とまり【泊(ま)り】例文一覧 30件

  1. ・・・しかもこの若い御新造は、時々女権論者と一しょに、水神あたりへ男連れで泊りこむらしいと云うじゃありませんか。私はこれを聞いた時には、陽気なるべき献酬の間でさえ、もの思わしげな三浦の姿が執念く眼の前へちらついて、義理にも賑やかな笑い声は立てられ・・・<芥川竜之介「開化の良人」青空文庫>
  2. ・・・伯母はまだこのほかに看護婦は気立ての善さそうなこと、今夜は病院へ妻の母が泊りに来てくれることなどを話した。「多加ちゃんがあすこへはいると直に、日曜学校の生徒からだって、花を一束貰ったでしょう。さあ、お花だけにいやな気がしてね」そんなことも話・・・<芥川竜之介「子供の病気」青空文庫>
  3. ・・・時刻も遅いからお泊りなさい今夜は」「ありがとうございますが帰らせていただきます」「そうですか、それではやむを得ないが、では御相談のほうは今までのお話どおりでよいのですな」「御念には及びません。よいようにお取り計らいくださればそれ・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  4. ・・・ 私は熟と視て、――長野泊りで、明日は木曾へ廻ろうと思う、たまさかのこの旅行に、不思議な暗示を与えられたような気がして、なぜか、変な、擽ったい心地がした。 しかも、その中から、怪しげな、不気味な、凄いような、恥かしいような、また謎の・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  5. ・・・……「昨夜はどちらでお泊り。」「武生でございます。」「蔦屋ですな、綺麗な娘さんが居ます。勿論、御覧でしょう。」 旅は道連が、立場でも、また並木でも、言を掛合う中には、きっとこの事がなければ納まらなかったほどであったのです。・・・<泉鏡花「雪霊記事」青空文庫>
  6. ・・・そして、日暮れに木賃宿へ帰ってきて泊まりました。彼は、ほかにいって泊まるところがなかったからです。 この木賃宿には、べつに大人の乞食らがたくさん泊まっていました。そして、彼らは、その日いくらもらってきたかなどと、たがいに話し合っていまし・・・<小川未明「石をのせた車」青空文庫>
  7. ・・・「こんなに天気が悪いから、おじいさんは、お泊まりなさるだろう。」と、家の人たちはいっていました。 太郎は、おじいさんが、晩までには、帰ってくるといわれたから、きっと帰ってこられるだろうと堅く信じていました。それで、どんなものをおみや・・・<小川未明「大きなかに」青空文庫>
  8. ・・・私は泊り客かと思ったら、後でこの家の亭主と知れた。「泊めてもらいたいんですが……」と私は門口から言った。 すると、三十近くの痩繊の、目の鋭い無愛相な上さんが框ぎわへ立ってきて、まず私の姿をジロジロ眺めたものだ。そうして懐手をしたまま・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  9. ・・・ 追分は軽井沢、沓掛とともに浅間根腰の三宿といわれ、いまは焼けてしまったが、ここの油屋は昔の宿場の本陣そのままの姿を残し、堀辰雄氏、室生犀星氏、佐藤春夫氏その他多くの作家が好んでこの油屋へ泊りに来て、ことに堀辰雄氏などは一年中の大半をこ・・・<織田作之助「秋の暈」青空文庫>
  10. ・・・その会話は、オーさんという客が桃子という芸者と泊りたいとお内儀にたのんだので、お内儀が桃子を口説いている会話であって、あんたはここに泊るか、それとも帰るかというのを、「おいやすか、おいにやすか」といい、オーさんは泊りたいと言っているというの・・・<織田作之助「大阪の可能性」青空文庫>
  11. ・・・『そとは大変な降りでござりますぜ、今夜はお泊りなされませ』と武は妙に言いだしました、と申すのは私がこれまで泊ろうとしても武は、もし泊まって事が知れたらまずいからといつも私を宥めて帰しましたので、私も決して泊ったことはなかったのです。・・・<国木田独歩「女難」青空文庫>
  12. ・・・そして今夜はここへ泊りたまえ。まだ話がたくさん残っておる」 僕もその意に従がい、二人して車屋を出た。路の二三丁も歩いたが、桂はその間も愉快に話しながら、国元のことなど聞き、今年のうちに一度故郷に帰りたいなどいっていた。けれども僕は桂の生・・・<国木田独歩「非凡なる凡人」青空文庫>
  13. ・・・読みしより、訛りて郷平となりたるなりという昔の人の考えを宜ない、国神野上も走りに走り越し、先には心づかざりし道の辺に青石の大なる板碑立てるを見出しなどしつ、矢那瀬寄居もまた走り過ぎ、暗くなりて小前田に泊りたり。 十日、宿を立出でて長善寺・・・<幸田露伴「知々夫紀行」青空文庫>
  14. ・・・淋しいだろうと云うので、泊りにきていた親類の佐野さんや吉本さんが、重ね重ねのことなので、強こうに反対した。だが、お前の母は、「この仕事をしている人達は死んでも場所のことなどは云わないものだから、少しも心配要らない。」と云った。 山崎のガ・・・<小林多喜二「母たち」青空文庫>
  15. ・・・「姉さん、私と一緒にいらっしゃい――今夜は小間物屋の二階の方へ泊りに行きましょう」 おげんは点頭いた。 暗い夜が来た。おげんは熊吉より後れて直次の家を出た。遠く青白く流れているような天の川も、星のすがたも、よくはおげんの眼に映ら・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  16. ・・・ 夫のお友達の方から伺ったところに依ると、その女のひとは、夫の以前の勤め先の、神田の雑誌社の二十八歳の女記者で、私が青森に疎開していたあいだに、この家へ泊りに来たりしていたそうで、姙娠とか何とか、まあ、たったそれくらいの事で、革命だの何・・・<太宰治「おさん」青空文庫>
  17. ・・・毎日、毎日、訪問客たちの接待に朝から晩までいそがしく、中には泊り込みの客もあって、遊び歩くひまもなかったし、また、たまにお客の来ない日があっても、そんなときには、家の大掃除をはじめたり、酒屋や米屋へ支払いの残りについて弁明してまわったりして・・・<太宰治「花燭」青空文庫>
  18.  幼少のころ、高知の城下から東に五六里離れた親類の何かの饗宴に招かれ、泊まりがけの訪問に出かけたことが幾度かある。饗宴の興を添えるために来客のだれかれがいろいろの芸尽くしをやった中に、最もわれわれ子供らの興味を引いたものは、・・・<寺田寅彦「映画時代」青空文庫>
  19. ・・・谷中へ移ってからも土曜ごとにはほとんど欠かさず銀座へ泊まりに行った。当時、昔の鉄道馬車はもう電車になっていたような気がするが、「れんが」地域の雰囲気は四年前とあまり変わりはなかったようである。ただ中学生の自分が角帽をかぶり、少年のSちゃんが・・・<寺田寅彦「銀座アルプス」青空文庫>
  20. ・・・などいう温泉宿があって、芸妓をつれて泊りに行くものも尠くなかった。『今戸心中』はその発表せられたころ、世の噂によると、京町二丁目の中米楼にあった情死を材料にしたものだという。しかし中米楼は重に茶屋受の客を迎えていたのに、『今戸心中』の叙・・・<永井荷風「里の今昔」青空文庫>
  21. ・・・ 衛生を重ずるため、出来る限りかかる不潔を避けようためには県知事様でもお泊りになるべきその土地最上等の旅館へ上って大に茶代を奮発せねばならぬ。単に茶代の奮発だけで済む事なら大した苦痛ではないが、一度び奮発すると、そのお礼としてはいざ汽車・・・<永井荷風「夏の町」青空文庫>
  22. ・・・私は昨晩和歌の浦へ泊りましたが、和歌の浦へ行って見ると、さがり松だの権現様だの紀三井寺だのいろいろのものがありますが、その中に東洋第一海抜二百尺と書いたエレヴェーターが宿の裏から小高い石山の巓へ絶えず見物を上げたり下げたりしているのを見まし・・・<夏目漱石「現代日本の開化」青空文庫>
  23. ・・・番頭は当惑したような顔をして、しばらく考えていたが、はなはだ見苦しい所で、一夜泊りのお客様にはお気の毒でございますが、佐野さんのいらしったお座敷なら、どうかいたしましょうと答えた。その口ぶりから察すると、なんでもよほどきたない所らしいので、・・・<夏目漱石「手紙」青空文庫>
  24. ・・・こよいはうちへお泊りるのじゃあろうナア。」「こよいかな。こよいは是非東京へ帰って活動写真を見に行く約束があるから、泊るわけには行かんが。」「そのいにお急ぎるのか。」「そうヨ、今度はちょっと出て来たのだから………とにかくうちの古い家を見て来よ・・・<正岡子規「初夢」青空文庫>
  25. ・・・「事務所へ泊りました。」「そうか。丁度よかった。この人について行ってくれ。玉蜀黍の脱穀をしてるんだ。機械は八時半から動くからな。今からすぐ行くんだ。」農夫長は隣りで脚絆を巻いている顔のまっ赤な農夫を指しました。「承知しました。」・・・<宮沢賢治「耕耘部の時計」青空文庫>
  26. ・・・ みんなは帰る元気もなくなって、平右衛門の所に泊りました。「源の大将」はお顔を半分切られて月光にキリキリ歯を喰いしばっているように見えました。 夜中になってから「とっこべ、とら子」とその沢山の可愛らしい部下とが又出て来て、庭に抛・・・<宮沢賢治「とっこべとら子」青空文庫>
  27. ・・・風呂に入りに来たまま泊り、翌日夜になって、翻訳のしかけがある机の前に戻る。そんな日もあった。そこだけ椅子のあるふき子の居間で暮すのだが、彼等は何とまとまった話がある訳でもなかった。ふき子が緑色の籐椅子の中で余念なく細かい手芸をする、間に、・・・<宮本百合子「明るい海浜」青空文庫>
  28. ・・・どうせ一晩泊りだもん――あっちじゃ伯母さんが来るだろうかねえ」「さあ」「来りゃいいのにね、そうすりゃこの間のことだってあのまんま何てことなくなっちゃっていいんだがね」「来るだろう」 空気枕に頭を押しつけこれ等の会話をききつつ・・・<宮本百合子「一隅」青空文庫>
  29. ・・・それから二三日たって、ようよう泊まりがけに来ている母に繰り言を言って泣くことができるようになった。それから丸二年ほどの間、女房は器械的に立ち働いては、同じように繰り言を言い、同じように泣いているのである。 高札の立った日には、午過ぎに母・・・<森鴎外「最後の一句」青空文庫>
  30. ・・・ 石田はそれから帰掛に隣へ寄って、薄井の爺さんに、下女の若いのが来るから、どうぞお前さんの処の下女を夜だけ泊りに来させて下さいと頼んだ。そして内へ帰って黙っていた。 翌日口入の上さんが来て、お時婆あさんに話をした。年寄に骨を折らせる・・・<森鴎外「鶏」青空文庫>