とん‐だ例文一覧 30件

  1. ・・・「いや、これは、とんだ御足労を願って恐縮でございますな。」 忠左衛門は、伝右衛門の姿を見ると、良雄に代って、微笑しながらこう云った。伝右衛門の素朴で、真率な性格は、お預けになって以来、夙に彼と彼等との間を、故旧のような温情でつないで・・・<芥川竜之介「或日の大石内蔵助」青空文庫>
  2. ・・・いやはや、とんだ時が、満願の夜に当ったものでございます。「その上、相手は、名を訊かれても、名を申しませぬ。所を訊かれても、所を申しませぬ。ただ、云う事を聞けと云うばかりで、坂下の路を北へ北へ、抱きすくめたまま、引きずるようにして、つれて・・・<芥川竜之介「運」青空文庫>
  3. ・・・……私は目を瞑った、ほとんだ気が狂ったのだとお察しを願いたい。 為業は狂人です、狂人は御覧のごとく、浅間しい人間の区々たる一個の私です。 が、鍵は宇宙が奪いました、これは永遠に捜せますまい。発見せますまい、決して帰らない、戻りますま・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  4. ・・・「はて、勿体もねえ、とんだことを言うなっす。」 と両つ提の――もうこの頃では、山の爺が喫む煙草がバットで差支えないのだけれど、事実を報道する――根附の処を、独鈷のように振りながら、煙管を手弄りつつ、ぶらりと降りたが、股引の足拵えだし・・・<泉鏡花「燈明之巻」青空文庫>
  5. ・・・「お膳にもつけて差し上げましたが、これを頭から、その脳味噌をするりとな、ひと噛りにめしあがりますのが、おいしいんでございまして、ええとんだ田舎流儀ではございますがな。」「お料理番さん……私は決して、料理をとやこう言うたのではないので・・・<泉鏡花「眉かくしの霊」青空文庫>
  6. ・・・「そりゃ何しろとんだ事だ、私は武者修行じゃないのだから、妖怪を退治るという腕節はないかわりに、幸い臆病でないだけは、御用に立って、可いとも! 望みなら一晩看病をして上げよう。ともかくも今のその話を聞いても、その病人を傍へ寝かしても、どう・・・<泉鏡花「湯女の魂」青空文庫>
  7. ・・・満蔵はとんだことを言い出して困ったと思うような顔つきで、「昨日の稲刈りでおとよさアは、ないしょで省作さアのスガイ一把すけた。おれちゃんと見たもの。おとよさアは省作さアのわき離れねいだもの。惚れてるに違いねい」 おはまは目をぎろっとし・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  8. ・・・「おッ母さん、茶でも入れべい。とんだことした、菓子買ってくればよかった」「お前、茶どころではないよ」と言いながら母は省作の近くに坐る。「お前まあよく話して聞かせろま、どうやって出てきたのさ。お前にこにこ笑いなどして、ほんとに・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  9. ・・・「先生、とんだことになりまして、なア」と、あくまで事情を知らないふりで、「あなたさまに御心配かけては済みませんけれど――」「なアに、こうなったら、私が引き受けてやりまさア」「済まないこッてございますけれど――吉弥が悪いのだ、向う・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  10. ・・・それもまったくかもめの言葉を信じて、とんだめにあった復讐を他に向かってしたのでございます。 ある日、からすは田の上や、圃の上を飛んで田舎路をきかかりますと、並木に牛がつながれていました。その体は黒と白の斑でありました。そして、脊に重い荷・・・<小川未明「馬を殺したからす」青空文庫>
  11. ・・・「ああ、ほんとうに、とんだことになったもんだ。いくら金もうけになるといって、自分の命がなくなってしまって、なんになろう。もう、みんなこの宝石はいらない。だれか自分を助けてくれたら、どんなにありがたいだろう。」と、宝石商は、つくづくと思い・・・<小川未明「宝石商」青空文庫>
  12. ・・・きけばお困りになって、商売道具をお売りなさるとか、とんだことです。私は、ここに金を置いてゆきますから、このつぎきますまでに、そんなかわいそうなくまでない、もっと恐ろしい大ぐまをしとめて、きもをとっておいてください。」といって、金を渡してゆき・・・<小川未明「猟師と薬屋の話」青空文庫>
  13. ・・・ 男はこの時気のついたように徳利を揮って見て、「ははは、とんだ滅入った話になって、酒も何も冷たくなってしまった。お光さん、ちっともお前やらねえじゃねえか、遠慮をしてねえでセッセと馬食ついてくれねえじゃいけねえ」と言いながら、手を叩いて女・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  14. ・・・ 奥さん、とんだ、おかるだね」 私たちは、声を合せて笑いました。 その夜、十時すぎ、私は中野の店をおいとまして、坊やを背負い、小金井の私たちの家にかえりました。やはり夫は帰って来ていませんでしたが、しかし私は、平気でした。あすまた、・・・<太宰治「ヴィヨンの妻」青空文庫>
  15. ・・・ ――どうも、とんだ災難でございましたね。(と検事は芸術家に椅子を薦奥さんのおっしゃる事は、ちっとも筋道がとおりませんので、私ども困って居ります。一体、どういう原因に拠る決闘だか、あなたは、ご存じなんですね。 ――存じません。 ・・・<太宰治「女の決闘」青空文庫>
  16. ・・・以後、決して他でお噂申しませぬゆえ、此のたびに限り、御寛恕ください。とんだところで大失敗いたしました。さて、お言いつけの原稿用紙、今月はじめ五百枚を、おとどけ申しましたばかりのところ、また、五百枚の御註文、一驚つかまつりました。千枚、昨夜お・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  17. ・・・「いや、その声は泣いてる声だ。とんだ色男さ。」 闇商売の手伝いをして、道徳的も無いものだが、その文士の指摘したように、田島という男は、多情のくせに、また女にへんに律儀な一面も持っていて、女たちは、それ故、少しも心配せずに田島に深くた・・・<太宰治「グッド・バイ」青空文庫>
  18. ・・・という長編を読み、とんだ時間つぶしをしたと愚痴を言っていたのを、私は幼い時に聞いて覚えている。 しかし、その家系には、複雑な暗いところは一つも無かった。財産争いなどという事は無かった。要するに誰も、醜態を演じなかった。津軽地方で最も上品・・・<太宰治「苦悩の年鑑」青空文庫>
  19. ・・・私は驚いて「どうもとんだ粗相をしました」と云うと、主人は、「いや、どう致しまして、一体この置き所も悪いものですから」と云った。そして、「このつれならまだいくらでもありますから、どうぞいいのを御持ち下さい」という。 一体私がこの壷を買う事・・・<寺田寅彦「ある日の経験」青空文庫>
  20. ・・・両人とも両手が塞がっている。とんだ道行だ。角まで出て鉄道馬車に乗る。ケニングトンまで二銭宛だ。レデーは私が払っておきますといって黒い皮の蟇口から一ペネー出して切符売に渡した。乗合は少ない。向側に派出ななりをしている若い女が乗っている。すると・・・<夏目漱石「倫敦消息」青空文庫>
  21. ・・・ 話がついとんだところへ外れてしまいましたから、再び元へ引き返して筋の立つように云いますと、つまりこうなるのです。 あなたがたは立派な学校に入って、立派な先生から始終指導を受けていらっしゃる、またその方々の専門的もしくは一般的の講義・・・<夏目漱石「私の個人主義」青空文庫>
  22. ・・・なめくじさん。とんだことになりましたね。」 なめくじが泣きそうになって、「蛙さん。さよ……。」と云ったときもう舌がとけました。雨蛙はひどく笑いながら「さよならと云いたかったのでしょう。本当にさよならさよなら。暗い細路を通って向う・・・<宮沢賢治「蜘蛛となめくじと狸」青空文庫>
  23. ・・・ ねずみ捕りは、とんだ疑いを受けたので、一日ぷんぷんおこっていました。夜になりました。ツェねずみが出て来て、さも大儀らしく言いました。「あああ、毎日ここまでやって来るのも、並みたいていのこっちゃない。それにごちそうといったら、せいぜ・・・<宮沢賢治「ツェねずみ」青空文庫>
  24. ・・・さて今度はとんだ災難で定めしびっくりなさったでしょう。」 チュンセ童子が申しました。「これはお語誠に恐れ入ります。私共はもう天上にも帰れませんしできます事ならこちらで何なりみなさまのお役に立ちたいと存じます。」 王が云いました。・・・<宮沢賢治「双子の星」青空文庫>
  25. ・・・「これはどうもとんだ失礼をいたしました。あなたのおなりがあんまりせがれそっくりなもんですから。」「いいえ。どう致しまして。私は今度はじめてムムネの市に出る処です。」「まあ、そうでしたか。うちのせがれも丁度あなたと同じ年ころでした・・・<宮沢賢治「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」青空文庫>
  26. ・・・精女 マア、――何と云う事でございましたろう、とんだ失礼を、――御ゆるし下さいませ。しとやかなおちついた様子で云う。そしてそのまんま行きすぎ様とする。第二の精霊 マア、一寸まって下され。今もお主の噂をして居ったのじゃ・・・<宮本百合子「葦笛(一幕)」青空文庫>
  27. ・・・「それがね、あの河崎屋のじいさま、ほんにいやなおやじだよ、けさ吉さに、もうけんかはやめたらよかッぺ、隣の安田でも馬鹿だちゅうて笑ってるなんぞといいましたんだって。とんだ恨でも買ったらなじょにしてくれるんだか。――今晩だけお邪魔でもとめて・・・<宮本百合子「田舎風なヒューモレスク」青空文庫>
  28. ・・・ けれども、しずかに考えてみると、この好き、きらいの感情は、よほど吟味してかからないと、とんだ私たちの不幸であると思います。 共産党が、戦争を間違ったことであると主張したとき、戦争気分に煽られた人々は、たしかにその意見を、きらいだ、・・・<宮本百合子「幸福のために」青空文庫>
  29. ・・・ 芸術や恋愛が、階級性ぬきのどこやら超現実的なもののように感じられているとしたら、とんだ間違いです。 一人の女が小ブルジョア的な人道主義、偸安主義の生活を何かの必然的動機ですて、プロレタリア解放のために一つの役割をもって生活するよう・・・<宮本百合子「ゴルフ・パンツははいていまい」青空文庫>
  30. ・・・私ははらはらしてどうするかと見ていると、「これはまア、とんだ失礼をいたしまして、」 と、伯母は、ただ一寸雑巾で前を隠したまま、鄭重なお辞儀をしたきり、少しも悪びれた様子を示さなかった。またこの伯母は、主人がたまに帰って来てもがみがみ・・・<横光利一「洋灯」青空文庫>