とり‐ま・く【取(り)巻く】例文一覧 9件

  1. ・・・ ざっと、かくの次第であった処――好事魔多しというではなけれど、右の溌猴は、心さわがしく、性急だから、人さきに会に出掛けて、ひとつ蛇の目を取巻くのに、度かさなるに従って、自然とおなじ顔が集るが、星座のこの分野に当っては、すなわち夜這星が・・・<泉鏡花「燈明之巻」青空文庫>
  2. ・・・ しかも敢てこのような文章を書くのは、老大家やその亜流の作品を罵倒する目的ではなく、むしろ、それらの作品を取り巻く文壇の輿論、即ち彼等の文学を最高の権威としている定説が根強くはびこっている限り、日本の文壇はいわゆる襟を正して読む素直な作・・・<織田作之助「可能性の文学」青空文庫>
  3. ・・・と胴太き声の、蒼く黄色く肥ったる大きなる立派な顔の持主を先に、どやどやと人々入来りて木沢を取巻くように坐る。臙脂屋早く身退りし、丹下は其人を仰ぎ見る、其眼を圧するが如くに見て、「丹下、けしからぬぞ、若い若い。あやまれあやまれ。後輩の・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  4. ・・・ 焦け爛れたる高櫓の、機熟してか、吹く風に逆いてしばらくはと共に傾くと見えしが、奈落までも落ち入らでやはと、三分二を岩に残して、倒しまに崩れかかる。取り巻くの一度にパッと天地を燬く時、の上に火の如き髪を振り乱して佇む女がある。「クララ!・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  5. ・・・もしも彼らの間に恋の花が咲いたなら、間もなく彼らを取り巻く花と空との明るさはその綿々とした異曲のために曇るであろう。だが、この空と花との美しき情趣の中で、華やかな女のさざめきが微笑のように迫るなら、愛慾に落ちないものは石であった。このためこ・・・<横光利一「花園の思想」青空文庫>
  6. ・・・ 紅葉のなくなったあとの十二月から、新芽の出始める三月末までの間が、京都を取り巻く山々の静止する時期である。新緑から紅葉まで絶えず色の動きを見ていると、この静止が何とも言えず安らかで気持ちがよい。緑葉としては主として松の樹、あとは椎や樫・・・<和辻哲郎「京の四季」青空文庫>
  7. ・・・しかも彼は少数の物象にとどまることをしないで、彼を取り巻く無数の物象に、多情と思えるほどな愛情をふり撒く。『地下一尺集』の諸篇はこの多情な、自然及び芸術との「情事」の輝かしい記録である。伊豆の海岸。江戸。京、大阪。長崎。奈良。北京。徐州。洛・・・<和辻哲郎「享楽人」青空文庫>
  8. ・・・人間を取り巻く植物、家、道具、衣服等々の細かな形態が、深い人生の表現としての巨大な意義を、突如として我々に示してくれる。風物記はそのままに人間性の表現の解釈となっている。特に人間の風土性に関心を持つ自分にとっては、これらの風物記は汲み尽くせ・・・<和辻哲郎「『青丘雑記』を読む」青空文庫>
  9. ・・・食いしばった唇を取り巻く荘厳な筋肉の波。それは人類の悩みを一身に担いおおせた悲痛な顔である。そして額の上には永遠にしぼむことのない月桂樹の冠が誇らしくこびりついている。 この顔こそは我らの生の理想である。四 苦患を堪え忍・・・<和辻哲郎「ベエトォフェンの面」青空文庫>