とり‐なおし〔‐なほし〕【取(り)直し】例文一覧 30件

  1. ・・・静まり返っていた兵卒たちは、この音に元気を取り直したのか、そこここから拍手を送り出した。穂積中佐もほっとしながら、彼の周囲を眺め廻した。周囲にい並んだ将校たちは、いずれも幾分か気兼そうに、舞台を見たり見なかったりしている、――その中にたった・・・<芥川竜之介「将軍」青空文庫>
  2. ・・・若い者は一寸誘惑を感じたが気を取直して、「困るでねえか、そうした事店頭でおっ広げて」というと、「困ったら積荷こと探して来う」と仁右衛門は取り合わなかった。 昼になっても荷の回送はなかった。仁右衛門は自分からいい出しながら・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  3. ・・・ 罪人は気を取り直した様子で、広間に這入って来た。一刹那の間、一種の、何物をか期待し、何物をか捜索するような目なざしをして、名誉職共の顔を見渡した。そしてフレンチは、その目が自分の目と出逢った時に、この男の小さい目の中に、ある特殊の物が・・・<著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外「罪人」青空文庫>
  4. ・・・待て、人の妻と逢曳を、と心付いて、首を低れると、再び真暗になった時、更に、しかし、身はまだ清らかであると、気を取直して改めて、青く燃ゆる服の飾を嬉しそうに見た。そして立花は伊勢は横幅の渾沌として広い国だと思った。宵の内通った山田から相の山、・・・<泉鏡花「伊勢之巻」青空文庫>
  5. ・・・お光さんもさすがに心を取り直して、「まァかわいらしいこと、やっぱりこんなかわいい子の親はしあわせですわ」「よいあんばに小雨になった、さァ出掛けましょう」 雨は海上はるかに去って、霧のような煙のような水蒸気が弱い日の光に、ぼっと白・・・<伊藤左千夫「紅黄録」青空文庫>
  6. ・・・今度は民子が心を取り直したらしく鮮かな声で、「政夫さん、もう半分道来ましてしょうか。大長柵へは一里に遠いッて云いましたねイ」「そうです、一里半には近いそうだが、もう半分の余来ましたろうよ。少し休みましょうか」「わたし休まなくとも・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  7. ・・・またあの奴民子が居ないから考え込んで居やがると思われるも口惜しく、ようやく心を取直し、母の枕元へいって夜遅くまで学校の話をして聞かせた。 翌くる日は九時頃にようやく起きた。母は未だ寝ている。台所へ出て見ると外の者は皆また山へ往ったとかで・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  8. ・・・「それもこれもお前が心一つを取り直しさえすれば、おまえの運はもちろん、家の面目も潰さずに済むというものだ。省作とてお前がなければまたえい所へも養子に行けよう。万方都合よくなるではないか。ここをな、おとよとくと聞き別けてくれ、理の解らぬお・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  9. ・・・しかし彼は幾度も心を取り直して生活に向かっていった。が、彼の思索や行為はいつの間にか佯りの響をたてはじめ、やがてその滑らかさを失って凝固した。と、彼の前には、そういった風景が現われるのだった。 何人もの人間がある徴候をあらわしある経過を・・・<梶井基次郎「冬の日」青空文庫>
  10. ・・・そのたびに気を取り直して、また私は子供を護ろうとする心に帰って行った。 安い思いもなしに、移り行く世相をながめながら、ひとりでじっと子供を養って来た心地はなかった。しかし子供はそんな私に頓着していなかったように見える。 七年も見・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  11. ・・・気を取り直して、家へはいる。トランクひとつさげていない自身の姿を、やりきれなく思う。家の中は、小暗く、しんとしている。あによめが、いちばんさきに私の姿を見つけるにちがいない。私は、すでに針のむしろの思いである。私は、阿呆のような無表情にちが・・・<太宰治「花燭」青空文庫>
  12. ・・・(全く自信を取りかえしたものの如く、卓上、山と積まれたる水菓子、バナナ一本を取りあげるより早く頬ばり、ハンケチ出して指先を拭い口を拭い一瞬苦悶、はっと気を取り直したる態私は、このバナナを食うたびごとに思い出す。三年まえ、私は中村地平という少・・・<太宰治「喝采」青空文庫>
  13. ・・・私は気を取り直し、「とにかく立たないか。君に、言いたい事があるんだ。」 胸に、或る計画が浮かんだ。「怒ったのかね。仕様がねえなあ。弱い者いじめを始めるんじゃないだろうね。」 言う事がいちいち不愉快である。「僕のほうが、弱・・・<太宰治「乞食学生」青空文庫>
  14. ・・・幸吉さんも、少しひるんで、そう小声で告白して、それから、ちょっと考えて気を取り直し、「いいんだ。かまわない。ここでなくちゃいけないんだ。さ、はいりましょう。」 何か、わけがあるらしかった。「大丈夫かなあ。」私は、幸吉にも、あまり金を・・・<太宰治「新樹の言葉」青空文庫>
  15. ・・・へんによそよそしい口調でそう言って鉛筆を取り直し、またスケッチにふけりはじめた。私はそのうしろに立ったままで暫くもじもじしていたが、やがて決心をつけてベンチへ腰をおろし、佐竹のスケッチブックをそっと覗いてみた。佐竹はすぐに察知したらしく、・・・<太宰治「ダス・ゲマイネ」青空文庫>
  16. ・・・もすっかり灰にしてしまったとかで、御所へ参りましても、まるでもう呆けたようになって、ただ、だらだらと涙を流すばかりで、私はその様を見て、笑いを制する事が出来ず、ついクスクスと笑ってしまって、はっと気を取り直して御奥の将軍家のお顔を伺い見まし・・・<太宰治「鉄面皮」青空文庫>
  17. ・・・気を取り直して、見ると、運転台から降りたT君は、群集の一ばんうしろに立っている私を、いち早く見つけた様子で挙手の礼をしているのである。私は、それでも一瞬疑って、あたりを見廻し躊躇したが、やはり私に礼をしているのに違いなかった。私は決意して群・・・<太宰治「東京八景」青空文庫>
  18. ・・・私は、気を取り直して、「ついさっき。あなたが眠っていらっしゃる間に。あなた、笑いながら眠っていたわ。あたし、こっそりあなたの枕もとに置いといたの。知らなかったでしょう?」「ああ、知らなかった。」妹は、夕闇の迫った薄暗い部屋の中で、白・・・<太宰治「葉桜と魔笛」青空文庫>
  19. ・・・私は気を取り直して言いました。「そうですか。」軽く答えました。あまり私に関心を持っていない様子です。「どうして私の事をご存じになったのでしょう。それを伺いにまいりましたの。」私は、そんな事を言って、体裁を取りつくろってみました。・・・<太宰治「恥」青空文庫>
  20. ・・・一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、メロスは幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰・・・<太宰治「走れメロス」青空文庫>
  21. ・・・野中教師、はっと気を取り直して呼びとめる。 お待ちなさい、菊代さん。どこへ行くのです。菊代、戸口のところに立ち上り、野中教師のほうにくるりと向き直る。口笛は、なお聞えている。お友だちのところへ。 それ・・・<太宰治「春の枯葉」青空文庫>
  22. ・・・静かにステッキを垂直に取直しておいて、そろそろ回転させてみた。はじめはいっこうに気づかないようであるが九十度以上も回転すると何かしら異常を感じるらしく、つかまっている足を動かしてからだをねじ向ける。しかしそれはわずかに十度か二十度ぐらい回転・・・<寺田寅彦「三斜晶系」青空文庫>
  23. ・・・水平に持って歩いていた網を前下がりに取り直し、少し中腰になったまま小刻みの駆け足で走り出した。直径百メートルもあるかと思う円周の上を走って行くその円の中心と思う辺りを注意して見るとなるほどそこに一羽の鳥が蹲っている。そうしてじっと蹲ったまま・・・<寺田寅彦「鴫突き」青空文庫>
  24. ・・・差しつくる蝋燭の火のふき込められしが、取り直して今度は戸口に立てる乙女の方にまたたく。乙女の顔は翳せる赤き袖の影に隠れている。面映きは灯火のみならず。「この深き夜を……迷えるか」と男は驚きの舌を途切れ途切れに動かす。「知らぬ路にこそ・・・<夏目漱石「薤露行」青空文庫>
  25. ・・・文学において悲観した余はこの図譜を得たために多少心細い気分を取り直した。図譜中にある建築彫刻絵画ともに、あるものは公平に評したら下らないだろうと思う。あるものは『源氏物語』や近松や西鶴以下かも知れない。しかしその優れたものになると決して文学・・・<夏目漱石「『東洋美術図譜』」青空文庫>
  26. ・・・とのさまがえるは、よろこんで、にこにこにこにこ笑って、棒を取り直し、片っぱしからあまがえるの緑色の頭をポンポンポンポンたたきつけました。さあ、大へん、みんな、「あ痛っ、あ痛っ。誰だい。」なんて云いながら目をさまして、しばらくきょろきょろ・・・<宮沢賢治「カイロ団長」青空文庫>
  27. ・・・ シグナルは、やっと元気を取り直しました。そしてどうせ風のために何を言っても同じことなのをいいことにして、「ばか、僕はシグナレスさんと結婚して幸福になって、それからお前にチョークのお嫁さんをくれてやるよ」と、こうまじめな顔で言ったの・・・<宮沢賢治「シグナルとシグナレス」青空文庫>
  28. ・・・ 梟の坊さんはしばらくゴホゴホ咳嗽をしていましたが、やっと心を取り直して、又講義をつづけました。「みなの衆、まず試しに、自分がみそさざいにでもなったと考えてご覧じ。な。天道さまが、東の空へ金色の矢を射なさるじゃ、林樹は青く枝は揺るる・・・<宮沢賢治「二十六夜」青空文庫>
  29. ・・・長老はやっと気を取り直したらしく、大きく手を三度ふって、何か叫びかけましたけれども、今度だってやっぱりその通り、崩れるように泣いてしまったのです。祭司次長、ウィリアム・タッピングという人で、爪哇の宣教師なそうですが、せいの高い立派なじいさん・・・<宮沢賢治「ビジテリアン大祭」青空文庫>
  30. ・・・ようよう気を取り直して、一枝二枝苅るうちに、厨子王は指を傷めた。そこでまた落ち葉の上にすわって、山でさえこんなに寒い、浜辺に行った姉さまは、さぞ潮風が寒かろうと、ひとり涙をこぼしていた。 日がよほど昇ってから、柴を背負って麓へ降りる、ほ・・・<森鴎外「山椒大夫」青空文庫>