだろう。」と云ったそうだぜ。君なんぞは気をつけないと、すぐにメリメ・・・<芥川竜之介「開化の良人」青空文庫>
  2. ・・・が、我々人間の心はこういう危機一髪の際にも途方もないことを考えるものです。僕は「あっ」と思う拍子にあの上高地の温泉宿のそばに「河童橋」という橋があるのを思い出しました。それから、――それから先のことは覚えていません。僕はただ目の前に稲妻に似・・・<芥川竜之介「河童」青空文庫>
  3. ・・・ と、きっぱりと、投上げるように、ご新姐が返事をすると、(あああ、銭 と、また途方もない声をして、階子段一杯に、大な男が、褌を真正面に顕われる。続いて、足早に刻んで下りたのは、政治狂の黒い猿股です。ぎしぎしと音がして、青黄色・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  4. ・・・ 途方もない、乱暴な小僧ッ児の癖に、失礼な、末恐しい、見下げ果てた、何の生意気なことをいったって私が家に今でもある、アノ籐で編んだ茶台はどうだい、嬰児が這ってあるいて玩弄にして、チュッチュッ噛んで吸った歯形がついて残ッてら。叱り倒してと・・・<泉鏡花「清心庵」青空文庫>
  5. ・・・ 嫂の話で大方は判ったけれど、僕もどうしてよいやら殆ど途方にくれた。母はもう半気違いだ。何しろここでは母の心を静めるのが第一とは思ったけれど、慰めようがない。僕だっていっそ気違いになってしまったらと思った位だから、母を慰めるほどの気力は・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  6. ・・・ 尤もその頃は今のような途方もない画料を払うものはなかった。随って相場をする根性で描く画家も、株を買う了簡で描いてもらう依頼者もなかった。時勢が違うので強ち直ちに気品の問題とする事は出来ないが、当時の文人や画家は今の小説家や美術家よりも・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  7. ・・・と思って、物に追われて途方に暮れた獣のように、夢中で草原を駆けた時の喜は、いつか消えてしまって、自分の上を吹いて通る、これまで覚えた事のない、冷たい風がそれに代ったのである。なんだか女学生が、今死んでいるあたりから、冷たい息が通って来て、自・・・<著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外「女の決闘」青空文庫>
  8. ・・・ ほとんど途方に暮れてしまって、少年は、ある道の四つ筋に分かれたところに立っていました。そこは、町を出つくしてしまって、広々とした圃の中になっていました。そして、どの道を歩いていっても、その方には、黒い森があり、青々とした圃があり、遠い・・・<小川未明「石をのせた車」青空文庫>
  9. ・・・ 女は、どちらへいっていいか、まったくわからずに途方にくれてしまった。「俺は、長い間、どんなにおまえを待ったかしれない。」と、第一の夫がいいました。「私は、いちばん最後におまえと別れたのだ。おまえは私といっしょに、あの世へゆくの・・・<小川未明「ちょうと三つの石」青空文庫>
  10. ・・・ 私は途方に晦れながら、それでもブラブラと当もなしに町を歩いた。町外れの海に臨んだ突端しに、名高い八幡宮がある。そこの高い石段を登って、有名なここの眺望にも対してみた。切立った崖の下からすぐ海峡を隔てて、青々とした向うの国を望んだ眺めは・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  11. ・・・とぼとぼ河堀口へ帰って行く道、紙芝居屋が、自転車の前に子供を集めているのを見ると、ふと立ち停って、ぼんやり聴いていたくらい、その日の私は途方に暮れていました。ところが、聴いているうちに、ふと俺ならもっと巧く喋れるがと思ったとたん、私はきゅう・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  12. ・・・廻転機のように絶えず廻っているようで、寝ている自分の足の先あたりを想像すれば、途方もなく遠方にあるような気持にすぐそれが捲き込まれてしまう。本などを読んでいると時とすると字が小さく見えて来ることがあるが、その時の気持にすこし似ている。ひどく・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  13. ・・・夫婦途方に暮れて実に泣くばかり。思えば母が三円投出したのも、親子の縁を切るなど突飛なことを怒鳴って帰ったのも皆なその心が見えすく。「直ぐ行って来る。親を盗賊に為ることは出来ない。お前心配しないで待ておいで、是非取りかえして来るから」と自・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  14. ・・・新しく、とらわれずに真理を求めようとする年少の求道者日蓮にとってはそのいずれをとって宗とすべきか途方に暮れざるを得なかった。のみならず、かくまちまちな所説が各々真理を主張することが真理そのものの所在への懐疑に導くことはいつの時代でも同じこと・・・<倉田百三「学生と先哲」青空文庫>
  15. ・・・初対面の時、じいさんとばあさんとは、相手の七むずかしい口上に、どう応酬していゝか途方に暮れ、たゞ「ヘエ/\」と頭ばかり下げていた。それ以来両人は大佐を鬼門のように恐れていた。 またしても、むずかしい挨拶をさせられた。両人は固くなって、ぺ・・・<黒島伝治「老夫婦」青空文庫>
  16. ・・・ 秋は早い奥州の或山間、何でも南部領とかで、大街道とは二日路も三日路も横へ折れ込んだ途方もない僻村の或寺を心ざして、その男は鶴の如くにせた病躯を運んだ。それは旅中で知合になった遊歴者、その時分は折節そういう人があったもので、律詩の一、二・・・<幸田露伴「観画談」青空文庫>
  17. ・・・太郎は、と見ると、そこに争っている弟や妹をなだめようでもなく、ただ途方に暮れている。婆やまでそこいらにまごまごしている。 私は何も知らなかった。末子が何をしたのか、どうして次郎がそんなにまで平素のきげんをそこねているのか、さっぱりわから・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  18. ・・・しかして途方にくれた母子二人は二十匹にも余る野馬の群れに囲まれてしまいました。 子どもは顔をおかあさんの胸にうずめて、心配で胸の動悸は小時計のようにうちました。「私こわい」 と小さな声で言います。「天に在します神様――お助け・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎「真夏の夢」青空文庫>
  19. ・・・彼女の傍によって来てやさしく角を腕などになすりつけ、言葉に云えない途方に暮れた様子で、慰めようとするのでした。 此等二匹の牛のほかに、山羊や小猫もいました。けれども、スバーは、牛共に対するほどの親しみは持っていませんでした。彼等の方では・・・<著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子「唖娘スバー」青空文庫>
  20. ・・・自分で勝手に、自分に約束して、いまさら、それを破れず、東京へ飛んで帰りたくても、何かそれは破戒のような気がして、峠のうえで、途方に暮れた。甲府へ降りようと思った。甲府なら、東京よりも温いほどで、この冬も大丈夫すごせると思った。 甲府へ降・・・<太宰治「I can speak」青空文庫>
  21. ・・・どんなに面白い女か、どんな途方もない落想のある女かと云うことが、段々知れて来るのである。貴族仲間の禁物は退屈と云うものであるに、ポルジイはこの女と一しょにいて、その退屈を感じたことが、かつてない。ドリスはフランス語を旨く話す。立居振舞は立派・・・<著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外「世界漫遊」青空文庫>
  22. ・・・突然路が右へ曲ると途方もない広い新道が村山瀦水池のある丘陵の南麓へ向けて一直線に走っている。無論参謀本部の五万分一地図にはないほど新しい道路である。道傍の畑で芋を掘上げている農夫に聞いて、見失った青梅への道を拾い上げることが出来た。地図をあ・・・<寺田寅彦「異質触媒作用」青空文庫>
  23. ・・・ただ触れろ触れろと仰があっても、触れる見当がつかなければ、作家は途方に暮れます。むやみに人生だ人生だと騒いでも、何が人生だか御説明にならん以上は、火の見えないのに半鐘を擦るようなもので、ちょっと景気はいいようだが、どいたどいたと駆けて行く連・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  24. ・・・「まあ、黙って聞け。おれがおぬしに見せてやる。おれの宝物を見せるのだ。世界に類の無い宝物だ。」 一本腕は爺いさんの手を振り放して一歩退いた。「途方もねえ。気違じゃねえかしら。」 爺いさんはそれには構わずに、靴をぬぎはじめた。右の足に・・・<著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外「橋の下」青空文庫>
  25. ・・・ 楫をなくした舟のように、わたくしは途方にくれました。どちらへ向いて見ても活路を見出すことが出来ません。わたくしはとうとう夢に向って走りました。ちょうど生埋めにせられた人が光明を求め空気を求めると同じ事でございます。 わたくしは突然・・・<著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外「田舎」青空文庫>
  26. ・・・梟が目玉を途方もない方に向けながら、しきりに「オホン、オホン」とせきばらいをします。 ホモイのお父さんがただの白い石になってしまった貝の火を取りあげて、 「もうこんなぐあいです。どうかたくさん笑ってやってください」と言うとたん、貝の・・・<宮沢賢治「貝の火」青空文庫>
  27. ・・・既に、米の三合配給などを公約した婦人たちは、途方にくれる立場にさらされている。自由党はそのような公約はしないといい、進歩党は「俺は知らないよ」といい、社会党は、落選代議士の公約であるという説明を与えている。婦人代議士は、私たち日本の婦人があ・・・<宮本百合子「一票の教訓」青空文庫>
  28. ・・・わたくしは途方に暮れたような心持ちになって、ただ弟の顔ばかり見ております。こんな時は、不思議なもので、目が物を言います。弟の目は『早くしろ、早くしろ』と言って、さも恨めしそうにわたくしを見ています。わたくしの頭の中では、なんだかこう車の輪の・・・<森鴎外「高瀬舟」青空文庫>
  29. ・・・一つはあなたがいかにも無邪気に、初心らしくおっしゃったので、「おや、この方はどんな途方もない事をおっしゃるのだか、御自身ではお分かりにならないのだな」と存じましたの。それから今一つはまあ、なんと申しましょうか。わたくしあなたに八分通り迷って・・・<著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外「辻馬車」青空文庫>
  30. ・・・おおしく見えたがさすがは婦人,母は今さら途方にくれた。「なまじいに心せぬ体でなぐさめたのがおれの脱落よ。さてもあのまま鎌倉までもしは追うて出で行いたか。いかに武芸をひとわたりは心得たとて……この血腥い世の中に……ただの女の一人身で……ただの・・・<山田美妙「武蔵野」青空文庫>