トンネル【tunnel】例文一覧 25件

  1. ・・・もし多少の前借でも出来れば、―― 彼はトンネルからトンネルへはいる車中の明暗を見上げたなり、いかに多少の前借の享楽を与えるかを想像した。あらゆる芸術家の享楽は自己発展の機会である。自己発展の機会を捉えることは人天に恥ずる振舞ではない。こ・・・<芥川竜之介「十円札」青空文庫>
  2. ・・・ 山科トンネルを過ぎると、京都であった。そのトンネルの長さも、白崎にはあっという間に過ぎてしまう短かさであった。 汽車の中は、依然として混雑を極めていた。彼女はやはり窓から降りなければならなかった。「大丈夫ですか。降りる方がむつ・・・<織田作之助「昨日・今日・明日」青空文庫>
  3. ・・・東京から地方へのがれ出るには、関西方面行の汽車は箱根のトンネルがこわれてつうじないので、東京湾から船で清水港へわたり、そこから汽車に乗るのです。東北その他へ出る汽車には、みんながおしおしにつめかけて、機関車のぐるりや、箱車の屋根の上へまでぎ・・・<鈴木三重吉「大震火災記」青空文庫>
  4. ・・・頭を挙げて見ると、玉川上水は深くゆるゆると流れて、両岸の桜は、もう葉桜になっていて真青に茂り合い、青い枝葉が両側から覆いかぶさり、青葉のトンネルのようである。ひっそりしている。ああ、こんな小説が書きたい。こんな作品がいいのだ。なんの作意も無・・・<太宰治「乞食学生」青空文庫>
  5. ・・・玄関からまっすぐに長い廊下が通じていて、廊下の板は、お寺の床板みたいに黒く冷え冷えと光って、その廊下の尽きるところ、トンネルの向う側のように青いスポット・ライトを受けて、ぱっと庭園のその大滝が望見される。葉桜のころで、光り輝く青葉の陰で、ど・・・<太宰治「デカダン抗議」青空文庫>
  6. ・・・すぐちかくのトンネルの入口にも「天下第一」という大文字が彫り込まれていて、安達謙蔵、と署名されてある。この辺のながめは、天下第一である、という意味なのであろう。ここへ茶店を建てるときにも、ずいぶん烈しい競争があったと聞いている。東京からの遊・・・<太宰治「富士に就いて」青空文庫>
  7. ・・・ トンネルを出て、電車の速力がやや緩くなったころから、かれはしきりに首を停車場の待合所の方に注いでいたが、ふと見馴れたリボンの色を見得たとみえて、その顔は晴れ晴れしく輝いて胸は躍った。四ツ谷からお茶の水の高等女学校に通う十八歳くらいの少・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  8. ・・・その層の一番どん底を潜って喘ぎ喘ぎ北進する汽車が横川駅を通過して碓氷峠の第一トンネルにかかるころには、もうこの異常高温層の表面近く浮かみ上がって、乗客はそろそろ海抜五百メートルの空気を皮膚に鼻にまた唇に感じはじめる。そうして頂上の峠の海抜九・・・<寺田寅彦「浅間山麓より」青空文庫>
  9.  峰の茶屋から第一の鳥居をくぐってしばらくこんもりした落葉樹林のトンネルを登って行くと、やがて急に樹木がなくなって、天地が明るくなる。そうして右をふり仰ぐと突兀たる小浅間の熔岩塊が今にも頭上にくずれ落ちそうな絶壁をなしてそび・・・<寺田寅彦「小浅間」青空文庫>
  10. ・・・しばらくは山がかった地方のトンネルをいくつも抜ける。至るところの新緑と赤瓦の家がいかにも美しい。高い崖の上の家に藤棚らしいものが咲き乱れているのもあった。やがてロンバルディの平原へ出る。桑畑かと思うものがあり、また麦畑もあった。牧場のような・・・<寺田寅彦「旅日記から(明治四十二年)」青空文庫>
  11. ・・・ 十年来むし込んでおいた和本を取り出してみたら全部が虫のコロニーとなって無数のトンネルが三次元的に貫通していた。はたき集めた虫を庭へほうり出すとすずめが来て食ってしまった。書物を読んで利口になるものなら、このすずめもさだめて利口なすずめ・・・<寺田寅彦「読書の今昔」青空文庫>
  12. ・・・山の両側から掘って行くトンネルがだんだん互いに近づいて最後のつるはしの一撃でぽこりと相通ずるような日がいつ来るか全く見当がつかない。あるいはそういう日は来ないかもしれない。しかし科学者の多くはそれを目あてに不休の努力を続けている。もしそれが・・・<寺田寅彦「春六題」青空文庫>
  13. ・・・せんだってトンネルと云う字を知っているかと聞た。それから straw すなわち藁という字を知っているかと聞た。英文学専門の留学生もこうなると怒る張合もない。近頃は少々見当がついたと見えてそんな失敬な事も言わない。また一般の挙動も大に叮嚀にな・・・<夏目漱石「倫敦消息」青空文庫>
  14. ・・・ ところが次の木のトンネルを通るとき又ざっとその雫が落ちて来たのです。今度はもうすっかりからだまで水がしみる位にぬれました。耕一はぎょっとしましたけれどもやっぱり口笛を吹いて歩いて行きました。 ところが間もなく又木のかぶさった処を通・・・<宮沢賢治「風野又三郎」青空文庫>
  15. ・・・と云いながら楢夫はそこらを見ましたが、もう今やって来たトンネルの出口はなく、却って、向うの木のかげや、草のしげみのうしろで、沢山の小猿が、きょろきょろこっちをのぞいているのです。 大将が、小さな剣をキラリと抜いて、号令をかけました。・・・<宮沢賢治「さるのこしかけ」青空文庫>
  16. ・・・木がいっぱい生えているから谷を溯っているとまるで青黒いトンネルの中を行くようで時にはぱっと緑と黄金いろに明るくなることもあればそこら中が花が咲いたように日光が落ちていることもある。そこを小十郎が、まるで自分の座敷の中を歩いているというふうで・・・<宮沢賢治「なめとこ山の熊」青空文庫>
  17. ・・・外から入ると、トンネルのように長く真暗に思える省内の廊下に面した一つのドアをあけると、内部をかくすように大きい衝立が立っている。その衝立をまわって、多勢の係員のいるところから、また一つドアがあって、その中に課長が一人でいた。デスクにむかい、・・・<宮本百合子「ある回想から」青空文庫>
  18. ・・・ 勝浦のトンネルトンネルの間で、丁度昇りかけようとする月をちらりと見た。鵜原は太平洋のナポリと或人が云ったので、令子はその巖と海との月を心に描いて来たのであった。 鵜原で汽車を降り、宿を駅夫に訊いたら、「あの巡査さんが途中まで・・・<宮本百合子「黒い驢馬と白い山羊」青空文庫>
  19. ・・・によって、今日はトンネルがくずれて汽車では通れなくなっているところをも街道を草鞋ばきで目的地へ行きつける場合もあること、しかし汽車があるのにちょんまげつけて歩く方を選ぶという方法の唾棄すべきこと、並に、史実は甚だ重要ではあるが唯一の準拠的な・・・<宮本百合子「今日の文学の諸相」青空文庫>
  20. ・・・それから鎌倉の方に行くものを誘い、歩いて、トンネルくずれ、海岸橋陥落のため山の方から行く。近くに行くと、釣ぼりの夫婦がぼんやりして居る。つなみに家をさらわれてしまったのだそうだ。倉知の方に行くと門は曲って立ち、家、すっかり、玄関の砂利の方に・・・<宮本百合子「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」青空文庫>
  21.  国鉄のクビキリが人々の注目をあつめはじめると同時に、列車妨害の記事が毎日、新聞へ出るようになった。九州ではトンネルの入口にダイナマイトをしかけた者さえあった。 そしてそれらの新聞記事は、それらの妨害がどれも鉄道の専門知・・・<宮本百合子「犯人」青空文庫>
  22. ・・・「お父さん、あんなトンネル、おうちにもあるといいね」「うん」「拵えてね」「お家は狭いから駄目ですよ」「ふーん」 父親、カメラを出した。「さ、そこへ姉ちゃんとお並び」 六つばかりのその息子と十位の姉、雁来紅を背・・・<宮本百合子「百花園」青空文庫>
  23. ・・・或ものは、西へ西へとゆく下りであり、そのいくつかは上りで、程近い山端にあるトンネルに入って行った。〔欄外に〕 さあと暗くなって来て沛然と大雨になって来た。トタン屋根に白シブキを上げ。見ると豪雨に煙ってむこうの山はちっとも見えなく・・・<宮本百合子「無題(十二)」青空文庫>
  24. ・・・ テームズ河底のトンネルは白タイル張で煌々たる電燈に照し出された。大型遊覧自動車のエンジンの音響はトンネルじゅうの空気をゆすぶった。塵埃を捲き上げて穹窿形の天井から下ってる大電燈の光を黄色くした。鳥打帽の若い労働者が女の腕をとって、その・・・<宮本百合子「ロンドン一九二九年」青空文庫>
  25. ・・・ただ一つ覚えているのは、市電で本牧へ行く途中、トンネルをぬけてしばらく行ったあたりで、高台の中腹にきれいな紅葉に取り巻かれた住宅が点在するのをながめて、漱石が「ああ、ああいうところに住んでみたいな」と言ったことである。 三渓園の原邸では・・・<和辻哲郎「漱石の人物」青空文庫>