ど‐よう【土用】例文一覧 14件

  1. ・・・ 白い着物を着るのは土用だい。」「嘘だい。うちのお母さんに訊いて見ろ。白い着物を着るのは夏だい!」 良平はそう云うか云わない内に、ぴしゃり左の横鬢を打たれた。が、打たれたと思った時にはもうまた相手を打ち返していた。「生意気!」・・・<芥川竜之介「百合」青空文庫>
  2. ・・・ひとりその店にて製する餡、乾かず、湿らず、土用の中にても久しきに堪えて、その質を変えず、格別の風味なり。其家のなにがし、遠き昔なりけん、村隣りに尋ぬるものありとて、一日宵のほどふと家を出でしがそのまま帰らず、捜すに処無きに至りて世に亡きもの・・・<泉鏡花「一景話題」青空文庫>
  3. ・・・ それで其朝は何んだか知らねいが、別けて心持のえい朝であった、土用半ばに秋風が立って、もう三回目で土用も明けると云う頃だから、空は鏡のように澄んでる、田のものにも畑のものにも夜露がどっぶりと降りてる、其涼しい気持ったら話になんなっかった・・・<伊藤左千夫「姪子」青空文庫>
  4. ・・・ 僕のからだは、土用休み早々、国府津へ逃げて行った時と同じように衰弱して、考えが少しもまとまらなくなった。そして、僕が残酷なほど滅多に妻子と家とを思い浮べないのは、その実、それが思い浮べられないほどに深く僕の心に喰い込んでいるからだとい・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  5. ・・・そして、こんどの土用丑には子供の虫封じのまじないをここでしてもらいまんねんというのであった。私はただ「亀さん」の亭主がまかり間違っても白いダブルの背広に赤いネクタイ、胸に青いハンカチ、そしてリーゼント型に髪をわけたような男でないことをしきり・・・<織田作之助「大阪発見」青空文庫>
  6. ・・・     二 春の土用から秋の土用にかけて天気のいい日だと、馬禿山から白い煙の幾筋も昇っているのが、ずいぶん遠くからでも眺められる。この時分の山の木には精気が多くて炭をこさえるのに適しているから、炭を焼く人達も忙しいのである・・・<太宰治「魚服記」青空文庫>
  7. ・・・ 自分は浜辺へ出るのに、いつもこの店の前から土堤を下りて行くから熊さんとは毎日のように顔を合せる。土用の日ざしが狭い土堤いっぱいに涼しい松の影をこしらえて飽き足らず、下の蕃藷畑に這いかかろうとする処に大きな丸い捨石があって、熊さんのため・・・<寺田寅彦「嵐」青空文庫>
  8. ・・・自分も母にねだって蚊帳の破れたので捕虫網を作ってもらって、土用の日盛りにも恐れず、これを肩にかけて毎日のように虫捕りに出かけた。蝶蛾や甲虫類のいちばんたくさんに棲んでいる城山の中をあちこちと長い日を暮らした。二の丸三の丸の草原に・・・<寺田寅彦「花物語」青空文庫>
  9. ・・・忘れもしねえ、暑い土用の最中に、餒じい腹かかえて、神田から鉄砲洲まで急ぎの客人を載せって、やれやれと思って棍棒を卸すてえとぐらぐらと目が眩って其処へ打倒れた。帰りはまた聿駄天走りだ。自分の辛いよりか、朝から三時過ぎまでお粥も啜らずに待ってい・・・<徳田秋声「躯」青空文庫>
  10. ・・・ 何処へ行こうかと避暑の行先を思案している中、土用半には早くも秋風が立ち初める。蚊遣の烟になお更薄暗く思われる有明の灯影に、打水の乾かぬ小庭を眺め、隣の二階の三味線を簾越しに聴く心持……東京という町の生活を最も美しくさせるものは夏であろ・・・<永井荷風「夏の町」青空文庫>
  11. ・・・ 山椒の皮を春の午の日の暗夜に剥いて土用を二回かけて乾かしうすでよくつく、その目方一貫匁を天気のいい日にもみじの木を焼いてこしらえた木灰七百匁とまぜる、それを袋に入れて水の中へ手でもみ出すことです。 そうすると、魚はみんな毒をのんで・・・<宮沢賢治「毒もみのすきな署長さん」青空文庫>
  12. ・・・キュリー夫人は土用真盛りの、がらんとしたアパートの部屋でブルターニュの娘たちへ手紙を書いた。「愛するイレーヌ。愛するエーヴ。事態がますます悪化しそうです。私たちは今か今かと動員令を待ち受けています。」 しかし戦争にならなければそちら・・・<宮本百合子「キュリー夫人」青空文庫>
  13. ・・・ ポチが潜るのも面倒がる程、土用の間に裏の夏草は高くなった。コスモスの葉も見える。あの根方の茂みには蛇も昼寝するであろう。 蓬々とした青草の面に、乾いた、何処やら白いような光線が反射し始めた。七月に吹いていたのとは違った風回りで、風・・・<宮本百合子「蓮花図」青空文庫>
  14. ・・・ 松の新緑が出そろってしまうのは、もう土用も遠くない七月の初めであったと思う。やがて一、二週間もすると、この新緑も落ちついた色に変わってしまう。柳の芽が出始めて以来、三、四個月の間絶えず次から次へと動いていた東山の緑色が、ここで一時静止・・・<和辻哲郎「京の四季」青空文庫>