トランク【trunk】例文一覧 24件

  1. ・・・車の上には慎太郎が、高等学校の夏服に白い筋の制帽をかぶったまま、膝に挟んだトランクを骨太な両手に抑えていた。「やあ。」 兄は眉一つ動かさずに、洋一の顔を見下した。「お母さんはどうした?」 洋一は兄を見上ながら、体中の血が生き・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  2. ・・・ このトランクは……?」「あッ、あの娘さんのや」 と、赤井もびっくりしたような声を出した。「渡すのを忘れたんだ。君、あの人の名前知ってる?」「いや、知らん。あんたが知らんもん、俺が知る道理がないやろ」「それもそうだな。そ・・・<織田作之助「昨日・今日・明日」青空文庫>
  3. ・・・ 三味線をいれた小型のトランク提げて電車で指定の場所へ行くと、すぐ膳部の運びから燗の世話に掛る。三、四十人の客にヤトナ三人で一通り酌をして廻るだけでも大変なのに、あとがえらかった。おきまりの会費で存分愉しむ肚の不粋な客を相手に、息のつく・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  4. ・・・と、私は床の間の本箱の側に飾られた黒革のトランクや、革具のついた柳行李や、籐の籠などに眼を遣りながら、言った。「まあね。がこれでまだ、発つ朝に塩瀬へでも寄って生菓子を少し仕入れて行かなくちゃ……」 壁の衣紋竹には、紫紺がかった派手な・・・<葛西善蔵「遁走」青空文庫>
  5. ・・・気を取り直して、家へはいる。トランクひとつさげていない自身の姿を、やりきれなく思う。家の中は、小暗く、しんとしている。あによめが、いちばんさきに私の姿を見つけるにちがいない。私は、すでに針のむしろの思いである。私は、阿呆のような無表情にちが・・・<太宰治「花燭」青空文庫>
  6. ・・・タンス、鏡台、トランク、下駄箱の上には、可憐に小さい靴が三足、つまりその押入れこそ、鴉声のシンデレラ姫の、秘密の楽屋であったわけである。 すぐにまた、ぴしゃりと押入れをしめて、キヌ子は、田島から少し離れて居汚く坐り、「おしゃれなんか・・・<太宰治「グッド・バイ」青空文庫>
  7. ・・・ 昼食をすませて出発の時、「トランクは持って行かないほうがよい、ね、そうでしょう?」と北さんは、ちょっと強い口調で私に言った。「兄さんから、まだ、ゆるしが出ているわけでもないのに、トランクなどさげて、――」「わかりました。」・・・<太宰治「故郷」青空文庫>
  8. ・・・手にトランク。バスケットも、ちらほら見える。ああ、信玄袋というものもこの世にまだ在った。故郷を追われて来たというのか。 青年たちは、なかなかおしゃれである。そうして例外なく緊張にわくわくしている。可哀想だ。無智だ。親爺と喧嘩して飛び出し・・・<太宰治「座興に非ず」青空文庫>
  9. ・・・見ると、兄さんは、ちゃんと背広を着て、トランクを携帯して居ります。「心あたりがございますの?」「ええ、わかって居ります。あいつら二人をぶん殴って、それで一緒にさせるのですね。」 兄さんはそう言って屈託なく笑って帰りましたけれど、・・・<太宰治「誰も知らぬ」青空文庫>
  10. ・・・いまの私の身分には、これ位の待遇が、相応しているのかも知れない、と無理矢理、自分に思い込ませて、トランクの底からペン、インク、原稿用紙などを取り出した。 十年ぶりの余裕は、このような結果であった。けれども、この悲しさも、私の宿命の中に規・・・<太宰治「東京八景」青空文庫>
  11. ・・・杉浦は実に能弁の人であった。トランクなどをさげて、夜おそく勝治の家の玄関に現れ、「どうも、また、僕の身辺が危険になって来たようだ。誰かに尾行されているような気もするから、君、ちょっと、家のまわりを探ってみて来てくれないか。」と声をひそめて言・・・<太宰治「花火」青空文庫>
  12. ・・・「小型のトランクひとつ。二時にもう五分しかないという、危いところで、ふと、うしろを振りかえる。」「女は笑いながら立っている。」「いや、笑っていない。まじめな顔をしている。おそくなりまして、と小声でわびる。」「君のトランクを、・・・<太宰治「雌に就いて」青空文庫>
  13. ・・・あるいは室内のトランクが汽車の網棚のトランクに移り変わるような種類である。ところが、連句ではこれに似たことがしばしば行なわれる。たとえば「僧やや寒く寺に帰るか」「猿引きの猿と世を経る秋の月」では僧の姿が猿引きの猿にオーバーラップ的に推移する・・・<寺田寅彦「映画芸術」青空文庫>
  14. ・・・我輩のトランクと書籍は今朝三時頃主人が新宅へ運んでしまったので、残るのは身体ばかりだ。何となく寂漠の感がある。夜の八時頃にコツコツ戸を叩いて這入って来た――例のペンが――今日差配人が四度来たという注進だ。それから何かいうが少しも解しかねる。・・・<夏目漱石「倫敦消息」青空文庫>
  15. ・・・私はそのあとからひとり空虚のトランクを持って歩きました。一時間半ばかり行ったとき、私たちは海に沿った一つの峠の頂上に来ました。「もうヒルテイの村が見える筈です。」団長の地学博士が私の前に来て、地図を見ながら英語で云いました。私たちは向う・・・<宮沢賢治「ビジテリアン大祭」青空文庫>
  16. ・・・ 日本の軍人が、トランクや荷物の底に、価でない価で「買った」ジャワ更紗を日本に流行させたことを、わたしたちは決して忘れないだろうと思う。 インド更紗の美しさも世界にしられている。この立派な技術をもち美しい芸術的な生産をするインド婦人・・・<宮本百合子「衣服と婦人の生活」青空文庫>
  17. ・・・ この間の邦語訳の椿姫の歌うなかに、この受取りを御覧下さいということばがあったが、それが日本語で歌われるといかにも現実感がありましたが、昨今ではそのうたをうたうプリマドンナの腕も、ステイジ用のトランク運びで逞しくなるとは面白い世の中・・・<宮本百合子「裏毛皮は無し」青空文庫>
  18. ・・・ 勿論我々のトランクの中に そのデリケートにして白い東方の食料品は入れられてない。自分は青葱入のオムレツをたべて恢復した。零下十五度のモスクで牝鶏は卵を生まない。――から木箱に入った卵が来る。 一年目に又病って、今思い出すものは日本・・・<宮本百合子「一九二九年一月――二月」青空文庫>
  19. ・・・何しろそれはイギリスから父が送ってくれた大小三つの赤トランクであったから。金属製で外側はイギリス好みの濃い赤でぬられているところへ、茶色エナメルでがんじょうな〆皮と金ピカの留金とがついている。それはただ平ったい上に描かれているのではなかった・・・<宮本百合子「田端の汽車そのほか」青空文庫>
  20. ・・・ 午前中本箱や夜具、トランク類を、石井の荷物自動車にのせ、英男が面白がって後につかまって送って行った。大工、善さん、おまつ等がAに手伝い、略、片がついたと思う頃、自分は俥で出かけた。 始めて出来た自分等の家に行くのだけれども、母上に・・・<宮本百合子「小さき家の生活」青空文庫>
  21. ・・・ 非常に砂壁の落ちる棚の上だの部屋の周囲にはトランクから出した許りで入れるものもない沢山の本が只じかに並べてあって、鳶色をした薄い同じ本が沢山荒繩にくくられてころがって在ったりした。 その鳶色の本を今見れば彼が非常に苦心して出版した・・・<宮本百合子「追憶」青空文庫>
  22. ・・・ 二人の男の子と一人の女の子とが田端の汽車を見に、エナメル塗りのトランク型弁当箱をもって、誰だったか大人の女のひとにつれられて柵のところへ行った時代と、やっぱり大人の女と一緒ではあったが道灌山のなかで鬼ごっこなどした時代とは、同じでなか・・・<宮本百合子「道灌山」青空文庫>
  23. ・・・同じ東北本線を、重吉は四ヵ月前、北海道弁の二人の看守の間にはさまれ、手錠をかけられ、青い作業服、地下足袋に、自分のトランクを背負って北へ向って行った。空腹で、看守がくれる煎大豆をたべて、水をのんだための下痢に苦しみながら手錠ははずされずに行・・・<宮本百合子「風知草」青空文庫>
  24. ・・・ スムールイの黒トランクの中には『ホーマー教訓集』『砲兵雑記』『セデンガリ卿の書翰集』『毒虫・南京虫とその駆除法、附・此が携帯者の扱い方』などという本があった。始めの方がちぎれて無くなってしまっている本。終りがない本。そういう本がつまっ・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの伝記」青空文庫>